No.159 川
(´・ω・`)お疲れ様。昼休憩用のプレゼントです
由(´・ω・`) ドウゾ
「そんなカリカリしててもしょうがないっすよ、K-Lazyさん。案外なんもないかもしれないじゃないすっか」
「いや、何かある。絶対に何かある。しぼうさんは油断しすぎだ」
キャンプ地をグルリと囲う土壁は更に整備が進みプレイヤー達が乗っても余裕で耐えられる強度を持つ。
その壁の上には沢山のプレイヤーが常駐しており、スタンピードに備えてキャンプ地周辺を見張っていた。
キャンプ地は沼地の周りにドーナツ状に展開されており、そのキャンプ地の周りを更に覆う様に湿った森が囲っている。
スタンピードで襲撃してくる魔物はこの森を駆け抜けて森とキャンプ地の間を走る間に集合して一つの波と化す。
この波が壁の何処へ押し寄せるかは魔物が森から出てこないとハッキリとはわからないのだが、森全体の動きを観察していれば予兆は感じ取れる。
その為に壁の上に更に高台を設置して遠くを索敵している者も居れば、一定時間で崩壊する事を承知の上で即席の櫓をキャンプ地と森の間に設置してより近くで森を観察している様な、献身的な奴、承認欲求や自己顕示欲の強いプレイヤーも居た。
無論、この櫓勢はスタンピードが起きた時にはほぼ助からない。助からないが故に彼らは英雄扱いされるし、周りも担げば勝手に乗せられてくれる勇者を神輿で担いで死地へ向かわせる。
ただ、上位層と契約して先行情報を流す為に櫓で控えてる実力者寄りのプレイヤーも居た。目立ちたがり屋な駆け出しやヒヨッコの多い櫓と違ってキッチリ感知系や探知系の技能を成長させているので索敵能力も段違いだ。加えてスタンピードが起きても逃げ切るだけの実力があった。
そんな櫓の屋根の上で険しい顔付きで警戒している男がいた。
プレイヤーネームはK-Lazy。K-Lazyと名乗る割にはまともな感性をしており、人一倍警戒心の強い彼はお気楽な他の櫓の面々と違って目が血走るほどに森を見つめていた。
彼がそこまで次のスタンピードを警戒していたのには理由があった。それはボス戦前に突発的に始まったお祭り騒ぎに紛れて広まった1つの噂だった。
『反船イベントを起こした奴等がまた出現するらしい』
反船、と聞けば日本サーバーのプレイヤーのほぼ99%はなんの事だかわかる。
日本サーバーを丸ごと巻き込んだ死霊の軍勢との戦い、超弩級の技の応酬を繰り広げる化け物同士のやり取り。あのイベントが齎した影響は海外にすら及んでいるのだ。知らない奴などゲームでもリアルでも仙人プレイ状態の奴だけだ。
そんな巨大なイベントの首謀者と目されるのは青いピエロマスクの男。仲間には赤い騎士やパフェの仮面をつけたロリッ子、堕天使、魔女、鬼、執事服を着た水晶スケルトン、中華系の服装をしたアラクネ、無機質な巨漢、植物を操る邪悪な精霊、醜悪な顔のない化け物の姿などが報告されている。
どれもプレイヤー達が未発見の敵ばかり。しかも鬼に至ってはリアルでもそこそこ知名度のあるプレイヤーである事がほぼ確定しているらしい。そのプレイヤーに直接誰も真相を問わないのは利用規約抵触による垢BANが怖いからだ。
そうでなければ今頃は厄介な連中が動いていただろう。
22世紀現在、全ての人間には生まれた時に固有のナンバーが与えられ、このナンバーを基準にネットに接続したりゲームのアカウントを作成する為、もしトラブルを起こすとALLFOを運営するクラスの会社なら簡単に突き止めてアカウントを消去できる。
過去にVR関係のトラブルでリアル側で事件が起きたこともあり全体がその手の凸行為に過敏なのもあるだろう。
閑話休題。
どいつもこいつも化け物ばかり。上位層のプレイヤーを壊滅に追い込み、殆どのプレイヤーが手も足も出なかったイレギュラーボスを最も容易く討伐してみせた。
その中でもこのK-Lazyはなんと2度その集団と接触しており、最もその実態と脅威を知っていた。
1度目は反船ほど知名度は無いが当時はそこそこ騒ぎになった野盗討伐戦の敗戦時。急に襲いかかってきた堕天使相手になんとか競ろうとしたがパラメータと圧倒的なプレイヤースキルを前に一撃で首を刈られて終わった。
その動きは敵ながら見惚れる程の鮮やかな動きで、その影響で彼は身軽な双剣装備で今もプレイしている。
そして2度目に接触したのは当然反船イベント。実際にはそのイベントの前。墓地でフレンドと狩りをしていたK-Lazyの前に青いピエロマスクの男が現れた。
敵はたった1人の筈なのに、背後に目でも付いているのかと思うほど的確に動き、接近されたら終わりの後衛型でありながら周囲のアンデッドや地形まで利用した上位層プレイヤーと渡り合い、しかも全滅まで追い込んだ。
パラメータの違い、魔法の威力は当然の事、あまりにプレイヤーに対する理解が深過ぎた。
的確に連携を妨げる様な魔法の使い方。指揮官を徹底的に攻めて指示系統を破壊し、万が一接近できたとしても普通に金属の棒で受け止められたが最後、超至近距離にて高威力の闇の魔法を放ち蜂の巣にして殺してしまう。
こうなると前衛担当も迂闊に近寄れず、ジリジリと魔法で嬲り殺しにされて終わりだ。
K-Lazyが警戒したのは単純な強さ以上に、首領とされる青いピエロマスクの男の知略。もしアイツが出張ってくるなら、何が起きてもおかしくない。
堕天使級の連中を手駒にあんな動きができる男が本気で攻めてくるのに呑気でいられるわけがない。
そうK-Lazyは考えているのだが、それを上手く言語化して周囲に伝える事が出来ず焦ったく感じる。
そんなK-Lazyを全身鎧に身を包んだプレイヤーが宥める。プレイヤー名は『さまようしぼう』。
このプレイヤーは縦にも横にも大きな体がコンプレックスだったが、運動神経が悪くなかった。そのおかげでVRという疲労を感じにくい空間にて才能を開花。パーティーの頼れる盾役として活躍していた。
因みに女性だが砕けた話し方で取っ付きやすく、ムードメーカーとしての能力もあり、盾役としてはこれ以上になくピッタリな性格をしていた。
「リーラさん、森の周囲はどんな感じ……ってキメてる場合じゃないっすよ!」
そしてK-Lazyが憂慮する程さまようしぼうも無警戒だった訳ではない。通常通りにウェーブが発生しない時点ですぐに櫓にもう1人乗っていたパーティーメンバーに情報収集を頼んでいた。いたのだが、そのプレイヤーといえばメニュー画面は開いているものの推定タバコを蒸して御機嫌な一服をしていた。
リーラ、K-Lazyやさまようしぼうの所属するパーティーの情報収集&斥候担当で年齢不詳。ボサボサの髪と伸びきった髭、深いクマのできた目のせいでかなり老けて見えるが動きは若者を感じさせる軽快さがある。
基本的に有能な彼なのだが、ヤニカスアルカスパチンカスのカス3冠王を達成しており、わざわざゲーム内の衣装もまるで大昔の浮浪者の様な薄汚れた格好のせいで余計にヤバい雰囲気が出ていた。
そのカスっぷりはゲームでも遺憾無く発揮されていて、わざわざ高いMONを支払って完全に嗜好品のタバコを旨そうに吸っている様子をパーティーメンバーに幾度となく目撃されている。
一説では見た目とはミスマッチすぎる可愛らしい響きのリーラというプレイヤーネームはラリってる事を自分で皮肉った物ではないかとパーティーではまことしやかに囁かれていた。
「いや、すまんすまん。なんか余計な事を書き込む痛いキッズが多くてちょっと現実逃避をしていた。ただ、やっぱり多くのスレがウェーブの異常で浮き足立って………………嘘だろ!?」
ヘラヘラと笑いタバコの火を櫓に押しつけて消すリーラ。その目に突如として鋭い光が走る。
「……どうしたんすか?」
リーラはふざけている様でパーティーの中で一番頭がキレる。焦ってるところなど殆ど見たことがない。そんな彼が明らかに焦りと驚愕に動揺している様を見てさまようしぼうは嫌な予感がした。
すると急にパーティーチャットでとあるスクショが送られてくる。
「え!?なんすかコレ!?」
それは森を駆ける魔物の群れのスクショ。大量の魔物が川の様に移動しているのだ。しかも不気味な赤い光を帯びており、鑑定結果は『不明』ときた。
見えてないだけで、この森を更に囲む様に魔物の川が渦を巻いていることを知らせる写真。スレに報告してきた者は完全にパニックに陥っており、情報が錯綜していた。
「来た!!」
その時、我関せずと櫓の上で遠くを見つめていたK-Lazyが叫んだ。
ドドドドドドと言う地響き。日常ではまず耳にしないし、ALLFOの世界でもそう聞くことない異様な轟音。
しかし、反船イベントのファーストアタックと衝突してしまった経験のある者達はその音を知っている。
獣の鳴き声、足音、迫る異様な寒気。
木々を薙ぎ倒して獣が森から溢れ出る。一切の迷いなくキャンプ地目掛けて押し寄せる。不気味な赤い光を纏い一目散に駆ける。
今までの襲撃が波なら、今回のは大災害を引き起こす大津波だ。
しかもその先頭には首の無い巨大な獣に跨り、目が眩む様な毒々しい赤字の布に、刀剣や銃を翼の様に生やした漆黒の髑髏が描かれた厨二センス全開の旗を掲げて獣共を率いているとしか思えない者がいる。
其奴は微笑みを浮かべた桃色のピエロマスクを着用し、漆黒の軍服の様な衣装に身を包んでいた。
そして旗を掴んでいないフリーな方の手を櫓に向けて、いや、更にその奥のキャンプ地を守る正門に向けて赤い光を纏いながら伸ばした。
その時K-Lazy達の頭にとある情報が過ぎる。
彼等はK-Lazy中心に『反船』を引き起こした連中を最大限警戒していたし、情報収集を怠らなかった。故に知っていた、魔法を超えた魔砲と思しき反則級の威力を誇る魔法を使うピンクのピエロマスクを付けた魔女の存在を。
「しぼうさん!ガー「もうやってる!」」
それを見て即座に盾役の『さまようしぼう』はスキルを発動し衝撃に備える。
「——————!」
しかし、遠くで女性の叫び声が聞こえた次の瞬間、世界が黒と熱に支配された。
視界の全てが業火に呑まれて暗転し、消えゆく意識の中で大爆発を起こす不吉な音だけが耳に残り、キャンプ地の壁が崩壊する。
それが地獄のイベント開始の合図となった。
これは 「試練」だ
過去(投稿ミスという屈辱)に打ち勝てという「試練」とオレは受け取った
人の成長は……………
未熟な過去に打ち勝つことだとな…(だから設定厨隔離施設に詫び石ならぬ詫び投稿を行った……)
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽No.Ex それ逝毛!主任マン〜魔法少女きえた⭐︎マジカ〜シリーズ、数ヶ月ぶりの更新です