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No.119 怨嗟、悲劇、戦慄、残酷

すまんな


 ノート達が赤月の都に腰を据えて探索する事2日。

 彼等の探索は行き詰まっていた。


 このエリアの探索を開始してからというもの、何かこのフィールドの謎を解き明かすものは無いかと調べていたが、結局都合よくヒントが現れることもなく、ただ人間の生活していたと思われる痕跡を見るにとどまった。


 色々と調査をした結果、建築技術を含めて16世紀〜18世紀のヨーロッパをモデルとしていると考えられたが、その家屋はどれもこれも荒れたり争った形跡があった。

 場合によっては、血痕らしきものさえ飛び散っていた。


 この地で一体何があったのか。なぜMOBに人型が多いのか。


 状況証拠的に碌でもない真実が眠っていそうな気がするが、ノート達は明確な証拠を得るために調査を続行した。


 遠くからはわからなかったが、このエリアは建物に挟まれ路地が入り組んでおり、さながらエズの街かそれとも九份の路地か、高低差が所々にあり走り抜けることは難しい。


 しかしアテナ謹製のトラップなどをフル活用し路地を利用した罠で敵を倒す戦術を確立したノート達は、比較的安定して調査を進めていた。


 そしてグレゴリのナビゲートに従いつつ、取り敢えず城の方向へ進み続けていた時、ソレは現れた。



「おー、なんか広場っぽいねぇ」


「荒れてしまってはいるけれど、それはそれで見応えがあるわね」


「ちょっと、不気味、ですね……」


 そこは枯れた噴水を中心とした円形の広場と言ったところだろうか。今まで建物に挟まれ圧迫感を感じる通路を進んでいただけに、開けた場所は開放感があり見応えがある。

 ホロは穴だらけでボロボロだが、円形の広場を囲むようにテント式の店などがあり、この広場にかつて満ちていた明るさと熱気を感じさせてくる。


 しかしそこは開けていただけに大きな争いがあったのか、噴水周りには黒い槍などが刺さり、血液めいた何かが今まで見てきたものよりかなり多く飛び散っていた。


 見た目こそ少し不吉だが、広い以外にこれといって特に何かがあるわけでも無し。敵の湧きも少ないタイミングなので各々広間を見て回ったが、何か異変が起こることは無かった。


 だが、ノートが少し休憩がてら噴水の縁に腰掛けると、異常は起きた。


『………………聞…………て……』


「何?なんか言った?」


 皆が周囲を警戒しつつ、元出店を物色する仲間をよそに、ちゃっかりノートの横に腰掛けるヌコォ。

 ノートは話しかけられた気がしてすぐ隣に座っていたヌコォに問いかけるが、いきなり話しかけられたヌコォはキョトンとして首を横に振る。


『あ…………こち……来………』


 再び聞こえる声。ヌコォかと思ったがそうではない。気の所為か?しかしそれにしてはおかしい。

 一方でヌコォは無反応。ノートは周りをキョロキョロと見渡す。


「どうしたの、ノート兄さん?」


「いや、さっきから声が聞こえるんだが、ヌコォは聞こえないか?」


 ノートの問いかけに改めて耳を澄ませるヌコォ。だが何か気になる様な物音は聞こえてこない。グレゴリを使って周囲を入念に探索したが、其れでも声の主は見つからなかった。


 その代わり、広場の周りで少し気になる物が見つかった。


「………………なんだろうな、コレ?」


「ただのゴミ、にしては単一種を集めた感じだよなぁ?」


 それをいち早く見つけたのはスピリタス。漁っていた出店の木箱から大量のメダルらしき物を発見した。

 材質は様々で、金属だったり木製だったりと結構疎らだ。割合的にはかなり木製のメダルが多い感じだろうか。


 ただのメダル、或いは通貨。本来ならばRPG的に宝か何かを連想させるソレには違和感が幾つかあった。


 一つ、そのメダルは傷だらけだったり割れていたり焼かれていたりと、全てが全てなんらかの形で破損していた事。

 自然に壊れたというよりは明らかに意図的に破壊されており、中には強烈な執念を感じるほどズタズタに切り刻まれたメダルもあった。

 しかし、それは一方の面だけで、片面はほぼ傷が付いていない事も特徴だった。


 二つ、そのメダルは単一の種類であると考えられる形状である事。

 傷がついてない方には、例の正体不明の獣をデフォルメした様な絵が刻まれており、もう片方はどれこれも原型が殆ど分からないほど破壊されていた。

 幾つか一部がまだ綺麗な物を照らし合わせても、わかったのは円状の何かが刻まれていることだけ。中心部分は特に破壊の痕が激しく図のモデルはわからなかった。


 三つ、そのメダルが集められ、そして木箱に雑に押し込められていた事。

 なぜメダルは広場に集められたのか。貴重品であればなぜ傷つけたのか。それがよくわからない。


 四つ、そのメダルの量と材質。

 普通このように雑多にメダルが箱に詰められていると、RPG脳だとそれが通貨であるように錯覚するかもしれない。

 しかし、メダルの中には木製の物が多く見受けられる。

 古今東西、発展した文化圏で木製メダルを通貨として利用しているなど聞いたことも見たこともない。しかもノート達をさらに困惑させたのが、木製メダルが全て一律のデザインのオブジェクトではなく、明らかに大まかな形式は同一だとしても良く観察すればデザインに細かい差異があり、メダルが手作りだったのではないか、と推測できるデザインになっていたことだ。


 相変わらず力の入れ込み用というか細かさがイカれているとノート達も流石にちょっと引いたが、皆で見比べてもやはりデザインにどこかしら小さな差があるのだ。


 そして発見されたメダルの量もおかしかった。

 見つけたのは確かにスピリタスだが、それはトップバッターだっただけで、スピリタスが見つけた場所と同じような場所を漁ると、やはり隠されたようにメダルがユリン達が調べていた出店でも発見されたのだ。


 メダルの大きさは、実際のところメダルというには少し小さく、だいたい500円玉より一回り大きい程度だろうか。機械を使わずに何かの絵を刻むのであれば、サイズ感的にも違和感はない。

 そのメダルが大きめの木箱一杯に10箱以上。数にして数千、もしかすると数万に届く数あるかもしれない。


 ただのオブジェクトに何をここまで拘っているのかよくわからないが、その拘りがノートの意識を大きく占領し、目を逸らす事を決して許さない。

 そのしつこさは真っ白な服に溢した墨汁の様に、なかなか色落ちせずに、しっかりと存在感を主張してくる。



 結局、そのメダルの謎も、ノートの聞いた声が本当に聞こえたのかどうかすら分からぬまま、襲撃を仕掛けてきた魔物達に追われて真相は有耶無耶になるのだった。









 原因を挙げるとするなら、それは幾つかのシンプルな判断ミスと偶然である。

 

 逃げる方向を間違え、クールタイムを読み間違え、そして泣きっ面に蜂と言わんばかりに逃げた方向から魔物が押し寄せて挟み撃ちにあった。


 這々の体で狭く入り組んだ路地へ一か八か逃げ込んだノート達は、空間認識能力が異常発達してるヌコォと鎌鼬でも退路を正確に覚えていることが難しいほどに無茶苦茶に逃げ回り、そして気付かぬままかなり赤月の都の奥まで進んでいた。


 

「はぁ……はぁ…………ヤバい、スタミナ切れてるな。身体が凄い重いしクールタイムが伸びてるわ」


「ふぅー……ふぅー……流石にこの長距離はキツい」


「後衛職は体力のステータス伸びにくいからね〜。むしろピンピンしてるネオンちゃんが異常?かな?」


「え?わ、わたし?」


 人間にとって、疲労というのはストレスであり、突き詰めると身体的苦痛である。

 ALLFOには当然ながらスタミナという概念があり、激しく動けば動くほど現実と同じように肉体は消耗するし、空腹ゲージも減っていく。


 しかし、ALLFOはVRの世界である以上、現実と同じような疲労感を味わうことはない。法的規則によりVRで与えられる痛みに制限があるからだ。

 この痛みに関する規則はかなり厳しく、例外的なのが辛味による痛みくらいでそれ以外はほぼ痛みらしい痛みを味わう事はない。


 では、VR内ではどう疲労感を表現するのか。

 ALLFOの出した答えは、体にかかる重さを上げて挙動に制限をかける事と、クールタイムの延長である。

 例えるならば、服を着たまま水中で動く感覚に徐々に近づいていくと言ったところだろうか。

 動くことはできるが、陸上で動くよりは動きにくく、疲労が溜まれば体はさらに重くなっていき、うまく動けなくなっていく。

 その重みは焦りを生み、体が疲れているかの様に錯覚させる。


 こうする事で精神にダイレクトに干渉する事なく体に疲労感を味わせるのだ。


 そしてこの軽微な圧迫感やその他諸々の地味な制限によって身体が『自分は肉体的に疲労している』と強く錯覚し、その症状が進行して錯覚が更なる錯覚を呼び起こす事で遂には息切れに近い症状まで発露する。


 詳しいメカニズムこそ知らないが、その程度はノートもヌコォもなんとなく知っている。それでも尚、自分が感じているそれが錯覚だと知りつつも息は切れ体は疲労を感じてしまい、十全なパフォーマンスを行うことは難しくなる。


 これは目の錯覚と同じで、気合でどうこうなる物ではなく、体の自然な反応であるが為に対処法はない。


 故に、同じく後衛職であるネオンが平気な顔をしている方がおかしいのだ。


 実はこれにはリアルの肉体の性能がダイレクトに影響している。

 VR空間で感じるこの疲労感はあくまで錯覚であり、極論痛みを伴わない以上リアルでの疲労感の辛さを上回ることは無い。

 つまり、日常的に持久走などをしているタイプの人種にとっては、もっと噛み砕いていうなら、疲労感に対する耐性がある肉体を持つ者は疲労感を感じることが少ない。

 常日頃から精力的に動いて自分の体力に潜在的に自信がある場合は尚のこと錯覚を起こしにくくなる。


 また、ALLFOは物理演算により肉体の動きから消費するエネルギーもキチンと計算しているので、綺麗なフォームで走ればよりエネルギー消費は小さくなる。

 長距離走を中学生から今に至るまで続けているネオンはフォームが誰よりも綺麗な為、よりエネルギー消費も小さいのだ。

 更にネオンの場合は長距離走にバフのかかる称号も持っている為、後衛職としては破格の体力を持つ。

 

 これがストレッチや軽い筋トレの域を超えない健康やスタイル維持の為の運動しかしてないノート達と日常的に肉体をいじめ抜いているネオンの差であり、ネオンが長時間長距離走ってもケロッとしている理由である。


 閑話休題。


 さて、そんなノート達がたどり着いたのは城壁近く。少数精鋭による全力疾走によってノート達はいつの間にか都の中心と見られる城の近くまで来ていたようだ。


「……………大きい、ですね」


「そうだな。思ってたよりデカいわ」


 中心の城は見上げるほど大きく、その上に大きな赤い月が輝いている。


 周りを軽く見渡せば、城の近くは何故か地面が歪んでいたり、亀裂が入っていたりする。規模こそ小さいが、深霊禁山に似た様な亀裂の入り方だ。


 城の方もよく見れば、意図的に中心にグッと寄せたような、奇妙な歪みが見られる。


「ノートさん、進み、ますか?」


「いや、ここで一度引き……ネオン!」


 一息ついたノートはネオンに話しかけられてそちらの方を向いた。

 『祭り拍子』はパーティーの中核を成すノート、ヌコォ、ネオンを中心に置き前衛陣が周囲を警戒していた。


 そんな中、ノートは疲れて膝に手をついていた状態から見上げるようにネオンの方を向いた。故に、ノートだけが斜め上から高速で迫ってきた黒い影を視認し、反射的にネオンを突き飛ばした。


 人外クラスが揃う『祭り拍子』前衛の警戒網をあっさりすり抜け、さらには現状最高峰の感知能力持ちのグレゴリさえも反応できないレベルのスピードを持つ漆黒の一撃。

 ノートが反応できたのは完全に偶然であり、もしノートが突き飛ばさなかったら確実にネオンは首をぶった斬られ死んでいただろう。

 しかしそんな無茶の代償は大きく、突き飛ばしたノートの首から左肩が切り裂かれ、赤いポリゴン片が血飛沫の様に激しく噴き出す。


 ノートに放たれた二撃目を首の皮一枚でカバーできたのは、スピリタスもトン2も人外の領域に足を突っ込んでいる存在だからだろう。

 そんな彼女達が反射でも即興でコンビネーションを組みノートを護ろうとしたが、2人がかりでも勢いを殺し切れず吹き飛ばされた。


「悪い、スタンした!」


 最悪な事態というのはいつでも群れを為して迫る。

 ノートが受けたダメージは致命傷判定となり、ノートはスタン状態に陥る。

 それはカバーに入ったトン2とスピリタスも同じ。

 一気に三枚のカードが機能不全を起こす。

 

 『祭り拍子』は強い。他のプレイヤーから見ればタダのチーター集団と罵られても否定できない程に。

 だからこれだけの少人数でも格上に挑める。


 裏を返せば、1人機能不全を起こすだけでも『祭り拍子』は危うい。少数精鋭のデメリットが完全に露出してしまっていた。


 それをカバーすべく謎の存在に叩き込まれる鎌鼬のボウガンの連射。トン2とスピリタスが作った隙は鎌鼬が十全な準備をするだけの時間を与えていた。

 ネオンの魔法を封じた最高級の矢となれば、スピリタスやトン2でも連射されると捌き切るのはかなり難しい。

 

 だがしかし、ソイツは少し後退しながら大剣を振るだけで呆気なくその全てを軽く捌いた。



「いきます!!」

 

 

 それでも攻撃は無駄では無い。後退しつつ矢を捌いた事で距離が開いた。

 無防備なノートの前に立ちはだかったのはネオン。自分もダメージを負う前提で恐ろしき破壊力を内包した火属性魔法を解き放つ。

 

 それと同時にノートにはユリンが、スピリタスとトン2にはヌコォが投擲したライフポーションがヒットしてHPを回復。HPはギリギリ危険域を脱しスタンが解除される。


 僅か数秒で成された高度な連携。ノートはスタンが解除されるや否やタンク系の死霊を無詠唱で召喚しネオンのフレンドリーファイアを押さえ込もうとする。


 全員が全員、皆はこうするだろう、という信頼が無ければパーティーが一体となって動く事は難しい。1番ゲーム慣れしてないネオンとて、膨大なパターン学習と破天荒な経験を経てゲーム感が芽生えてきている。

 この場でフレドリーファイア前提でも大魔法をぶっ放して距離を取ろうとしたのは間違いではない。


 しかし、ノート達が身構えても想定した衝撃は無かった。


ᬤ䈿⽎()ⰼ!吤Ⱑ()⨾⸸ⴤ()㜤␡⨛⡂』

 

 聞こえたのは狂った獣の様な唸り声が何重にも重なった様な濁り歪んだ音。しかしその言語化し難い筈の声から何故か意思が感じ取れた。

 どれほどそれが人の言語と理解できたかは人によって違ったが、最もその音から声を見出す事ができたノートは強い怒りを感じた。


 黒と白の光が謎の存在が掲げる大剣に纏わりつく。そして一歩踏み込んだ次の瞬間、謎の存在の姿は掻き消え、魔法は斬り裂かれ、勢いそのままノートの配置したタンク系死霊諸共ネオンまで断ち切った。


「嘘だろ!?」


 あまりにイカれたパワー。ランクが違うとかそんな言葉では片付けられないほどの、圧倒的な暴力。

 たった一太刀で最高火力を封じ、そしてその使い手までも殺してみせた。


 確かに、今のノート達は変なバッドステータスで弱体化している。散々キツい戦いを強いられベストコンディションととは程遠い。


 だとしても、これは想定外もいいところ。考えるうちで最悪の部類の状態だ。


 

 『祭り拍子』のヒーラーはネオンとグレゴリ。だがグレゴリが成長途上だったり専門が探索なだけあって、瞬間的な回復力は未だネオンが圧倒的に優位だ。


 つまり、『祭り拍子』にとって序盤でネオンが撃破されるのはかなりマズイ状態という事になる。

 一応ポーションやヌコォのスキル、ノートの死霊で最低限のリカバリーはできるが、厳しいことには変わりない。


 体長2m弱。金属鎧に法衣らしき物が組み込まれており、儀式用の聖騎士なんてタイトルを付けられそうな見た目をしている。

 だが、ソイツが聖なる物だと思う者は誰1人していないだろう。


 その鎧は漆黒に淀み、まるで悪魔の様な角が甲冑から生えている。何より異様なのは、その全身に様々な武器が突き刺さり、突き刺さった部分から黒紫色の液体を痛々しく垂れ流しているところだろう。


 怨嗟、悲劇、戦慄、残酷、様々な物を宿した謎の存在。錆び切った大剣を構え、甲冑から黒紫色の液体を噴き出しながら何か訴える様にソイツは絶叫する。


 

 今までとは隔絶した戦闘能力。怨嗟の黒騎士との戦闘は最悪な形で本格的に火蓋を切った。





いつまでもヌルゲーやってんじゃねぇぞって話




※設定厨隔離施設にて

【No.Ex それ逝毛!主任マン〜魔法少女きえた⭐︎マジカ〜①】

を追加しました。

人形兵器との激闘からトン2&鎌鼬コンビの『祭り拍子』合流までを主任サイド視点で見た話です


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― 新着の感想 ―
[一言] >>「はぁ……はぁ…………ヤバい、スタミナ切れてるな。身体が凄い重いしクールタイムが伸びてるわ」 「ふぅー……ふぅー……流石にこの長距離はキツい」 これは、ノートと鎌鼬? てか、黒騎士…
[気になる点] >その全身に様々な武器が突き刺さり 弁慶かな? どうでもいいところなんですけどプレイヤーとかモブを傷つけた時に出てくるポリゴンってどうにか処理して確保することって出来ないですかね? …
[良い点] ほんと設定凝ってますよね。すごいと思います尊敬します。 [一言] 一気読みさせて頂きました メダルが気になるであります
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