No.160 鉄壁
お疲れ様。メリー苦シメマス
今年のクリスマスは執筆時間に消えた
「おっぱじめやがったッ!」
その爆発音は遠くで待機していたスピリタスにもしっかり見えたし、聞こえた。
ネオンが解き放った強力な漆黒の炎のビームは射線上にあった櫓をあっさり飲み込んで大きな門に到達。するとまるで“爆弾に着火した様に“門が大爆発を起こし、誘爆して他の壁まで爆発して一気に崩壊した。
元からブッ飛んだ威力を誇っていたネオンの魔法だが、それが反船で獲得した称号『殲滅者』、称号『小さな災厄』により強化されていた。今までは鉄壁を誇ったその門を、ネオンの魔法は鼻で嗤うように吹き飛ばし、キャンプ地まで貫通し、斜線上にいた全てを焼き払った。
ネオンの開けた大穴に殺到する魔物の大群。普通なら万が一壁が破られても盾役ができるプレイヤーが肉盾となり一時的にバリケードの役割をするはずだった。
だが、誰も動けない。ネオンの放った魔法は全員の思考を停止させ、そして足を竦ませるほどの威力があった。もし飛び出しても第2射が放たれればただの犬死に。その思考が彼らの対応に致命的な遅延を生じさせる。
壁の上で控えていた上位陣が爆発に巻き込まれ殆ど全滅状態になったことで誰も指示が出せなかった。
しかも構造上破られる可能性が高かった門回りだけでなく、あり得ないほど広範囲の壁が一気に崩壊していた、“まるで壁に爆弾が仕掛けられていたように”。
種明かしすればどうと言う事でも無い。
ノート達は銃を開発した。その銃弾を放つのには火薬が必要だ。つまり、銃弾を作るよりも先にノート達は既に爆弾を手に入れていた。
壁にこっそり仕掛けられた爆弾はネオンの火属性魔法で着火し、爆発して壁を吹き飛ばしたのだ。
その爆弾を仕掛けたのはノートがキャンプ地で架空の商人となり大鉈を振るっていたころ。早々にキャンプ地周辺の偵察を終了させたヌコォ達は普通のプレイヤーのように変装し、壁を築いている生産組に接触した。
そしてノートが人の流れを作り、壁を作っていたプレイヤーまで引き付けて人の数が少なくなった時にヌコォが隠蔽状態になり密やかに門の機構や、壁の土台に爆弾を仕込んでいた。しかもその上にカムフラージュするように普通に防衛に役立つトラップを善意の第三者のフリしてユリンとスピリタスが設置した。
これにより他のプレイヤーがトラップを感知しても仕込まれた爆弾には気づけない。すべてはノートの狙い通り。鉄壁を誇っていたように見えた門と壁は、文字通り最初からとんでもない爆弾を抱えていたのだ。
その爆弾に最初に着火する重要な役目を負ったのがネオン。対策なしではネオンの魔法は誰も止められない。ネオンの魔法は門を吹き飛ばすと共に仕込まれていた爆弾を爆破し、壁の爆弾が誘爆。一気に壁を崩壊させた。
そこになだれ込む大量の魔物たち。元より6日目の時点で出現する魔物が強くなっているのに加えて、[神、此処に在らずして、死に給う]による強化が施され、自動HPMP回復が付与されている。そして一番槍を勤める連中は特に強力な連中で編成されており、尚且つネオンがユニークマジック〈エンチャント・フルモメント〉でストックしておいた強化バフが付与されている。
大爆発と壁の崩壊で蜂の巣を叩き壊したような大騒動を起こしているプレイヤー達は魔物に押し流されキャンプ地の一端はいとも簡単に崩壊した。
◆
「うっし!いくぞッ!ついて来いよ畜生共ッ!」
ネオンが起こした門、壁の崩壊。しかもそのエリアは所謂正面、強いプレイヤーが集まっていた地点だ。そこが真っ先に落とされ、皆はフォローをしようと一斉に動き出す。
その隙を見逃す馬鹿はいない。
同じく首なしの巨狼に跨ったスピリタスは旗を掲げて森の中から飛び出した。そして後続する獣の群れ。スピリタスは手薄になったもう一つの門に突撃を仕掛ける。
「て、敵襲!!こっちも来たぞ!」
「嘘だろ!?」
門の周りでてんやわんやするプレイヤー達。しかし掲げられた旗は間違いなく報告されていた物と同じ。無関係な訳がない。
「ス―――――ッ……う゛ら゛ぁぁぁぁぁぁぁあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛ああぁぁぁ!!!!!」
息を深く吸い込むスピリタス。そしてキャンプ中に響き渡るような声量で叫ぶと、その咆哮と共に深紅の衝撃波が地面を割り門に到達すると門にヒビを入れ、衝撃で作動した爆弾が大爆発を起こす。
ユニークスキル〔鬼覇咆壊〕。スピリタスが反船で会得したユニークスキルであり、これは声をトリガーとして衝撃波を放つ異色のスキルである。スピリタスの持つ能力でも異色の飛び道具枠。バフのかかった状態で放たれたその咆哮は凄まじい威力となりプレイヤー達を襲った。
人外の肉体を持つ種族、悪鬼故に可能とする咆哮。そのままスピリタスは業火の中に突撃し、巨大な旗をぶん回してなんとか対応しようとしたプレイヤー達を全部吹っ飛ばした。
「(ヤベッ!この旗傷つけんなって言われたんだった!まあいいや!ノートも一緒にバルバリッチャに謝ってくれるよな!)よー-し!畜生共、暴れろ!!!ミスを帳消しにしろ!」
そして第2アタックはスピリタス自ら完全に先陣を切り、また一つエリアが壊滅した。
◆
空を滑空する黒い飛翔体。月に照らされて地面を高速で這う影にプレイヤーが気づいた次の瞬間には何かが空から落下し大爆発。門が、壁が、一気に吹っ飛ぶ。
更に空から雨が降ってきた。何事かと思えば、空で漆黒の何かが華麗に舞い、液体を散布していた。
「まずい!これ油」
プレイヤーが言えたのはそこまで。続いて火の雨が降り注ぎ、全てが業火に呑まれた。そしてその業火を突き抜けて突撃してきた獣どもを誰も足止めできない。むしろ火を纏い鬼が宿ったように暴れはじめた獣どもは今ままで退けていた獣と同一とは思えないほど恐ろしい何かを秘めていた。
指揮のできるプレイヤーが立て直そうと指示を出す。だが、空から高速で滑空した物体が横を通過するや否や首が吹き飛び赤いポリゴン片が激しく舞い散った。
「堕天使…………」
漆黒の翼を広げ、黒い光輪が明滅する。嘲笑の笑みを浮かべた黄蘗色のピエロマスクと軍服に身を包んだ堕天使が空を華麗に翔け、滑空した次の瞬間には纏めて複数のプレイヤーの首が飛ぶ。狙撃しようにもスピードが違いすぎて目で追うのが精一杯。
その可憐な堕天使に気を取られている間に更に魔物どもがキャンプ地奥深くへ食い込み、阿鼻叫喚の地獄絵図が更に広がっていった。
◆
『作戦成功、3方面全ての大門の崩壊を確認。魔物が完全に入り込み双方死者多数。ユリン、ネオン、スピさんの離脱完了。キャンプ地の壊滅でリスポン地点がリセットされて有力なプレイヤーの多くが街に戻ってる』
「OK、いい感じだな」
グレゴリと視界共有としつつ複数のスレを同時に閲覧しているヌコォからの通信を受け上機嫌に笑うノート。今回は下準備で頑張ったのでヌコォは完全に裏方に回っていた。
『のっく~ん!あたしもでたーい!!!』
『待機してる方が大変な気がするわ』
同時にグレゴリ経由の通信でクレームを飛ばすトン2と鎌鼬。今回顔が割れていない彼女たちをノートは温存することにして、大量にいる魔物の管理と、大本を確認しようとする知恵と実力のあるプレイヤーを暗殺する役割が与えていた。
因みにヌコォは裏方をこなしながらミニホームの方へ避難したプレイヤーを暗殺する役割を担っていた。といっても、アグラットが結界を張ったミニホーム周辺はアテナがトラップ地獄へと変えているので滅多なことで抜かれることはないが、万が一に備えての対処だ。
『トン2さん仕事、また来た。次は4人。グレゴリと視界共有してすぐに向かって。イタさん、正面敵7盗賊内3要警』
『ぎにゃー--!次は暴れさせてよねー!マジで次は暴れたいよねー!』
『了』
トン2は割と何でもできる。相手の呼吸を読んで隙を突き、相手が気づいた時には既に首が飛んでいる。人間の視線の動き、呼吸を熟知しているが故の真性の暗殺者プレイ。暗い森に紛れて漆黒の軍服は隠蔽効果を発揮し、森で未だに待機している魔物に気を取られているプレイヤー達を狩る程度造作もない。
一方で鎌鼬はもっと残酷だ。音の出ないボウガンに装備を変えて遠距離からの一撃必殺。測量士の副職業が援護することで発揮される圧倒的なエイム力。ヘッドショットで次々と仕留めてあっという間に歴戦のプレイヤーを葬っていく。
『ノート兄さん、そろそろ第二段階へ移行してもいいかも』
「だな」
そして遂にノートが残り全ての獣を直接付き従えて出撃した。
(´・ω・`)入念な準備こそ勝利への近道
(´・ω・`)ヌコォ達が別行動してたのもこの為なのさ
ふと関係ない事思ったんだけど、『親子丼』ってネーミングを考えた人って相当なサイコ野郎だよね




