No.106 此処に或るは黒百合の園
(´・ω・`)ゴールデンウィークフェアやりたいと思ってたのに資格試験の勉強をしなきゃならなくなったので一旦ストップかも
「なぁ、さっきのアラクネとラミア、なんでメイド服とか法衣みたいな物を着てたんだろうな?開発者の趣味か?」
「さあな?オレはメイド服ドロップしたんだが、いるか?ちょっとぼろいけど手触りはいいぜ」
「わたしは法衣をげっとしたよ~。今取り出してみたけど、割と凝ったデザインだね~」
「私は杖と法衣、あとメダル。これも凄い精緻な意匠が施されてる」
アラクネとラミアの上位個体を瞬殺し、再召喚したキサラギ馬車の中で一時休憩を図るノート達。キサラギ馬車には隠蔽状態という効果が常時発動しており、これをネオンの付与魔法とヌコォのスキルで強化することで停止中なら同ランク帯の魔物であればその認識から少しの間は逸れることができる。
その間にスキルや魔法のクールタイムを解消すると同時にこの先に待ち構える難敵に備えてタナトスが用意してくれたバフ盛り盛りの食事を取って空腹値も回復する。
今回はフライドポテトと先日安定供給ができる様になったウインナーを使ったホットドッグだ。
そんな休憩タイムの時に話題に上がったのはもちろん先ほど戦った敵の事。
上位個体と思しきアラクネとラミアだったのだが、ノート達が遠くからでも通常の個体と違うと理解できたのは、その恰好が明らかに普通の魔物ではなかったからだ。
ゾンビや野盗などをはじめとして、敵性MOBの中には最初から衣類を着ている者もいる。ボロボロではあるものの、衣類と認識できる物を着ているのだ。
アラクネとラミアもこのタイプの魔物に該当しており、少々ぼろいが大事な所はキッチリと隠せる程度の服を着ている(因みに見た目は醜悪だが女性型MOBではあるので男のロマンの先にある神秘をのぞこうにも絶対に見えないようになっている)。
そんなアラクネとラミアなのだが、ノート達の前に現れた奴らはなぜか鎧だったりメイド服だったり法衣の様な物を纏い、やけに立派な剣や杖を持っている者も多かった。数にして大体30匹程度。鎧、メイド服、法衣はアラクネとラミア両方にいて、その数の割合も大体同じ。
皆でドロップした装備を見せ合ってみたのだが、地味にアラクネ達の着ていた鎧、メイド服、法衣とラミア達の装備していた物にはほんの少しデザインに差があった。
特に顕著だったのは鎧と杖。
アラクネたちからドロップした方には円の中に2つの長方形(窓のように見える)が並んだシンボル、ラミア達からドロップした方には円の中に更に大小が不揃いの3つの円が描かれたシンボル。
メイド服と法衣にもそれぞれこのシンボルと思しきものが刺繍されていた。
「メイド服とかはまぁ、アテナとかに見てもらうことにして…………このシンボルは何だろうな?アラクネとかラミアをそれぞれ表すシンボルなのか?」
「ノート兄さん、これ見て。レアドロップっぽいメダルには全く違うシンボルが刻まれている」
ヌコォがノートに見せたのはかなり意匠が薄れた金色のメダル。擦り減っていてもおそらくは相当凝った意匠が施されていたことが分かるメダルではあったのだが、そこに掘られている物がよくわからない。
「ドラゴン…………?いや、なんか違和感があるな」
「ボクには羽の生えた牛に見えるけどなぁ」
「頭は狐っぽいと思う」
「オレには、えーっと、頭が鷹で体が獅子の………あれなんだっけ?」
「グリフィンかしら?私も少なくとも鳥類に近しいものだとは思うわね」
「そうだね~ドラゴンにしてはちょっと骨格に違和感があるけど、でも鳥類だとしても違和感があるかな~。どちらかといえば、胴の骨格は獣じゃない?そうじゃな~い?」
「わ、私には…………羽の生えた犬に、見えます」
なぜか全員の意見が分かれるメダルの意匠。しかしそうなっても仕方がないほどに肝心な部分がかすれていて見えないのだ。わかるとすれば、羽があって、足が4つで、頭に2本の角が生えているぐらいだろうか。
ノートはその特徴からドラゴンと評したのだが、トン2が指摘するようにドラゴンにしては少々フォルムが獣っぽいのだ。
ファンタジー世界の何かだから考えても無駄だろうか、そう思いノートがメダルを裏返すと、そこには表とは違い簡素な意匠が施されていた。
円を描く線の上に12の円が等間隔に、その中央にはやや大きめの円。12の円から線が伸びて中心の円と繋がっている。
見た目は車輪の様なシンボル。此方も所々掠れているが全員が見解が一致したので間違い無さそうだった。
「ノート兄さん、鑑定はしてみた?」
「してみたが、金属製のコインという以外はよくわからん。俺の鑑定師の技能は対生物寄りだからなぁ。物は苦手だ」
ヌコォに鑑定結果を聞かれて肩をすくめるノート。インベントリに収納しても『金色のコイン(?)』と表示されるだけで実態は全く掴めない。
「まあ特に魔法的な効果があるっぽい感じでも無いし、とりあえず放置でいいんじゃないか?ゴヴニュに聞いてみて特殊な金属が使われているか確認すれば何かわかるかもしれないし」
分からないものは考えても分からない。そうスッパリ割り切ったノートは十分に休憩が取れたと判断し、遂に霧のドームの奥に進むことを提案する。
手に入れたアイテムは馬車のアイテムボックスに収納。代わりに必要なアイテムを補充する。
「ノッくん、この先のは何がいると思う〜?」
「馬鹿でかい蜘蛛か、蛇か、それが合体してる奴か。あ、さっきのメダルの奴かもしれないな」
「確かに、先程のメダルがヒントになってる可能性があるわね。だったらどうするの?対地より対空を想定しておいた方が良いのかしら?」
この奥にいるのは恐らくアラクネとラミアの親玉なのだろう。であれば空を飛ぶとは考えづらいので当初の想定通り対地装備で良いのだが、先程のメダルに描かれた謎の存在には翼が生えていた。
空を飛ぶことができる敵の厄介さは身内のユリンにより『祭り拍子』は深く理解している。敵のボス個体が飛翔できるとしたらそれ相応の対応が必要だ。
幸いな事にイレギュラーに備えて馬車には色々とアイテムが積んである。鎌鼬の問いかけにしばし思案するとノートは方針を決めた。
「そうだな。折角アイテムも装備も揃ってるんだ。対地でも対空でもいけるようにしておこう。あとは陣形も少し変えよう」
『了解』
ノートの指示でアイテムを補充し装備を整える『祭り拍子』。準備をはじめて5分、用意が整ったノート達はキサラギ馬車を降りて遂に霧のドームに近づく。
10mを切り、5mの距離まで近づいてもその中は一切見えない。ノートは試しにゾンビを召喚して突撃させてみたが、ドームは普通に通り抜けたもののゾンビの反応が暫くして途絶えた。
死んだ、というよりはリンクが切れてしまった、と言った方が正しいだろうか。何かしらの結界であることは確かなようだった。
「よし、行くか」
初手奇襲を警戒してガード特化の死霊達を先頭に遂に霧のドームの中へと足を踏み入れる。それと同時にすぐに身構えるノート達。
しかし予想に反してドームの中は非常に静かで上からは何故か陽光が差し込み、周りの薄暗く霧深いエリアとは大違いだった。
明るくのどかで、しかし地面には一面ラベンダーとクロユリ、それと僅かながら目立つ白百合の様な花が咲き乱れており不気味ながらも何処か美しさを秘めた光景が広がっている。
壁は霧でできているかと思ったが、内側から見ると木の蔦でドームが形成されていた。振り返れば蔦のドームにぽっかりと穴が空いており、自分たちがどこから入ってきたのか一目瞭然であった。
一体何なんだこの空間は。相変わらず戦闘態勢のままノート達は周囲を警戒するが、唐突にドーム全体に声が響いた。
『カ、エレ…………』
『ヒキ、カエセ …………』
聞こえてきたのは2人の女性の声。辿々しく絞り出す様な声だが、元は美しい声だとわかる美声だった。
「誰だ!どこから話している!」
ノートが声を張り上げて問いかけると、暫くの沈黙の後に再び声が聞こえてきた。
『我ラニ、敵意ハ、ナイ』
『無駄ナ血ヲ、流シテハナラナイ』
『其処ヨリ帰ラレヨ』
『引キ帰セルウチニ』
声がホール全体から響いていて声の方向が掴めない。皆で耳を澄ましても位置が分からない。
「此処はなんだ!なぜ戻らねばならない! !」
まさかエリアの最奥が何も無いエリアなんて事は考えられない。それとも何かフラグを立てておく必要があったのか。ノートはそんな事を考えながら再度呼びかける。
『語レヌ』
『明カセヌ』
だが帰ってきた返答は拒絶。どうやらまともに取り合う気はない様だ。
『此処ニ貴方達ノ求メル物ハ無イ』
『得ラレル物ハナニモ無シ』
「て事は、俺たちの求める物以外の何かを守ってるわけか。ちょっと拝見したい所だなぁ」
彼女らの忠告に真っ向から刃向かうノート。急にこのホールの中に風が吹き込み花がザワザワと揺れる。
『ドウシテモ従ワヌカ、神二仇ナス者共ヨ』
『ドウシテモ聞ケヌカ、神二仇ナス者共ヨ』
「神に仇なす者だと?なるほど、お前ら教会サイドか?」
このエリア全体に発生する『感覚惑乱』の状態異常。法衣らしき物を纏ったアラクネとラミア。この神聖さを感じさせる空間。
そして『神に仇なす者』という呼びかけ。
「(このエリア、『感覚惑乱』とか『沼地』とかやけに探索そのものを断念したくなるほど意地悪なギミックが多かったが、これは人を近づけさせないための仕掛けなのかもしれないな)」
ノート達はグレゴリというチート的な存在により『感覚惑乱』を無視し沼地をノートとネオンのごり押しで突破してしまったが、本来であれば十分にマージンを取っていても完全攻略には非常に時間がかかるようになっており、そのうえ取れるアイテムも攻略自体にはそれほど有用でもないのでリターンも少なく探索をするうま味が少ない。
アラクネとラミアも強いというよりは倒しづらく、手間取っている間に囲まれて物量で圧殺される。時間のかかる攻略に神経をすり減らし、減っていく回復薬やその他諸々の消費アイテム。同じ敵を倒すだけなので一向に上がらないランク。もし正規ルートの道から落ちれば原則一からやり直し。
通常であれば馬鹿の取ってきたバイキングのように心折設計たっぷりのエリアギミックなのだが、そもそも立ち入らせる気が無いのなら少々納得もできるという物。
「オーケーオーケー、要するにこの先神の敵なんて扱いになってる俺たちに近づいてほしくない物があるってことか。ならば悪魔陣営よりの俺たちは暴かなきゃなぁ?よかったよ、お前達が俺達の明確な敵で、後腐れなく殺せるからさ」
警告が親切で言っている可能性も無きにもしもあらず。よって喧嘩を売りつつも本当に事を構えるかはギリギリまで考えていたのだが、おあつらえ向きの大義名分(当社比)を与えてもらったことでノートは吹っ切れた。
「さあ出て来いよ。お前たちの死体の上でお空に向けてタップダンスの披露会でもしてやるからよ。神とやらも天から喜んで見てくれるさ」
『『…………愚カナ者ヨ、ナレバ殺シキルマデ殺ス他ナシ』』
高値で喧嘩を売りつけると、重苦しそうな声と共にノート達の正面の蔦の壁がメキメキと音をたてながら動き、そこには白い光の門が出現。その扉が開き、光の中から大きなアラクネとラミアが現れた。
大きさにして象ほどの大きさ。それぞれ聖女の様な服を纏い、アラクネは白い炎をそのまま固めその真ん中に紅い宝石をはめた物が先端についた白い杖を、ラミアは刀身が薄い黄色の光で形成された銀の大鎌を携えて姿を現した。
『『我ラハ虚旧ノ守人ルーナウラ・ソーラシル。イザ参ラン』』
「躊躇う必要はない!ブッ潰せッ!!」
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
(´・ω・`)黒百合、白百合、ラベンダー
(´・ω・`)因みにこの二人、本来は超優しい人たち
(´・ω・`)戦いたくなんて無いのさ




