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No.179 馬鹿者ども

テンポが死んでるのでお詫びゲーリラ☆


エイッ!!

      ∧,,∧

☆二 ⊂(・ω・`)

     -ヽ  と)

      `u-u'



 悪魔との契約の正式なプロセスはノートの死霊召喚と違いプロセスが面倒臭い。

 

 まず供物を十分に用意する。ノートの本召喚と違ってかなり極端に方向性を寄せない限りは狙った悪魔は喚び出せないので、実は結構ギャンブル性が高い仕様になっている。

 ノートの死霊召喚はどちらかと言えば召喚というよりはカスタマイズ創造、悪魔召喚は既に存在する者を呼び出すのでガチャに近い。


 そのガチャの土台が召喚陣。死霊召喚と異なり、魔法的要素よりも門、拘束具、固定化の要素を持つ陣故に、悪魔召喚の陣は手書きで行う。この方法により魔法よりも物理的な干渉力を高めている。ただし面倒くさい。そもそも通常では悪魔の召喚陣自体を有しているのがカルト教団程度なので今のプレイヤーでは絶対に手に入らない。

 ネオンの場合はパンドラの箱が初期から有していた陣を代用して行っているだけでマジのこれも実は正式な陣とは言い難かったりする。


 次に詠唱。これに関して特に縛りは無い。フォーマットはあるが召喚主自体が自由にカスタマイズする。平たく言えば懇願とサークル勧誘と待遇宣伝を同時に行なっているような物で、厨二病っぽくする意味はないが開発が楽しむためにわざとフォーマットを厨二病センス爆発状態にさせている。


 ここまでがあくまで召喚の下準備。


 これらを経て、悪魔の召喚を行うが、成功するかどうかも運次第。捧げものだけ消費して誰もやってこない確率の方が高い。悪魔とはそういう連中である。易々と人の元には現れない。

 まずここで運が試され、召喚出来たら次のプロセスへ移る。悪魔はただ召喚してもそれだけでは契約できない。まず悪魔側に交渉の席に着いてもらう必要がある。交渉の席に着いてもらい、双方合意ができて初めて契約と相成る。

 ただし悪魔は非常に気まぐれ。肥溜めの更に奥深くで熟成された性格のような吐き気を催す性根をしている奴らが多いので、交渉の席に着く代わりに無理難題を提示してくることもある。あるいは、非常に気難しく、知らずに地雷を踏んで交渉決裂なんてザラだ。

 悪魔のランクが高ければ高いほど、交渉のテーブルに着かせること自体がそもそも極めて困難になる。アグラットの場合はバルバリッチャが首根っこ掴んで顔面を椅子に叩きつけるような感じでアグラットを交渉の席に着かせていたので非常にスムーズだったが、アレは例外中の例外である。


 では、ザガンの場合は。

 悪魔は高位になるほど重要視する物(設定)が明確化されている。ザガンの重要視する物は創造、そして智恵。ザガンは決して愚かな者とは会話すらしようとしない。その叡智を認めさせることでようやくまともな会話ができる。


 今回の場合はバルバリッチャが先制して交渉の為の椅子とテーブルまで用意してくれていた。だが、最終的に座らせられるかどうかはノートに託されていた。ザガンもまたメッセンジャーとしてアグラットが現れた意味を理解し、そしてノートを試した。

 これでザガンがバルバリッチャの事を既に把握しているのにも関わらず、ノートがバルバリッチャの事をさも『ザガンは知らないようだけどね、実は』みたいな感じでバルバリッチャの存在を脅しの道具に使っていたらその時点でOUT。ノートは話す相手に値しないとザガンに速攻で切り捨てられていたのだ。


 あくまでザガンが丁寧な対応を取っていたのは、ノートの読み通りバルバリッチャが裏にいることを察しての為。ノート個人に対しての敬意などない。当たり前だ。魔王と人間の差は歴然で、その上ザガンはノートについてほとんど何も知らない。そんな存在にいきなり心から敬意を払えるわけがない。

 これもまた罠の一つで、ザガンが寛容なことを良いことに調子に乗って偉そうに振舞ってもOUT。ザガンの口調につられて図らずも同様に丁寧な対応を取ったノートのファインプレーである。


 ノートは地味に張り巡らされた地雷をなんとか全回避し、バルバリッチャの用意したチャンスをしっかりとつかみ取ったのだ。




 ◆


 今までの丁寧さの中にどことなくよそよそしさ、ほんの少し嘘くさい感じのあった声音から、非常に真剣な感じの声音に変わったザガンは、今度は逆にノート側へオーダーをしてきた。


 

『『ところで、交渉を開始する前に幾つか確認を行いたいのですが』』


「はい、なんでしょう」


 それに対してノートが断る理由もない。むしろ自分から回線をつなげさせといて、いざ会話を始めたら暫く時間をくれと言い出すのは普通に非常識だし、それを受け入れてくれたザガンにケチなどつけられるはずもない。


『『初めにお聞きしたいのが、バルバリッチャ様の状態です。バルバリッチャ様は今どの様な状態で?』』


 声こそ真剣だが、表情が読めないのでなんとも判断しがたい。ザガンにとってバルバリッチャの無事がいいことなのか悪い事なのかを読めない。故に今は正直に答えるしか無難な選択肢がなかった。


「私が初めて出会った際はかなり弱体化していたようですが、今は元気に酒を飲み明かしてますよ」


『『サケを、飲む?ああ、確かアルコールなどを含んだ人間などの飲み物でしたね。バルバリッチャ様がそれをお召し上がりに?』』


 高位の悪魔は食事を必要としない。それはバルバリッチャ自身が言っていた。故にザガンにはバルバリッチャが『飲食』を行っているという事に不自然さを感じたのだろう。


「私が弱っていたバルバリッチャの為に死霊召喚で依り代を用意したんですよ。上級の吸血鬼です。バルバリッチャはそれを取り込むことで特殊な吸血鬼として新生したので、体質が変わったとかバルバリッチャ本人が言ってましたよ」


『『…………バルバリッチャ様が吸血鬼に変化?な、なるほど?嘘をおっしゃってる感じではありませんね。現にアグラットさんも否定しないですし』』


 どうやら現在のバルバリッチャの状態はバルバリッチャに切れ者と称されるザガンでも簡単に理解できるものではなかったらしい。声だけでも若干の動揺が感じられる。


「今はそこから二段階ほど進化していまして、お恥ずかしい話ですが、正直仮初の主人である私もバルバリッチャがどれほど力を取り戻してるのか把握できていません」


『『呼び捨ての時点でなんとなく関係は予想していましたが、バルバリッチャ様の主人、ですか。死霊契約に強引に割り込んだことにより疑似的な主従関係が構築されたのでしょう。それにしても、かなり興味深い話ではありますがね』』


 自分の主人が仮にも遥か格下の存在(ニンゲン)と主従関係を結んでいるような状態を『興味深い』と言えるザガンの根性はなかなか嫌いじゃないとノートは思うし、いい根性をしていると思う。普通なら救出やら復活の手助けを行う方向に話が動くはずなのだが、ザガンもアグラット同様にそういう反応は一切ない。

 一体悪魔ってどういう支配関係になってるんだと思いつつもノートは余計なことは言わなかった。


『『他にも気になることはあるのですが、挙げればキリがないのでここで切り上げましょう。それでは本題と移りましょうか。貴方は一体私と契約し、何を望むのですか?』』


 どうやら話している間に少しザガンも馴染んできたらしく、口調も少し砕けてくる。それでも丁寧には変わりないが、ノートも段々具体的にザガンの性格が掴めてきたのでここが正念場と気を引き締め直す。


「ザガンさんに頼みたいのは、メインは調薬ですね。回復薬、毒薬、その他諸々です。それに使う材料は大量に用意しています。あと新種の酒の開発と、料理に使えそうな薬品に関してもお願いしたいです。といっても、恐らくザガンさんの技術で作り出せる薬は私達には過ぎた物になることは考えるまでもありません。ですので、如何ほどのランクの薬剤を融通していただくかの塩梅はバルバリッチャが管理することになります。という訳で、調薬以外は特にお願いすることは今のところありませんね」


『『成程、当方に対する要望は調薬だけ、ですか。他の悪魔でもよろしかったのでは?』』


 ビックリするほどストレートの正論パンチに目をパチクリするノート。よくよく考えると、ザガンに拘っていたが、別にザガンだけしか調薬のできる悪魔は居ない、とは一度も聞いていない。

 なんとなくアグラットの言葉でザガンを召喚する流れになっていたが、ザガンほどの悪魔を求めなければもっとすんなり調薬関係の問題が解決したのでは無いかと気づいてしまう。


「それは、そうですね……………此方としても、バルバリッチャに酒関係の技術発展を約束したので、下手な悪魔は用意できないという事情がございまして。アグラット推薦の魔王なら問題はないかと考えた次第です」


 ただ、今更になって後に引けない。これだけ御膳立てしてもらって、「やっぱいいや、別のにする」などと言い出したらバルバリッチャがどんな反応をするかノートは想像すらしたくない。

 なので時系列を弄りほんの少し調整した内容で誤魔化す。全てが全て嘘ではないが、真実でもない。それにバルバリッチャを前面に出すことでザガンの同情を引けるのではという小賢しい事も考える。


 暫しの沈黙。ノートもここで焦って捲し立てても返って悪手なので黙るしかない。そしてタップリの間をとって返ってきた反応は。


『『は〜〜〜〜〜〜〜…………ッ。バルバリッチャ様の主導かと思いきや、アグラット“さん”が原因でしたか。は〜〜〜〜〜〜〜!!』』


 聞こえてきたのは、恐らくソースレベルで色んな具材を煮詰めてた様なクソデカい感情を多量に含んだ溜め息。しかも2回。

 “さん”の言い方にかなり含みがあり、ノートは「本当にこの2人仲が悪いんだな」としみじみ思ってしまった。


「いや、えっとですね、アグラット本人は嫌がってはいましたが、私が悪魔で最も調薬関係に長けているには誰か、という問いに対しての解答でザガンさんの名前を挙げまして。実際に呼ぶことを決めたのは私と言いますか、まぁアグラットだけを責めないであげて頂けますかね」


 あまりにも一気にザガンの言葉に苛立ちが混じったのを察してノートも思わずアグラットをフォローする。アグラットだけを悪者にするほどノートも薄情ではない。

 アグラットは今や『祭り拍子』にとってもなくてはならない存在、不動のマスコット枠である。無駄にアグラットとザガンが争って交渉決裂、バルバリッチャマジギレ、アグラット・ザガン両名半殺しの事態だけは避けたいと考えてフォローに走る。


『『………………魔王を庇うとは、やはり貴方は不思議な人間ですね。まあ良いでしょう。仮とは言え、バルバリッチャ様と主従の関係を結びし貴方に協力するのは吝かではありません。ただし、ある程度の自由は頂きます。そうですね、其方側への常駐はしない方針で、時々顔を出す程度が丁度良いでしょう』』


「一応個人用の部屋も用意致しますし、自由も保障しますが」


 別にブラック企業も真っ青な働かせ方は絶対にしませんよ、という事を前面に押し出しつつ交渉を続けるが、即座にザガンが切り返す。


『『自分の家から離れて、貴方は絶対に逆らえない上司と絶対にウマが合わない同僚の2人とプライベートな空間を共有したいですか?』』


「承知しました」


 ザガンのあまりにも切実で人間らしい理由にノートは世知辛い物を感じてしまう。

 確かに、パワハラの権化もチビるようなスーパーDXパワハラ×モラハラ上司ことバルバリッチャと、少しのやり取りでも絶望的に仲が悪そうなアグラットとプライベートな空間が近いのは部下として、同僚として、色々辛いだろうな、とノートもザガンの気持ちがよくわかってしまうのだ。

 それに研究大好きそうな感じのザガンからすれば、落ち着ける場所で作業ができた方がいい。わざわざ自分の根城から簡単に拠点を移したくない気持ちもよくわかる。わかってしまう。


『『それに当方はアグラットさんの様に部下に完全に投げ出せる様な仕事を任されていませんので』』


「ああ、成程。仕事が出来るとそういうことになりますよね」


 悪魔界隈にもどうやら仕事の概念があるらしいし、アグラットがそれを長期放置している事実が発覚したが、ノートは当たり障りない答えで色々と落ち着かない思考を宥めようとする。

 しかしそんなノートの考えを邪魔する様に、ザガンからは予想外の答えが返ってくる。


『『そうではありません。バルバリッチャ様の派閥が少数なのと、当方が比較的下っ端なのに原因があります。アグラットさんは格としては同じ魔王ですが、実際はアグラットさんの方が大悪魔達に匹敵する最古参級の悪魔であり、格上の魔王なんですよ、ええ』』

 

 最後の“ええ”に途轍もない苛立ちが込められていることを察しつつ、ノートはウンウンと頷いてスルーしようとするが、何かスイッチが入ったのかザガンは止まらない。

 因みに、ザガンの言う通りアグラットは魔王の中でもかなり高い能力を持っている古参の悪魔である。バルバリッチャがアグラットをコントロールしやすいように、一度ノートに殺させて、力を削いでから契約を結ばせようとしていたぐらいにはアグラットは強力な魔王なのである。

 もしアグラットを召喚した時、ノートがアグラットを殺していたら、地獄でぼろ雑巾以下にされたアグラットの首根っこを掴んだバルバリッチャがアグラットと契約を結ばせていた。だが、ノートが独力でアグラットの心を砕き、契約にこぎつけそうだと判断したからこそ、あの時はノートに全てを任せたのだ。結果的にノートは特殊な能力を手に入れる代わりに、強力すぎるオリジナルスキルに加え、心象が非常に良い状態でアグラットを仲間にすることに成功している。


『『そうなるとですね、当方に処理の面倒な仕事が回ってくる様なシステムが出来上がっていまして。そもそも当方は『ザガンの名と魔王という座を賜っただけの悪魔に過ぎない』のですから、なんでもかんでも此方に押し付けられても――――――』』 


 ザガンの愚痴を聞きながら、そういえばとノートはふと思い出す。

 アグラットは言っていた。『バルバリッチャ』や『アグラット』という名はあくまで通り名に過ぎず、本名は別にあるのだと。その時は聞き流していていたが、よく考えると簡単に聞き逃してはいけない要素だったのではないかと今更気づく。


 ザガンについて、ノートは召喚する前に一応ネットで改めてザガンについて調べている。


 ザガンとは古代イスラエルの王ソロモンに使役された72の悪魔の1柱にして魔王であり地獄の総裁。水をワインや油に変えたり、金属を硬貨にできるという簡単なエピソードを見つけることができた。

 だが、ザガンが調薬のスペシャリストだったりだとかバルバリッチャの部下だったとかその手のエピソードは一切見つかっていない。となると本当のザガンとは別物と考えた方が早い。


 だとすると、別に既存の悪魔の名前をつける必要性はなかったのではないかという疑問が湧く。従来の設定よりもオリジナルの設定が多いのならわざわざ既存の悪魔の名を借りずとも新しい名前を付ければ良かったはずだ。


 アグラットもバルバリッチャもそうだ。彼女らも既存の悪魔。調べてみたが、オリジナルとは異なる点が幾つもある。だがしかし、一方でアグラットが淫魔ではあるように、オリジナルの設定と同じ部分もある。


 そしてザガンは『名と魔王という座を賜った』と言った。


 魔王としての力を持つが故に自分から魔王を名乗り始めるのと、賜って名乗るのは全く別の話だ。むしろザガンの言い方は『座を賜ったから魔王としての力を持っている』みたいなニュアンスを含んでいるようにも感じてしまう。

 となると、名持ちの悪魔の能力は鶏が先か卵が先かの問題にもなってくる。

 つまり、オリジナルの悪魔に近い力を持っていたから既存の悪魔の名前が与えられたのか、名前を与えられたからオリジナルに近い能力を獲得したのか、という話になってくる。


 そうなると通り名とは別に本名が用意されてる意味もある程度納得は出来る。


「ザガンさん、一つお聞きしたいのですが、悪魔にとって『名前』ってどういう意味合いがあるんですか?通り名ってあくまで渾名みたいなものですか?それと名前自体に力があるとか?」


『『ふむ、面白い点について興味を持ちますね。それに関しては【口を慎めザガン。貴様はそこまでお喋りだった覚えはないが?】』』


 その点についてノートが素直に質問してみると、愚痴をある程度吐いてスッキリしたのかザガンも滑らかになった口のまま答えようとする。

 

 そこで、ゾッとするほど低く強い怒りの滲んだ声が割り込んでくる。

 ヒュッと息を呑むノートとザガン。性根の腐った人間の男と変わり者の魔王に宿った擬似人格といえど、抱いた感情は奇しくも同じだった。


【気が合うとは考えていたがほっとけばいつまで喋っている気だ!!!来るならさっさと来い、馬鹿者どもが!!】


「『『はい…………』』」

 

 図らずも、『周りからは自由気ままにやってるように見られているが、実際は意外と苦労してる』という共通点を持つ2人は、横暴な上司に振り回されるという点でガッチリと肩を組むことになった。



へっぽこだけど強いのよアグちゃん


ちなみに素で屈指の頭のキレの良さを持つのがバルバリッチャだったり(INT18)

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― 新着の感想 ―
[一言] >>実際はアグラットさんの方が大悪魔達に匹敵する最古参級の悪魔であり、格上の魔王なんですよ、ええ やっぱ、最終形態なら他の魔王を瞬殺できるだけあって強いんやなぁ~。『年月=力』というほど単…
[一言] INT18じゃなくて何度もセッション重ねてINT30超えとかなってそう
[一言] 気が合うやつと話し始めると止まらないからね。仕方ないね。
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