No.180 核級の爆弾
もう………終わっても、いいよね……………
気を引き締めて交渉に挑んだものの、導入も締めも結局バルバリッチャが全部持っていくという力技で決着の付いたザガンとの交渉。
ザガンとの交渉の筈が、何故か途中から不機嫌になったバルバリッチャをノートとザガンが宥めるという状態になり、急に話を進めようとするバルバリッチャに対して精一杯2人で抵抗してなんとか召喚は後日にしてもらった。
ノートとしても、正式に仲間となるザガンの召喚は『祭り拍子』が全員いるタイミングでやりたかった。魔王の召喚などそう何度も観られるイベントではないのだ。レアなイベントは皆で観れるなら一緒に見たほうが楽しい。
一方でザガンも、一部の仕事の引き継ぎやスケジュール調整、下準備がしたいとの事でいきなりの召喚は勘弁してくださいと懇願。
利害の一致した外道と魔王の臨時タッグにより荒ぶる大悪魔をなんとか鎮める事に成功した。
そんな努力の甲斐あって後日、『祭り拍子』のメンバー全員が揃ってる状態で召喚が執り行われる事になった。因みに例の忠誠心バグり三人衆は謹慎中。待機状態になっている。
「ネモ、今まで本当にありがとう。これで調薬関係に関しては楽をさせる事ができるよ」
『ふふふ〜、お気遣い下さり、ほんっと〜にありがと〜ございます〜。より一層、植物の方に専念させて〜いただきますね〜』
地味にオーバーワークだったネモに労いの言葉をかけると、ネモはとても嬉しそうに微笑む。言葉に出していないだけでかなりの負担だったのだろう。その顔には肩の荷が下りたような若干の解放感が感じられ、ノートは余計にオーバーワーク状態に気づけなかったことを申し訳なく思う。
「ザガンってどんな悪魔なの~?なのか気になるな~」
「男?女?」
「魔王って本当に召喚できる物なのね」
「ネモさん、これで負担が減りますね」
「もう待ちくたびれたぞー!早く召喚しろよー!」
「せっかちだなぁスピリタスは。貴重なイベントなんだよ?あと鎌鼬、忘れがちかもしれないけどアグちゃんも魔王だからね?」
外野はワイワイと中庭に設置されたベンチに腰かけお気楽そうにお菓子を食べながらノートを見ている。ノートの狙い通り、期間を置いた事で一応ほとぼりは冷めたようだ。ただ、約束の方は簡単に忘れないだろうな、とノートも其方に関しては若干諦めている。
「まあ召喚してのお楽しみってことで。というわけで、バルバリッチャ。頼むぞ」
「任せよ」
本召喚用の死霊召喚魔法を展開。生贄指定は無し。魂も無し。触媒はネオンのパンドラの箱。ノートの目の前に陣が浮かび上がると、それにバルバリッチャが何かの魔法を重ねがけして、陣が変形する。
魔法陣は過負荷がかかっているように明滅し、色を変え、形をぐにゃぐにゃと変え、やがて一つの大きな陣となる。陣から極彩色の水が溢れだし、泡が弾ける。まるでそれは水に溶けた洗剤の様で、その泡立ちが徐々に大きくなり、パチンと弾けた。
『『召喚に応じ馳せ参じました。当方の名はザガン。創慧の魔王ザガンであります。以後お見知りおきを、マスター』』
現れたのは奇妙な姿をした悪魔だった。
まずその特徴的なのはボディ。石油のように黒く、油が浮くように光で虹色にところどころが光っている。人というよりは、全体のシルエットは縦に長い台形のスライムに近い。その天辺には魔女の尖がり帽子のような物をかぶり、黒い毛皮のマントを羽織っているスライム状の体の上の部分には緑目と青目の二つのペストマスクがくっ付いており、白手袋をした胴の部分には機械じみた細長い十本の指の手が4対くっ付いてふよふよと蠢いている。
全体的なイメージは、手と頭を強引にくっつけた細長いスライム。ノートの想像していたインテリヤクザっぽい姿とはかなりかけ離れていたが、曲者っぽい印象だけはしっかりと伝わってくる形状だった。
ただ、ザガンのビジュアル以上にその後ろにいる物がノートとしては気になって仕方がなかったが、今は敢えてツッコまなかった。
「召喚に応じてくれてありがとうございます。では、契約をしていただけるという事でいいですか?」
『『ええ、私としては問題ありません』』
そういうと、ザガンはアグラットが契約時に出したような契約の条項を記した板のような物を差し出す。
内容自体はノートとザガンが話し合っていた物とほぼ同じ。あとはサインするだけだが、ノートは一応その横にいるバルバリッチャにそのまま板を渡した。「えっ!?嘘だろ!?」みたいな感じでザガンの二つのペストマスクがノートの方を見るが、ノートは目を逸らす。
ハッキリ言ってノートはザガンよりバルバリッチャが怖い。口出しする予定なのであれば最初からバルバリッチャを契約の取り決めに参加させたほうが後腐れもない。と同時に、責任をバルバリッチャに押し付けるという小狡いことも考えてのこのムーブである。
バルバリッチャは気をよくして契約書を眺め、そして指を発光させると何かを直接に板にかなりの量を書き足した。描き込み過ぎて契約書の下半分の余白が最早ない。
因みにソロリと密かに近寄りバルバリッチャの影から契約書の隅っこに何かを書こうとしたアグラットはバルバリッチャの能力でまたも蓑虫状態になり半泣きで床に転がっていた。
どうやら人の言語ではないので、何を書いてるのか読み取れない。ただ、契約書を返されたザガンの反応がなんとなく沈んで見えたのと、契約内容をチラッと見たアグラットがちょっと機嫌が良さそうだったのを見て、ザガンにとってあまりいい契約ではないことが察せられた。
『『あの、バルバリッチャ様、これは…………』』
「なんだザガン、問題はあるか?」
さも当然の様に、ボールを投げたらいずれ地面に落ちるくらいに当たり前そうな顔をしてバルバリッチャはザガンを軽く睨む。
ザガンの緑目の方のペストマスクが床で無様に転がっているアグラットに向けられ、青目のペストマスクの方はノートの方を見て、そしてまたバルバリッチャの方を向いた。
「無いな?」
『『……………………はい』』
パワハラというより既にただの脅迫。ザガンは俯いて死にそうな声で肯定する。脅迫に応じないプライドの高い魔王とは一体なんだったのかとノートは思わずツッコミたくなる。
「ところでバルバリッチャ。その追記の内容って、契約者本人である俺にも教えて欲し…………あ、いいです、はい。大丈夫です」
流石にマズイのではないかと思いノートもザガンをフォローしようとするが、そもそも契約内容が読めない。まさか自分の舌鋒を封じる為の謎言語の契約内容ではないだろうなと思いつつ至極真っ当な事を言ってみるが、ギロリと睨まれてノートは口を噤む。
普段であれば口八丁でなんとかしてもう少しごねるのだが、今のノートはバルバリッチャに対して色々と後ろめたいことが多い。
バルバリッチャの力を借りながらも聖女逃走の手助け、聖女の切り札とバルバリッチャの強大な魔法が込められたエネルギー玉の生成、異次元ボックスの無断量産、旗の裏技的修復、今までカケラも詳細が判明していなかった物品の鑑定、バルバリッチャナイフの無断使用などなど挙げていくとキリがない。
結局、ギガ・スタンピードが終了しバルバリッチャの力が使えなくなった今も、バルバリッチャは異次元ボックスやその他諸々を没収したりノートの大暴走を咎めたりする事もなかった。
しかし本来絶対に小言の一つも言われそうな状況で何も言われないというのはそれはそれで不安になる。
例えるならとっくに爆発してる筈の核級の爆弾が不発弾の状態で真横に転がっている状態である。下手な刺激を与えて爆発したら目も当てられない。
逆に縛りをかけない事でノートの行動を制限するというやり方で、バルバリッチャはノートの手の大部分を封じる事に成功していた。
本当に最後までバルバリッチャの力技で契約が進み、ノートとザガンは首を傾げつつ渋々契約書にサイン。何故か契約する当事者たちが1番納得できてない顔で契約は締結される。
斯くして、『祭り拍子』に強大な力を持った新たな魔王が仲間となった。
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【魔王ザガンとの契約に成功しました】
【称号:魔王に認められし者を獲得しました】
【一部制限を解除します】
4章終了です
以降は
例の枝の処遇小話
ツッキー誕生小話
アグちゃんのパチコレファッションショー
などの間話や
ザガンの持ち込んだ物
名前だけでてたあの人やノートの友人、ヌコォデート編などを蛇足話として予定してます
それ終わったら5章行きまーす
今までお付き合いいただきありがとうございます、そしてこれからもよろしくデス。(あと誤字脱字報告本当に助かります)




