No.114 餅は餅屋へ
「なっるほど〜、これでしたら、わたしのたんとぉでっすね〜」
蔦の壁をペタペタ触りふむふむと頷くのは、本来ならばミニホームで今日も休む暇が無いほどせっせと働き続けてる人物(?)だ。
「みんなで色々検討したんだが、耐久度も尋常じゃ無いどころかリジェネ効果も異常でな。そこで植物の専門家を頼らせてもらったわけだ」
「うふふ〜、ご主人様がたよってくださりうれしいですよぉ」
なんらかの突破口になりそうな物は見つけた物の、ノート達は想定外なまでに蔦の壁の対処に手間取った。
試行その1。
メギドのハルバードを斧がわりに斬ってみる。
結果、失敗。
切り傷こそつくが、斬りきれない。尚且つ斧を抜いた先から回復する。
試行その2。
メギドのハルバードで斬って、その切り傷をネオンが火属性の魔法で焼く。これを繰り返し回復させない。
結果、失敗。
ネオンの魔法の範囲が広すぎるのに加えて回復スピードが速過ぎてスイッチが追いつかない。尚且つメギドがハルバードを手放したり戦闘以外で傷つけることを全力で拒否した。
試行その3。
ヌコォのスキルで回復を妨害。
結果、失敗。
蔦の回復スピードを上回ることができず失敗。
試行その4。
パンジャンドラム突撃。
結果、失敗。
試行せず。ヌコォが不確実性の高い物で使う事を拒否。
試行その5。
ノートのアンデッド物量戦で超地道に妨害し削っていく。
結果、失敗。
コストが割に合わないので早期に取りやめ。
試行その…………
色々とは考えてはチャレンジ。トライアンドエラーの繰り返し。
ノートもかなり頑張って考えたが、今回に限っては本当に手も足も出ず。
そこで発想を単純化。
『餅は餅屋に任せる』という昔からの非常に理に適った慣習に従って、植物のエキスパートであるネモに依頼する事にしたのだ。
ただ、こんな異常な回復力を持つ、フィールドの一部というかオブジェクトの様な物まで干渉できるかどうか、というのはノート達も疑問と不安を抱いていたりした。
しかしそんな不安を消し飛ばす様に、その豊か過ぎる胸元をドンッと叩きフフンとネモは自慢げな表情をする。
因みに、植物系のモンスターを連れてきたところで普通はフィールドの一部となっている様な特殊な植物に干渉するのはほぼ不可能だ。
しかし今回に限っては、まず召喚の時に使われてる素材がぶっ飛んでるだけあってネモが植物系に関してはイカれたパワーを持っている事。
そしてネモの属性や潜在的に持ってる特性がフィールドの属性に対し特攻の相性を持っている。
この二つが揃って初めてネモの様な存在でもフィールドに干渉できるのだ。
因みに今回に関してはネオンという最高峰のバッファーが存在し、ノートがあの武器強化のピエロマスクを被れば更にネモが力は1段階跳ね上がる。
そこに今のところ再生成が難しいバフ系のアイテムも惜しげもなく使用。ネモの力を全力で強化する。
「災果植樹妖霊の力〜、ご主人様の前では初めて使わせてもらいますよ。…………では、いきます!!」
頭もその他諸々も緩そうないつもの喋り方とは一転、その声は力強く、顔つきも真剣になる。
両手を壁に添えると、ネモの全身から黒くて怪しげな触手のエフェクトがブワッと現れてフィールド上に広がり、その瞳が真っ赤に染まる。
「ハア゛ア゛ア゛アアアアアァァァァァ!!」
声は優しげなものから、フィールド全体をビリビリと響きそちら方を思わず向かざるをえないほど悍ましい声へと変わる。
その触手はまるで木の根の様に変わり、フィールドを形成する蔦に巻きつき、絞め殺し、腐らせる。
まるでフィールドが悲鳴を上げるように白い光が明滅する。だがその光さえ飲み込んでいくようにネモから漏れ出した黒い霧がフィールドを侵食し、強制的に支配下に置き、その尋常では無い回復力を与えているラインを強制的に切断する。
供給ラインをカットされ、侵食され、殺された蔦。それを土壌に不気味に捻れた植物がメキメキと成長する。それがまたフィールドから力を吸い上げ弱らせ、新たな種を生み、不浄な木々が深く根を張り増殖していく。
「…………ノート兄、これヤバくない?ネモってこんなブッ飛んだパワー持ってたの?」
「…………いやまぁ、進化もしてるしバフも盛りまくってるし、強いとは思ってたけど、明らかにカタログスペック以上の能力を発揮してる感じは否めん」
ノートとしては奥の何かを隠してる部分だけを破壊してもらえればOKだったのだが、今のネモはそれを超えて完全にフィールドごと壊そうとしているようにしか見えない。
明らかに想定外の状態になっていないかとユリンは問いかけるが、ノートもあまりに強力なフィールド干渉能力に呆気に取られしまっていた。
そんなノートの肩をトントントントンッと勢い強めに連打する者が。それは珍しく焦ってるように見える(しかして普通に見れば無表情)ヌコォだった。
「ノート兄さん、HPとMP、フレンドリーファイアで削れてる。ネモ、暴走してる可能性アリ」
ノートはその言葉に首を傾げ反射的に自分のHPとMPを見るが特に異常はない。しかしユリン達のHPが明らかに減っていっていた。
「うお!?やっぱりおかしいとは思ったんだよ!『ネモ、主人としてお前に命じる!今すぐ行動を中止せよ!』」
普通ならばこんな暴走状態になれば、召喚主の命令とて通じなくなる。
しかしノートには【悪意に満ち満ちた恐怖の尋問官】と【汝、我の奴隷なりや】の常時発動型の強力無比なオリジナルスキルがある。
このオリジナルスキルが効果を発揮し、ノートの命令は言霊として昇華され、ネモのアビリティを強制的に停止させる。
ガクンッと意識を失うように崩れ落ちるネモ。その豊満なボディに見合わぬ軽い身体をヒョイっと担ぎ上げると、ノートは号令をかける。
「ここまでぶっ壊せばもういけるだろ!一旦ここから離れて、俺たちにダメージが出ない範囲でネオンに火属性魔法をぶっ放してもらって、トドメは鎌鼬に任せる!使う矢に制限はかけなくていいぞ!」
あとはもうスピード勝負。ノートの号令を受けてユリン達は素早く移動すると、移動中に詠唱を完成させたネオンがすかさず魔砲をブッパ。
腐り、弱りきっていたいた壁の蔦に致命傷が与えられボロボロと焼け落ちていく。
そこに最後のトドメを刺すのは鎌鼬。ネオン同様に移動中にスキルの発動準備を終え、魔砲から一テンポ遅れて二丁に構えたクロスボウから特殊な矢を射出する。
それはネオンの風属性の魔法を込めた特殊な矢をゴヴニュが錬金術で加工したもの。放たれた矢は分裂すると壁に突き刺さり、残りの蔦を切り刻み吹き飛ばしていく。
ここまで手を入れてようやく取り払った蔦の壁の先には、白くそして寂れ切った古い門扉が聳えていた。
ここにきて一筋縄では行かなそうな巨大な門扉。
鍵の様な物は特に無いし、何か特殊な光を放っているわけでも無い。ただ単に、何か遺跡の一部の扉を拡大して持ってきた様な古めかしい荘厳な扉だ。
その扉を見て、蔦が復活する前になんとかしようと走り寄るノート達。それに先行してメギドを突っ込ませると、メギドはそのまま門扉に向けて加速してタックルをかました。
すると、意外な事に大きさ相応の動きではあったが予想よりかなりすんなりと扉は開いた。
隙間の大きさにして人が1人通り抜けられるサイズ。どうやらここまで苦労させておいて更に苦難を強いるほどALLFOも鬼畜外道では無かったらしい。
ノート達は後先考えずにとりあえず進もうと、ほんの少し紅い光が漏れ出るその暗闇の先へ足を踏み入れていくのだった。




