No.163 ギガ・スタンピード/裏手
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽それではここでプレイヤーから見たアレの姿を見てみましょう
「ランクが低い奴は無理に近づくな!喰われると相手を強化してしまうぞ!」
青いピエロマスクの男達が侵入した正門の裏手。このエリアは門が近くに一つもなかったお陰で青いピエロマスクの男達の襲撃を免れており、最も戦力が集まっているエリアとなった。
其処は“消えた情報屋”が最初にキャンプ地に潜入した時に腰を下ろしたひよっこ駆け出し組と性質悪寄りのプレイヤーが集う場所だった。
その場所に避難してきたプレイヤーが雪崩れ込む。普段はいがみ合う者同士だが、彼らの背後から迫ってきた物を見れば責められる筈も無かった。
提灯鮟鱇と百足とゾンビをチグハグにくっつけたような外見。頭は鮟鱇、身体は巨大百足、しかして脚の部分が全てが亡者。体長は30mに達するのではないかという巨体。
巨大な鮟鱇型の頭はプレイヤーを丸呑みに出来る。
長くて隙だらけに見えるが脚を形成する亡者どもが迂闊に近寄ると抱き着いてきて妨害してくる。
その上、頭からぶら下がるランプには状態異常を引き起こす効果がある様で、ランクが低く耐性の無いプレイヤーは気絶したりフラフラと近寄ってあっさり丸呑みにされていた。
それは青いピエロマスクの男が放った中級死霊の一つ。般若面蟷螂人同様に腐った森で散々お世話になった化け物の強化版を死霊化した物である。
『Guoooooo!!!』
魔物もプレイヤーも等しくその鮟鱇型百足死霊の前では餌だった。人々が逃げ惑う中、魔物共が丸呑みにされていく。徐々に、徐々に、鮟鱇型百足死霊が大きくイキイキとし始めたのがプレイヤーには見てとれた。
「だけどよ!仕留めないと結局どんどん強くなってジリ貧だぞ!?」
早く倒さないと大変な事になるが、逆に迂闊に近寄って倒されると鮟鱇型百足死霊を強化してしまうと言うジレンマ。その上死霊特攻を持ってるはずのプレイヤーでもあまりダメージを与えられないという堅牢さを誇っていたのが多くの者を怯ませた。
特にまだ序盤という事もありプレイヤーの多くは自分より巨大な敵との経験が少ない。丸呑みにしてくるタイプなどもっての外だ。
「みんなどいてくれー!」
その時、一匹の黒狼が青い光を纏い鮟鱇型百足死霊の目の前を横切る。思わず釣られる鮟鱇型百足死霊。自分のランプ罠にも一切影響を受けた様子がない上質な存在、つまり良い餌という事だ。
よって本能には抗えずその視線が逸れた。
「ラッキー」
その顔を狙って炎の閃光が鮟鱇型百足死霊に放たれ、眼球にモロにヒットする。怯みを狙って顔を攻撃したのが偶然当たったのだ。しかし幸運も実力のうち、鮟鱇型百足死霊の目を一時的にでも潰したという事実が今は重要だった。
「ウラァッ!」
其処に突撃を仕掛けたのは大きめの盾と軽装というアンバランスな騎士。軽装を生かした身軽な動きで鮟鱇型百足死霊の顔横に潜り込むとかち上げるように大盾で思い切り殴る。
軽く浮く顔面、そこに更に滑り込むような影が。
全身軽装。独特の歩法とモーション。胸の前で赤く光るエフェクトに包まれた腕を溜め――――
「破ッ!」
繰り出したのは掌底。その巨体に対してプレイヤーの手はあまりに小さく見えたが、ドゥ!と衝撃が抜けて頭が軽く揺れる。確かにダメージが入る。
「よし!経絡はダメージ貫通してる!!」
「いいから早く逃げろーー!グハァ!?」
「もう何やってんのさー」
「使い魔、引き付けもう一回お願い!」
しかしダウンを取るには足りず、怒ったように大振りの動きで暴れ出す鮟鱇型百足死霊。慌てて逃げる格闘士、大楯の軽戦士がフォローに入ろうとしてとんでもない衝撃を殺し切れず吹っ飛び、やれやれと言った感じの魔法使いが再び魔法を放ちヘイトを引っぺがし、如何にもシーフっぽい奴が仲間の使い魔である黒狼に再び誘導を頼み、自身は回復薬を盾役に投擲しフォローする。
「あれ『Kμ's』じゃね?」
「ほんとだ!ケイラクマスターだ!」
誰もが動きあぐねていた中でしっかりとダメージを与えていったパーティーに色めき立つプレイヤー達。一部の情報通なプレイヤーはその独特の攻撃方法からそのパーティーがどんなパーティーかまで分かった。
『Kμ's』。所謂反船イベント中やそれ以上で成り上がったり知名度を一気に上げた反船成金などと揶揄される事もあるプレイヤー達の中でも最近知名度を上げてるプレイヤーだ。
特に格闘士と調教師のハイブリットであるケイラクマスターという特殊な職業を発見した『KEINS』は無償で情報スレにケイラクマスターの発見とその解放条件を報告し、ケイラクマスターの始祖として格闘士界隈とテイマー界隈では結構有名なプレイヤーとなっている。
そんなKEINSと一緒に行動していたのが魔法使いである『みやび』と盗賊である『ルル』。
『みやび』も『ルル』も名前から察することができるようにサービス開始時参加組だ。
ALLFOではニックネームは兎も角、メインの名前は他のプレイヤーと重複できない。つまり、単純で思いつきやすい名前だったり人気そうな名前ほど争奪戦になる。故に、名前だけでもその人がどの段階で参入したプレイヤーなのか分かる人にはなんとなくわかるのだ。
『みやび』は気の抜けるような話し方をするが、ゲームには真剣なタイプである。ガチガチの魔法使いビルドで、現在は闇魔法の習得フラグを探し求めている最中だ。PSも高く、PvP大会ではかなり良い成績を残していた。
『ルル』はみやびのリア友で、色々な物を取り敢えず齧ってみるタイプのエンジョイ系プレイヤー。お陰で大体のことはできるが若干器用貧乏も否めないし、できることが多いせいでフォローに回ることが多く地味に縁の下の力持ち的なポジションだ。
その『ルル』の親戚がKEINSであり、初期当選組として仲良くやっていこうと臨時のパーティーが結成された。
だが、魔法使い、盗賊、格闘家というパーティーは些かバランスが悪く、結果としてKEINSがテイマーとなり前衛を一枚増やして対処する事になった。
それが結果的にケイラクマスターの習得に繋がるのだから人生どうなるのかわからないものである。
しかしそれでもやっぱりプレイヤーの前衛が欲しい。悩む彼らの前の現れたのが、大楯にフェンサーの様な軽装備という異色のプレイヤー『タイガアオロス』である。
KEINSはケイラクマスターの発見者として検証厨にちょっとした依頼を受け、それを快く引き受けていたおかげで検証厨の一部とも繋がりがあった。
そんな彼等にKEINSが『いいタンク役のプレイヤーはいないだろうか』と相談してみると、検証厨は君の様に我々に協力してくれるプレイヤーでIN率の傾向が似てる奴がいると『タイガアオロス』を紹介してくれた。
タイガアオロスは元々重戦士系のビルドだったが、ソロ気質なので自分で色々とできる様に試行錯誤した結果、最終的に大楯に槍、盗賊レベルの軽装という独特のスタイルに辿り着いた。
そんなスタイルを検証厨に目をつけられて何となく協力していたのだが、元々フィールドを色々と出歩きたいタイプだったので検証厨の協力ばかりをするのも少し歯痒かったのは事実だ。
そんな3人は実際にタイガアオロスの実力を見て、是非とも仲間になって欲しいと何度も頭下げた。そして彼が根負けした事で結成されたパーティーが「Kμ's」である。
割と全員がまめにスレなどで情報収集をするタイプなので無駄足を踏んだり非効率な事をする事もなく、想定していたよりもしっかりとメンバー同士が噛み合い、トントン拍子で強くなる。気付けば攻略組寄りの立ち位置に居た。
因みに『Kμ's』のリーダーはタイガアオロスである。彼が1番落ち着きがあり、大人びていて、4人の中で最も冷静な状況判断ができるからだ。しかし彼等はまだ知らない。タイガアオロスが元々老け顔で、更に髭を生やしたりと割と老け顔っぽく顔を補正をかけているだけで、実はKEINS達より年下である事を。
閑話休題。
『Kμ's』がこの場にいるのは完全に偶然だ。
彼らはリアル側の都合でかなり遅めで結果的にテントを張る場所が正門から遠い奥の方になってしまっていた。その後も検証勢から声を掛けられ、100人フルメンバー時のヒュディの強化状態実験に参加させたりと色々としてるうちに、一回もヒュディを倒せずにズルズルと6日目へ突入。ようやく同じような状態の他のパーティーと連合を組むことができヒュディを倒した。
つまり、上位勢でありながらテントを奥に設置したことと、ヒュディがなかなか討伐できずに拠点防衛組に加わらなかったことで青いピエロマスクの男達の襲撃と比較的無縁でいることができたのだ。
この様な幸運なパーティーは幾つもあり、青いピエロマスクの男達の襲撃を受けて壊滅的な状態に陥った戦線の崩壊を食い止め、立て直しの為の兆しとなっていた。
しかし、青いピエロマスクの男が解き放った中級死霊が如何程に強いのか。それは誰1人として知らない。知るわけがない。彼等は腐った森どころか深霊禁山にさえ到達していないのだから。
それでも彼等は剣を取り、絶望的な戦いへと身を投じた。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ノートが中級死霊をメインで使わんのはこれだけの性能があるからよ
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽リニューアル仮面バフ強化&バルちゃん+アグちゃんバフ強化状態の下では中級死霊はレイドボスへ変わっちまうんだなぁ