No.134 疎外感❷
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽切れ目がうまく作れなかったので連投ゲリラじゃ
「スピリタスさんは、その、えっとサッパリしてるというか、サバサバって感じで、グイグイ引っ張ってくれるといいますか……」
「とても男らしい、てか?」
恐らく女性を形容する言葉ではないので別の言葉で喩えようとしたのだろうが、ノートがそれを察して言うと、ネオンはちょっと気まずそうな顔をしながらもコクリと小さく頷いた。
スピリタスは言動が荒い。マイルドに言えばワイルドで、そこらの男より余程肝が据わっているし、性格もあまり細かい事に拘らない古くからイメージされがちな親分気質だ。
しかし、根がお嬢様だったりするのでガサツさに反して教養はかなりあり、礼儀作法のポイントは押さえている。実際食事の際などはもはや動きが染み付いているらしく、豪快に見えてかなり丁寧だ。
加えて頭の回転も速いので察しもよく、末っ子特有の世渡り上手さを感じさせるコミュ力も兼ね備えている。
普段の言動がアレなだけで、割と隠れ完璧超人なのがスピリタスという女性なのだ。
最初はネオンもかなりビビっていたが、ネオンの後衛の立ち回りがまだ成長途上な事を察してネオンがピンチな時は積極的にフォローに回っていることはネオンも気づいている。
言葉ではなく背中で語る部分がどこまでも男らしいが、それがスピリタスという人間だ。
そんなスピリタスの背中を見てネオンは素直にカッコいいと思った。
スピリタスは自分が守るべきだと思った対象には結構ナチュラルにイケメンムーブというか、兄貴肌な面を見せるので実は女性人気も高かったりする。
質問をすれば意外と此方にも分かりやすいような解答を返してくれるし、アドバイスもしてくれる。落ち込んでる時は強気に励ましてくれる。
多分男性に生まれていたらとても女性にモテていただろうなぁ、とネオンも思ったほどである。
ただ、自分が甘えてもいいな、と思った人物に対してはスピリタスの見せる姿が変わる。それは母親や姉相手には顕著で、家にいると甘やかされた末っ子らしい一面が出てくる。
特にノートにはかなり甘えている部分が多く、割と無茶苦茶な事を言い出すのもそれをノートが止めたりなんとか叶えようとしてくれると信じているからだったりする。
このギャップにしっかり落とされただけにノートは何も言えない。
最初は少し驚いたが、少し聞けばネオンがスピリタスと話せるようになったのも納得できた。
「トン2は……アレだけど、鎌鼬とかは?」
「鎌鼬さん達は……その、別の、緊張が…………」
「…………ああ、なるほどね」
しかし、ノートのイメージだと後衛という事もありスピリタスより鎌鼬との会話が多い気がしていたのだが、ネオンの言葉を聞いて察した。
ノートは割ともう慣れてしまっているが、トン2も鎌鼬も普通にニュースでよく名前を聞く有名人である。SNSのニュース欄でもちょくちょく名前が上がるだけあってEスポーツに詳しく無い人であっても関係なく幅広い層に認知されていると言えるだろう。
普通の人から見ればテレビや広告でよく見る有名人が目の前にいて話している訳で、そんな存在と接すると喜ぶより緊張するタイプのネオンにとってはまだトン2や鎌鼬の存在に慣れない。
実際、トン2や鎌鼬と初めて出会った後、ログアウトした後に夢でも見てたのかとネオンは思わず頬を抓った程だ。
それほどネオンからすると生きてる世界が違う人で、非現実的な感覚さえ覚えていた。
しかし、ネオンが打ち解けた感触が少ないのには別の理由もある。
鎌鼬のスタンスは比較的ヌコォに近いが、それよりは結構穏和で学校でも普通に周囲の生徒と会話はしていた。
だが、鎌鼬の解答は何時も模範解答なのだ。興味ある事には凄く熱中するがそれ以外が結構おざなりで、その上興味の幅が異常に狭い。
用がなければ話しかけないし、話しかけてもなんとなく事務的で会話を長く続ける気がない。
鎌鼬には悪気は無い。聞かれた事に対して簡潔に答えているだけなのだから。
ただ、普段はそれをキッカケに別の話へ発展して友好関係を築いたりするのだが、鎌鼬はそれができない。
実は学校でも鎌鼬と仲良くなりたい生徒は男女問わず多く居たのだが、何度話しかけても会話がすぐに終わるし、なんとなく距離を感じてしまう事が多く、結果として鎌鼬にはトン2以外に友達らしい友達がいなかった。
唯一の例外は、その様なパーソナルスペースを良い意味で踏み越える事に長けていたノートの元カノである桜吹雪だ。彼女だけは鎌鼬ととある共通点があり、それを発端に鎌鼬と会話を続け距離を詰めることに成功していた。
ノートとの関係が続いたのは、最初にユリンを通してノートに興味を持っていたのが大きい。興味無くして近づく理由も無し。言い換えれば、鎌鼬は興味があれば自分から接近する。
ノートも鎌鼬の性格を理解して、まずは鎌鼬の興味のある射撃の話題を広げて、それに結びつけて自分が話しやすいゲームの話に結びつけていた。
最初は『狂犬が心から甘えた態度を取る同年代の少年』に対する興味が、『気難し過ぎる親友にやたら気に入られた少年』に対する興味に代わって、徐々に『少年自身に対する興味』に変わった。
ノートもイケると思いグイグイ攻めて、遂にはゲームを買わせて新しい世界を鎌鼬に見せた。繋がりを強めた。
鎌鼬に対しては案外強引に行けば上手くいくんじゃないか、と読んだノートの勝利である。実際、鎌鼬とトン2が友人になった経緯を聞いてノートはそう判断していた。
ただ、自分が好かれるなんて思ってもなかったが故の強引なアプローチだったわけで、自分が思っていたよりも遥かにアプローチが上手くいってしまい逆に言い寄られるとは当時のノートはちっとも考えてなかったし、自分との関係性に今も頭を抱える事になるとは知るはずもなかった。
閑話休題。
ノートとの関係を通して鎌鼬特有の無駄な事をしなさすぎるスタンスは若干緩和したが、それでいきなりフレンドリーになるはずも無い。鎌鼬をよく知らない人からすると、世間一般の浮世離れしたイメージも相まって余計に鎌鼬の言葉が素っ気ない言葉に聞こえるのだ。
なので実際は後衛としてのポジションに関して邪魔になったりしない様に色々と相談はしているのだが、上手く打ち解けられた印象がネオンにはなかったのだ。
「鎌鼬は……まぁ、確かに心から打ち解けるには結構時間いるタイプだな。実際俺も普通の日常会話ができる様になったのって、出会ってから1年以上必要だった気がするし。これでもかなりマシになったんだけどね」
だから落ち込む必要はないぞ、とフォローとするとネオンも少しは納得できた様だ。
因みにノートは知っている、ヌコォと鎌鼬のあまりに無駄がない会話を。
彼女達の連携を目を見張る物があり、普通はさぞかし打ち解けているのだろうと思うが実態は全くの逆。
打ち解けていない訳ではないのだが、どこまでもビジネスライクというか、必要最低限を徹底した様な、「お前らは軍人か何かか?」と聞きたくなる会話をするのだ。
しかし彼女達にとってはそれが1番良いらしい。スタンスが似通っているので普通の人にとってはストレスになるレベルのコミュニケーションが彼女達にとっては1番良いそうだ。
その点も含めてノートはネオンをフォローしておいた。アレは手本にしちゃダメだと。
トン2は言わずもがな。実の肉親ですら受け入れる事が難しいタイプだ。
ギャルゲーで言えば全ヒロイン攻略後にルート解放される裏ルートの攻略ヒロイン、というよりラスボス。
ワンミス1発OUT。
その上好感度の上がる条件の殆どがランダム。
フラグ管理があり得ない程に複雑。
好きなものが日によってコロコロ変わり、好感度がカンストする前に一度でも切り捨てられたら2度と近づけないという鬼畜仕様である。
そもそもとして、彼女のお眼鏡にかなわないと彼女は寄ってきてくれないので序盤からクソみたいな運ゲーだ。
その運ゲーを知らず知らずのうちに、ほんの少しの邪念があったばかりに奇跡的に全フラグを回収できちゃった(なお好感度がカンストすると今度は離れたくても離れられないオマケ付き)のがノートなのである。
さて、そんなトン2だが、トン2からネオンに話しかけているところはノートも何度か目撃している。まずこれ自体が滅多に無いのだが、ネオンはそれを知るはずも無い。
会話自体は当たり障りが無いのだが、小動物特有の勘がネオンに危険信号を発していた。漠然とした恐怖を覚えていた。
それもその筈、ノートは気付いている。トン2がネオンに向けてる目は実験動物に向ける科学者の目なのだ。
今までノート周りにはいなかったタイプの女性が如何程のものか、自分自身が納得できるまでトン2は観察しているのである。
この観察眼の強さがトン2の強さの根幹であり、その目は何処までも引き込まれそうな程に底がない。真意が見えない。
大体トン2の興味を引く人物といえば、ユリンやスピリタスの様な一芸特化や一般からは逸脱した部分のある人間だ。そのタイプの人間はその様な目で見られても物怖じしないが、ネオンは慣れてないので余計にトン2の視線に得体の知れなさを無意識に感じ取っているのだ。
ちょっと不気味に感じるが、言わば今の状態は査定状態。この査定に通ればトン2はその相手をどのような観点にせよ気に入った事になるし、査定落ちすると非常に素気なくなる。というより凡そ人間らしい反応が返ってこなくなる。
これがトン2が20年以上生きて身につけた処世術。
ストレスの元であるノイズを出来るだけ耳に入れないための過激な立ち振る舞い。異端者として家族からも浮いたトン2が自分自身を守る為にとってしまう態度なので『やめてくれないか』と頼んだところでなかなか治らない。
この状態でもノートとの関係を通して割と改善しているのだからどうしようもない。
すべてを切って捨てさせるのではなく、徹底的に当たりさわりのないコメントを返す方法を共に考えたりもして、とりあえずの処世術を身につける練習もしていたのだ。
事実、トン2は高校生当時にして既に非公式の試合で当時の世界ランキング1位を下しているのにも関わらず世間一般からの評判はあまり良くなかった。
というのも、インタビューはほぼほぼ無視。口を開けば記者に対する厳しい指摘。コーチともウマが合わずほぼ放任状態になっており、学校でも奇人変人という悪評しかなかったので『強さに驕ってる、増長している。選手としては評価できるが人間としては最低だ』などとネガティブな記事をたびたび書かれていたのだ。
しかし、実際にトン2と接したノートはそうじゃないと気づいた。
確かにトン2の態度は褒められたものではないが、そこまで扱き下ろされるような人じゃないとノートは主張したくなった。
だから根気よくトン2に処世術を教えた。邪険にされない程度に、鬱陶しいと思われない程度に、処世術を身につけることのメリットを説いてトン2にあった術を身につけるのを手伝った。ノート自身もなにをそんなに自分が頑張っているのかわからなかったが、それがトン2を射止めた大きな要因となっただけに人生何が幸いするか分からない物である。
そんなノートが打ち出した処世術はトン2にしかできない様な非常に独特な物。
自分とは乖離した人物になりきれ。試合のようにベストを探れ。自分とは違うペースを模倣し演じろ。自分を捨てればノイズも聞かずに済むんじゃないか、ノートはそうトン2にアドバイスした。
結果として生まれたのが、今の世間一般の人々がよく知る、試合に、対戦相手に、審判に、応援に敬意を払う模範的なスポーツマン、360度いい子ちゃんなトン2である。
ただ、そのいい子ちゃんを作るまでに色々な者をまず演じる練習をしていた。ペースを学び、形から模倣し、思考回路をトレースする。最初はゲーム感覚で行い、ノートも騙せるようなクオリティになるころにはトン2もなんだか楽しくなってきていた。
こうして出来上がったのが変装の達人。あのトン2の悪癖である変身癖の発露には実はノートが深く関わっていたりするのである。
閑話休題。
ネオンがトン2と打ち解けられた感じがまるで無いと嘆いていたが、今回の査定はいつになく長いな、とノートも感じていた。
恐らくトン2も今まで全く接した事のない、すぐに切り捨ててきた人種であるネオンを測りかねている。鎌鼬もノートにそのようなことを言っていた。
今のネオンは色々と成長期だ。精神的にも、ゲーマーとしても、例えそれが亀の歩みだろうとウサギに脅威を感じさせる迄に成長を遂げている。天賦の才のままに常に先頭を走っていたトン2にとって、後続が努力のみで凄まじい勢いで追い上げてくる様を見るのは初めての経験だった。
実際、トン2はネオンの実力に関して認める発言をしていた。トン2は誰かに気を遣ったりするタイプではないのであれは本心なのだろう。トン2はその実力を、努力を確かに評価していた。努力など知らないトン2が努力の鬼を評価した。
それがどれほど凄い事なのかネオンは気付いていない。
この段階で、容赦なく切り捨てられることはないだろうとノートは考えている。
問題はおそらく人格と、ノートに対する態度。精神構造がかなりネオンとトン2は乖離しているので余計に理解するのが時間がかかっているのだ。ただ、ノートは案外この二人は気が合うのではないかと思っているからこそある程度放置しているところはある。
トン2はかなり癖が強いが、ネオンも負けず劣らず天然なところがある。一度関係性を構築できれば。ネオンはトン2の尖りすぎた部分も慣れてしまえばすんなり受け入れられんじゃないかとメギド達に対する接し方から予想していたし、そうなるように色々と密かにフォローもしている。
「私も、仲良くなれるでしょうか?」
「あまり無責任なことは言いたくないが、俺はなれると思うよ」
逸脱した者、捕食者達にポツンと一人混じった被捕食者。されど今まで逃げ出すこともなく『祭り拍子』にいる時点で、より皆と仲良くなりたいという意思が少なからずある時点で、ネオンには適性があるし、『祭り拍子』にもいい影響を齎す存在になっているとノートは考えていた。
「ところでユリンはどう?」
(▲_▲メ)会話はAIに聞かれている(メモ)
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽誤字脱字の報告誠にありがとうございます
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2021/12/1 桜吹雪(No.28登場)の描写を追加