No.118 満漢全席地和字一色大四喜四暗刻
(´・ω・`)大学近くの歩道にポツンと置かれた炊飯器。なぜあそこにあったのか気になって夜しか眠れない。
「文字、ねぇ……。ALLFOだとどんな仕様だったんだっけ?」
ネオンの疑問に少々変な沈黙が弛ったが、結局見つけてみない限りはなんとも言えない。そう考えてノート達は家探しを続行しつつALLFOの仕様について話し合う。
「スレを見ている限り、解読不明な文字は現状発見されてない。でもNPCが書いている文字は日本語ではない事も判明してる。補足するなら話している言語も」
まずは現状の確認と基礎的な部分について問いかけたのはユリン。それに対して情報系スレに張り付いて、最近は独自に第二陣にいる知り合いに情報の横流しをしてもらい裏付けも強化しているヌコォが正確な情報を答える。
因みにナショナルシティの特殊なNPCは普通に日本語で話すし、英語で話しかけると英語で答えてくれる事も確認されているが、これは運営寄りのNPCの仕様という事で納得されている。
そんな答えに対しピンと来たような顔をしたのは極一部、というよりノートだけだった。
「ふーん、それは知らなかったかも〜」
元々街には入れなかった初期特典組や街にいた時間が実質5分を切ってるスピリタスはまだしも、一応なりとも街に出入りしていたはずのトン2の反応。
ユリンは『興味ない事にはとことん興味ないなぁ』と姉貴分に呆れた視線を送るが、それをフォローするように鎌鼬が肩をすくめつつ補足する。
「私達は確かに街に出入りしていたけれど、NPCとまともに接してないのよね。唯一きちんと関わりを持ったと言えるバウンティハンターも、一切会話らしい会話がないどころか全員変な三角形の被り物していて顔さえ見えなかったのよ」
普通のプレイヤーであれば、一度は何かしらのギルドに顔を出すので受付NPCと会話をするし、クエスト経由でNPCと接点を持つ事もある。
しかしPKKに全てのリソースを割いていたトン2と鎌鼬はギルドにすら顔を出していない。よってNPCの接点が皆無に等しかったのだ。
2人の合流前のPKK行為からバウンティハンターギルドとは関わりがあったのでは?と思われるかもしれないが、実は接点が無い。
バウンティハンターギルドが解放されたのはナショナルシティ解放後。バウンティハンターギルドはその中でもナショナルシティの中に隠される様に存在しているので、プレイヤーがバウンティハンターギルドを発見したのはノート達が上位陣100人皆殺し事件を起こした『野盗討伐戦』のほんの少し前。
というのも、実装こそ告知されたが具体的な場所についての明言はなかったのだ。
そしてバウンティハンターのギルドは普通のギルドと違って看板や案内スタッフや受付スタッフがいるわけでは無い。
『涙を流す天使の銀貨』がシンボルの、大きいがしかして寂れた教会、これがバウンティハンターギルドの正体なのだ。
その情報が徐々に認知され、バウンティハンターギルドに入る為の条件が完全に出揃い始めた時にはトン2と鎌鼬にはユニーククエストが発生した後だったのだ。
というより、殆ど条件は満たしていたのにバウンティハンターの方が実装されていなかったせいでユニーククエストが発生していなかった様な状態なので、その後クエストによって長期勾留を受け、そのあとすぐ公式イベントで暴れ、勧誘から逃れるため街から避難したトン2と鎌鼬がバウンティハンターギルドをよく知るわけが無いのだ。
閑話休題。
「まあ各々事情はあって、俺たちは通常のNPCの接点は殆ど無いからなぁ。つっても、俺もスレ見てバルバリッチャやアテナで試したけどな」
結果はやはり情報スレで検証された物と同様、というわけではなかった。
タナトスはボディが骸骨なので判別が難しすぎるので例外としたが、アテナ、ゴヴニュ、ネモの3人は『日本語』を話していた。
口の動きからもそれは間違いなく、試しに文字を書かせてみても日本語を書いていた。
因みに、ノートは知恵ある死霊達に対して、『どこでその言語を学んだのか?』と興味本位で聞いている。
だが、その質問をされると全員が困った様な、なんとも言えない表情をした後に、『ご主人様(サマ・さま)から分け与えられた魂からだと思います』というなんとも不穏で不確かな回答が返ってきた。
これに関してはその後に一応質問されたタナトスも同様の答えを返している。その中でもタナトスは比較的ハッキリと解答したが、多くを語る事はなかった。
ノート第一優先のタナトスにしては珍しい事だが、バルバリッチャが睨んでいたのが関係あったかどうかは神のみぞ知るとしか言いようがない。
本当なら色々と検証したいが、世界広しと言えど世捨て人プレイしてる連中も地下帝国で完全に引き篭ってる様なROM専も含めて対話可能なNPCを従えているプレイヤーは現状ノートただ1人。
比較実験が出来ないので検証が進まない。
一方、バルバリッチャとアグラットは、口をよく観察すると日本語ではない別の言語を話しているように見えた。酒やお菓子に纏わる固有名詞などに関しては日本語のようだが、それ以外の言語に関しては明らかに口の形が不一致だったのである。
さて、これは一体どういう事か。
確かに、完全に地球とは異なる世界の人々が普通に日本語を話しているのも違和感があるだろう。あるいはALLFOというには多国籍なゲームで、もし海外のプレイヤーがこちらに来ても言葉が通じない様では興醒めだろう。
故に全く別の言語を用意したのではないか。
――――というのが今のところ検証班の中の最有力説である。
反船イベントをキッカケに最近は国を越えての情報のやり取りも盛んになってきた。その中で最も素早く、そして急進的にネットワークを構築したのが情報系や検証系のプレイヤーだったのだが、この言語の不一致は海外でも確認されており、尚且つ国を越えてもNPCは同一の独自言語を話している可能性も有志の調査で浮かび上がってきていた。
NPCの言語がバベルの塔も真っ青万歳三唱な万能言語なのか、そもそもゲームにそこまで突っ込むのも野暮じゃないか。
結局は答えは出ないままだが、ノートは少し違う見解を持っていた。
というのも、バルバリッチャの境遇に違和感を覚えたからである。
バルバリッチャがノート達と出会う以前に人と接触したかは定かではないが、幽閉されたのは相当昔らしい。つまりバルバリッチャの使う独自言語は相当昔で発展が止まっているという事である。
しかしバルバリッチャはノート達と遭遇しても流暢に話しかけてきたし、血文字だって書いていた。その後プレイヤーにも普通に話しかけていたし、日本語が普通に理解できているのだろう。
だが、バルバリッチャと一般的なNPCの使う言語が同種だとしても、長い年月が経てばある程度変異してなかなか伝わり辛くなるのでは無いか、とノートは語る。
「確かに……かなり長期間のタイムシフトをする系の物語の主人公って普通にその時代の人と意思疎通できているけれど、実際は細かいニュアンスとか話し方とかが変わってくるからそう単純な話ではないわね」
「私だったら〜、うーん、タイムジャンプしても明治がギリギリ限界ラインかな〜?」
「同じ日本語でも、平安時代くらいまで遡れば別物と言っても過言では無い」
バルバリッチャの自己申告では相当長いこと幽閉されていたらしい。
確かにバルバリッチャは見栄っ張りなところがある。だが、閉じ込められた墓地の劣化具合なども考慮してもその時間がたかが数十年単位だとは思えない。流石に数千年という事は街の発展具合から逆に無いと思うが、数百年は経過している可能性は大いにある。
それは街やその周囲の発展や技術力の発展具合からも人間(NPC)があの地に根付いてからどれくらいの期間が経過したのか地球の歴史を鑑みて非常にザックリと計算できる。
そもそも、大騒ぎを起こしたことは少しは反省しているが、『バルバリッチャがあの墓地の下に閉じ込められて数十年しか経っていないなら、あの墓地が街にとって重要な物なら、そもそもその辺りの警備がガバガバ過ぎないか』とノートは今更ながらツッコミを入れたい。
いるとすれば番犬が少々。人すら配置していない。
だというのにいざ墓石を壊せばあの始末だ。
なんだかチグハグというか不自然というか、つまり通常のNPCにはあの墓地に何が封印されていたのか、墓石がどんな役割を持っていたのか知られていなかった可能性がある。
街が数十年そこらで成立し得ない規模であり、更にバルバリッチャがおとなしく封印されたとは考えられないので、もし数十年前にバルバリッチャがあの地に封印されたなら、墓地が結界の役割を果たしていたのなら、その事をNPCのほぼ全てが知らないと言うことは考えづらい。
しかし、ノート達が情報系スレを覗いたり、内通者からの情報を精査しても、反船イベントで暴れた赤い暴君の存在の正体に関しては誰一人として辿り着いていなかった。
教会が黙秘したのかもしれないが、こういう時はシナリオの御約束として誰かしら、例えば長老とかがその正体を知っているのがベタなのだが、その気配も一切無い。
ROM専の手に情報が渡った可能性もあるが、ALLFOがそれを想定していないとは考えづらいし、抱え落ちされると面倒な類の情報なので対策をしていないとも考えづらい。
つまりバルバリッチャがあの地に封印されたのは街の成立以前で、そうなると自動的にバルバリッチャは少なくとも数百年単位で幽閉されていたと考えられる。
となれば、普通のNPCはあの墓地の役割は知らない可能性があるわけで、あんな重要な墓地の警備のガバガバさにもほんの少しだけ納得がいく。
しかし、スレの情報を見ているに教会サイドはバルバリッチャの存在を認知していたみたいなので、なぜ墓地を教会で完全に管理しておかなかったのか、という根本的な疑問が解消されていない。
守るよりも一般市民に興味関心を抱かれる方が面倒だったのか。
それぐらいどうとでも言い訳できそうだが、実際警備の甘さがあの大惨事に繋がっているあたり何かしらの理由はあるのだろう。
事実このノートの読みは正解に近く、教会はある理由で警備を配置していなかったのだが、その理由や教会の反応が遅れた事に関する裏事情に関して今のノートは知るよしも無い。
ノート達の存在が、バルバリッチャが、アグラットが、彼等の想定にとってイレギュラーだった。
それが真相である。
バルバリッチャがノートの手によって復活を遂げていなかったら、アグラットが悪魔の中でも魔法のスペシャリストでなかったら、認識障害魔法の天才でなかったら………………『よりによって』が満漢全席地和字一色大四喜四暗刻レベルで揃ってなければ起きなかった不幸すぎる事故だった。
一つでも違ったら、此処まで事態が拗れることも無かったし、ノートがリアルタイムで監視され続けることも無かったのだ。
閑話休題。
結局ノートの疑問も『ALLFOがどこまでリアリティを追求しているか』、で全くの無意味になる可能性も大なのだが、推定オリジナル言語を現在確認できる範疇で3つも作っておいてその点まで考慮してなかったとはノートは考えられなかった。
だとすると、ALLFOには歴史めいた物が存在する可能性がある。
バルバリッチャの封印、人が生きるより先に栄え、そして消えていったと思われる人形兵器の村にいた生命体の勃興と滅亡、人は如何にあの地に根付き街を築いたのか。
時系列の不明な物語の断片。
さてこの街の発展と滅亡は時系列の何処か。
「(読める文字と読めない文字、これも何かのヒントなのか?)」
不穏な街並みに胡散臭いシンボル。ノートが頭を捻れども、答えを出すに足りるだけの判断材料は未だ足りなかった。
(≼⓪≽⋌⋚⋛⋋≼⓪≽◟)本編より間話を書くのが仕方がない今日この頃




