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No.150 天遥理虚❹

(´・ω・`)買おう買おうと思ってシャンフロの漫画版を変えてない奴はこの私です(ダイマ)

(´・ω・`)実際漫画版はどうですかコメ欄諸兄




 

 星空を泥の天蓋が覆う。世界から光が失われる。

 それを見たノートの指示は速かった。


「ギン!」


 安直なコードネームを呼ばれた鎌鼬はすぐに反応し、手に持っていた凶悪な武器の引き金を引いた。


 狙いは既につけてはいたが、一番当てたい頭部を外してもなお的はデカイ。じゃじゃ馬性能で正確さにはほとんど期待できない化物銃から放たれた弾丸は天を見上げていた雲泥の遺児ヒュディの首を抉る。


 

 『銃』、それは人間が生み出した発明品の中でも、人類が地球の支配者へと上り詰める為の最強の尖兵となった発明品である。


 指先一つで命が無に帰す。

 それまで積み上げた物、瞬きする間にただの生ゴミ。矮小なる物もか細い指で引金を引けば、一騎当千の英雄でさえ殺し得る。

 生命を容易く殺す事に特化した、人間のエゴの塊の様な物体、それが銃だ。


 『祭り拍子』ではヌコォが加入した段階から既に火薬自体の研究は行われていた。材料は深霊禁山で粗方揃う。火薬の調合比率など今日日ネットの何処にでも転がってる様な知識だ。苦労する事でもない。

 ————————と思っていたのだが、ノート達の火薬作りは予想外に難航した。

 

 というのも、例えば火薬の原料である硫黄。

 この硫黄は深霊禁山でも採取可能なのだが、ただの硫黄ではない。産出場所の影響を受けているのか、霊潔硫黄という特殊な硫黄となっている。


 つまり、硫黄は硫黄なのだが、どうやらリアルの硫黄とイコールの性質を有してはいない事が判明した。

 となればリアル知識をそのまま流用しても火薬の生成ができない可能性が高くなり、実際ノート達は失敗した。


 ALLFOは発売前から銃器が作成可能な事は示唆していたが、そう簡単に持たせる気は無いらしい。

 

 それでもノート達はめげなかった。きっといつかは火薬が手に入ると信じてゴヴニュとアテナに銃の作成に関して色々と教えていたのだ。

 銃器の概念に目を輝かせて食いついたのがアテナ。絡繰ジャンキー娘には細々とした銃が刺さったらしい。

 一方でゴヴニュは技術的な問題に関して相談してきたが、作成自体は賛成の様だった。


 取らぬ狸の皮算用といえばそれまでだが、嘘も百遍吐けば真実になると言わんばかりに色々な過程を設けてパーツを作ってみる。

 弾丸、ライフリングを施した銃身、トリガー。


 ヌコォが与えた設計図を見てチマチマとパーツを作っては微調整。

 ゴヴニュにとっては完全に未知の分野。作りが甘いとアテナに突っ返されて何度かノートは苦悩するゴヴニュに泣きつかれた事もある。


 それもそのはず。銃は完成系を見た事がなければなかなかイメージの難しい物であり、人間の生み出した様々な技術が詰め込まれている。

 戦闘で使う事を想定する以上、火縄銃程度でキャッキャしててもしょうがない。作るなら最初から実戦にも対応し得る物を作る必要がある。

 ノート達が求めたレベルは理不尽なレベルだったが、アテナもゴヴニュも腐らずにコツコツと研究を重ねた。


 その地道な積み重ねが、進化を経て遂に花開いた。

 アテナは銃に関わる細やかなパーツに取り組み続けたが故に機械特化に。ゴヴニュは製造と火薬の作製に取り組み続けて錬金と鍛造の両方を兼ね備えた存在へ。


 水晶洞窟から齎された新たなアイテムは彼等の研究を大いに促進し、ボス戦までになんとか火薬の生成方法も確立。遂にリボルバータイプの拳銃の製作に成功した。


 まだ色々と課題はあり、技術的問題も問題も解決できてないことが多く銃とは言い難い大きさだが、弾丸が小さ過ぎると付与魔法の効きが異様に落ちるという問題とブレの大きさという問題から敢えて拳銃らしからぬ大きさとなった。

 有効射程距離は技術力などを加味すれば破格の50m(使用者が世界レベルの射撃の腕の持ち主である事が前提)オーバー。装弾数は8発。強烈な反動を消す機能がまだ未発達だがギリギリ実戦に登用出来るレベルまで到達している。

 なにせ、ALLFOのモーション補正が適用されたのだ。つまり、それはALLFOがその鉄塊を銃器と認めたという事である。


 これに歓喜したのは鎌鼬だ。

 ノートもあまり見た事がないハイテンション状態で、銃器のプロトタイプをウットリとした目で見つめて我が子の様に抱きしめていた。


 それを見てノートはリアクションがアテナによく似てると思い、薄ら感じていた既視感の原因がわかって思わず笑ってしまった。

 普段は極めて常識人だが、自分の趣味に関する事だけは豹変する人種、それが鎌鼬である。銃、銃、銃、そもそも両親が射撃関連で出会い、そして生まれたのが土御門露奈、鎌鼬なのだ。物心ついた時から彼女は銃と共にあり、もはや人格の一部レベルである。


 ファンタジー職の強いALLFOではかなり後半まで触れないであろうと思っていた半身と予想以上に早く触れ合えた喜び。

 いつになく目をギラつかせた鎌鼬が引金を引けば、爆炎の魔法を付与した恐ろしい弾丸が解き放たれる。


 その弾丸が首を抉り魔法が発動した瞬間——————

 先程の雲泥の遺児ヒュディの咆哮が霞む衝撃波が空間を揺さぶり、巨大な炎が上がった。


 首が半分千切れた状態でのたうち回るヒュディ。泥の鎧で覆われて防御力が強化されたはずのヒュディの全身から不自然な迄に炎が上がりその身を焼いた。




 ヌコォが収集していたアメリカや中国のシナリオボスは日本も含めてそれぞれ異なる個体、性質を有していた。つまり攻略情報のほぼ全てが役に立たないのだが、1つだけ共通した攻略方法があった。

 それは変異したキャンプ地周辺のフィールドに出現する魔物や採取できる物が攻略に役立つという事だ。

 

 ヌコォはその情報を元に色々とフィールド周辺を探索し、そして該当しそうなアイテムを幾つか見つけた。

 その中でも大量に群生していた植物を調べたところ、その植物からは通常とは異なる油がかなり多めに回収できる事が判明した。


 それは今まで発見していた植物とは異なる性質を持つだけにヌコォの目を引いた。というのも、この植物から採取できる油は魔法との親和性が高く、付与魔術や錬金術とも相性が良かった。

 如何にも細工して使えと言わんばかりの性能だ。


 そこでヌコォはネモに緊急指令を出してその植物を促成栽培させた。タイムリミットは半日足らず。無茶振りどころの話ではないが、ノートが召喚した死霊のバックアップを全力で受けてネモはヌコォの期待に全力で応えた。

 

 邪法に邪術、禁術、禁呪、持てる物全てを尽くしてネモは今まで分散させていたリソースを一時的にその植物の栽培に全て注いだ。

 植物を自分の一部として全てを支配。要らなくなった植物を取り込み栄養を生成。自分を強制的に変形させて植物を取り込んだ部分を一気に成長させる。

 

 ネモに非常に負担のかかる方法だが、こうでもしなければ納期に間に合わない。当然、強引過ぎる邪法の所為で性質が悪性に固定されてはしまうが、油という本質は変わらない。

 油の生成に成功したものは取り敢えず片っ端からゴヴニュやタナトスに託し、植物から油を搾り出してより上質な油として精製。瓶に詰めて使用可能な状態にする。


 前衛組が蒔いたり、ノートが死霊に持たせた瓶の中身も全てその油なのである。


 雲泥の遺児ヒュディは第二形態に移る際、沼地の泥を吸収して回復・強化を行なっている。だが、その泥の中にノート達は大量の油を混ぜ込んだ。つまり今のヒュディの身体には大量の油が含まれている。

 その身体を発火させたらどうなるか。


 答えは目の前で業火に呑まれて絶叫しながら激しくのたうち回るヒュディが示していた。


 泥を支配するヒュディにとっても水気を失わせる火は天敵に近い。その火が身体中から噴き出している状態はヒュディにとって尋常では無いダメージを与える。

 大きな身体から上がる巨大な炎はまるで天蓋に覆われて真っ暗になった世界を照らす松明の様だ。

 

 因みに、アメリカには火炎系のボスに対して特殊な水などが、中国では獣系の敵の天敵となる燃やす事で異臭を放つ植物などが見つかっており、これらのアイテムがボス戦攻略や防衛戦でも役立った。

 難業に挑む事を推奨する一方で、頭を使って創意工夫をする事もALLFOは推奨している。このギミックはそのヒントの様なものだ。


 だが、天遥理虚化し、更に強化を施されたヒュディはそれでも技をキャンセルしなかった。

 意地と知恵の衝突。時間切れの結果、遂に雲泥の遺児ヒュディは切り札の一つを発動させた。


 

 

༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽知識も技術も磨き、正しい対策を立てた筈なのに、強化されすぎて耐えきっちゃうクソボス化してるヒュディくんであった

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― 新着の感想 ―
[一言] シャンフロはウエザエモン戦が最高!漸く倒れられた英雄としんみりした外道、そして合体武器のロマン!是非読んで欲しい 油が含まれると燃えるって、津波が全部浚っていくせいでガソリンや灯油も上に溜…
[一言] PL麺食い
[良い点] 飛ばし飛ばしではなく、時間をかけて作られたことがわかる描写があると、途中の技術が飛ばされていても納得できる 飛ばされすぎなかったのも良い [気になる点] これは耐えきれずに全滅するかな? …
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