No.161 綺麗な世界
この時間の更新が、1番気持ちいいから
※本日クリスマスセールに付き4話目
※お年玉は感想,お気に入り,評価で増えるぞ。レビューは確定演出だ
露骨なクレクレ大妖怪
「(さて、今回はどうなることやら。スキルと魔法の検証、魔物の湧きの分析、称号、プレイヤーの強さの検証、今回の収穫は多そうだな)」
火の手が上がり、魔物と人が入り乱れ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したキャンプ地。こうしている今も何十、何百のプレイヤーが死に、同時に街から頑張って応援に向かっているプレイヤーもいるのだろう。あるいは火事場泥棒やどさくさに紛れて他のプレイヤーを殺してるPKプレイヤーもいるかもしれない。
しかしそれでいい。これを狙っていたのだから。
ノートは悪意を以てしてPKを行っているのではない。
その根本にあるのはドロドロとした劣等感と、それを殺そうとする闘争心、そして人一倍強く制御が効かない狂気じみた知的好奇心である。
追いつめられた時こそ人は本性が出る。真なる輝きを見せる。VRという仮想空間がよりリアルへと近づくほど、人々は仮想空間の中でもリアルと同じように動く。
その時に生じるエネルギー、人の剥き出しの感情がノートは好きだ。自分を驚かせるような人を見るのが好きだ。貴様は悪だと吼え、本気の殺意を剥き出しにして自分を殺しに来てくれる勇者が好きだ。現実じゃないからこそ現実を超えた感情のぶつけ合いが、意地のぶつけ合いが、自分の首を命を簡単に賭けられる異常な世界が好きだ。
ノート自身、自分のことを真面などと欠片も思っちゃいない。一般的に見れば自分は晒しスレ殿堂入りでリアル情報まで拡散されて誹謗中傷のメールがひっきりなしに届きリア凸襲撃されかねないことをしているのはわかっている。
ある意味、ノートは自分の人生を賭けてPKをやってるのだ。覚悟が決まってる分、ヤルことも頭のネジが数本外れてるレベルの事しかしない。
無論、今回は反船の反省も兼ねてのでっち上げイベントでもあるので一応フォローもしている。情報屋をやった時にスタンピードで襲撃する魔物の弱点などの情報は多くのプレイヤーに売り払った。微妙なマッチポンプだが、ノートはこと対人に於いてはワンサイドゲームだけを好むタチではないのでちゃんとヒントは与えていた。
―――――面白くないだろう、開発と運営の敷いたレールに乗せられて、ただ魔物を狩るだけの作業は。
廃人の活躍を指くわえて眺めているばかりで、嫉妬するくらいならシングルゲーで主人公やってればいい。
与えられたイベントをただ消費するだけのやり方ならオンラインゲームである必要があるだろうか?
違うだろう?そうじゃないだろ?
もっと感情剥き出しにして、喜怒哀楽全部ひっくるめて吼えてみたいだろ?魂が揺さぶられような感覚を味わいたいだろう?
この仮初の現実は何のためにある。何のために貴方はこの世界に降り立った。現実とは違うことをしたいからじゃないのか?
“みんな”などというありもしない架空の何かと仲良くお手手繋いで、緩やかな下り坂を不気味なまでに足並み揃えて惰性だけで歩いているような、熱を失い腐敗しているそんな現実と同じことをしたくてゲームをしてるわけじゃないだろ?
人間はもっと輝ける。もっと感情を剥き出しにできる。
時代を経るほどに人は人の形をした受動型快楽消費機械に成り下がった。22世紀現在、AIとロボットにより人間のするべきほとんどの事が代用できるようになってしまい、人間は怠惰な快楽に依存した。
だからこそ、今一度回帰しよう。もっと原始的な感情をぶつけ合おう。
理屈と効率に絞め殺され陳腐で退屈になった現実から離れよう。もっと獣の様な闘争に身を委ね、人としての尊厳を獣性を持ってして取り戻そう。
勝ちたい!コイツをぶっ殺してでも勝ちたい!つかみ取りたい!鮮烈な激情を、目がくらむような興奮を、頭の天辺から足先全部で味わい尽くし、痺れる脳髄の余韻に浸ろうじゃないか!暴れる心臓の拍動のリズムで踊ろうじゃないか!
ノートはそう周囲に訴えかける。時に言葉で、時に行動で、オンラインゲームとは何ぞや、人間とは何ぞやと。
故に、ノートはPKをやめられない。
定期的にプレイヤー達を煽り、新たな可能性と輝きを模索し、人の可能性を見出そうとする。
時に味方の顔をして助けて種を撒き、荒業で芽吹かせる。時に敵の顔をして容赦無く叩き潰す。枯れるも開花するもその人次第だ。
同じ人がトップの顔して居座り続ける世界なんてつまらない。だから多くの人にチャンスが与えられるようにノートは仮想の世界を引っ掻き回す。新鮮な空気を入れ、定期的に刺激を与える。
ただのお節介、独りよがりな感情。そんなこととっくに承知している。
外道の勝手な願いである事などよく知っている。
自分の見出した“人間”が歪んでいる事など分かっている。
だが、ノートの目には焼き付いている。怒号と銃弾と血が飛び交い、ビルが空から降ってきてワールドごと消し飛ぶような破天荒を凝縮したような世界が。
殺し合いをするために誰もが知恵を絞り、技を磨く。罵倒を飛ばしながら、生きたいと、勝ちたいと吼える。
やってることは殺し合いなのに、誰もが笑顔で、そこには“リアルな人間”が居た。陰湿で嘘と綺麗事ばかりの吐き気を催す薄汚れた空気はなく、そこには荒れる感情を剥き出しにした奴らが自分たちの熱い魂を全力でぶつけ合っていた。
その根底には何のためにゲームを、などという小難しいことは一切なかった。誰もが自分の内からあふれ出る衝動に身を任せ快楽の限界の先まで突き抜けていた。
死んだ目をしてる奴なんて一人としていない。惰性で動いている奴なんて誰一人としていない。鬱屈したような空気を放ってる奴なんて何処にもいない。暗い顔して俯いて誰かの顔色伺ってるツマらない奴は居らず、全員が輝いて見えた。
殺戮にまみれた狂気の世界にも関わらず、強烈な喜怒哀楽が渦巻く世界。全員が上を見上げ、目をギラつかせて、自分の思いをそのまま口から吐き出す。
ノートにはその世界がなによりも“リアル”に感じた。外道濃度MAXの地獄絵図の世界のはずが、現実よりも綺麗な世界に見えた。
そこには確かに生きた人間がいたのだ。
PKは、ピンチは、人が輝くチャンスなのだ。
初めてやったGang Bio Hazard Warで刷り込まれた強烈な経験がノートを突き動かす。人間の最奥を覗きたいという知的好奇心がノートに力を与える。
外道でもいい。多くには謗られ疎まれてもいい。それで新しい可能性が見出せるなら本望だ。
人間に心底落胆し、それでも何より人間が大好きだからこそノートは強いるのだ。惰性でゲームなんてするな。もっと楽しめる。あらゆる可能性を模索し続けろと。
仮想現実がリアルに近づくほど仮想世界がただのリアルの縮図に近づいてるだけじゃ意味ないだろ。仮想現実だからこそ現実を全力で飛び越えろとノートは願う。
どこまでも外道で、人を傷つける事を欠片も厭わない癖に、一切の支配欲や承認欲求がないからこそ、ノートの企てる計画は予測不能で、そして冷酷にして残虐だ。
「またまたお仕事ですよ、っと」
手始めに中級死霊召喚。タイプは反船と同様、生命を喰らうことで強化される際物タイプだ。
召喚されるや否や周りの魔物をぼりぼりむさぼり食う10体の中級死霊。強度はそこまで高くない。しかも、プレイヤー達には反船で獲得した【死者祓い】や【復興の支援者】という称号がある。称号の効果はアンデッド与ダメージ上昇、被ダメ減少。対アンデッド向け特化の能力だ。
普通に考えればノートの天敵である。
もしかすると、協力すれば倒せるかもしれない。成長タイプの際物死霊は早めに戦えばなんとなる可能性もある。ノートはそれを知ったうえでまず先行部隊として中級死霊を解き放ち、キャンプ地から脱出したりこそこそ何かしようとしてるプレイヤー達を殲滅する。
負けてもいい。むしろ中級死霊を討伐したプレイヤーがどんなことになるのか見てみたい。
称号を得るか?それともプレイヤーの死霊では無理なのか?【死者祓い】などの効果は?強いプレイヤーが出てくるなら何より。いい遊び相手になりそうだ。
今回は序盤から予想外の事が多すぎて強くなりすぎた感がある。底上げしても罰は当たるまい。
「さて、仕上げだ」
実体化させたキサラギ馬車の上に腰掛けたノートが手で合図を出すと、燃え盛るキャンプ地に照らされてできた多くの影がズズズズズズッと動き、そして一つの巨大な塊となる。
パチンと指を鳴らすと、キサラギ馬車はゆっくりと出発する。その背後を数万の魔物が付き従い、そして更に――――――――――――
◆
「はぁ……はぁ…………なんとか、凌いだか」
「だな。ただ、大穴を開けた連中がいないのが不気味なんだが」
軍服めいた物を着込んで魔物を率いて急襲した連中のせいでキャンプ地は半壊したが、プレイヤー達も馬鹿ではない。キャンプ地の中に更に二重でもう一度バリケードを作り上げて各個撃破という形で徐々に魔物の数を減らし、なんとか立て直した。
上位陣の1/3程度がセーブポイントを破壊されて街に死に戻りしてしまったことは痛手はあったが、それが逆に中堅勢の団結を促したのは少々皮肉めいているが結果オーライでもある。
退けた。やってのけた。
なぜか全体的に釈然としない空気が流れているものの、自分達は確かにやって見せたのだ。
怒涛の勢いで押し寄せ、絶望の権化の様な数の魔物を全て殺し切ったのだ。
「俺たちの、勝利だーーーーー!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「やったあああああああああ!!」
「みたかおらあああああああ!!!」
勝鬨の声が上がる。危機を乗り越えたことによる一体感と熱気が彼等を熱くさせる。誰も暗い顔ばかりではない。大変な戦闘ではあったが、この乱闘でランクを上げた者も少なくない数居た。
明るい空気が、熱気が全体に伝播する。
勝鬨の咆哮を上げる。
俺達はもう負けてばかりじゃない。勝った、遂に自分達の力だけで勝利を掴――――――
『御機嫌よう諸君。前夜祭は楽しんで頂けたかな?』
だが、その熱気が一瞬で覚めた。全員なんとなく何処かで抱えていた不安が顕在化した。それを押し殺すために精一杯空元気でも声を上げていたはずなのに、いきなり喉を締め上げられた様な息苦しさが満ちた。
そう、その声は多くの者が聞いたことがある声。
当事者も、それ以外は動画で、その声を聞いた事がある。
反船イベントの引き金の首領。
真紅のコートの上から軍服連中と同じ黒いローブを羽織り、彼が乗る馬車の横に随伴するスケルトン兵達が例の髑髏の武器天使の旗を掲げてやってきた。
彼の前を守る様に10体のボス級相当と思しきアンデッドが並び唸り声を上げ、馬車の後ろからゾロゾロと獣共が出てくる。
其れ等を率いる泣き顔の青いピエロマスクから出る声はどんな手品を使っているのかフィールド全体に聞こえていた。
『私が与えた物は有効活用してくれただろうか?今回の余興は楽しんでくれただろうか?いや、先程の反応を見れば明白か。随分と楽しんで頂けた様だ。私はそれを非常に悦ばしく思う』
全てのプレイヤー視線が首領に集まる。そしてその背後の闇が揺らめいてることに感覚値の高いプレイヤーは気付く。
何かいる。何かが。悍ましい何かが。
ズズズズズズッと暗い森から何かが起き上がった。
それはまるで――――――
「…………ヒュディ?」
ヒュディそっくりの漆黒の塊が首領を守る様に背後でプレイヤー達を睥睨していた。紅い瞳を輝かせ、巨大な赤い満月を背負い、本物よりも強烈なプレッシャーを放ちながら立ち上がった。
プレイヤーでは決して到達出来ない御業。間違いない、首領は只者ではないと誰もが本能的に悟った。赤いオーラと金色のオーラを放ち、黒い稲妻を纏う存在がマトモだとは誰も考えられなかった。
コイツがボスじゃなくて何がボスか。シナリオボスのヒュディより余程禍々しい。
そのヒュディを従える奴は何者なんだ。
『第二幕と行こう。抗い給え、内なる輝きを見出し給え、闘争に、狂気に、衝動に、身を委ねよ。私に貴方達の可能性を見せてくれ給えよ。さぁ、狂瀾を心ゆくまで楽しもうではないか』
パチンと鳴らされる指。すると隠されていたベールが剥がされ、首領の後ろに、鬼が、堕天使が、魔女が出現した。魔女が開戦を告げる様に言葉を失う程巨大な炎の竜巻を空へ放ち、キャンプ地全てを業火で照らした。
同時に10体の死霊が先陣を切りキャンプ地に突撃し、大量の血と代償になんとか築いたバリケードをいとも簡単に破壊。先程の数倍の規模の魔物が一斉にキャンプ地へ雪崩れ込んだ。
あれこれも全部,GBHWが悪いんだ
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ようやっとまともにノートの理念が出せた
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽それともう一つ。私は鋼錬が大好きだ(ダイマ)




