No.105 開発泣かせの立体迷宮RTA
(´・ω・`)天丼は無しの方針で
(´・ω・`)パンジャン使おうかなって迷ったのは此処だけの話
『深霊禁山之蛇蜘人塒』の攻略方法は至ってシンプル。迷路も物量戦も無視したゴリ押し戦法だ。
あのエリアの難点は通路があまりにも難解であり狭いことと、敵の弱点が火属性とわかっていながら火が使えないこと。下の道は障害物こそないが泥道でまともに通れそうもないし、どうしても上の道を通ることを強いられてしまう。
そこでノートは発想を転換してみた。
沼地が通れないなら、凍らせてしまえばいいじゃない。
上から糸が降ってくるなら、その高所を焼き払ってしまえばいいじゃない。
要するに巣全体を焼き払い沼地を沼地として機能させないことでギミックを破壊してしまう事にしたのだ。
普通のパーティーではそんな正気とは思えない案が出ることはないが、こちらにはネオンという人型最終兵器魔力砲台がいる。おまけに称号の効果で破壊力と火属性の攻撃が強化されている始末。
樹に糸と可燃物もそろっているので森はよく燃えることだろう。
ノート達は再び森に帰還すると、初手からネオンの火属性魔砲。
小規模ながらエリアの一部を吹っ飛ばし、ノート予想通り火は木々に燃え移り大炎上した。
「ネオン、今度は地面を!」
「はい!」
巣は阿鼻叫喚の事態に陥るが、その一方で今度は地面を魔法で凍らせていく。ネオンの魔法はいちいち必要魔力量が多い代わりに規模がデカい。沼地を丸ごと凍らせて即席の道を作り上げる。
その道の上を走り抜けていくノート達。滑りやすく不安定ではあるが糸の道よりはマシだ。
だがそれよりも燃え移る火のスピードは速く、あっという間に周囲は噎せ返るほどの熱気と赤い炎の光に囲われる。そしてその木が本来は中立エリアとしての機能を有していたあの輝く樹にも引火し、樹から悲鳴を上げるような音がする。
そして周囲の霧が濃くなり、怒り狂っていたアラクネとラミアがバタバタと倒れだし、樹が裂けてその中から――――――――――
なんてことになりかねないので、焦土作戦は一時的に立案されたが却下された。
川から出てきた謎の存在の一件から中立エリアに手を出すことはヤバいとわかっていたので、この作戦は見送ったのだ。流石のノート達と言えど、いたずらに何度も見えてる地雷を踏みに行くつもりはない。
そんなわけで、最終的に採用されたのが死霊物量アタック。
ヘイトを集中させることに特化したゴースト型の死霊を召喚しアラクネの攻撃を誘引。沼地に関しては盾持ちのゾンビやスケルトンを沼地の中に召喚し、彼らが上に構えた盾の上を皆で渡っていくというとんでもない金持ち作戦だ。
もちろん、あくまでノートのMP残量や魂のストックと相談したうえで、ヤバいときはネオンが地面を凍り付かせて突破するということで話が纏まった。
本来であれば、ネオンの魔法で地面を凍らせて進む方がよほどコスパがいいように思えるが、もしこの場所を切り抜けた後にボス戦となったらその時に一番のメイン火力が魔力切れでは困る。
一方でノートはMPの自動回復に特化しているうえに、今は大量の魂のストックがあるのでこんな贅沢な使い方をしても特に問題はない。さらに言えば、足場に使うような程度の死霊の魂を使ったところで痛くも痒くもないし、もしボス戦にいきなりなってもそこまで悪影響は予想されない。
そういう点も含めてこの作戦が採用された。
結果は大成功。
魔法攻撃のできないアラクネどもは見事にゴースト型の死霊に翻弄されフレンドリーファイアまで起こす始末。
一方でラミア共は対地攻撃に専念したノート達に全く歯が立たない。
戦闘は極力避けスピーディーに対処。死霊達の橋の上をノート達は駆けぬけていく。
また、魔物を蹴散らしていく一方で、このエリアの『感覚惑乱』の効果により真っ直ぐ走っているつもりでもどんどんあらぬ方向に向かってしまうという厄介なギミックに関してはグレゴリが定期的に正しい進路をノートに知らさせることであっさり解決してしまった。
実はこのエリア、魔物以上にステージギミックが厄介な場所なのだ。よって大きく道を迷いたくなければ戦いにくい糸の道という名の立体迷路を地道に進むしか無いのだが、『感覚惑乱』はその仕様上グレゴリには弱い。
『感覚惑乱』という状態異常がノート達の認識を狂わせているというより、“空間が歪んだ場所”にいると起きる状態異常なのだ。
近しいもので言えば高山病を挙げれば分かりやすいだろう。
一方でグレゴリはゴースト型であり、物理的影響を非常に受けにくい性質を持っている。ゴースト型の魔物が羽や推進機関も無しに浮遊できるのはこの様な仕様になっているからだ。
特にグレゴリは探査特化型な上に、【影渡り】という特殊な能力を持つ都合上他の魔物とは文字通り別次元のレベルで空間認識能力に長けている。これによりグレゴリは本来観測不可能なはずの“空間の歪み”が観測可能なのだ。
走って走って、敵を振り払いながら進むこと僅か15分。ノート達は前方に非常に濃い霧に包まれた巨大な円形のドームを発見する。
本来適正ランクに対して十分なマージンをとっていてもこのエリアは壁の無い迷路の様な場所なので迷子必須。AIのシミュレーションでもどんなに早くても攻略には2週間かかるはずだったのだが、ノート達は僅かな時間で最奥までの道を見つけてしまった。
さながらチート込みのRTA。ここの設計者が泣きたくなる様な強引さでたったの2回目で難所を突破していく。
そんなノート達の前に今までとは様子が違うアラクネとラミアが姿を表した。
「なんだアレ?ノート、どうするッ!?」
「あのドームがゴールだとしたら、コイツらが門番か!見た目からして普通じゃ無いな!今更止まれないしこのまま突っ込むぞ!ネオン、地面凍結!スピリタス、トン2任せた!」
「はい!〈ギガペルマフロスト〉!」
「ヨッシャァッ!」
「オッケ〜!」
ノートの死霊ロードが無理と判断した時のために前もって発動待機状態にしておいた特殊な魔法。ネオンの魔法は莫大なMPを要求する他に更に生贄や触媒を要求する事もあるのだが、今回の魔法は触媒を要求してくる少し面倒な魔法。しかしそれに備えて触媒の貯蓄もたっぷり補充してきてある。
希少なアイテムが消滅すると同時に発動するのは周囲一帯を凍らせる災害魔法。それが称号の力で更に強化され、地面どころか木から糸、立ち塞がった上位個体と思しきアラクネとラミアまで一気に凍らせてしまう。
それにより図らずも遅延が発生してアラクネとラミア達の初動が大きく遅れる。
その間に解き放たれた2匹の猛獣が氷の地面の上を対氷結スパイク仕様済みの靴で疾走する。
前もって地面が凍る可能性があると把握しているなら対策しておけばいい。
機動力の差異はラミアが沼地の動きで実証していた。ならば此方も有利になる地面に切り替えて仕舞えばいい。
氷結状態から彼女らが解放される僅か一瞬の間に肉薄したスピリタスとトン2。
スピリタスの蹴りが、トン2の振るった薙刀が、先頭にいたアラクネとラミアのリーダー格らしき存在の頭を捉え吹き飛ばす。
続けて2撃目は回避に専念された為に仕留めることは出来なかったが、攻撃が当たった数体にはしっかりとダメージを与えていた。
凍った地面の上での回避行動は彼らの命を救ったが、同時に足を滑らせて大きく姿勢を崩す。
かたや多脚、かたや蛇足なので人間が滑った時ほど姿勢は乱れないが、それでも即座に次の回避行動に移れないのは確か。
そんな彼女らに対してノートは女王個体との戦いでも使った梟のゴーストを召喚。姿勢を大きく崩した彼女達に殺到させるが彼女達も即座に身構える。
彼女達が天に翳した手が白い光に満ち、その手から何かを放とうとしている。
「(魔法?なるほど見た目はブラフじゃ無いのか)」
白色という事は恐らく光か聖属性。アンデッドには有効な魔法だ。だがそれを見つめるノートに焦りはない。
光が強まり彼女達が一斉に魔法を放とうとしたその瞬間、彼女達の背後からナイフの雨が降り注ぎその身を貫いた。
彼女達の背後上空に舞うのはユリン。スピリタスとトン2のアタックはあくまで前座。ノートの死霊はブラフ。
ヘイトと視線を誘導して、その間にヌコォにスキルで“重さ”を奪って貰った本命のユリンが高速で飛行して背後に回り、各種状態異常を引き起こす毒を塗り込んだナイフをプレゼントする。
ノート達の実験ではアラクネとラミアは毒や麻痺などの状態異常耐性が高くない事は分かっている。むしろかなり効く。それは種族共通の性質の様で、上位個体と思しき彼女らもナイフによって毒や麻痺などの状態異常を引き起こしていた。
因みに状態異常になりやすいというのはあくまで毒などの生成に長ける奴らが多い『祭り拍子』での話であって、同ランク帯の魔物に比べるとかなり効きやすいが極端に耐性が低いというわけでは無い。
毒に身体を侵され身もだえする彼女たちだが、ノート達の攻撃は終わってない。ノートの召喚したメギドがうなり声をあげながらハルバードを振り上げ、まともに抵抗できない彼女たち目掛けて一気に振り回す。
横っ腹をざっくり切り裂かれ吹っ飛ぶアラクネとラミア達。そこにネオンの火属性魔法が炸裂。本来なら引火が怖くて使えないが、この一帯はネオン自身の手で凍らされているので引火の可能性はない。弱点である火属性魔法をまともに食らいアラクネ達が絶叫する。
本来であれば、遠距離から一方的に光属性の魔法の弾幕を張り、背後から来たアラクネ・ラミア連合との挟み撃ちになるところなのだが、その大事な初撃をネオンという規格外の魔術師が封じ、続けてそれぞれのリーダー格が渾身の一撃を食らって早々リタイア。そのうえ弾幕を張る前に前衛職の接近を許してしまった。
実はこの上位個体連合は回復魔法まで使いこなすので殺しきらないとすぐに復活するという悪夢のような性質を持っているのだが、彼女たちに死者を蘇らせるほどの力はなかった。
そこに追い打ちをかけるように状態異常耐性の低さを突いた不意打ちの攻撃。
麻痺状態で強制的に魔法はキャンセル。攻撃も回復もできない。トドメに弱点でありながらこのエリアでは使えないように誘導されている大火力の火属性魔法。
彼女たちはそれでも最後の反抗を試みるも、発動しようと手に白い光を宿した者から漆黒のボウガンを構えた鎌鼬に頭を射抜かれて死んでいく。
初動が遅いヤツはヌコォがスキルでMPを奪い魔法を発動させない。
ゴール手前と思しき場所を守っていたのだろう上位個体連合をノート達は特に打ち合わせもせず純粋なチームプレーで瞬殺して見せた。
(´・ω・`)これが今の『祭り拍子』の強さ
(´・ω・`)洞窟戦を経て連携力が高まりパーティーとして機能し始めております
(´・ω・`)この癖の強い連中だけで連携を成立させるように働きかけられるのがノートの強み。
(´・ω・`)ノートが無双しなくても十分強いのよ
因みにここの開発担当はノート達の攻略方法を見て血涙を流しておりました。
(´・ω・`)カワイソス




