No.148 天遥理虚❷
(´・ω・`)いつも使ってた自販機に愛飲してた青汁があったんだけどラインナップ変わってて無くなってた
(´・ω・`)別の自販機より50円も安かったのに(泣)
【ݵƫ¤·¤¤¡ª!】
【濘濘明尽・腐黄】
僅か1分足らずの一般プレイヤーの全滅。いや、雲泥の遺児ヒュディのヘイトが妙にノート達に向いていなければ、【泥輪撥・紅怨】で決着が付いていたはずである。
それほどまでに雲泥の遺児ヒュディの一手一手が凄まじい攻撃だった。
そのヒュディの次の一手。
うっすら黄色みがかった泥色の霧が立ち込め始める。しかし何もしてこない。不気味に思い距離を取ろうとしてノートは異変に気付いた。
「ファーストボスが絡め手使ってんじゃねぇ!」
【濘濘明尽・腐黄】
効果は遅延。ノート達は粘性の高い水の中に入れられたように身動きが取りにくくなる。シンプルだがあまりに厄介な攻撃だ。
しかしそこはネオンのバフや各々のスキルなどで相殺し、ノート達は一旦散開した。
妙にノート達ばかりを狙っていた雲泥の遺児ヒュディだが、それはランクが高いプレイヤーを優先して狙う設定なのか、それともそれ以外の評価基準が設定されてるかで話が大きく変わってくる。
ゲームとしては活躍できるランクの高いプレイヤーに少し負荷をかけて、低いプレイヤーが動きやすくするような調整を行なっていてもおかしくはない。
天遥理虚によるパワーバランス崩壊級の強化がなければ、先程ダウンを取った時にノート達以外のプレイヤーはヒュディにダメージを与えられた筈だった。
もしその設定ならば、他のプレイヤーがいなくなった今、雲泥の遺児ヒュディのヘイトは今のところノートとネオンが1番集めているはず。
散開したノート達。スピリタスとトン2は距離を詰める。
だが、予想を裏切りヒュディはスピリタスを狙った。
「オレかッ!」
焦る様でもなく緊急回避。泥が舞い散る中自分より遥かに大きい相手の叩き付けを見切って全回避している。
と思いきや今度は上空から接近していたユリンを狙い、次の瞬間にはノートとネオンに泥玉を投げつけた。
どうやらヘイト率に妙な偏りがある。隠れて動いているヌコォは例外として、ノート、ユリン、スピリタス、ネオンはトン2と鎌鼬よりも狙われている様に見える。
決定的だったのは、斬りつけたトン2よりも遠くで様子見してたノートを狙った事だろう。
雲泥の遺児ヒュディの攻撃対象の決定には他の敵とは何か大きな違いがある様に思えた。
そしてノートの脳裏にある光景が過る。
巨大な穴の奥、胞子だまりの最奥で蹲っていた超級の化け物。
洞窟の壁の裏、がらんどうの空間に巣食う超級の化け物。
どちらも発見しただけでフィールド全体を書き換えるほどの能力を持った例外中の例外。あの高慢なバルバリッチャですら手も足も出ないと自ら言い切った存在である。
ノート達とトン2・鎌鼬コンビの1番大きな違いは恐らくそのクラスの存在との邂逅回数。
厳密には、見つけた事で押しつけられた文字化け特殊称号。結局効果がよく分かってないあの称号が何か悪さをしているのではないか。
ノートは雲泥の遺児ヒュディと超級の化け物共のデザインの根幹にあるコンセプトがどこか似ている気がしてそんな事を考える。
規模は違えど三者共に一つのフィールドを支配する存在だ。特殊演出があるのも一緒である。
考えればいくつか共通点がある。
だとするなら――――――
ノートの推測通り、特殊称号の『ÈÙ¿À¤Î²òÊü¼Ô』と『e?0Me/?M?0ny^[? ⡂』はノート達の知らぬところで色々と影響を及ぼしていた。
称号はただ単純にプレイヤーは強化する代物ではない。もっと複雑なシステムに基づいている。称号一つで敵が弱体化することもあれば、驚くほど強化されることもある。
それがどのような仕組みなのかはまだ解明できてないが、ノートはなんとなくこの不自然な仕様になにか大きな秘密が隠されてる気がした。
その称号の中でもずば抜けて謎の称号。名前もわからなければ効果もわからない。しかもその効果が文字化けしてることを考慮しても異常に長い。
フィールド一つを変化させるだけのぶっとんだパワフルな奴らと邂逅して得た称号だ。その効果が普通なわけがない。
この称号により、実は雲泥の遺児ヒュディはより『本来の姿』へと近づいていた。
一般のプレイヤーにとっては災害の具現化みたいな存在だが、通常時の雲泥の遺児ヒュディはその状態でも本来の力をかなりそぎ落とされた状態。
その制限が天遥理虚化で解かれる。だが、この状態でも1ピース足りない。雲泥の遺児ヒュディが求める物とは違う。
そのピースが初めてそろって、雲泥の遺児ヒュディは自らの純粋な願いから動く。
泣き虫で、無気力で、弱虫なヒュディは塵芥のようなチビ共から攻撃されても本気で戦えない。そういう性格なのだ。
しかし、そんなヒュディが本気を出すとその強さは大きく変化する。開発が思い描いたヒュディ本来の力が解き放たれる。
ステータスの数値自体が比べ物にならないくらいに変化するわけではない。
だが、ノート達プレイヤーは知っている。ノート達自身、格上のボスとまともに殴り合っても勝てるわけがない。ステータスの差で押し切られる。故に頭数を揃え、作戦を立て、練習をし、格上の力をそいでジャイアントキリングを達成するわけだ。
つまり、純粋なパラメータをプレイヤースキルと知略が乗り越えさせる。技と知恵こそ人間の武器だ。
しかし、その武器は地球と違って人間だけの専売特許ではない。知恵を使って攻めてくるボス個体はもやは別次元のレベルの強さを誇る。
だが人間を相手にノートは戦い続けていたのだ。ちょっとやそっとじゃ覆せるほど耄碌してない。この分野で負けたらノートは存在意義を失いかねない、そう自分で考えてるからこそいつになく真剣な表情でヒュディを観察する。未知数の敵相手に開発の想定をはるかにうわ回るほどの冷静さを見せて的確に対応しヒュディの手の内を暴いていく。
◆
「アオ!オレのスキルは使わなくていいのかッ!?」
「オリジナルスキルの真拳勝負は強すぎる。実際、あれで倒した天使のドロップは露骨に性質下がったしな。バルちゃんの宿題の為にもここはできるだけズルなしで倒したい」
「ということは、やはり私たちのオリジナルスキルも封印よね」
「アレはリスクもあるから余計にダメだ」
五分以上戦闘し、ノート達は雲泥の遺児ヒュディの手札のほとんどを見た。
そこでスピリタスから提案がきたが、ノートはそれを蹴った。
ルーナウラ・ソーラシル戦でも大活躍だったスピリタスのオリジナルスキル〔戦覇真拳勝負〕。
これは相手の飛び道具を縛り、強制的に格闘戦を強いる物だ。ランク差補正があるのでどれくらい効くかは未知数だが、飛び道具ばかりの雲泥の遺児ヒュディにとってこのスキルがしっかり発動すれば手札がかなり弱体化して力技でも押し切れるだろう。だがノートは安易な手に頼ることを避けた。
今のところ雲泥の遺児ヒュディが使った手は7種。
泥弾、泥津波、泥固め、泥霧遅延デバフ、泥渦(強制吸い寄せ)、泥潜水移動突撃、泥砲。
どれもこれも泥に由来する攻撃で、ヒュディにとってこの沼地は最高のフィールド相性とも言える。
「となれば、それを先に潰す」
ノート達はアラクネ・ラミアの立体迷路を通過する際に対沼地用の靴を用意している。攻略情報でフィールドが恐らく沼地と判明した段階でしっかりと沼地用の装備をしてきたので足場が悪くても戦えるだろう。
だが、ただ相手に有利な状況に合わせてやる道理もない。
ノート達がヒュディを上手くコントロールする傍ら、ネオンは炎系統の魔法をヒュディではなく沼地にバカスカ撃ちまくっていく。
泥とはとどのつまり水を多く含んだ土だ。そこから水分を奪えばどうなるのか。
圧倒的な火力が沼地から徐々に水分を奪っていく。本来ならあり得ない現象を魔法という奇跡が成す。
むせかえる様な錆臭さと熱気。
物々しいBGMと雲泥の遺児ヒュディの悲鳴が混じり合いおどろおどろしさが増す。
「…………HP減ってるな」
「この沼地全体が、ボスと、繋がってるのかもです、ね」
徐々に湿り気を失っていく沼地。同時にヒュディの動きが弱々しくなり、ますます駄々っ子の様に力任せに暴れ始めた。
そして5分も経つ頃には――――
「これで、シメ!」
ヘイトが集まりにくいことを利用して斬りかかり続けたトン2がダメージを受けて跪いたヒュディの首を、金の仮面で強化されたパラメータで強引に振り回した大斧でぶった斬った。
アオ→ノート
名前バレを避けるためにボス戦中は仮面の色に基づいた仮の名前で呼んでます




