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No.101 深霊禁山之蛇蜘人塒

新章開始

(´・ω・`)ちょっと時を進めるよん




「いや~さすがにボスとしての強さがあったね~!」


「強いっつうか、めんどくさい敵だったなっ!」


 爆発する象サイズの赤いポリゴン片。ノート達『祭り拍子』は30分以上にわたる戦闘の末に、深霊禁山の一画を支配していたボスを撃破した。

 

 ノートが単独で女王蟻を撃破し、多くの戦利品を提げて帰還したのが既に1週間も前の事。場所は深霊禁山の半ば、木々が鬱蒼と生い茂り霧深いゾーンの奥地。

 洞窟探索で得たアイテムの分配を行ったりアテナとゴヴニュに製作を依頼していた武具を受け取り、『祭り拍子』は深霊禁山の探索のリベンジを開始。

 かつてノート達がラミアとアラクネに襲われた場所に赴いた所、彼らは再びラミアとアラクネに襲撃された。

 以前と同様その数はかなりものであったが、あの時とはランクもメンバーの数も全く違う。洞窟探索で格段に上昇した連携プレイによりアラクネ・ラミア連合を相手取り、消費アイテムを殆ど使うことなく圧勝した。

 大きなランク差をひっくり返し洞窟でも十分に戦えた『祭り拍子』だ。そんな彼等に正式な武器と防具が与えられれば、ノートとユリンの2人きりでランク5の時でも戦えたアラクネ達に負ける事はない。


 そんな惨敗に追い込まれたアラクネ・ラミア連合だが、全滅させられる前に上位個体に相当する個体が数体逃走した。

 もちろん殺そうと思えば殺せた。しかしノート達は折角の探索なのだからと、敢えて逃走した個体を殺さずに何処へ逃げていくのか追ってみることにしてみた。


 ALLFOの魔物は賢さの値が高いほど、戦況が不利になるにつれ特殊な行動を取ったり逃走を行ったりする。

 ノート達が洞窟で見た魔物共の一斉大脱走しかり、魔物は脅威を感じると逃げる様にプログラムされている。

 だが、逃げると言っても何処へ逃げるのか。

 洞窟の魔物共の大脱走の行先が次いぞ分からず、また女王蟻の宝物庫からノートが掻っ払ったアイテムの中には色々と不自然な物も多く、色々とモヤモヤしていたノート達は、まずラミア達で思考ルーチンを分析する為の実験してみることにしたのだ。


 ラミア・アラクネ連合の残党は逃走を開始すると、ノート達が拠点として使っている円形結界とは別方向の森の奥へと進んでいった。

 それと同時に異変も起きた。ノートとユリンが深霊禁山で遭難した時と同じように、急勾配の多かった山が平らに感じだし、何処もかしこも同じように見え始めたのだ。


 その状態異常が起きると同時にノート達はラミア達を見失った。

 あの時よりもランクを大幅に上げてなお、レジストできない強力な状態異常。本来なら右往左往してしまう所だが、今のノート達には捜索を専門とするグレゴリがいる。

 

 グレゴリはノートに命令を与えられると即座にアビリティとスキルをフル活用しラミア達の追尾を開始。完全なアンデッドであるが故か、それともそこに秘めた莫大なリソースのお陰か、グレゴリはいとも容易く逃走中のラミア達を捕捉しノート達の先導をする。


 進めば進むほど暗くなる森。やがて足が冷えるような感覚と共に霧が濃くなっていく。

 途中で現れるラミアやアラクネをやり過ごしつつ追跡を続ける事10分、ノート達は『特殊エリア:深霊禁山之蛇蜘人塒』へと辿り着いた。


 そこはまさしくラミアとアラクネの巣と形容可能な場所であった。

 エリアの中にはそこそこの規模の泥沼が点々と、その近くには土で築き上げた大きなかまくらがそこかしこに存在する。

 そしてそのかまくらの上を跨ぐように糸で形成された白い道が木と木の橋となり何層にも立体的に張り巡らされていた。


 明らかにそれは魔物の道として機能しており、アラクネだけでなくラミアもその通路を利用して移動している。

 糸で作りあげられた橋の上ですれ違う時はお互いに道を譲り合ったりしており、その動きは魔物というよりは人間のようなやりとりであった。


 ここまで敵の数が多くなるとそれをやり過ごして追跡をし続けることは不可能。隠密特化のヌコォであれば単独潜入が可能であり本人からも申し出があったが、万が一の事も考えてその案は無しにした。

 

 さて、逃げ出したラミアとアラクネの行先は判明したが、このまま引き返すのも勿体ない。ノート達はエリアの隅っこに一時的な拠点を築いて話し合いを始めた。





「どうする?首突っ込んでみるか?」


「いいんじゃねぇか?さっきの手応えから考えてもよ、あの洞窟よりは絶対マシだぜ。退路も確保されてるしよ。一番奥まで行っちまおうぜッ!」


 ノートの問いかけに真っ先に賛成の意向を示したのはノートの隣に座ったスピリタス。

 1週間前より明らかにノートの近くに居るようになったスピリタスだが、何があったかはその態度でなんとなくわかるので周りはツッコまないで暫し放置している。

 仕方がない。どう見ても今の彼女は脳内お花畑状態なのだ、なんならその幸せオーラが花粉となって撒き散らされ周囲まで浮き足立ちそうになる程に。

 そんな彼女が冷静さを取り戻すにはまだ少し時間が必要なのである。


 閑話休題。


「多分この奥にボス個体とか居るでしょ〜?まともにボス戦やってないしさ〜わたしも探索続行にはさんせ〜」


 続いて賛成の意を示したのはスピリタスと双璧を成す武闘派のトン2。この2人はもともとバトルジャンキーでありリスクよりは楽しさを重視するので、彼女達の発言に驚きは無い。

 むしろノートがソロで女王蟻の撃破を達成した為に、一時はズルいズルいと騒ぎ続けていたのだ。

 口頭だけの報告ならまだしも、その死闘はアグラットの協力によりリアルタイムで中継されたのだ。トン2とスピリタスが一層興奮したのは言うまでもない。


「ボクもこの程度なら十分に戦えると思う。今のところ出現する魔物も限られてるし、だとするとイレギュラーの発生も少ないと思うんだよねぇ」


 続けて、トン2やスピリタスより控えめだがバトルジャンキー気質なユリンも賛成の意を示す。

 今回の場合は洞窟探索と比べてリスクが大きく下がっているのは間違いなく、特にエリア名からもなんとなくその実態が事前にわかる、というよりネタバレされてるので、ユリンも賛成票を出したのだ。


 アラクネはトリッキーな動きのせいで仕留めるのが若干難しいが、それさえ対処できれば単体性能自体はそう高くない。

 一方でラミアは速度もパワーもあるが、下半身が蛇であることを活かした攻撃をしてくるだけで特筆すべき能力は無い。


 アラクネに関しては高威力広範囲殲滅ができるネオンにとってはいいカモであり、ラミア達はスピリタスとトン2で十分に迎撃可能。

 後衛からヌコォと鎌鼬で撃ち漏らした個体を処理して、全体のバランスをノートとユリンでコントロールすれば囲まれても負ける可能性は低い。

 

 ユリンがそう補足し探索の続行を後押しする一方で、ヌコォは反対票を出した。


「見えすぎているからこそ、警戒すべきだと思う。ALLFOはそんなに単純なフィールドを用意するとは思えない。何かしらの罠が存在しているラインも十分に考慮すべき」


 もしボスに相当する存在がいても、一気にそこまで探索する必要はないとヌコォは相変わらずの無表情で締め括る。


 ALLFOの製作者の事を信じるには、ALLFOはノート達に対して色々と前科があり過ぎた。

 まずノート達の初期限定特典から始まり、バルバリッチャとの遭遇、祟り神擬きに川の怒り、恐ろしき何かを封印していた村、キナ臭い教会サイドに不可思議な点が多く見受けられる洞窟。

 意図的にPLの裏をかくような、意表を突くようなイベントや仕様、ギミックに振り回されたノート達がすんなりとALLFOを信じていいものだろうか。これはあまりにも見えている地雷では無いかとヌコォは指摘する。


 そんなヌコォの意見にネオンも賛同の意を示した。


「ヌコォさんの、言う通り…………一度での攻略は、その、難しい気がします。洞窟でも苦戦しましたし、相手がシンプルだからこそ、しっかりとした用意が、必要だと思います………また何かあった時が怖いですし……………」


 もともと慎重派のネオンではあるが、暇を見て行われるノートのカウンセリングのおかげもあって最近はノート以外の『祭り拍子』の面々にも自分の意見を言えるようになってきた。

 今やネオンはその並外れた記憶力でアイテムの管理から情報整理までも担当できるようになり、非常に強力な力を持ちながらも慎重かつ堅実な運用で大火力の魔法を扱えるということで異常なヤツしかいない『祭り拍子』の面々にも実力を認められつつある。

 特にこういった大勢で遠距離からの攻撃を得意とするアラクネのような敵はネオンにとって非常に相性が良い敵であり、撃破率も『祭り拍子』のトップだ。


 だがしかし、意見を言えるようにはなれど飛躍的に自信がつくわけもなく、特に自分の実力に関しては周囲の評価よりもかなり劣った評価をネオンは自分自身に下してしまっている。

 そもそも、初めてのVRMMORPGでありながら『祭り拍子』という異端なパーティーの一員として活動し、初期限定特典というゲーム慣れしている者でも取り扱いの難しいものを運用できている時点で他のプレイヤーより数段質が高い。

 

 だが他のプレイヤーとのやり取りは絶望的であり、ネオンが間近で接するプレイヤーは『祭り拍子』の面々に限られる為に一般的なプレイヤーというものがネオンにはわからない。

 簡単にいえば比較対象が悪過ぎるのだ。


 ノートもネオンのその認識に関しては常々なんとか改善しようと試みているが、元々の気質も相まってこちらは難航している。


 そんなネオンにとって洞窟探索による一件は大きな影響を及ぼした。自分達が総力をあげても切り抜けられない状況は今までもあったが、ノートから離れてのハードな撤退戦は初めての経験。

 あの時はなんとか切り抜けることができたものの、自罰的で自責の念が強い傾向にあるネオンにとってはあの撤退戦は非常に強いプレッシャーとなっていた。切り抜けはしたがその後しばらく精神的に不安定だったと言えばどれほどのプレッシャーだったかは理解できるだろう。

 今のネオンにとってはノートに失望されることが最も恐ろしいことなのである。

 もともと臨機応変な動きが苦手なネオンにとっては、異常事態が予想される状態に対して今は普段より苦手意識がある。そうであるがゆえに、ネオンは入念な準備を行うというヌコォの判断を支持した。

 

 もうあんな思いはしたくない、無意識にそう強く願いノートの隣 (ちゃっかりゲットしてる)から縋るようにネオンは強い視線を送る。

  

「そうね、短期間で死ぬのを繰り返すのもよくないでしょうし、楽にクリアできそうであるからこそ敢えて慎重に動いた方が良いのではないのかしら?」

 

 そして皆の意見を聞き今まで黙していた鎌鼬もヌコォ達の慎重路線を推す。

 鎌鼬としても手ごたえ的には突撃しても構わないのだが、洞窟ではそれで痛い目を見ている。装備の更新により絶好調といえるからこそ、舐めてかかって死ぬのもしらけるという物だ。

 状況を見て決めても構わないけれどね、と鎌鼬は締めくくり最終的には中立的な意見。ノートに視線を送り話をまとめるように促す。


「そうだな、どっちも悪くない意見だ。それにグレゴリのデスペナ軽減能力は乱用していい能力ではない。比較的に楽そうに見えているからこそ警戒はすべきだろうし、クリアできそうならより確実な成果を求めるべきだ。まぁ半分くらいまで潜入して、イレギュラーな事態が多いようであれば情報収集に方針を切り替えよう。それでいいか?」


 皆の意見を取りまとめ、折衷案を出すノート。全員が同意するように頷き、彼らは『蛇蜘人塒』の攻略を開始した。


  

 

( ˘ω˘)スヤァ

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― 新着の感想 ―
[良い点] VRMMOがゲームらしい設定の下描かれているところ 神様転生の『転生特典』を『キャラクリガチャ』や『ユニークスキル』『称号』に置き換えただけの実質異世界転生作品が見られるなか、過剰ともいえ…
[一言] わかりやすいテンプレが全部罠なの怖すぎん?w さすがALLFO
[気になる点] 特殊っていうくらいだからプレイヤーが見つけるのは難しいのかな? [一言] 新章の名前すごく気になる
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