No.18 野盗殲滅作戦終結
ジャンルVR日刊十位以内記念ゲリラ投稿
「うわぁ〜…………エグいね、やっぱり」
「アテナ様様だな。ユニーク個体だからこそ生み出せる“斬幽微糸“。ピアノ線以上の斬れ味なのにゴースト系の名残で物理では破壊できない上に半透明で見辛いときてる」
「でも聖属性の魔法であっさり壊れちゃうからそこが難点だけど、野盗に聖属性持ちなんている訳ないもんね」
ユリンが侵入前にさっさと仕掛けていたのは件の斬幽微糸を使った柵型トラップである。感知能力などが高い動物系敵性MOBでさえ追い込めば引っかかる凶悪な罠だ。それをただの野盗程度が気付ける訳もない。
“丘の上”からその一部始終を見ていたユリンとノートは、トラップに対し冷静に評価を下す。
種明かしをするとなんということもない。
兇手故に感知からも逃れられるところに更にノートの魔法で強化された隠蔽状態のユリンが、まずひっそりと南口で騒ぎを起こす。これが第一段階。
そしてその騒動が起きた瞬間に、隠蔽状態で丘の近くまで来て待機(バルバリッチャの外套により動きがない限り隠蔽状態になれるのに加えてさらにバフをかけて感知から逃れていた)していたノートがスケルトンを召喚。
注意が大きく削がれた瞬間に丘をよじ登り、頂上に着いたらすぐに胡座をかいてジッとすればバルバリッチャのチート装備の効果で再び発見不可能状態になる。
あとは特等席でポンポン召喚をするだけでいい。
犬ゾンビの動きを精細に把握できていたのも丘の上にいたお陰であり、野盗NPCは木の影にいると思い込み(とても人間らしい思考ルーチンであるが故に逆手をとれた)見事に策にひっかかった訳である。
ノートとユリンが素早く情報共有していると、南口に向かわせたラミアは最終的に相打ちという形で消滅したことにノートは気づく。
おそらくボスがいるだろう中央部まで侵入したもう一体のラミアは、少し止まった後、なにかを追いかけるように北側へ向かうが、途中で反応が消失した。
そのタイミングでノートとユリンは立ち上がる。
しばらくすると、北口の窪みから数人の野盗が現れる。
他の野盗とデザインが明らかに違い、見るからに重要人物たち。
丘から滑空したユリンは逃走しようとする彼等の背後に一直線に突っ込んでいき…………
「〔フリューゲルマーダー〕!」
完璧に決まったユニークスキルは一度に6人を凶刃の元に捉えポリゴン片に変換。勢い余って地面に墜落しそうなところを飛行状態継続のまま腕のバネで地面を押し返し変則ロンダート(体をひねりながらヘッドスプリング)を決め、スキル範囲をギリギリ逃れた2人の野盗の前に華麗に着地する。
「みーっけ!」
ニコッと笑うユリンは信仰篤い坊さんですらクラっときそうなほど可愛らしい笑みだが、直前の行動と持っている武器が大変可愛らしくない。
「くそっ、てめえが襲撃者か!ただのガキじゃねえか!」
逃れたうちの1人は大まかな姿形はゴリゴリマッチョな通常の野盗とかわりないが、体格が一回り大きい上に、ほぼ半裸やボロ服を纏う程度の他の野盗とは違い、立派な鎖帷子を着込み指輪やネックレスなどをつけている。どれも髑髏型で気味が悪いが、ノートが遠くから鑑定してみると呪系のアイテムだった。
さらに他の野盗が顔に被っていたのが穴をあけた無地の覆面マスクのようなボロ布だったのに比べて、その野盗は黒いホッケーマスクをつけていた。装備した曲刀も、毒有りの曲刀で他の野盗が持っていた武具とは全くレベルが違う。
だが、その野盗よりもさらに強そうな者がユリンの前に歩み出る。
それは世紀末にいそうな棘だらけなパンクパンクした服装で、頭は黒いヘルメットのようなものでガードされて目しか見えない。
手に持つ両刃斧は、刃の部分が異様にでかく赤黒い。見るからにやばそうな紫色のオーラが斧から放出されていて、鑑定の結果、こちらも呪系の武具だった。
「ユリン、斧持ちは野盗じゃなく傭兵だ!『犯罪傭兵ギージャ』だ!んで、ホッケーマスクは『盗賊団・黒土竜の長』だ!どっちも殺してもいいが弱くはないぞ!」
そこでギョッとして後ろを見上げる団長。その視線の先には丘の上に佇む死人の様な男。
だが団長の声もノートも届かないほど、ギージャはフー、フーと荒い息を吐き既に目がイっていた。
団長が連携を組まなければ、と咄嗟にギージャに声をかけるが既に時遅く。ギージャは咆哮しながらユリンに飛びかかり激しい斬り合いが始まる。
団長はチラチラとギージャとノートに視線を動かし迷っていたが、ノートがあっかんべー、と子供のように挑発すると団長はブチ切れて言葉にならない怒声をあげながら丘を登ってきた。
「このクソやろうが!俺の装備は魔法が効かねえ特別製!その格好からしててめえがネクロマンサー!召喚もこれだけやればすぐには発動しねえはずだ!メイジタイプのてめえなんざ怖かねえ!やろうぶっ殺してやらーー!」
団長はハイテンションで突っ込んでくるが、ノートは動揺することなくただただ微笑むのみ。そしてスッと手を前に出す。
「残念、俺はただの死霊術師じゃなくて、“特”付きの死霊術師なんだよねー」
MPを過剰消費することにより詠唱破棄。クールタイムという概念のないノートは即座にスケルトンチャリオットを5体召喚。
スケルトンチャリオットは傾斜のある丘では勢いがつくので、ドドドドドドドと一気に加速して団長に突っ込んでいく。
「なっ!?ひぃぃぃぃ!やめてくれ!俺が悪かった!俺は懸賞金かかってるから街まで連れてけば賞金が」
団長は召喚されたスケルトンチャリオットを見ると即座に命乞いをするが、スケルトンチャリオットは容赦なく団長を轢いた。追い討ちをかけるように吹っ飛ばされた団長の上を他4機が通過していき、団長は無残にもポリゴン片になった。
「俺、街に入れないからその提案は意味ないんだよね」
ノートは最後にそう呟くと、無駄なMP消費をなくすためにスケルトンチャリオットを消した。
◆
「オラァ!オラァ!死ねやぁぁ!」
グオン、グオンと風を鳴らし両刃斧をぶん回すギージャ。
般若面蟷螂人に比べれば遥かに可愛いが、それでもパワーもスピードもあり、また般若面蟷螂人に比べフェイクなどをいれてくる。
言動は完全に頭がイってるタイプだがNPCとしての対人戦闘技能は高く、ユリンのスキルもうまく自分のスキルで相殺していた。
「ちょこまか逃げてても終わんねぇぞぅ!ギャハハハハハハハ!」
ハイテンションで斧を振り回し続けるギージャ。だがユリンは至って冷静で、20回程度連続で躱してギージャが挑発した瞬間「おっけー、もう“見えた”」と小さく呟いた。あまりに静かな呟きに虚を突かれて一瞬動きが鈍るギージャ。その隙は致命的な隙だ。ユリンの姿が掻き消えたと思った次には、スパンっ!と風と共に何かを切断する音がする。
ギージャが次の瞬間に目にしたのは、斧を持つ手が腕ごと完全に切断され地面に落ちていく光景。両刃斧が強制的に装備解除扱いになった刹那、呪いの斧のバフがギージャからなくなり、ギージャのステータスがグンと下がる。
「わりと楽しかったよ!バイバイ!」
そして振るわれたもう一本の剣は容赦なくギージャの首を切り飛ばし、ギージャはその体をポリゴン片へと変えて爆散した。
◆
「いやぁー、うまうまだね、今回は」
「野盗って殺しても懸賞金貰えるんだな。街に生きたまんま連れてくと2倍の額が出るらしいが、十分うまうまな金額だ」
「本拠地の中のアイテムも全部ゲットだもんね。元が盗品だから街に届けると性質アップしたり追加報酬あるみたいだけど、金で買えない物が多いボク達には現物の方がありがたいよねぇ」
野盗全てを無事殲滅したユリンとノート。丘内部は蟻の巣を横にしたような構造で、ところどころ入り組みトラップもあるが、インスタントのアンデッドを突っ込ませて全部漢解除。中の物資も根こそぎゲットした。
そんな彼等の今回の戦果がこちら。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ボロの服×183
錆びた剣×32
錆びた槍×9
鉄の剣×12
鎖帷子×7
鉄の槍×6
被りのホロ×10
魔法使いの杖×5
魔法使いのローブ×7
閃光弾×3
盗狐の尾帯×1
潜黒のブーメラン×1
静兎のブーツ×1
黄毒の投げナイフ(1ダース)×1
牙返しの盾×1
ダークゴールドサーティーンマスク×1
狂武乱双斧×1
初級ライフポーション×32
初級マナポーション×16
干し肉(1グレートグロス)×1
硬いパン(1グレートグロス)×1
※1グレートグロス=12^3=1728
腐った固いパン×47
宝石細工(I)×42
宝石細工(H)×37
宝石細工(G)×21
宝石細工(F)×6
宝石細工(E)×2
宝石細工(D)×1
10,000MON入った袋×20
討伐賞金計715,000MON
殲滅特別報酬1,000,000MON
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「大儲けだよねぇ。だけどもらいすぎな気もしない?」
かなりの大金をゲットしたことに喜ぶ反面、その報酬の多さに思わず首を傾げるユリン。
いちいち仕草が可愛いユリンの頭をぐしゃぐしゃとノートは撫でると解説する。
「いや、俺たちを基準に考えるなよ。ここの野盗、1番雑魚でもランク3相当だ。もし適正ランク帯でこいつらを相手にしようとすると当然レイド戦になるな。中に立てこもられたらFFが怖くて魔法使いは使い物にならない上に、その中に残ってた50そこらのランク帯は4相当だ。
幹部級はユリンが一撃で葬り去ったからわからないが、団長はかなりHP多かったし、ギージャに至ってはランク5か6くらいあっただろうな。VRで動物系敵性MOBばかりだったところにフェイントかけてくるギージャには、普通のプレイヤーは大苦戦するはずだ。呪いの斧のお陰で同ランク帯の魔法も効かないしな、厄介な相手だと思うぞ。
懸賞金の内訳も、ギージャ単体で30万だぜ、普通のレイド戦でやってクリアしても下手すれば大赤字だ。なんせ雑魚野盗は懸賞金もドロップもショボいからな。完全攻略しなきゃ報酬も分配で全員赤字だ。本来美味しくない類のやつだと思うぞ、この野盗戦。1人でもとり逃せば殲滅特別報酬もないし」
たった2人であるが故の電撃作戦なので大黒字だが、通常なら完クリしても、消耗した武器を直したり消費したアイテムを考えれば1人1万MONの儲けがあるだけマシじゃないか?たぶんこれは性質を上げるためのクエストあたりに関わってるんだろうなーーーーーーーとノートは自分の予想を話す。
「今回ボク達ってなんか消費したっけ?」
「大きい消費でいえばラミアスケルトン召喚の時の消費だが、それは置いておくなら、俺はマナポ(マナポーション)5本飲んだな。あとはNPCの寄贈だしダメージもないからユリンは投げナイフを消耗した程度。アテナ様様だよ、マジで」
「うん、この2つのトラップアイテムかなり強力だよね。タナトスの毒瓶も、毒自体は強くないけど煙が広がるから効果範囲が広いし相手の動揺を大きく誘えたね」
「ユリンの剣もタナトスに整備してもらえば修復できる程度だし、本当にほぼ丸儲けだな」
「NPCがみんな優秀でいいねぇ」
「バルちゃん、タナトス、アテナの3人は人間レベルで頭いいし、サポートという面では下手なプレイヤーより確実に強いよな。戦闘力に関しても、俺らの中じゃタナトスが1番弱いけど、そのタナトスでさえランク3相当の純粋な魔法使いとタメを張れるステータスあるんだ。ま、その魔法も………」
「土を耕したり水を撒いたり、食べ物炙ったりと家事に大活躍だよねぇ」
「習得していく魔法が完全に戦闘と明後日の方向なんだよな〜」
ALLFOのスキルや魔法の習得は、該当する職業を選択しておけば順に覚えてゆくゆくは全て習得、とはならない。何度も使用した魔法や使用方法の傾向を考慮して徐々に派生する形で習得していくのだ。
故にノートに『作業遂行がスムーズになるなら魔法を使ってよし』と言われているタナトスは、農業にも清掃にも物の修理にもと魔法をちょこちょこ使うので、攻撃力のほぼない〈マジックスプリンクラー〉などの便利系魔法をドンドン習得している。
アテナはトラップアイテム作りが元々好きなのか、器用値がズバ抜けて上昇している上に作成できる罠のレシピも次々と解放している。
ただバルバリッチャのみは、ノートでも詳細なステータスを一切閲覧できない。
バルバリッチャが公開拒否しているわけではなく、単純にバルバリッチャが遥か上位の能力を持つ存在だからだ。苦肉の策で本人に直接詳細を聞いてみても、AI直々に『現在非公開情報です』という通知が来てしまう。バルバリッチャ自身も主人らにはまだ早い、と一点張りだ。
だが一度見た魔法ならば魔法名を正確に頼まなくても『重力系のデバフ頼む!』などと特徴をあげて言うだけでバルバリッチャは該当する魔法を行使してくれるので今のところ困った事はあまりない。
「バルちゃん以外の2人はもう非戦闘型を突き詰めてもらった方が良さげだよな」
「でもさ、今ふと疑問に思ったけど、アンデッドの割にタナトスたちは結構成長が早いよね?」
「いや、ユニークなのも勿論あるが、やはり伸びが違うな。タナトスを例に挙げると、錬金術は相変わらず亀の歩み、だが魔法系統や料理・清掃などはよく伸びている。バトラーメイジの名はハリボテじゃないんだろうな。アテナは普通の家具よりトラップアイテムや仕掛けありの家具作りの方が成長率の伸びがいい。元がトラッパーのせいだと思うぞ」
ユリンの言葉通りアンデッドは成長性が著しく低い。しかし低いと言っても特殊なアンデッドには抜け道も存在するのだ。
「そっか。じゃあできるだけ得意なことを突き詰めさせた方がいいんだねぇ」
「好きこそものの上手なれ、だな。ゆくゆくは錬金術と鍛治を専門にした、タナトス達レベルの頭脳を持った死霊を召喚したいな」
「確か、簡易じゃない死霊って強力な分、召喚枠最大で5しかないんでしょ?もう4つ埋まってるから、かなりキツイよね?ラミアもインスタントじゃない召喚にしたのに捨て駒に使ったのもそのせいでしょ?」
「そうだ。だけどランクが上がったからか今は枠が3つ増えて今の最大枠は実は8枠になってる。そして残りは全部ユニークチケを使って枠を埋めたい」
「便利なようで縛りも多いね、死霊術師」
「それも込みでゲームの楽しみだ」
「うん!そうだね!」
そうして図らずも大量の報酬をゲットしてノート達はミニホームに帰還した。