No.172 ギガ・スタンピード/正義
【お年玉】本日7話目
最近ベビーヨーダの存在を知りときめいた。何アレ可愛い
神、それは人間が生み出した最高の発明品である。
遠く離れた地域、異なる人種、文化圏がある中で、人間という生物は神という共通概念を生み出した。
人を語る上で宗教は、神は、切っても切れない存在にある。
中学生の時、ノートは人という物を学び、分析する上で、『祈る』という行為と『神』という概念に興味を持った。
22世紀現在、科学は独立した別世界を電子空間に創造することさえも可能とした。ほぼ全ての一次産業は人間よりも賢いAIがロボットを駆使して代替可能になり、今や故郷である惑星さえも飛び出して別の惑星に大規模な拠点すら築いている。
だが、それでも神という概念は完全に消滅する事は無かった。
神という存在は、元々人々の人知の及ばぬ力、つまり天候や災害などを恐れる心、そして未知を恐れる心から生まれたという説がある。
人々は理解できない自然現象に対して未知の恐怖を覚える。その恐怖を克服する為に自然現象に合理性を持たせようとした。所謂理由づけである。未知を既知に落とし込もうとしたのだ。
その理由付け、方程式を立てる上で、人間は“観測できない力”に『神』という記号を当てはめた。この神という記号は物事を説明する時に非常に便利な物で、瞬く間に人々に広がった。
人の未知への恐怖が神という記号を生み出したのである。
ただし、この時点では単なる記号でしかない。
人々は自然現象を説明する為の方程式を考えた。するとこうも考える。この方程式は逆算出来るのではないかと。
つまり大いなる災厄を起こすのが“神”の怒りならば、神の怒りを鎮めれば災厄は起きないのではないか。こう考えた訳である。
これが信仰の起源である。
貢物をして、崇め奉り、怒りをどうかお鎮めください。災厄を起こさないでくださいとお願いする。この行為が転じて祈りとなる。
お願いと祈りは本来非常に近い物であるが、これを同一と見なすものは少ないだろう。
“神仏に願うという行為”を略して『祈り』としているのだ。
この形態は日本の神話や土着の神と非常に近い考え方で、悪神までも取り敢えず祀って鎮めようとする様な豪気な事もしている。
だがしかし人間は知能を蓄え続けてもっと小難しい事を考える様になっていき、神を記号ではなく道具として扱う事を覚えた。
例えばそれは同じコミュニティーの人間に団結を促し、規則を作った。
ある程度の知能を持つ生物が群で動こうとすると、健全な状態を築く為にルールが必要になってくる。小さなコミュニティーなら野生動物と同じ様になんとなく生まれたリーダーが仕切っていればなんとかなったが、人は生物として不自然な数の群れを形成した為により複雑なルールが必要になった。
無節操に他人の物を奪ったり壊したりしては集団で生活などできない。お互いを守る為にルールが必要だった。
しかし、絶対的な力を持たない人間同士の取り決めは脆かった。ルールを破ろうと思えば破れてしまえたし、知らんぷりすることもできた。見張り合うのにも限界があった。
ここで登場したのが『神』だ。神は人間には及ばない絶対的な力を持っている。神は常に全てを見ている。その神の機嫌を損ねれば災厄が降り注ぐと誰もが知っていて恐れていた。
そこで『神』にルールを作ってもらった。『神』が定めたルールなら皆も簡単に破らないし従う。『神』の名の下であれば人々は『正義』という力を振りかざせる様になった。
古来の人々の間で神官が高い地位に居たのは、その神が作ったルールを代弁するという体でルールを作成していたからだ。
こうして神は原始的な未知の力という性質に加えて、規則という性質を兼ね備える。
この規則という性質だけが分離して後に『法』が生まれるのだ。
宗教に存在する神の預言者達はなぜ揃いも揃って神とセットで色々と人間に道徳的な事を説いたのか。それは人間に決まりを守らせる上で『神』が最も便利な道具だったからだ。
一方、ALLFOの世界では。
ALLFOの世界にも宗教がある事は全ての国のサーバーで報告されている。しかもこの宗教を管理する教会はやたらと強い力を持っている。
中世モデルの西洋ファンタジー的な世界を舞台にしているように見えるが、プレイヤー達が住んでいるシティにはそれを治める貴族という存在がいない。そもそも国がない。強いて言うならシティが一つの国だった。
では誰がシティを管理しているのか。その答えが教会である。
司法・立法・行政全てを教会が管理しており、行政の一部は民間に委託されて省庁の様な役割を担っている。その組織が所謂『ギルド』だ。
考察班が早期の段階で不自然な行政システムを色々と探っていたのだが、反船イベントの教会とギルドの関わりが決定打となり、教会とギルドの関係も確定した。
ではなぜそんなに教会が力を持ったのか。その理由は少し調べれば簡単に判明した。
教会は、人々を守る街の結界と壁を管理していたのだ。プレイヤーの様に死に戻りできない現地の人々にとっては、壁と結界の存在が必要不可欠だ。生殺与奪の権を握られて教会に逆らおうとする奴はいない。故に人々も自分に直接的に平穏を与えてくださる『神』とやらを強く崇め、教会は絶対的な権力を有した。
ただ、現実の宗教とは大きく異なり、強大な力を持ちながらも腐敗はしていなかった。教会はあくまで『神』の代理人という立場であり続けた。
問題はこの『神』。サービス開始はいまいちフワッとした存在だったのだが、僧侶ルートが開拓され、その過程で宗教について学ぶクエストがあった事で新たな事実が発覚した。
ALLFOの『神』は唯一神的存在で、尚且つ国ごとのサーバーでも同じ教義が説かれていた、つまりALLFOに於いて現在プレイヤーが接触している宗教組織は同一の物であると判明したのだ。
ただ、唯一神と言いつつも、場所によって『時空の神』だの『生命と死の神』だの『創造神』、『混沌神』だのと別々の呼び方をする変な文化がある事も判明しており、それが考察班達を長らく混乱させていた。
そして、そのややこしい『唯一神』とやらが送り込んできた“使徒”という存在がプレイヤーに相当するらしい。
殺しても死なず、人と同じ形をしながらも人より格段に成長する不死の生命、それが使徒である。
シティは閉じられた空間で、安定はあるが発展がない。ない、というのは大袈裟かもしれないが、人口が増加すれば行政にも限界が発生する。
その為に新たな居住区を切り開く必要があるのだが、シティに住む人間の多くは無力であり、そもそも切り開いても“時間が経てば元通りになってしまう”街の外へ出る事に積極性などありはしなかった。
シティの外にオブジェクトを置くと一定時間で消えて、破壊したフィールドも元通りになるのは、単なるシステムではなく、この世界の自然法則だったのである。
人々が結界に依存していた1番の理由は、魔物がいるからではない。現実の人間を見ればわかるように、力を持った生物であろうと人間は道具などを生み出して撃退し生息圏を強引に広げてきたのだ。
そもそも、結界の中と外では自然法則が変わってしまうが故に人々は結界の中に住むしかなかったのだ。
そんな閉塞した状況を打ち破るのが使徒であるプレイヤーに課せられた使命。新たな人類の拠点を築くべく神が連れてきた存在であるが故に、現地人達もプレイヤーを温かく歓迎した。
教会によって来訪が予言され、その為の準備がずっと続けられており、準備があったからこそ大量に現れたプレイヤー達にも対応できた。その努力の甲斐があって社会に大きな混乱が起きなかったのだ。
一般的にはALLFOはなんの使命もなく取り敢えずファンタジーの冒険が出来る、いい意味で自由度の高過ぎるゲームとされていたが、実はこんな裏ではこんなストーリーがあるのだと調べ上げた様々な情報から考察班は結論付けていた。
ただ、この情報が流れてもあまり反響はなかった。
彼らの考察を簡単にまとめてしまうと、結局のところプレイヤーは今まで通り自由に冒険してればいいと言う結論になる。
知っても何も変わらない情報は一部の物好きが読んで楽しむだけだ。大多数はそんな小難しい事を知らなくてただ楽しくゲームができてれば良いのだから、関心を持たない人が多いのも当たり前の事であった。
ゲーム的な価値が無いので重要視されず、よってこの考察は一部の物好きだけが知るにとどまった。
そしてそんな物好きが『祭り拍子』にも2人いた。
ノートとヌコォである。
というより、これら一連の考察を纏めて分析し編纂する作業に2人ともガッツリ関わっている。
特にノートは『神敵』と認定されてからは強い関心を持ち、なぜ自分が神敵になったのか、なぜ初期限定特典持ちは何も成す前から極悪扱いされるのかずっと考えていた。
『神』とは何ぞや。
『神』とは何ぞや。
ゲーム開始時点から追放状態で、教会やシティとも全く関わりが無かっただけにノートはフラットな視点で物を見ていた。
そもそも、なぜプレイヤーを送り込むという回りくどい事をして開拓を進めようとしてるのか。
聖女リナのパワーを見れば教会単体でも十分可能な気がするが、どうしてしないのか。
現地人に新しく力を与えた方が手っ取り早くないか?
それに天使だってシティの外に居た。つまり天使なら開拓は可能ではないか?
編纂作業に協力しながらもノート自身納得出来ていない事が多かった。
ノート達しか持ってない情報が多く、かと言ってカミングアウトもできず、悶々とするばかりだった。
ゲームにそんな事を考える方が野暮な様な気もしたが、ノートは必ず理由があると考えていた。そう思いたかった。今までALLFOが見せてくれたポテンシャルに期待をしていた。
そうして色々と考えてるうちにそもそも論に歯止めが効かなくなり、第一前提としてなぜ神は人の生息領域を守り、広げようとしてるのか考え始めた。
するとどうにもやはり目的が見えてこない。見えてこないので、取り敢えず『人類の生息領域拡大≒神にもメリット有り』と仮定してみる。
するとどうにも『神』が単なる正義と法の代替装置というよりは、何らかの意図があって動いている様に感じられる。
となると、その『神』とやらの意図の正当性は誰が示してくれるのだろう。
ある意味、神は自己利益の追求を行わない絶対的中立存在であるという暗黙の前提があるからこそ正義であり法なのだ。だが其奴が自己利益を追求するという仮定が生まれると途端に正義が破綻する。
正義は物差しであり目盛。勝手に変わったりしてはいけない。変わらないから基準なのだ。誰の意思も介在して無いから正義なのだ。
故にノートは自分の疑問の答えに非常に近いであろう人物に対して質問を投げかける。
いたいけな少女を言葉責めして半泣きにさせて愉悦に浸っているわけでは無い。純粋に疑問に思ったから問いかけたのだ。
貴方の信じる神とは何ぞや。
神の意志とは何ぞや。
貴方方が神を信頼する根拠は何ぞや。
――――――――俺を神の敵だというのならば、神の掲げる正義とは何だ。
ノートの質問に対して口篭る聖女。その後ろでは聖女の御付きと思われるNPCが何か喚いている様だが、正直相手するに値しない。
むしろ面白いのは聖女アンビティオだ。動揺はしていても心は折れていない様で、スキルの影響下に入った様にも見えない。
聖女という地位にありながら真面目に敵であるはずのノートの言葉に耳を傾けて、自分自身で何かを考え、自分自身の言葉で答えようとしている。
「(これがALLFOのAIの技術力なのか…………)」
その在り方はまさしく1人の人間で、胸の内ではノートは深く感激していた。聖女アンビティオが何よりも人間らしく感じた。聖女リナが機械的だっただけに余計に1人の人間に見えた。
「ごちゃごちゃうるせえ!!もうたおそーぜ!」
そして聖女が口を開いたタイミングで、ノートと聖女の間にいきなり罵声が割り込んできた。
プレイヤーに関する重要な情報を開示
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