No.139 カオナシ
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽これで一旦締めじゃい!!!(本日3投目)
衝撃的な幕引きを最後に再び視界が靄に包まれる。
しかし今回の霧は赤かった。毒々しい色で、ノートはなんとなく口を手で覆いステータス画面を見たが特に異常は起きてなかった。
代わりに、霧が晴れると同時に巨大な真紅の満月が出現し、その月光をバックに誰かが旗を手に持って立っていた。
「あの人は……」
「多分、推定聖女さんだよな」
月光は異常に強く、顔は影が差し全く分からない。そこも含めて幻影で見せられ続けた無貌の聖女に非常に似ていた。
『長い間お付き合い頂きありがとうございました。叛逆者、異端者、極悪に名を連ねる者、同志諸君とでも言いましょうか?貴方達の事はずっと見させていただいておりました。特に神敵にまで到達した死霊術師である貴方と、私と近い存在である災厄女皇たる貴方の事は』
無貌の聖女はフワーッと人間味を感じさせない動きで急接近すると、唐突に語り出した。その声は凛と澄んでいて、何処なくカリスマ性があった。
「それはどうも。貴方も俺達の素性を見破る力をお持ちで?」
無貌の聖女の言葉から予測するに、ノートとネオンの実態は把握されている。問題は、どうやってそれを看破しているのか、だ。
職業は見ていたのならある程度予測できたとしても極めて不自然という事は無いだろうが、神敵であることをどう看破したのか。
ノートはなんとなくネオンを背後に隠して守る形で会話を始めた。
『ふふふ……そう警戒しないでください。ある者に近づいた者は、新たな知見を得やすくなるのですよ。貴方にも心当たりがあるのではないですか?』
対する聖女の答えは、反船で舌戦を行った聖女の様に会話が通じない感じはないが、うまく躱されてしまった気がした。だが今の言葉からある程度予測できなくも無い。
「鑑定、ですか?なるほど、相手を識別する能力はただ能力を磨くだけでは成長が起きないと?」
『…………多くは語りません。貴方は私が語らずとも何れ真実に近づくでしょう。さて、雑談はここまで。私の雑事にお付き合い頂いた御礼の様な物です。貴方が本当に聞きたい事は、そんな事では無いでしょうし。
あと一つ忠告を。私と問答が可能な時間は限られているので、あまり無駄話をしている時間は有りませんよ』
つまり、問いかける内容は絞れと無貌の聖女は先制した。
聖女リナもやりづらかったが、無貌の聖女もかなりやり辛い。保有している情報量、舌鋒、立ち振る舞い。ノートから見てもケチをつける場所が無い。
彼女の言葉が事実でもそうでなくとも、長々と幻影を見せられても結局ここがどこか分かってないノート達は聖女の言葉を信じるしか無いのだ。
「分かりました。では、まず貴方の正体について聞いても?或いは名前でもいいですが」
となれば、簡潔に要点を押さえて質問をするしかない。いつもなら口八丁手八丁で言いくるめるところだが、時間制限を設けられるとその時間が惜しくなる。
聖女のやり方はノートに対して有効的だった。
『随分と横着をした様ですが、それでも私の事など予想はできるでしょう。大事なのは、誰であったかではなく、何を成したのか、です。そして私はありのままをお見せしました。呼び方は……そうですね、便宜上、カオナシとでも』
そして無貌の聖女はこれもまた上手く躱す。時間制限さえ無ければと思うが、今は唸りながらも苦渋を飲むほかない。
「了解しました。以降はカオナシさんと呼びます。では質問を変更します。ここは何処で、なんの目的のために貴方は先程の光景を私達に見せたのですか?」
『ここが何処なのか…………私も自分の行使する力の全ての原理を把握しているわけではないので、完璧な回答を返すことは難しいですね。貴方も自分が手を動かす時、どの様な仕組みで動いているのかその全てを説明するのは困難でしょう?』
まともに答える気がないのか、またも煙に巻く解答。わかったことと言えば、一応ながら今の状態はカオナシが起こしていることだと本人が認めていることだろうか。
「つまり、説明ができないと?」
『私の記憶や他人の記憶の集合体から編み上げた幻術の世界の類だと思っていただければ。貴方の死霊の能力が現実の上書きなら、私の力は精神の上書きでしょうか?』
「精神の上書きとは大層な…………」
いや普通に答えられるんかい!と思うがツッコまないし文句も言わない。それに噛みつくのがカオナシの思うつぼだとノートはなんとなく感じたからだ。ただ、会話の中に聞き逃せないことが多すぎた。
『驚いているようですが、貴方方はもともとこれよりも高度な技術でこの世界に訪れているのではないですか?技術の方向性は異なるようですが、精神の上書きという点では非常に似ている筈です』
「は?ちょっと待ってください、今なんて?」
しかし、それに対する回答は更に耳を疑うものだった。まるでノート達の“現実”を知っているような、メタ視点の入った口ぶり。カオナシの正体がノートにはいよいよわからなくなってきた。
「貴方は一体何を知っているんです?」
『人の本来知るべきではなかった真実、真理。人の身に余る叡智。それ相応の代償を支払いました。ともかく、これ以上お答えはできません。ですが、貴方はこれ等の知識を得るための術を既に持っていると思いますけどね。老婆心として忠告しますが、あの力を無暗に使うことはお勧めしませんとも言っておきます』
一体なんのことだろうと後ろのネオンは首を傾げていたが、ノートはカオナシの言わんとすることが分かった。
代償を支払うことで法則を覆し奇跡を起こす力。
ノートは似たような能力の持ち主を知っている。というより、その能力の凄まじさと恐ろしさをつい最近知ったばかりだ。となれば、カオナシが起こしたことも大体は予想できる。
アレほどの力を人の身で行使するには、使える手など限られているはずなのだから。
「危険性については今回わからせられました。ただ、必要であれば使います。それが危険だとわかっていてもです。危険があるからと立ち止まるばかりでは、人は何も成しえませんからね。進歩と危険は紙一重、破滅と発展は表裏一体と言えるでしょう。技術の発展を齎し続けた貴方が1番よく知っているのでは?」
顔は暗がりで見えない。カオナシは何も言わない。
ただ、ノートにはカオナシが軽くほほ笑んだような気がした。
「それで、理由は?」
しかし本当に聞きたいことはこっちだ。長い間付き合わされて閉じ込められたのだ。理由を聞かなくては納得もできない。
『貴方方を試していました。…………いえ、だいたいの事は貴方方がこの地に踏み入れてから既に大体調べることはできたのですが、はっきり言えばもはや好奇心という他ありません。想定外だったのは、声をかけただけでまさか一直線にこの噴水の仕掛けを解いてしまうことでしたが、それもある意味では評価はできるでしょう』
ごり押しで突破したのは自覚しているのでノートは何も言えない。ノートにはまるでカオナシが開発の代理人に見えてきた。
「試すとは?何かを得るための資格を持つに値するとか?」
『ふふふ、貴方は物分かりが非常に良くて好きです、私の周りにはそのような方が少なかったので。ある程度あなたには既に予想できているのでしょう?』
「ここに引きずり込まれる前に見た光景や見せられた幻影から考えるに、貴方の持っていた例の『旗』ですか?」
『正解です』
その旗を得るのになんでこんな面倒なイベントをこなす必要があるのかちょっと疑問がわいたがとやかくは言わない。ストーリーのショトカでフラグが色々と変なことになっているのは自覚しているのだ。
それに、あの旗はノートのネクロノミコンなどの初期限定特典以上の性能を持っていたように思える。となれば簡単には手に入らないだろう。むしろ手に入っては困る。
『ですが、あまり大きな期待はしないでください。此処に或る旗は私が封印をする際にその力を分けてしまったので、幻影の世界であなた方が見たような本来の性能を発揮することができません。力を取り戻すには分けた断片を集めてください。
いえ、本来は、その力の断片と真実を集めて此方に来ていただくのが私の想定していた事態ではあるのですが、貴方方はそれをすり抜けてしまったので仕方がありません』
ちょっと恨みが混じったような口調な気がしたが気のせいと思いたい。やはり強引にここに来たせいで色々と変なことになっているらしい。
『私が教えられるのは此処まで。あとは自分で真実の欠片を集めてください。答え合わせをするぐらいならできますから。特例ではありますが、私が貴方を気に入ったので私の断片を貴方に託します。うまく使ってください、悪魔に愛されし神の叛逆者よ』
スーッと音もなく近寄ると、カオナシはノートの手をそっと握る。
次の瞬間、カオナシが光り輝きほんの一瞬その素顔が見えたと思った時には姿は跡形もなく消え、代わりに霞の世界が砕け消え去ると同時にノートの手の中にボロボロの旗が握られていた。
【神寵故遺器・紫星種[神、此処に在らずして、死に給う]を取得しました】
【初めて神寵故遺器・紫星種を獲得したプレイヤーが出現しました】
【ワールドシナリオβが進行します】
【称号: 神寵故遺器の遣い手・原初を獲得しました】
【3つ以上の特殊称号の獲得を確認。一部リミットが解除されます】
『早く逃げてください。あの人はきっと怒り狂っているでしょうから』
気づけば、ノート達は元通りになっている噴水の前に佇んでおり、黒騎士が大剣を振り下ろした姿勢のまま止まっていた。
旗から漏れ出る光が黒騎士を縛り付けて止めている。しかしそれが長く持たないことは予測できた。ノートはまた矢継ぎ早に来たアナウンスを今ばかりは脳内から追い出してキサラギ馬車を召喚するとネオンを抱えて乗り込み、命からがら黒騎士から逃走した。




