No.146 裏工作
(´・ω・`)ただでは絶対に転ばない男
「さーて……いよいよ始まるぞ。希望はフルメンバーで、ランダムマッチングエントリーで登録っと」
時は少し遡り、いよいよシナリオボス戦開始までのカウントダウンが終わろうとしていた。
残り5分の段階でエントリー機能がメニューに追加され、代表者のノートは邪悪な笑みを浮かべエントリーする。
ノートとしては便利でありがたかったのだが、ボス戦のエントリーは仕様の変更があったらしく自分の設営したセーブポイント(敷布・テントなど)からでも可能な様で、ボス戦から死に戻りしたりクリアして戻った時も広さがあればテント内に、広さが足りなければ指定リスポンポイントでリスポンする仕組みだった。
となるとノート達が取れる作戦も変わってくる。
1番重要なのはメイン装備を着てボス戦に挑める様になった事だろう。
元々はアグちゃん特製ブレスレットで変装状態でエントリーし、マッチング待ち時間で変装を解除、ボス戦に挑み、ボス戦フィールドから退場させられる時に再度変装。
という流れで動こうとしていた。
特に動画があちこちで拡散されたせいでノートの戦闘形態はかなり広まってしまっている。ボス戦フィールドから出されてフィールドに戦闘衣装でスポーンしたらとんでもない事態になる事は読めていた。
実はあの後ノートはGMコールで肖像権云々でゴネており、映像にフェイクを入れさせる機能の実装を運営陣に約束させていたので戦闘中の身バレ確率は大幅に減ったが、それでも打てる手は全部打つつもりだった。
運営陣がノートの脅しに屈し、非常に珍しい事に開発陣営が運営経由の要望に同意したのは理由があった。
ノートが聖女と相対したあの動画は大量に拡散されてニュースサイトにまで取り上げられたが、たかがゲームの中の映像では片付けられない問題があった。
それそもそのはず、第7世代VR内のアバターは殆どリアルのそれと近い容姿をしている。つまり本人の同意を得ず、ノートがリアバレするかもしれない動画が外部に大量に出回ってしまったのだ。
実際はノートを非常によく知る人しかなかなか見抜けない様な状態だったが、ノートはゴネどころと感じて直ぐにゴネた。
ピンチはチャンス。そう簡単に転ばないのがこの男である。
結局話し合いは何処までがOUTで何処までがセーフというポイントでもめまくる事となるが、契約で縛ってあるとは言えノートはALLFOの運営とAIの弱みを握っており、その核爆弾のスイッチを押せる男だ。
それが運営を焦らせ、ノートを簡単に無視出来なかった。
サービス開始直近のノートの一件や反船イベントの混乱を経て、開発から運営に対して『プレイヤーに対しては強気に出ても大丈夫だから簡単にお詫びアイテムとか配布すんじゃねぇぞ。最低限の事だけしてりゃあとはAIが管理してくれるから引っ込んでろ』という指示を非常にオブラートに包んだ物が発令されていた。故に、運営もプレイヤーの要望の大半は強気の態度ですぐに退けることができていた。
だが、ノートだけは少し事情が違った。
リアルでもゲーム方面でもあまりに恐ろしい影響力を持ってる男が本気で暴れたら運営は何もできない。理論武装で徹底的に運営側の粗を突き続けたノートに対して一方的に言い負かされてしまい、出来たことと言えば時間稼ぎだけ。その時間で彼らは恥も外聞もかなぐり捨てて開発に泣きついた。ユリンにすら容易く丸めこまれた運営である。その師匠である男が本気で攻めて来た時に耐えられるはずもなかった。自分に一切の過失がないと踏んだ時のノートとは安易な気持ちで交渉してはいけないのだ。
因みに時間稼ぎの矢面に立たされた某主任は最近反抗期が終わりに近づいていた娘にまでちょっと心配されるほどやつれることとなり、翌日有給を取った。
最終的に、ノートと開発の技術部門担当、サポートAIの三者で話し合うことになったが、技術部門者は割と死蔵される危機に晒されていたシステムなどをどんどん活用してくれるノート達が最推しだったのでノートの希望には全面的に賛成した。
もともと開発側も撮影モードが晒しや脅しに使われる可能性は懸念していたのだが、最後まで開発陣やAIの中でも意見が割れて、最終的によほど悪質なもので無い限り静観するという話で纏まったのだ。
だが、たった1人のプレイヤーが、想定以上の数のプレイヤーから撮影されて、映像が外部に投稿され、本人に無許可のまま大々的に取り上げられるという予想外の事態で少々後手に回ってしまっていた。
これはノートがNPCとして見えなくもない状態が事態の悪化に拍車をかけていた。
利用規約的にはアウトともセーフとも言い難いラインで(むしろ問題が起きた時に柔軟に対応できる様に敢えて穴だらけにしていた)、開発側に完全な過失があったかと言えば実はあまり無い。
しかし元より技術担当はプライバシーには配慮すべきという主張を行なっていた側だったのでノートの依頼には賛成だったというわけだ。
そこで技術担当はサポートAIと少々話し合い、他のプレイヤーにもある程度平等な形に落とし込もうと逆にノートに提案。実装可能なラインの新機能の開発を協議した。
結果、メニューのプライバシー設定から撮影モードに関する設定を追加して、『完全には消さないけれど、どんな見た目か、魔法やスキルは何を使っているかは任意で隠蔽できる機能』が課金要素としてサイレント実装されていた。
因みにこの機能は一部NPCにも適応されるという入念さである。これでAI側もあまり御披露目したくない物を隠せる様になりWin-Winの状態にできる。
何より“設定的に問題がない”という点でこの案は開発側とAIが満足していた。
ただ、すぐに実装するとその機能とノートを結びつける勘の良すぎるプレイヤーもいる事は懸念されたが、ノートは親身になって心配してくれた技術担当に『遅かれ早かれ、いずれバレる事ですよ。なら手遅れになる前に確実に潰せるリスクの方を潰しましょう』と笑顔で答えた。
そこからの展開は早かった。
元々懸念されていただけに雛形の機能は既にあったので、あとはAIに具体的に指示を出して新機能を作成。開発陣がチェックして、ノートとの打ち合わせでボス戦という大規模なイベントに合わせて何食わぬ顔でサイレント実装されたのだ。
サイレントと言っても、運営からの定期通知(ちょっとした新聞みたいになっており普通に読んでて楽しい)の中にサラッと書いてはいるのでセーフという屁理屈で押し通した。
加えてある程度の課金ポイントを「技術開発参加費」という名目でサポートAIから『祭り拍子』全員に授与された。
ノート達にこれ以上迂闊に詫びアイテムを配布できない開発・AI側ができる最大限の誠意ある対応がこれだった。
課金ポイントは新機能の実装分+α程度。極端な補助では無いが、大多数のプレイヤーにとっては害悪でしかないプレイヤーの要望に対してAIと同格の管理者権限を持つ開発側が直々に動きバックアップしたのだ。
その裏に双方色々な思惑があったが、これでまた一つノートの後ろ盾は増えるという結果に落ち着いた。
同時にノートは確信した。開発陣営は初期限定特典を急増で作ったわけではなく、最初から実装するつもりで作っていたのだと。
でなければ自分の様なパワーバランスを崩壊させかねない奴を更に優遇するシステムを構築するわけがない。自分達の今の状態も、焦りまくってる運営に対して開発陣営は何ら焦りを感じられなかった。
AIは下方修正はしないが上方修正は行えるというポイントを突いているのも開発陣にとってはアプローチしやすくて助かった。
つまり開発陣営にとってノート達の動きは想定外でも無いのだろう。
こんな裏工作(因みに参加枠のカウント問題は交渉しても笑顔でバッサリ拒否された)を経て、ノート達がフルパワーで活躍できる舞台が着々と出来上がっていた。
いよいよボス戦。
急遽テントから全員入れる天幕にセーブポイントを変更し、ノート達は天幕の中で装備を整える。
バルバリッチャに頼み込んでノート以外はお揃いの軍服制服、ローブを装備。ノートはローブだけを装備する。
因みにこの軍服制服の着用はグレゴリ主催のパリコレならぬパチ(モン)コレファッションショーにて決まった。
暇を持て余してた期間に元々コスプレ、というか変装が趣味のトン2が作ったアグラット用の衣装を少し改造し、いくつか候補を選び『祭り拍子』の面々で投票して選んだのだ。
余談だが、別のとある物のデザイン案はグレゴリの画家の能力向上がてらグレゴリに書かせてみたのだが、グレゴリはデザインセンスもあったようデザイン案も色々と書き上げていてトン2に気に入られていた。
元々イベント時などには騙りを減らすために共通装備の着用は提案されていた。共通デザイン装備は団結力を高める一方で、作戦にも色々と利用できるのだ。
ただ、デザインや機能性で意見も割れる部分だったので今まで何となく後回しにしてしまっていたのだ。そんな中、全員がゆっくり意見を交わせるタイミングができたことでようやく作ることをできたのだ。
その後は投票結果で決まった軍服モデルをノート達で改めて意見を出し合いながらリメイク。裁縫技能持ちのバルバリッチャの元に持っていき製作をノートが依頼。
なんだかんだゴネつつもバルバリッチャは了承したが、ノートだけはダメだとバルバリッチャは拒否した。
理由はハッキリと言わなかったが、ノートの着ているメイン装備はバルバリッチャの与えたギフトであり、それが完全に隠れてしまうデザインが嫌だったらしい。
結局宥めすかしてフード付きローブだけはOKしてくれたのでそれでお茶を濁している。
妥協させるのはなかなか折れる作業で、見た目は拗ねた彼女を取り成すダメ男。
いつになく下手に出てバルバリッチャを甘やかすノートを見てユリン達が密かに嫉妬してたのはここだけの話。むしろそれを見てバルバリッチャは溜飲を下げたとも言える。
トン2と鎌鼬の為の仮面を作ってくれたのもバルバリッチャだ。これ自体は加入直後に依頼していたが、ボス戦にて遂にお披露目である。
バルバリッチャは仮面の使用をあまり推奨していないが、今回は枠制限でアレだけバルバリッチャで制限をかけられたとなればバルバリッチャメイドの仮面をつけても良いはずという論法でつける事になった。
トン2は比較的細目の印象から狐モチーフの金色ピエロマスク。
付与された能力は耐久力を減少させる代わりに他全パラメータの上昇。バルバリッチャの進化に伴いノート達の仮面もアップデートされたが、トン2の仮面はユリンの速度特化強化より突き抜けた感じこそ無いが平均的に使い勝手が高い。
前衛オールラウンダーのトン2にはピッタリの能力だ。
鎌鼬の仮面はイタチからネコ科系の動物をモチーフにした銀色のピエロマスク。
付与された能力はヘイト上昇の代わりに射撃武器を強化するという物。後衛にとってはヘイト上昇は厄介だが、ヌコォがヘイトをある程度奪って他のヘイト集中率に対して相対的に低くする事で調整する事にした。
そうさせる程、攻撃力が強化されたのだ。
これで全員の準備がOK。グレゴリも既に召喚し姿を隠しておくに様に指示。カウントがゼロになり、ノート達は赤いポリゴン片を微かに残して転送された。
(`・ω・´)サラバ!主任のモウハツ!胃壁はしめやかに四散!
(´・ω・`)一々全部書いてたら話進まねぇ罠よ
(´・ω・`)とりま運営と開発のスタンスに違いがあることがわかればOKデス
(´・ω・`)交渉の下りは書くか迷ってるけど、書くなら章終わりに纏めて書くか隔離施設に投げとく予定
(´・ω・`)アグラットのパチコレ・ファッションショーは書きたい




