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No.2 First Battle!



「(っと、ここがALLFOの中か…………)」


 細々とした設定と基本的な動作のチュートリアルを終えたノートは遂にALLFOの地に降り立つ。

 その場所は森のすぐ手前。背後には草原があり、その更に先には50m以上の壁がそびえる巨大な街。それは全プレイヤーが最初に降り立つ(スポーンする)はずの数字の名を関した『ナンバーズシティ』だ。

 因みにノートは東京在住なので本来ならファーストシティにスポーンするはずだった。



 ノートは街に出入りできないため、早速スポーンから既に街の外とは苦笑すべきか。嫌な予感がしてテント(戦闘フィールドでもセーブ可能なポイントを作成できるアイテム)と寝袋 (この上で休息することで自動でHPなどが回復するアイテム)を課金してまで買っておいたつい先ほどの自分をノートは褒めたいぐらいだった。


「(…………ふむ、まだ正式にスタートするまで時間があるな。その前に合流をしたいが)」


 そう思ってノートがなんとなく木陰に移動してメニュー画面をつらつらと弄っていると、ガサガサと草木をかき分ける音がして急に人が飛び出してくる。


「ヤッホー、ノート(ニィ)!」


 ニコニコと満面の笑みで、子犬の様な人懐っこい雰囲気。身長は150cm程度で身体のラインはとても細い。ショートの髪型はその快活さを前面に押し出し、途轍もなく可愛らしい。

 だが男だ。

 長い睫毛で無駄毛は産毛すらなく、声も可愛らしい。

 だが男だ。


「ん……よく見つけたな、ユリン」


「多分きたかなぁ?って思って来てみたら本当に居たからびっくりだよぉ。街から外れてスポーンした人ってスポーンの初期地点って近いんじゃないかな?。ボクもすぐそこだったし。でもそれはラッキーってことでいいもんね。それよりフレンド登録とパーティー登録してお互いのステータスを見せ合おうよ!」


「いいぞ」


 尻尾があればブンブン振っているだろうと思うぐらいに目をキラキラさせて詰め寄るユリン。それを見て苦笑しながらノートはフレンド登録とパーティー登録をする。



——————————————————————————————————

名前:ユリン

種族:堕天使

ランク:1

性質:極悪


正職業

❶堕天法双剣士・特:I

❷暗殺者:I

副職業


HP:10/15

MP:10/17

筋力:H

体力:Ⅰ

敏捷:H

器用:H

物耐:Ⅰ

魔耐:Ⅰ

精神:Ⅰ


称号

・堕ちた者

・忌むべき者

———————————————————————————————————



「装備は?」


「んっとねぇ、『闇這の霊衣』と『邪呪の双剣』を課金して装備してる。この2つで初期課金上限の5000円いっちゃった」


「…………はぁ?その装備どんだけ……って、堕天使固有武器ならしゃあないか」


「うん、ノート兄はやっぱり察しがいいね!あ、それと堕天使についてざっくり説明すると、生命力が半端なく高いし、成長しやすいし、万能型で、闇系の能力が成長しやすくて、悪いことすると成長率めっちゃ上がるし…………あと飛べるよ!今の所制御がめちゃむずだけどねぇ!しかもまだ30秒くらいしか飛べないし、クールタイムも使用時間×10sだって。使い所が難しいよねぇ。ところでノート兄の種族と特典ってなんなの?」


「俺の秘忌人は、感知系の能力のレジストが高く、空腹度減少が極めて微弱。それと状態異常に対してとにかく強いな。なんか半死人ってイメージが強い。あと闇系や呪系は異常な補正が乗る。その代わり接近戦はダメ。あと普通の回復魔法で回復しない。邪悪なことすると成長しやすい極端な種族だな。んでネクロノミコンは見てもらった方が早いな」


———————————————————————————————————


禁忌書杖・ネクロノミコン(特典限定)


・強化限界無し

・耐久値無限

・自動MPドレイン

・自動MP高速回復

・闇系・呪系魔法習得率大上昇

・闇系・呪系魔法消費魔力減少

・光系・聖系無効化

・闇系・呪系魔法威力超絶上昇

・闇系・呪系魔法クールタイム無し

・全魔法(闇系・呪系以外)クールタイム10倍

・光系・聖系魔法使用不可


———————————————————————————————————



「うわぁ…………性能がピーキー過ぎるよぉ。徹底的に悪役じゃん?」


「言うな……自覚してるから…………」


 絶句するユリンと肩を落とすノート。

 だがユリンはすぐにニパッと笑うとノートの顔を覗き込む。


「大丈夫だって、ボクも付いてるし!あ、そうだ、ちょっとこっちきて!」


 いきなりノートの手をとると走り出すユリン。ノートが引きずられるように付いていくと、そこには広い墓地があった。


「あのね、ノート兄より先にログインしてたからここら辺をブラブラ歩いてたの。そしたら見つけた!」


――――――――――――――――――――

ダンジョン:ファーストシティの墓地

推奨ランク:5

ダンジョンに入りますか?

Yes/No

――――――――――――――――――――



「………見つけた、って言われてもなぁ。どう見ても墓守役の番犬が沢山いるんだが、入れるのか?」


 墓地にしては金属製の柵でやたら厳重に囲われた森の中の寂れ切った墓地。それはとても広大で、柵の周りには大きな番犬が彷徨いていた。


「試してみたらねぇ、番犬が襲ってきたよ!1匹倒してすぐ逃げたけど!」


「ん?ダンジョンには入れるのか?」


「違う違う。Yesって押したら急にきたの。押さないと結界みたいなものがあって入れないんだぁ。なんか墓守を連れて来ないと襲われちゃうっぽい?」


「うーん、初めてでも1匹は倒せたのか?」


「躱しながらなんとかねぇ」


「流石だな、ユリン」


 犬、されど犬である。推定番犬は体格のいい大型犬だ。よく訓練された犬に数匹群がられたら並みの人間など容易く食い殺される。その犬と初見で戦って一匹仕留めて撤退できるだけユリンはなかなかおかしい。

 見た目は美少女だが、反射神経や動体視力は並外れており運動神経も高い高スペックなユリンはVRでも絶好調らしい。ノートは至って普通な身体能力の上にアバターの基礎能力値に大きな差があるので嫉妬心さえ湧かずにただただ感心する。


「あれだよ、習うより慣れろだよね!早速やろう!」


「待て待て。本気か?」


「ボクはノート兄を信じるからね」


 ユリンにキラキラとした目で見つめられ、ノートは困ったように頭を掻く。


「ま、いいか。正式なスタートまでならデスペナは無いしな。試しにやってみるか」


「うん!」


 パーッと輝くような笑みのユリン。

 ユリンとノートが同時にYesを選択すると、何かの境界を乗り越えたかのような奇妙な感覚。同時にいきなりその存在を察知したように番犬たちが此方に向かって唸り声をあげながら疾走してくる。


「ヒャッホー!血祭りだー!」


 ユリンの今までの明るい笑みが一瞬にして獰猛な笑みに変化。腰の双剣を抜くと全く恐れを見せずに突っ込んでいく。


「はぁ…………いつも通りじゃねえか」


 ユリンとノートは第7世代機が売り出される前に市場で流通していた第4世代機のVRMMORPGをよくプレイしていたため、VR内での基本的な行動の仕方もお互いの行動原理も理解している。VRMMORPGをし始めたのはノートが中学生の頃からであり、いつだってコンビで行動を共にしてきた。そんな2人には打ち合わせも特にいらない。お互いのプレイスタイルはお互いが1番よく理解しているのだから。


「手始めにはどれがいいかなぁ…………これでいいか、《エクスパンド・ダークブラインド》」


 魔法のリストを常時表示状態にして、『死霊術師・特』が初期から使用可能な魔法の1つ《エクスパンド・ダークブラインド》をノートは放つ。《ダークブラインド》は闇系の魔法で、レジストができないと一定時間対象者の視力を奪うことができる。そして魔法名の前につけられた『エクスパンド』ワードはMPを過剰消費する代わりに魔法の射程範囲を拡大する効果をもっている。反応した番犬全てを対象に捉えて魔法を行使したために、そこまで複雑な魔法でもないのにも関わらず一発でノートのMPが空になった。

 だが15匹の番犬の顔全てに黒い靄がかかりまともに動けなくなったなら、消費したMPとの釣り合いも取れるというものか。

 飛ぶような軽い足取りで走るユリンは加速し、堕天法双剣士のスキル〔天乱切り〕を発動させすれ違いざまに混乱する犬の首を容赦なくぶった斬っていく。


「これで……お終いッ!」


 少し離れていた15匹目だけは時間切れで魔法の効果が解けた。混乱から覚めた番犬は迎え撃つように一直線にユリンに向かっていく。それに対してユリンが跳躍するとその背中から黒い翼が広がった。その翼が羽ばたけば軽そうな体は一気にフワリと浮き上がり、ユリンに噛みつこうとしていた番犬は大きく空振り。自分の頭上へと舞い上がったユリンに対して思わず足を止めてしまう。しかしそれこそがユリンの狙い通り。一気に姿勢を整えて急降下すると、その双剣を構えて番犬の体を上から貫いた。


 背中から腹部まで二突き。番犬の悲痛な断末魔。HPが一瞬で全て吹き飛んだ番犬は赤いポリゴン片になって飛び散る。


「いいねぇ、やっぱりノート兄のサポートが有ると全然違う!」


「そりゃどうも。相変わらずどうなってんだお前の運動神経は」


「ん?だーって突っ込んで、ここだ!って思ったところをズバンズバンって切ればいいって前から言ってるじゃん」


「うん、前々からその説明ではわからんと言っている」


 やれやれと首を振るノート。楽しそうなユリンをよそにステータスやドロップ品などを確認してみると、ちゃんと変化があった。


「あったが、実感できるほどじゃ無いか。だが魔法が増えたのは嬉しいな」


「そうなの?ボクはまだ増えて無いや。やっぱりただの番犬じゃダメってことかな?」


「それは要検証だろうな」





 侵入を拒む番犬が居なくなったのでズカズカと墓地に入っていくノートとユリン。ただ、柵の内側に入っただけで周囲に変化はない。しかし変な寒気がノートとユリンの背筋を走る。


「流石第7世代。リアリティがすんごいねぇ」


「だな。この妙に生ぬるい空気とか土の匂いとかなかなか…………なんて、楽しんでる場合じゃねえか。敵さんおいでなすったぜ。鑑定結果は、ほぅ【屍鬼人(グール)・希少】か。いきなりレアかよ」


 10メートル先の墓石の元から這い出るように姿を見せた化け物。

 手足は長く、爪も長い。人間と犬を強引に掛け合わせたような猫背の姿。背を伸ばせば2mは確実に超えるだろう巨体だ。その濁り切った瞳に理性はなく、むき出しの牙から滴る涎はとても気味が悪い。


「強さはどんくらいかな?」


「ちょっとヤバイな。ステータスの鑑定が一切できん。推定でもステータス差3倍以上あるぞ」


「上等だね!ぶったぎるのみ!」


「ハイハイ………それじゃ《デス・クライ》!」


 今まさに飛びかかろうと身を屈める敵に、魔法を即座に的確に発動するノート。

 《デス・クライ》、それは対象者の内から断末魔の絶叫を響かせ、さらに低確率で恐慌状態にする行動妨害魔法である。

 対象が一匹にも関わらずまたもMPはすっからかんになってしまったが、獣系の魔物にはその絶叫が堪えるのか苦悶の表情で頭を抱えて身を屈める。


「〔黒翔双斬〕!」


 それを見るが早いか背中から解き放たれる漆黒の翼。飛翔しながらユリンはロケットスタートで突っ込んだ。


 堕天法双剣士という強力な職業が最初から使用できるスキルをユリンは使用し、斬りあげるように走る赤黒い2つの線が魔物の頭部をしっかり捉える。

 アッパーを食らったように仰け反る屍鬼人。しかして未だHPは削り切れておらず死んではいない。本来ならばステータス差が三倍もあればまともな有効打は与えられないが、ユリンのスキルも種族も武器も普通の物ではない。さらに本人の高い技量により弱点を完璧に捉えてCritical判定を出したためにステータス差を覆してダメージが入る。だがさすがに番犬と違って一撃では倒せなかった。

 もちろんそれはユリンもわかっている。勢いそのまま体を回転させて、スキルを用意しつつ次の攻撃の用意。魔物が体勢を立て直すよりも遥かに早く、大きく仰け反って無防備になった魔物の腹にトドメの一撃をいれようとした。

 そのユリンに対して魔物はノーモーションでスキルを発動。スキルにより黒く輝く手をユリンに向けて高速で振り下ろす。


「《ヘイトレッドコンセント》」


 だが、ユリンが突っ込んだ瞬間に既に魔物の右側へ走り込んでいたノートが自動MP回復で溜まったなけなしのMPで魔法を発動。

 それは消費MP1だが、死霊を強化する代わりに敵意ヘイトを急激に自分に集める死霊術師の半自爆魔法。死霊を持たない今はただの空打ちにしかならない一見無駄な行動だ。しかし、それにより屍鬼人の攻撃優先順位に狂いが生じ、結果的にその攻撃は大きくブレて僅かにユリンを逃す。その無防備な横っ腹に炸裂する薙ぎ。大技が強制的にキャンセルされた屍鬼人は一瞬行動不能(スタン)状態に陥る。そしてその隙をユリンは逃さない。


「〔双頭闇突牙邪〕!」


 もうHPも半分を切っているが、そこでユリンが繰り出したのは双剣を上下に構えて突き出すかなりの大技。それはこの状況からすると明らかなオーバーキルだ。だがユリンには迷いも焦りもない。

 屍鬼人を貫く双剣。赤いポリゴンの塊になった屍鬼人が砕け散り割れたガラスの様にポリゴン片が舞い散る。勢いそのまま突っ込んだユリンは、屍鬼人の背後から迫っていたスケルトンごと綺麗にぶち抜いた。その時、ノートとユリンの脳内でファンファーレが鳴る。


「うわぁお、団体様のおつきだぁ」


 だがそのファンファーレの正体を確認する時間も、つかの間の勝利を喜ぶ間も無く、その騒ぎがトリガーだったのか次々とスケルトンが地面からボコボコと這い出て来る。


「ノート兄、今のファンファーレってランクアップのやつでしょ!?ランクアップしたらHPとMPは全快するはずだよね!?なんかぶちかませない!?」


「無茶言うな。あとスケルトン10体倒して一旦下がれ」


「ノート兄こそ無茶だね!?」


 スケルトンが群がり圧殺しようとするのをユリンは大技の範囲攻撃で対処して脱出。ユリンは倒れていたスケルトンの一体の脚を掴むとそれを武器にするようにぶん回し始める。


「どけどけ〜!!」


 ノートに近づこうとするスケルトンの群れを、スケルトン自身をバットにしてぶっ飛ばしていくユリン。やがてバット代わりのスケルトンがポリゴン片になるとスケルトンバットをすぐに新しく確保。なんとか10体を倒すと墓地の出入り口まで戻っていたノートの元までユリンはすぐさま後退する。


「…………よし、要するに壁役が居ればユリンも暴れられるわけだろ?スケルトン自体は鈍いし非力だからな。なら……〈下級死霊召喚・シールドファングスケルトン〉!」


 それはアンデッド系の希少種1体・屍鬼人1体・スケルトン10体の魂を捧げる(魂は対象を倒せばストックされ、パーティーで共有される)ことが条件に召喚可能な特殊な死霊。ノートとしては正直どれくらいレアかまだ分からないアンデッド系希少種の魂をここで使うのは抵抗があるのだが(召喚一体に対し毎回条件リセットのため、他にアンデッド希少種が条件にある死霊を召喚するにはまた別の奴を倒さなければならない)、テンションが昂ぶっている故に勢いで本召喚した。


 スケルトンがジリジリと迫る中、ノートの目の前に現れる黒い魔法陣。その陣が紫色に発光すると、陣の中が黒いタールのような物で満たされてズルルルルと何かが這い出てくる。


 それの元のモデルが人間なのか獣なのかははっきりとしない。犬と人のミックスのような屍鬼人をそのまま白骨化したような姿で、頭蓋骨は犬、身体は人間と犬の中間のように見える。

 だがそれは屍鬼人と大きく違う。2m程度の屍鬼人に対して3mを優に超える巨体。その巨体にさらにボロボロだが分厚い革鎧を装備しており両手には2m強の巨大な盾を装備しているのだ。


「物々しいなオイ!シールドファングスケルトン、墓石でもなんでも全部ぶっ壊していいから眼前の敵を打ち払いスケルトンを俺に近づけさせるな!」


『Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』


 MP切れでめまいを覚えてふらつきながらもなんとかそれだけは命令するノート。シールドファングスケルトンはドスドスと音をたてながら歩いていくと(おもむろ)に盾をスイング。スピードは圧倒的にユリンに劣るが盾に激突したスケルトンが棒切れのようにぶっ飛ばされて周りのスケルトンも巻き込んでいく。


「うひゃ〜!何アレ?超強いじゃん!」


「そりゃそうだ。MP45までいって1発でまた素寒貧(スカンピン)だぞ。信じらんねえ」


『Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』


 巨大な怪物が滅茶苦茶に暴れまわりスケルトンを粉砕していく様は爽快だ。

 たまにゾンビが混ざることもあるが気にも留めずにシールドファングスケルトンは無双し続ける。


「けど…………ちょっと知能が低めかな?」


「かもな。あと想定よりトロい」


 シールドファングスケルトンの股やその横を潜り抜けたのは新たな屍鬼人。その数は4。どうやらシールドファングスケルトンではスピードが足りてない上に視野が案外狭いらしい。あっさり通り抜けられておきながら全く止めるそぶりもなく、ただただ向かってくるスケルトンを倒している。

 盾役として挑発系のスキルのような物を使って一応食い止めてはいるが、いかんせん数が多すぎてターゲティングが間に合っていないのだ。



「ちょっと行ってくる!!」


 堪え切れなくなったのか、ランクアップしてノート同様にHPもMPも全快しているユリンは双剣を構えて突っ込んでいく。

 先程は希少種とはいえ一体に苦戦していた。流石にノートも止めるように言おうとしたのだが…………。


「うわ、ひでぇな」


 ランクアップの恩恵の大きさを裏付けるように、ユリンはなんとスキルも使わずに4体相手に渡り合う、どころか善戦しているのだ。


「そりゃ!そこ!んんんとりゃ!よいしょぉ!」


 気の抜けるような掛け声だが、狙っているのは全て急所。やがて最後の一体の首を斬りとばす頃にはシールドファングスケルトンもスケルトンを全て討伐しきっていた。

 そして再び気の抜けるようなファンファーレが鳴る。



「よし、制圧完了!うぉおお、ランクってそうそう上がらないのにもう3だよ!?」


 ステータスを確認すると無邪気に飛び跳ねるユリン。



 シールドファングスケルトンは暴れたりないのか盾を振り回して広大な墓地を走り回ってブルトーザーの様に墓石を無駄に破壊しており、ノートは『死霊って滅茶苦茶使いづらいのか?』と嫌な予感がして素直に喜べない。どうも墓石も全て破壊していいという指示が半端に残っているようだ。そんなシールドファングスケルトンの挙動はアンデッドの知能の低さを示していた。

 そんなアンデッドに不安を抱くノートの一方で、嬉しそうに抱きついてきたユリンを抱きとめてさりげなく時刻を見れば、あと3分で正式スタートとなる時刻だった。

 間に合って良かった…………とノートがホッと溜息を吐いていると、ズガーン!!!とけたたましい音が鳴ってビクッと2人で震える。


 2人して音の方を見れば、そこはひどい有様。寂れてはいたが綺麗だった墓石はどれほど暴れていたのか全て粉砕されており、その石片が地面に無残に散らばっている。その奥には他の墓石よりも大きくちょっと豪華な感じの墓石が20ほど。これも例外なく粉砕されておりなんだか悲しくなるが、音の原因はその巨大な墓石達をシールドファングスケルトンが砕いたからではない。シールドファングスケルトンが無様にコケたからだ。


「何やってんだアレ………自分で砕いた石でコケるとかいよいよポンコツじゃねえか」


「アハハハハハハハハ!確かにそう……だね?」


 心底呆れたようなノートを見て思わず笑うユリン。しかし笑いは直ぐに収まり目を細める。


「ノート兄、なんか違うかも。見にいくよ!」


「ん?あ、ちょっ、待て!?」


 175cmの成人男性を、まだJCに見えなくもない少年が手を取って引きずっていく様はなんともコミカル。ノートは長年の付き合いでこうなると止めらないのを理解しているので大人しく引きずられていくが、その疲れた表情もシールドファングスケルトンの近くにいくと真面目になる。


「やっぱり!なんかすごいのきた!?」


 ノートがシールドファングスケルトンに指示を出して退いてもらうと、シールドファングスケルトンが偶然踏み抜いたらしいその場所があらわになる。そこにはぽっかりと人工的な大きな穴が隠されていて地下へ続く階段がある。どうやらシールドファングスケルトンはこの道を隠していた台座を勢いよく踏み抜いて盛大にずっこけたらしい。

 その隠されていた階段に恐る恐る近づいていく2人。階段の手前まで来ると、階段の手前に血文字が急に現れる。


『全ての墓を暴く凶悪なる者達よ、我が封印は解かれた。故に感謝を持って悪しき同志を歓迎しよう』


 ピカッと光る階段。彼らの足元に魔法陣が現れ紫色に発光する。


「ヤバ!?ノート兄これ強制転」


 慌てて逃げようとするユリン。ノートも魔法陣からユリンの手を引き出ようとした…………が願い虚しく、魔法陣の光に呑まれて2人は消えた。




死霊術師に関する説明を移転しました。


読まずともこの作品を読むことは可能ですが、知っておくと面白いかもしれません。


気になる方は『神地雷特典 ALLFO設定厨隔離収容施設』の『死霊術師の基本』の項までお越しくださいませ。

お手数をおかけして申し訳ありません。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>「多分きたかなぁ?って思って来てみたら本当に居たからびっくりだよぉ。街から外れてスポーンした人ってスポーンの初期地点って近いんじゃないかな?。ボクもすぐそこだったし。でもそれはラッ…
[一言] ユリンって男確定しちゃったの?
[気になる点] クールタイム無しは魔法連打で相手の完封ができてしまう、隙が無さすぎるなど強すぎると思うので、「クールタイム大減少」みたいにしたほうがいいと思います。 [一言] これからも読ませていた…
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