No.137 万能の天才
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽お は よ う
再び視界が晴れて、次に見えたのは薄暗いスラムの様な場所を颯爽と歩く無貌の聖女の姿だった。
お供の数は倍以上に増え、なんとか彼女を引き止めようとしているが全く聖女は動じない。その背後にいる大柄な銀甲冑の騎士にも取りなす様に説得している様に見えるが、この騎士も全く動じない。まるで何があろうとも自分さえいれば問題ないと言わんばかりの態度であった。
スラムにいる者達の反応は割れている。睨むか、恐るか。歓迎する空気は微塵も無い。
それでも尚、彼女は一切動じず、お供に指示を出して簡単な台を作らせる。その上に立つと、何をするのかと思いきやいきなり演説を始めた。
台の後ろに控えるのは銀甲冑の騎士ただ1人。聖女の周りをお供や騎士達が固めて止めようとするが、聖女が白い光を放つと強制的に身動きを封じられていた。どうやら魔導師という観点でもとんでもない人物らしい。
彼女は一方的に演説を続けていると、徐々に人が集まってくる。その輝きに惹かれた者も居れば、よからぬ考えでジリジリと近づく者もいる。しかしそれでも演説は続く。
やがてトチ狂ったのかいきなり聖女に石が投げつけられた。ボロボロに痩せこけた老人がどうだしてやったと言わんばかりの顔をしているが、次の瞬間には銀甲冑の騎士が石を斬り落とし、一瞬で背後に戻っていた。
この間も構う事なく聖女の演説は続く。鈍いとか肝が据わっているとかそんな次元では片付けられない胆力。強烈な威光に照らされて徐々に聖女の周りの空気が変わっていくのをノートは感じた。
そして再び軽く霞がかかると今度はすぐに晴れた。どうやら場所は変わってないが、スラムに居た者達も、それ以外の者も一緒になってスラムの整理が行われていた。
その中には聖女自身の姿もあった。お高いであろう服を埃まみれにしながら腕まくりして周囲に檄を飛ばしている。
お供達はもはや青ざめる段階を通り越して頭を抱えており、無貌の聖女の背後には大柄な銀甲冑の騎士だけが控えていた。
また視点が切り替わり、今度は大規模な土木作業が進められていた。相変わらず無貌の聖女自身が陣頭に立ち、精密な図面の様な物を手にお供たちに対してまで指示を出している。
まるでただ突っ立てるだけなら働けと言わんばかりの態度だ。
建築系に強いヌコォが居たら図面の意味も詳しく分かるのかもしれないが、残念ながらヌコォは不在だ。後で確認をしようと思いつつ聖女を眺める。
スラムの大整理や工事の場では炊き出しも行われている様で、人々の表情はとても明るい。手伝いをする者の中には聖女に石を投げた老人さえいた。
恐らく聖女が許したのだろう。でなければ普通は無礼打ちの筈である。
シーンが少し進み、夕暮れ間近。
ゾロゾロとやってきた子供達が引き続き陣頭で指揮を出していた聖女に嬉しそうに駆け寄っていく。同伴していたシスターらしき者達が必死に子供達を引き止めようとしている。
シスターと子供達の集団となると、考えられるのは孤児だろうか。子供達の多くが痩せ気味なのはシスター達が食事をケチっているのではなく、恐らくこの子供達はスラムから引き取られたばかりの子達だからなのだろう。でなければ嬉しそうな顔で聖女に近寄るはずがない。
ただスラムを解体するだけでなく、仕事を与え、食事を与え、子供達を引き取りと色々と根回しもできるらしい。
事情も知らない上の立場の人が良かれと思ってやった事が表面上の解決にしか至らない事例や、何の意味も成さないどころかかえって悪化を招く事態などよくある事だ。
現場を知らない、知ろうともしない者の指示は的外れな確率が高いのは最早宿命でもある。
その点、この無貌の聖女は実際に自分で赴いて動いている所が多いことから現場主義な所が垣間見える。現場を自分自身で知ろうとする気概がある。
その結果が、あの慕われ様であり、スラムを解体する事に成功している要因なのだろう。
再度視界が切り替わり、今度は今までは違う雰囲気の光景だった。
場所はよくわからないが、それなりの身分の者のために用意されたであろう豪華な部屋であった。しかし調度品などは殆どなく、部屋を多く占めていたのは本と謎の実験器具。
その器具と本に囲まれた部屋で1人、机に向かって無貌の聖女が書き物をしていた。
大量の細やかな字と魔法陣の様な物。側に置かれた紙には設計図の様な物も見える。いや、机の近くの壁に貼られていた紙全てが何かの設計図や図式の様だ。
建築っぽい物から数式の様な物、植物、動物のスケッチ、何かの表、魔法陣など、一体何をしているのか全く見えてこない。中には人体のスケッチらしき物まで散見された。
「ボヤけてよく見えませんが、解剖図でしょうか?」
「俺もそう見えた。かなり緻密だな」
「現実だと解剖自体は紀元前から行われていましたが、医学的にも妥当性のある解剖図の登場は確か近世以降だった気がします。間違ってたら、その、すみません。ただ、かなりの技術力、知識の蓄積があるのかもしれないですね」
ノートもネオンも段々赤月の都に纏わる色々な物が見えてきたが、無貌の聖女の正体は相変わらず見えてこない。
————————いや、ノートは既に見当は付いていたのだが、自分の中のイメージ像の乖離があったので早々に結論づける事を避けていたのだ。しかも、もし予想通りだと“時系列の整合性”が取れないのだ。
ノートは部屋におさめられた膨大な書物を手に取って一つ一つ確認したかったが、残念ながらこれはただの映像に過ぎない。そこでノートは一つの可能性に気づく。
「もしかしてこのイベントってさ、本来は答え合わせの為なのかもな」
「答え合わせ?」
赤月の都には通い詰めていたが、ノート達が探索できたのは街の北側というか噴水広場の周りだけだ。他のエリアは全く探索出来てないし、本丸の城に至っては攻めこむ前に黒騎士一体に追い返された。
感覚的には死闘を繰り広げた女王蟻以上のポテンシャル。スピリタスとトン2、鎌鼬のオリジナルスキルで強さを大幅に下げて、ノートが女王蟻戦で使った切り札を切っても、最後に見た黒騎士の暴れっぷりを見るに止められるビジョンが思い浮かばなかった。
そもそも、ルーナウラ・ソーラシル戦から異形の天使カコードラスウォーム・オーヴン、その後のエリア開通に至るまでイレギュラー塗れの強引なルート構築で進んできた。
所謂ゲームで言うところの、序盤からルート自体は見えているけれど、特殊なオブジェクトや鍵のかかった扉、通せんぼするお邪魔NPCのせいで本来進めないはずの道をバグ技で通過したような状態だ。
そもそも推奨ランクが見えてない事態で今のノート達が侵攻するにはランク的にかなり厳しいのは確かなのだ。
むしろ、微生物寄生ゾンビ達を相手にノート達がプレイヤースキルだけで対応出来てしまっているのがおかしいのだ。そのせいで本来は挫折する部分を通過できてしまっている。
ノート達は知る由もないがこのエリアを担当した開発陣は笑いを通り越して軽く引いていたレベルである。
気色の悪い見た目、意地の悪いシステムにランクを下げるとんでもない縛り、入り組んでおり囲まれやすい通路と圧倒的な物量を誇る厄介極まりない能力を持つ敵。ノート達でなければ本来は半泣きになるほどボコボコにされて帰らされる鬼畜フィールドの筈なのだ。
そんなフィールドを少しずつ探索し、赤月の都の謎を徐々に解き明かし、黒騎士の目を搔い潜るルートを見つけて本丸である城に入り込んで重要な情報を色々と取得し、そのヒントを元に噴水の謎を解き明かし、このイベントへと繋がる。
本来は今までの謎を珍しく一気に答え合わせしてくれるALLFOらしからぬ非常に楽しいイベントなのだろうが、あまりにショートカットしたせいで唐突なイベントのようになってしまっている。
緻密なシナリオ・フラグ設計を担当していた開発者は号泣し周囲から慰められていた。
そんなことを知る由もないが、ノートもネオンでさえもなんとなくこの映像は本来この時点で見るべき物でないことは何となく察し始めており、なんだか全力でネタバレ情報を見ているようでちょっと気まずくなってきた。
部屋で何かを書き記していた映像の後も無貌の聖女の快進撃は続く。
街の区画管理。農地改革。孤児院の設立。魔法体形の整理。動植物、人体に関する研究。天体に関する研究。算術・経済に関する研究。錬金術と思しき技術の研究など。
地質学、博学、建築学、工学、数学、魔術、錬金術、天文学、薬学、医学、生物学、経済、歴史、宗教、彫刻、音楽————様々な分野に着手し、無貌の聖女は周囲を感服させる成果を出した。
神に愛されし万能の天才、そんなワードがノートの脳裏をよぎる。
周囲の人々はその聖女の行動に振り回され、驚き続けるばかりだが、常にその背後に付き添い護っていた銀甲冑の騎士だけは何が起きても反応を見せなかった。
最初から無貌の聖女の人気は圧倒的だったが、成果を挙げ、時間を経るたびにその人気は絶対的な物へと変貌していった。
そして、遂にノートを大きく動揺させる光景が映された。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽無貌の聖女は全キャラ中最高峰のINTとEDUを誇るガチチートです(そろそろ聖女のモデルもお分かりですよね)
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽前回募集分(かなり前で申し訳ない)も使いますが、改めまして掲示板に使うプレイヤーネーム募集。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽自分のユーザーネームでもOKな人はどんな事()になってもいい事を同意の上でエントリーをお願いします。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽応募して頂いた人は1人ひとつは必ず採用するようにしてます
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽うち2名分は確実に本編に出します。ネタネームと厨二病ネームで2つ。厨二病ネームはカタカナ3文字(ルビでもOK)で採用率爆上がりします
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽常連さんもそれ以外の方もエントリーよろしくお願いします。期限は2021/12/5までです
(´・ω・`)最近CoC沼に帰りたくなっている(そうなると数ヶ月消えるけど)