No.102 蜘蛛糸立体迷宮①
「よし、全員来れたな。落下にだけは気を付けてくれよ」
ノート達が攻略を開始して10分。
突撃前にフィールドを観察してみたが、木の下はどうやら沼地のようになっており歩いて進むことは現実的ではない。ノートが威力偵察として数体のスケルトンウォリアーを送り込んでみたが、沼地で進軍速度は大幅に下がり、その反面ラミアは遅くなるどころか機動力を増しアラクネは糸の道という安定した足場から一方的に攻撃を仕掛けてくる。
となれば進むべき道は一つ。木と木の間に張り巡らされたプレイヤーが5人手を繋いでも渡れるほどの幅がある糸の道だろう。
おあつらえ向きに木からは太めのツタが幾本も吊り下がっている。ノート達はネオンの魔法のような目立つ攻撃を控えつつ周囲を軽く制圧し、一人ずつツタから上へと昇った。
高さにして20m以上。建物の4階から5階に相当する高さなど普通なら登り切れる方が少ないだろうが、ゲーム内の筋力補正があれば後衛職のノートやネオンでもスイスイ上ることができる。
ただし手すりも何もない橋だ。微かに揺れるし位置も高いので怖い人は怖いだろう。幸いなことに『祭り拍子』に高所恐怖症はおらず、怖がりそうなネオンものんきに下を見下ろしていた。
「こうしてみると結構綺麗だねぇ」
「そうだな、糸の道が割といい感じに張り巡らされてる」
なかなか見れない光景を眺めるノート達。最後に飛んで上まで来たユリンはノートの横に着地してスクショを撮る。
「さて、一時ののんびりタイムも終わりだ。来たぞ」
キィキィと喚きながら糸の道を伝ってこちらに向かってくるアラクネ。
鎌鼬がすかさずボウガンを放つと飛び出した矢はその頭を射抜き、アラクネは木の下へ落下していった。
「ナイスショット。改めて言うことでもないと思うが言っておくぞ。とりあえず今までの感じからしてラミアもアラクネも火属性に弱い傾向にあるが、この状態で火を扱うと糸の道まで焼けてしまう事が予想される。糸に向けての火属性攻撃はできるだけ無しで頼むぞ」
その一匹がトリガーだったのか、その後ろから続々とアラクネとラミアがやってくる。
橋の上を歩いてくるアラクネを撃退し、沼地を器用に通って木を登ってこようとするラミアは登ってくる前に撃退する。
敢えてメギドは木の下を通らせてヘイト分散を兼ねた囮として活用し、ネオンの魔法で樹下のラミアを殲滅し続ける。糸は上下左右に交差するように張り巡らされているため、わずかな油断が危険を招く。できるだけ背中合わせになる様にしながら、ノート達はゆっくりと足を進めていく。
「頑張れよメギドー!死ぬなよー!」
『Guoooooo!!』
ノートの応援に咆哮で応えるメギド。洞窟探索では途中でお留守番になってしまったこともあって憂さ晴らしをするように無双している。
二足歩行の人間にとって沼地は進みづらくて仕方がないが、多脚のメギドにはあまり関係がない。安定した足取りで沼地を進み、上から降ってくる蜘蛛糸を物ともせずにその巨大なハルバードでラミアも真っ二つだ。
ラミアは多少フィジカルに能力を割り振られていても、洞窟にいた魔物に比べたらその防御力は格段に劣る。
荒狂う暴風と化したメギドは進撃を続ける。
一方でノート達の進行は思ったよりも難航していた。
「ノート兄さん、次はどっち?」
「えーっと、待てよ。あの道がここに繋がってて…………あれがあっちで…………ちょっと待て、アラクネが邪魔くさいな」
蜘蛛糸の白い道は木々の間を繋いでいるが、人間の築き上げる素晴らしき発明品である高速道路のようにわかりやすい道どりをしていない。
全ての道が真っすぐにつながっておらず、多数の分岐に立体的交差、似たような光景が続くせいで迷路にも感じる。
よってどこをどう通れば効率よく先に進めるのかが分かりづらい。今のところ一番余裕のあるノートが先導を担当しているが、コースを決定するのになかなか難儀していた。
「(うーん、面倒くさいから燃やし尽くしたいけど、おそらく一旦はあそこに向かえばいいんだよな)」
ノートが見るのは先行させたグレゴリが視界共有で見せてくれる先の光景。入り組んだ道の先にはアラクネもラミアも寄り付かない光輝く大樹があり、そこには不自然なまでに大きな“うろ”があった。
感じからして恐らくはノート達が拠点としている中立エリアの結界に近しい物。予測するに休憩地点なのだろう。
「一応、安全地帯らしきものは北東方面に存在している。まあ罠の可能性も無きにしも非ずだがそこまで性根が腐っているとは思いたくない。ルートは割と適当でごり押しでもいいか?」
「このまま亀の歩みで進むよりマシじゃな~い?」
「もうぶっ飛ばしていいかコレ!?めんどくせぇッ!」
ノートの問いかけに真っ先に反応するは前方と後方をそれぞれ護るスピリタスとトン2。通路が狭いのにフルパワーで戦えないので彼女たちは少しイライラしていた。
「よし!スピリタス、吹っ飛ばせ!序盤で詰まってるのも面倒だし強引に進んでいいぞ!」
「ハハハ!それでこそノートだッ!いくぜ!〔鬼覇咆壊〕!破ァ!!」
発動するのは反船イベントにて獲得したユニークスキル【鬼覇咆壊】。簡単に説明すれば女王蟻の使った『咆哮』とほぼ全く同じもの。『声』をトリガーとして物理属性の衝撃波を解き放つ。
空手仕込みの気合の入った声は強い衝撃波に変換され、道を塞ぐアラクネを吹き飛ばす。その余波で後ろのアラクネ同士が激突し、何体かが木の下に落ちていった。
「〔金剛頑強〕!」
続けて自分の身を硬化させるユニークスキルを発動。姿勢を低くするとそのまま前線が崩壊したアラクネたちに突撃し蹴りおとしていく。
「フィーリングで適当に進むから、行き止まりでも文句言うなよッ!」
「明らかに逸れてたら言うから突っ込め!」
敵を強引になぎ倒しながらがむしゃらに突き進むスピリタス。戦えるフィールドに制限があるという事は立ち回りに制限が付くという事だが、裏を返せば敵もそれは同じ。
『敵を倒す』のではなく『敵を落とす』ことに行動指針をシフトしたスピリタスの動きは今までより格段にキレが増し、落ちてきたアラクネたちは落下ダメージで動けないところを下で待ち構えてるメギドに悉く着地狩りをされていた。
「いいなぁ~あれ~。わたしも斬撃飛ばせないかなぁ~?」
「やろうと思えばいつかはできそうだけどな」
先頭に立ち道を強引に切り開くスピリタス。それにより殿を担当していたトン2の負担が減り、ノートの後ろを走りながらスピリタスのスキルを羨ましそうに見ていた。
因みに後ろからはアラクネたちが追いかけてきているが、威力のみに特化したオーダーメイド短弓を装備したトン2に見もせずに射抜かれ、こちらに近づけていない。
「の、ノートさん、今言うことでもないと思うのですが」
「どうした?」
スピリタスの後を皆で追走しながら進んでいく途中、ネオンが急にノートに話しかける。ネオンが指をさす先には周りよりも若干太めの樹があった。
「あそこの樹、穴のような物があって、その中に何かがあったような気が」
「ほう?ユリン、回収行けるか?」
「任せて!」
さて、本来ならまた立ち止まりその樹へのコース取りを考えなければならないのだが、そんな時に圧倒的なアドバンテージを持つのが飛行能力を持つユリンだ。
グレゴリの下位互換死霊による疑似的飛翔など鼻で嗤うほどの飛行能力。そこに反船イベントで得たユニークスキル【空舞討天】の後押し。飛行時間を延長するスキルを発動し、躊躇うことなく糸の道から飛び立った。




