No.115 バグ技壁抜け
ʕ•̫͡•ʕテンポアップせねば………
ドアの隙間を抜けた先、そこには大量の魔物が蔓延り、ノート達を待ち構えていた――――――――
そんな事はなく、洞窟の様だが明らかに人の手が加えられたそこそこの広さの空間があった。門の手前は象が3匹ギチギチに詰めれば並べる程度で、徐々に通路は狭くなり最後は大型バンが1台通れる程度のサイズとなっていた。
とりあえずノート達は発光する例の魔改造苔をまき光源確保。テントを設置して一応安全圏を構築する。
「おい、さっきの大丈夫だったのかよ?首がカクーンッ!って曲がってたぜ?」
テントの中にノートが意識を失ってるネモを優しく横たえていると、スピリタスが顔を覗かせる。
あまりNPC達とは関わりを持たないスピリタスだが、反船イベントでネモとコンビを組んで以降若干意識に変化見られた。
特にあの時コンビを組んだネモとは会話をしていることもそこそこ多くなったこともあってか、スピリタスもネモの状態については少し気になるところがあったらしい。
「ステータス的には問題無い。ちょっと力を使い過ぎたんだ。張り切り過ぎた、それだけって訳じゃ無い。ネモが元から持ってたポテンシャルがバフによって発揮されすぎんたんだろう」
『石橋を叩いて渡る』そんな言葉があるが、今回は強く叩き過ぎて石橋に大きなヒビを入れてしまった。そんな感じが否めなかった。
本来ネモを召喚するときに使った木盾(特殊呪受済み)は、召喚の生贄に使える類のアイテムではなかった。
普通あの状態で使えばノートの死霊の方が乗っ取られ、一歩間違えば今のバルバリッチャがいても壊滅に追い込まれるほどのレイドボスが顕現しかねなかったのだ。
それを『ネクロノミコン』が強引に抑え込み、戦闘用の力をできるだけ削ぎ落とし、リソースを生産に振り替えて、なんとか死霊という形まで落とし込んだのがネモという存在だ。
故にノートが思ってる以上に彼女は不安定で、自分の育てた植物を闇雲に害されキレたら、その『ネクロノミコン』が押さえ込んでいた危険物が溢れ出してしまう。
それがネモが召喚時から持っている性質【森傷怨災化】の正体である。
今回はその性質を敢えて強引に引っ張り出して、自分の持つ本当のリソースをフィールド干渉能力に流用する形でネモは使用したのだ。
ただ、バフでパワーアップし過ぎたせいで出力が上がり過ぎ、ネモの制御をいとも簡単に飛び越えて暴走したのは単なる事故である。
でなければ、自分の主人の仲間であるユリン達のHPやMPまで奪ってしまうなんて事は無かっただろう。
その点、ノートだけダメージを負わなかったのは召喚主という事もあるし、自分の御主人様だけは決して裏切らないというネモのなけなしの理性が暴走する精神にギリギリで勝ったというのも大きい。
その抵抗の結果が一時的な精神力の摩耗であり、この状態だ。あれだけ恐ろしい事をしていたと言うのにネモの表情が穏やかなのはそういった理由だ。
少し過剰で不適切な例になるが、ネモがやってのけたのは「生身で核爆発を重症程度で抑え込む」といった様な荒唐無稽な荒技だ。ステータスなどに致命的な欠陥が発生していないだけ奇跡である。
そこまでの荒技だったとはノートも知らないが、ネモが自分の為に全力で頑張ってくれた事は理解している。
ただのAIの産物と云う事勿れ。そこに明確な思考ルーチンがあるならば、ノートはそれを“ヒト”と見る様にしている。
最後に改めて異常がないかチェックすると、ノートはネモを仮召喚へ移行した。
「グレゴリ、この通路は大丈夫そうか?」
『〔目〕。範囲。推定。〔グッド〕』
ノートがテントから出てくると、同時に先行して偵察に向かっていたグレゴリがやってくる。そしてその報告を受けてノートはとりあえず一安心する。
余談だが、この『テント』はただの『テント』では無くギルドの公式ショップ、ノート達の場合は自販機で購入できる正式なアイテムだ。
『テント』はダンジョンだろうがどこだろうが原則設置できる物で、一時的にその場をセーブポイントとして設定できる。
因みにこのアイテム、ノートは街に入れない事を考慮してゲーム開始時に課金してまで購入している。
『初期限定特典』持ちは街に入れないので、このアイテムがないとセーブポイントが更新できない。故にゲームをする上では必須の様なアイテムなのだが、『初期限定特典』を取得したのにそこを見落としてテントを購入せずにスタートし、早期に『初期限定特典』をリタイアしてしまったのは製作陣としては割と想定外であったのだった。
しかしこれはノート達が知るよしも無いことである(補足しておくと、ノート達の中ではノートとヌコォは購入、ユリンはノートが買う事を予想して購入せず、ネオンは当然購入していない)。
一時的なのでテントを破壊or撤去すればセーブポイントは更新されるので、変なところにセーブポイントを作って詰んでしまうという事態は起きないということも補足しておく。
反面、テントは外部からの攻撃で簡単に壊れるので、ゲームからログアウトする前にフィールドに設置すると、再ログインの頃には破壊されている事が多い。
一応救済措置としてログアウト中のテントの破損はセーブポイントはその一回に限って更新されないので、戻ってきたら最後にログアウトした場所と違う場所に出てくるという事は避けられる。
移動に時間がかかるVRならではの措置であると思えば少し不自然だが仕様という範囲でこのシステムは納得できるだろう。
これがないといよいよクソゲー、マゾゲーに成りかねない。
閑話休題。
「どうする?進む?」
「そうだな、ちょっと考えさせてくれ」
ヌコォの問いかけに、ノートは顎に手を当てて考え込む。
現状、特段取り返しのつかない異常は起きていない。テントを設置したのでセーブポイントは更新されているが、何か起きたらこのテントを破壊すればいいだけの事だ。
例の蔦に関してはノート達が安全圏を確保している間に復活したのか再度扉を塞いでしまったが、想定の範囲内なので焦ってはいない。
問題は、現状がゲーム的に問題無いのかどうか、という点だ。
割とノリと勢いでギミックを強引に破壊してその先に進んだが、先程の方法はどう考えても正規の突破方法では無い。
近しい例としては、あの人形兵器に通ずる通路をこじ開けた時だろうか。ただあの時は鍵がかかっていただけで、その鍵を探す手間を惜しんで突破しただけなので超ぶっ飛んだショートカットをしていたとはノートは考えていない。
しかし今回は別。本当にチート紛いのただの力技でこの場所に来た。
イメージとしてはバグ技で壁抜けした感覚である。
物事には何事も順序というものがあって、特にシナリオが存在するゲームではそれを無視すると大抵何処かしらで不具合が起きる。
22世紀現在、ゲームの主権がVRに移動しても、ゲームがまだ据置だった頃から変わらず、ゲームのバグや裏技的な物は見る者を楽しませ、動画としても人気が高い。
ノートもそんな動画を見て笑っていた1人だ。
確かにALLFOのシナリオ修正能力は感嘆の域にあるが、ここまで強引にあれこれやっても問題無いのか、ノートはそこに確信が持てない。
バルバリッチャを仲間にして聖女リナを表舞台に引き摺り出した時点で割と大概なのだが、その点はまだALLFO側の干渉もあるのでノートもある程度割り切っているというか、深く考える事を放棄している。
ノートはその時その時で自分のベストを尽くしたに過ぎず、何かズルをしてしまったという感覚は無い。
人形兵器に繋がる扉を壊した時もそうだ。あの扉とて、ノート達以外のプレイヤーでもあそこに至るまで成長したプレイヤー全員が協力して破壊しようと思えば、鍵が無くてもなんとかなっただろう。
しかし今回の蔦の壁は頭数揃えても突破できる代物では無い。
つまり、本来はなんらかのフラグを踏んでこないとこの場所に立ち入れないのでは無いかと推測できる。
扉をこじ開けた時も似たり寄ったりでは無いか、と思うかもしれないが、あの時は順路がある程度明確化されていた。
要するに、鍵のかかった扉なのだから、『鍵』を見つければよかった。
求められている物も飽くまで物体であり、どんなに拡大解釈しても、次のチャートは『その鍵を持っているボスを倒す』とかその程度だっただろう。
しかし今回は条件が一切わからない。
しかもその先が異様に平和なのも相まって、本来は想定されていないエリアに足を踏み込んだ様な、所謂裏世界に入ってしまっているのでは無いかとノートはその様な懸念を抱く。
そんな訳でノートは割と丁寧な文面でGMコールでバグ報告をしてみるが、その返答は異様に早かった。
「(バグ、では無いのか。でも仕様の範疇って感じではないから…………てか返信早過ぎないか?AIの自動返信にしても早過ぎだろ。まさか見張ってた訳でもあるまいし)」
バグでは無いことにホッとする反面、異様に速いレスポンスにちょっとビビるノート。半ば冗談めかして『自分たちが監視されているのでは』なんてくだらない事を考えてみるが実は大正解である。
考えて考えて、しかし結論は出ない。
「まあなる様になるか。進むだけ進んでみるぞ」
最終的に出した答えは出たとこ勝負。他のメンバーもいい加減待つのに飽き始めていたので異議無しと賛成。お化け屋敷のスロープの様な通路を只々進み出す。
「この通路ってなんなんだろうねぇ?無駄に長くない?」
「ユリンの言う通り、確かに何も無い割に長い」
「逆に……何もないのも、怖い、ですね」
「そうね、少しずつ上に上がっている様にも感じるけど、何かが転がってくる罠がある感じでも無いわよね」
「ジョーンズじゃねぇしそりゃねぇだろッ!」
「あー、スピさんそれフラグって言うんだよ〜」
『女三人寄れば姦しい』と言うが、それ以上に女性メンバーばかりな『祭り拍子』はメンバー同士が打ち解けてきた事もあって賑やかだ。
本当に一向に敵も罠もなく、ただただ赤い光へ向かってのウォーキング。
最初こそ少しは緊張感こそあったがいよいよ出口が見えてくる辺りには『祭り拍子』の面々も気が抜けきっていた。
最後の最後、ノートが念には念を入れて使い捨てのアンデッドを召喚し突撃させても異常無し。
光を放つ赤い霧の先に足を踏み入れて、ノート達は息をのんだ。
そこには、何をどう考えても座標的にもおかしな程大規模な街が、空に浮かぶ真っ赤な満月に照らされながら広がっていたのだ。
( ˊ̱˂˃ˋ̱ )最近はじょるじんさんの曲を聴きながら描き進めるのがマイブーム。精神がいい感じに濁る。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽鉄の処女、ブラックハロウィン、ネバーランド、重奏オルレアンがマイフェイバリット
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽自分の精神が健全である時に聞くのをオススメします(ダイマ)