No.16 寄り道と秘密兵器
(´・ω・`)おねぼうしちゃった。ちくせう
(´・ω・`)じかんみてすごいびっくりした
「ぐぬぬぬぬぬぬ…………」
「なあ、頼むよ。俺たちにも悪くない話だろ?初期特典持ちの気心の知れた有能な仲間が増えるのはさ」
「だからムカつくの!持ってなければ色々と言いようがあったのにぃ……!」
現実での時刻は14:30。
ALLFO内では現実での1時間経過に対し相対時間が2時間進むようになっている。
彼らが現実時間でログアウトしたのは12:30なのでゲーム内では4時間経過しているわけだが、3時間ぶりに御主人様が現れて早々に痴話喧嘩のような物をし始めてアテナは目が点になっていた。
「なんだ、何を喚いている」
リビングでユリンを宥めるノートの元に歩いてきたのはバルバリッチャ。自室で引きこもってるのが心細かったのか、彼女はよく出歩いているとはタナトス談である。
「あ、そうそう。バルちゃんにも頼みがある。多分バルバリッチャも好みの、俺らと同列の悪意に満ちた(性質・極悪)俺たちの親類を迎えに行きたい、というか合流したいんだよ。だけどあの森を抜けて遠くのサードシティまで行かなきゃいけないからデバフと探知をしてくれないかな、と。馬車で移動するから歩く必要はないし、必要ならばソファも買って快適な環境作りはしようと思ってるけど」
「うむ、それなら………まあ、良かろう。だが、そのだな……その呼び名は…………」
「嫌か?俺たちは同士としてバルちゃんともっと仲を深めたいんだが」
バルバリッチャはうぐっ、と言葉につまり何かを口にしようとするが言葉にならず、髪をぐしゃぐしゃと搔きまわすと、ギュルンと不気味なまでのスピードで振り返り後ろに静かに控えていたタナトスとアテナに言い放つ。
「お前達は気安く呼んだらその首叩き斬ってやるからな!!わかったか!?」
「「承知しております、バルバリッチャ様」」
NPC間にも上下関係があるのか、恭しく頭を下げるタナトスとアテナ。
バルバリッチャはそのままツカツカと自室へ向かう。
「結局呼んでいいのか?」
その背中に声をかけるノート。バルバリッチャは顔だけノートに向けてキッと睨みつける。
「う、うるさい!勝手にしろ!なんでもかんでも突っ撥ねては上位者の沽券にかかわるからという我の広い度量に救われたな!!!」
顔を真っ赤にして部屋に入るとバタンッ!と激しくドアを閉めるバルバリッチャ。だがすぐにドアが開くと「出発の準備ができたら呼べ!」と叫び声が聞こえ再びバタンッと大きな音を立てて扉が閉じる。
ノートと目が合ったユリンはコクリと頷き、アイテム自販機室へ直行。RTAしてるんじゃないかと思うスピードで自販機で売ってるうちの1番高いソファを購入し戻ってくる。その間、僅か10秒未満。
「バルちゃん、出発です!」
実の所、前回のログアウト前に次にログインしたらすぐに動ける用意をしておこうと準備は整えてあったので、ノートとユリンは既に準備万端だ。
バルバリッチャも予想外の速さだったのか部屋の中でガタガタっと何かが音を立てると…………バァーンっ!!!!と扉が開け放たれ、涙目で顔が真っ赤なバルバリッチャはツカツカとノートの元に駆け寄り襟首を掴むと、「ッ〜〜〜〜!!」と声にならない叫び声をあげながらノートの襟首を掴み激しく揺さぶった。
「ちょ、ごめんって!ソファー買ったから!1番高いやつ!だからごめんって!」
羞恥心がエライことになっているのか、ユリンとタナトスとアテナが見るに見かねて3人がかりで抑え込んで漸く止まったバルバリッチャ。
準備以上に拗ねたバルバリッチャを馬車に乗せるほうが格段に大変だったのは言うまでもないことだった。
◆
「1時2猪、11時7猿……」
本来なら急勾配で馬車では到底降りれるわけがない山を、若干浮いている幽霊馬車はゆったりと降りていく。
少々大げさではあるが、感覚としてはジェットコースターの降下を最初の上昇と同程度のスピードでしている気分である。
わざわざ暗黒魔法の1つであるデバフの重力魔法を自分にかけてバルバリッチャは馬車に新しく設置したソファー(大工技能持ちアテナ担当)に優雅に腰掛け、ノートは御者台のスケルトンの横で待機。ユリンは馬車の前を先導するように歩いている。
バルバリッチャの超広範囲探知の性能は凄まじく、全く敵性MOBにエンカウントせずに山を降りていけるが、まだ拗ねているのかバルバリッチャの口数は異様に少ない。
「うーん、そろそろ森を出れそうかな?」
「敵性MOBも弱くなってきてるからな、多分そうだと思うぞ」
本来は進んでいけば敵性MOBが強くなっていくのが普通なのだが、ノート達はエリアを逆走している形なのでどんどん敵性MOBが弱くなっていくのを実感していた。それにボス級と思われるMOBも出現の兆候を全く見せなかった。
実の所かなり序盤にバルバリッチャの超広範囲探知に人頭霊鹿のボスが引っかかったらしいが、バルバリッチャはそのボスの評価をユリンに求められると『主人らが相対するには遥かに早い』ときっぱり言い切った。
苦虫を噛み潰したような表情で、どうやら現段階のバルバリッチャでは、いや、現段階のバルバリッチャでも大苦戦しかねない性能を持つようで、聞いてもないのに『我は絶対に負けんぞ!』とわざわざ言葉を重ねたあたりでノート達は察した。
どうやらここの森はランク帯に比べて色々と強さやらBOSS級MOBの性能が狂ってることから、ノートとユリンは何か公式イベントが控えている場所(敵性MOBを強くすることで多くの人が出入りしないようにする)かバルバリッチャのケースのように条件を満たさないと突破困難なエリアが存在しているのでは、と考察していた。
2人があっさりクリアしたせいで分かりにくいが、ファストシティの墓地も本来はあの序盤では突破不可能な難易度に調整されている。ランク5推奨だが、明らかに敵性MOBの量が飽和しておりアイテム消費や装備の耐久値の問題でジリ貧で死んでしまうのだ。なのでこのエリアも評価ランクと釣り合わない高難度の裏には何かあるからでは、とノートとしては考えていた。
◆
途中途中で敵性MOBを迂回しつつ、馬車にアイテムボックスもあるので採取もたっぷり行ったせいか、数時間もかけて漸く森から出たノート達。急な日の明るさに一瞬目が眩むが、すぐに目も光に慣れて視界が回復する。このような異常なALLFOの細かさにノートは心の内で感心すると同時に、少し開けたエリアを軽く眺める。
「ここで一旦休憩するか?」
「ここもちょっとした休憩エリアらしいね」
山を降りた先にはまだ森が続く。だが此方の森はかなり明るく、どちらかと言えば観光地よりの森に見える。急勾配を取り囲む深霊禁山とは大違いだ。
暗い森エリアと明るいエリアの間には川が流れており、ストーンサークルのように目立つものではないが不思議な光る石(移動も破壊も不可能な特殊オブジェクト)が川に沿って配置されている。ストーンサークルのように滞在するだけで自然回復上昇などの効果は無いものの、非戦闘区域に指定されていて敵性MOBもここには侵入してこない。
ユリンがミニホームをアクティベートすると、長方形の光の枠が現れポンっとログハウスが現れる。同時にタナトスとアテナも自動で再召喚された。
ミニホームは移動可能な拠点であるが、アイテム化してインベントリにしまっている間は、あらかじめ外に出していたMOB以外は自動で待機状態になる。ミニホーム内部は時間経過が止まり、アイテム化している間は自動で成長が進んだりする農地などが全く成長しなくなる。
移動型拠点にはメリットだけでなくデメリットもきちんと存在しているのだ。
タナトス達は再召喚されても動じることはなく、タナトスはノートから指示を受けてノート達にハーブティーを淹れる。使うハーブはローズマリーとミント。どちらもタナトスが下位錬金で生み出したものである。
因みにALLFO内の錬金術は基本的に物質の交換・錬成、ゴーレムなどの無機生物の製作がメインとなっている。
物質の交換はノートの死霊召喚と似ており、必要な下位素材を集めて、触媒を用意して、MPを生贄がわりに上位の素材を生み出す、あるいは合成する。ゴーレムなどの無機生物作成は運営から示唆されているが、まだまだ現段階では夢物語に近い話。それでもALLFO内の副職業に錬金術を取る者はかなりの割合で存在するほど多方面で優秀な技能である。
ただ、タナトスの錬金は本職の錬金術士よりは性能は落ちる。加えて技能行使による成長性はかなり低い。これはアンデッド系の、特にスケルトン系の致命的な欠点であり、簡単に言えば『死者が通常通り成長するわけないでしょ、もう死んでるんだし』という運営のメッセージである。なので強化するには、また色々と素材だ魂だと本来の召喚獣や従魔などが進化時にしか要求しないことを供給する羽目になる。
現状のタナトスは器用貧乏に近く、執事としての業務から関係の無い技能ほど微妙な性能になっている。中でも錬金術は物質交換(これも通常より必要なアイテムが多く設定されている)と簡単なアイテム錬成しかできない。
だがノートはそれでいいと言った。ノートはタナトスに錬金術の技量など端から求めていないのだから。できるだけでも感謝である。
タナトスは今のプレイヤーが見たらなんとしてでも手に入れたいような素材を錬金し、使い道が微妙なアイテムに変えてしまう。
そうしてできたのが今回使っている色々なハーブだ。どう考えてもコストが釣り合ってない量と内容だが、ノートはタナトスに「気にせずにやるといい」と声をかけて、ある程度のハーブを蓄えていた。
ノートはハーブティーが苦手で、麦茶・烏龍茶・緑茶派だが、ユリンはハーブティーや紅茶が好きで常飲している。加えてバルバリッチャの食いつきも良かったのだ。
バルバリッチャはタナトスに淹れてもらったハーブティーを傾けて、5点と残酷な評価を下すものの顔は軽く緩んでいる。ヘビードリンカー(?)のユリンは市販はこの程度、と評価したがALLFO内でも飲めることがわかり喜んでいた。対してノートは試しに飲んだが、やはり口に合わずすぐにユリンにパスした。
「でもなぁ、今の見た目なら違和感ないけど、悪魔ってハーブティーとか好きなの?」
ハーブティーを飲み御機嫌なバルバリッチャ。どうにもまったりした空気になったのでもう少し休んだら再出発しようということになりボーっと休んでいたところで、ノートがふと気になったことをバルバリッチャに問いかける。
「ふむ、実の所、相当下級な悪魔以外は悪魔という存在は基本的に食事を必要としない。故に食事など関心すらなかったが、どうやら依り代となっている肉体の影響が少なからずあるのだろうな。以前の我とは細々とした部分で差異があるのは自覚しているが、“食”に関しては新たに目覚めたと言えるだろう。その中でこのハーブティーとやらはどこか惹かれるものがあった。最初は少し違和感があったが実際に悪くないものだぞ」
「へぇ〜、そうなの。他に食いたいものとかってあるの?」
「血だ。肉でもいい」
即答するバルバリッチャ。聞けばどうやら吸血鬼としての本能らしい。だが「畜生(通常の獣をメインとした敵性MOB)の血液は嫌だ」とゴネているあたり嗜好の範囲で収まっているようだ。
実のところ、普通の吸血鬼は日光に当たることは避けるべきだし血を吸わないと徐々に弱体化していく性質を持つ。その点バルバリッチャが吸血鬼でありながらそのような特徴を持たない時点で彼女が普通の吸血鬼でないことは自明だった。
「さて、我としてはそろそろ出発しても良いが、少々面白いことになっているぞ」
「面白いこと?」
ノートが起き上がって聞くとバルバリッチャは今までの比較的穏やかな表情から一転、ゾッとするほど悪どい笑みを浮かべた。
「この近く……どうやら野盗でもおるようだ。数は200程度、2時の方角に距離200mだ。ここからでも我の好む悪どく下賎な空気が伝わってくるようだ」
「野盗?マジで?」
スクッと立ち上がるノートは、暇な間シャドーのように剣を振り続けていたユリンを呼び寄せると野盗の存在を知らせる。
「野盗って確か、敵性NPCだよね?」
「そうだ。このNPCはNPCでも例外的に倒してもいいらしいな。人型を倒すのが苦手なプレイヤーの為に、このNPCだけ顔が一緒らしい。ま、視覚調整でマイルドに設定すればデフォルメした人形みたいになるとか言ってたな」
ALLFOは販売前より多くの紹介映像を公開してきたが、ボロ布を纏った野生児のような連中が一斉に襲いかかってくるのはなんともコミカルだった。VRでなければ野盗の見た目が全部一緒だろうと仕様だな、で済んだが、リアルなVRだと五つ子、六つ子どこじゃない、何つ子です?と言いたくなるただのそっくりさん集団になるのだ。
またALLFO側の配慮で、野盗などのNPCでありながら敵対してくる相手は、通常設定ではHPをゼロにすると殺害ではなく昏倒(固定)状態になるようになっているので、たとえゲームでも人を殺して後味が悪い、という事態にはならない。
もちろん、設定を弄れば殺害はできる。
そしてタチの悪いことに殺害した方が旨味は多い。だがマッハで性質は悪性に傾いていくというシビアなシステムだったりする。また性質:極悪はデフォルトで殺害に設定されておりその設定を解除することはできない。
「バルバリッチャ、強さは?」
「主らが前の森で血祭りにあげた連中よりは間違いなく骨はあるぞ。だが、今の主人らに倒せない訳がない。やって見せよ」
そう言うとバルバリッチャはツカツカとユリンに歩み寄り、いつのまにか取り出していた針をユリンの服にスルスルと滑らせる。
「糸はアテナの提供だが、これでユリンの衣類の耐久値は修復した。心置き無く暴れるが良い」
「そうか、裁縫の技能が……バルちゃん、ありがとう」
「ふんっ、手を貸すのはここまでだ。アラクネの件でさえ特別だったのだ、己の力で乗り越えるのだな」
そう言い放つと、バルバリッチャはミニホームに戻り、入れ替わるようにアテナがやってくる。
「御主人様、お任せいただいた例のモノが2種、各々20程用意できておりマス。ご査収していただけマスカ?」
メニューよりアイテム譲渡申請の通知があり、ノートはその内訳をみるとニヤッとして受け取った。
「アテナ、最高のタイミングだよ。これからも無理のない程度で量産を頼む」
アテナは「有難きお言葉でございます。一層精進させていただきます」と返答。華麗に一礼すると、次なる命令遂行の為にミニホームの作業室へ戻っていく。
最後に入れ替わりで来たのはタナトス。御二方には及びませぬが……と断りを入れると、毒々しい緑の気体が詰まった瓶を数本、ノートに手渡す。
『現段階で錬金に成功できた気体状の毒物でございます。瓶が割れますと中の毒が撒き散らされますが、お恥ずかしいことに効果は今一つ。ですが撹乱などにはお使い頂けるかと。此方にてお帰りをお待ちしております』
「おっ、サンキュー。でも勝利は願ってくれないのか?」
アイテムを受け取ると、からかうようなノートの言葉。だがタナトスは動じずクツクツと笑った。
『何を仰いますか、御主人様達の勝利は必然です。ハーブティーと御茶請けを用意して凱旋をお待ちしておりますよ』
「ほぉ〜、そう言うことも言えるのね。ま、ちょっくら行ってくるよ」
「行ってくるね〜〜!」
『いってらっしゃいませ』
図らずもタナトスに発破をかけられたノートとユリンは気合十分で野盗殲滅に向かうのだった。
(´・ω・`)おくれたから詫び投稿するよ。とうぜんだね