No.99 瞋恚に蝕まれし女王と孤独な亡霊~④
(´・ω・`)みにまる春のゲリラ祭りラスト!
「えぇ………なんなのこの魔法~、めちゃくちゃ~じゃん?だよね?」
「職業を無視したスキルや魔法の行使、瞬間移動に武器の即席創造、バグったボスみたいね」
ミニホームのリビングにて大画面でノートの戦いを観戦するトン2達。ノートと女王個体第二形態の一騎打ちの様子を見てユリンたちも唖然としていた。
こんな状況になったのは約10分前の事。ノートがチマチマと女王個体のノーマルモードと闘っている間に撤退中のユリンたちと迎えにいったスピリタス達が合流。撤退組を死亡させることなくノートを除く【祭り拍子】の面々はミニホームに到着した。
しかし、待てど暮らせどノートが一向に帰ってこない。無事に到着したことを皆がメッセージで知らせてみてもなぜか反応がない。
まあそれでもそのうち死に戻りして帰ってくるだろうと結論を出し、皆で手に入れたアイテムの仕分けや分配をして待っていたのだが、それさえも終わってしまった。
いよいよ何かがおかしいと考えるユリンたち。ユリンが代表してリアル方面からアプローチして反応がない。
あーでもこーでもないと皆で考えていると、そこにバケツプリンを抱えたアグラットがリビングにやってくる。
そこでヌコォがアグラットに相談。ノートを捜索することができないかとダメもとで相談してみるが、やはり難色を示す。しかしアグラットの反応を見るに不可能な訳では無いようで、皆で粘り強く交渉していると、今度はバルバリッチャが酒瓶を抱えてふらりとリビングに。
そこで皆は交渉相手を変更。バルバリッチャを拝み倒してみたところ、今日はやたら機嫌がよかったのか酒造りに更に協力するという条件であっさり承諾し、アグラットに悪魔を創造するように指示。
アグラットの創造した監視型悪魔がバルバリッチャの指示で洞窟に向かい、そしてその悪魔の視界を魔法でアグラットが映し出しているのだ。それはさながら実況中継か映画か。
ノートと女王個体の戦闘をお菓子やジュース片手に観戦していた。
「ノート兄のあの魔法ってなんなんだろう?あんなの習得したとか聞いたっけ?」
「私の知る限りでは覚えていない。でもノート兄さんは身内に隠し事をしないはずだから、単純に言ってないだけかも」
「なんで?」
ヌコォの推測に不思議そうに首を傾げるユリン。ヌコォもなぜあれだけ強力な魔法の存在をノートが皆に伝えていなかったのかわからず首を傾げる。
「…………そりゃ、使う気がなかったからじゃねぇの?」
そんな二人の疑問にスピリタスが自分の推測を述べる。
「オレ達だって色々とスキルとか魔法とか習得してると思うけどよ、別にそれを全部報告しあってるわけじゃねぇだろ?そりゃぁ、全体に影響が出るレベルだったり、作戦立案の上で重要そうな物だったら報告するかもしれねぇけどよ、使う気が無ければ後回しになったりするだろ?」
「使う気がなかったってどうゆうことかしら?アレほど強力なのよ?」
「んーー、いたちゃん、のっくんのことだからそれはちゃんと理由があるとおもうよ~。一番わかりやすいのだと、パーティー単位で動くことを考えた時、メリットとデメリットが釣り合わないとか?そんな感じとか?」
当たり前のことだが、何か大きな効果を求めるなら往々にして支払われる対価も原則大きくなるものだ。
ではこれほどの異常な魔法を使用するのにノートが何を支払っているのか、それはゲーム慣れしているユリンたちにも見当がつかない。
つまり、通常ではどう頑張ってもデメリットの方が上回るような膨大なリスクを抱えた物なのではないかと考えられる。
◆
「(ヤバいな、時間足りるか?)」
ノートが切り札の魔法を使ってから5分以上が経過。ステータスを確認したその隙を突くように、女王個体は咆哮しそれと同時に結晶の砲弾が迫りくる。
この【咆晶裂弾】は『咆哮』と結晶の弾丸を飛ばす攻撃をさらに強化した物を組み合わせた攻撃であり、女王個体の攻撃としては捕食を除けば最大の火力を持つ攻撃だ。そして高い火力を持ちつつも攻撃の範囲が広く回避もしづらい。
最初に調子に乗って2連続で使ったせいで瞬間移動可能な【影渡り】はクールタイム中。大盾でも受け止め切れるか怪しい。ノートは素早く決心し切り札の一枚を切る。
「【ゴヴニュ】、《岩創錬成》!」
ノートが地面に手を着けると闇の泥が泡立ち漆黒の分厚い壁が地面から屹立。結晶の砲弾を真正面から受け止める。それでもなお壁を大きく揺らし崩していく弾丸。ノートは怯えることもなく、遮蔽物ができたことをいいことに仕込みを開始する。
「【タナトス】、《イビルクロス》、《デッドマンチェイス》、《アークドコフィン》、《闇浸冥理》、〔爛夜身蝕〕」
タナトスの幻影を付き従えて魔術師としての力を強化し唱えるは闇系の魔術師を強化する魔法とスキル。
耐久値の限界がきて壁が崩れると同時にそこから転がり出て、とっておきの魔法を発動する。
「【秘到外道魔法:集う死者の黒夢饗宴】!」
赤い満月のエフェクトが天井付近に現れ、闇の泥で満たされた地面からボコボコと墓石が出現する。
いつの間にか現れたスケルトンとゾンビたちが苦しみ悶えるように踊りだし、グールたちはリズムを取るように吼え、ゴーストは悲鳴を上げるような声で歌いだす。そして彼らの上をゾンビ化、スケルトン化、ゴースト化した烏を始めとした鳥が飛び回り喧しく鳴き喚く。
この魔法も死霊術師として一つの道を極めた者のみが習得可能な特殊魔法。この魔法は習得よりも発動条件が難しく、『発動する空間が暗所であり、そこで短時間に大量の命が失われ、日光から完全に遮られ、尚且つ“フィールドの属性が闇に傾いている”』という物である。
これらの条件が満たされたうえで発動する呪系魔法【デッドマンズ・ナイトメア・ワンダーランド】は、その場にいる生物に様々な呪いをかけ続け、HPとMPをドレインし続け、闇系と呪系の属性以外の物を弱体化させ、闇系と呪系の属性の攻撃とその場に存在する死霊を大幅に強化する。
そのうえ、この魔法は失われた生命の生命力、すなわちHPが高いほど、死んだ数が多いほど効果を増していく。チビ蟻は特筆する攻撃手段を持たない代わりにタフであり、そしてこの場で死んだ蟻の数は100や1000どころではない。
この場は太陽から隔離された暗い場所であり、贄となる大量の死体はチビ蟻で十分事足りる。そして重要な要素であるエリアの属性だが、それはノートの発動した【滅虞黄泉魄装】の魔法で強引に属性が闇へと変化していることで解決している。
女王個体は煩わしそうに周囲のアンデッド達を攻撃するが、攻撃したところで即座に彼らは墓場から這いだしてくる。生者にとってはまさしく悪夢のような世界であり、この悪夢を終わらせるには術者を倒す他に方法はない。
強力な魔法により追いつめられる女王個体。ノートはその隙を突いて地面から大剣を取り出す。それに対して女王個体も水晶の弾丸を飛ばすことで応戦する。
「おぉりゃっ!」
フルスイングで振るわれる大剣。その分厚い大剣は飛んできた水晶の塊のど真ん中を切り裂き、後続の塊諸共吹き飛ばす。
その一撃で砕け散る分厚い大剣。ノートは走りながら地面に手を添え闇の泥から徐に槍を取り出す。
そしてジャンプのモーションに入った女王めがけて槍をスキルを使用しながら投擲。青いピエロマスクの効果により槍の耐久力は一瞬で失われるが、槍は通常では考えられない威力へと変化し、女王の顔面、眉間をしっかりと捉えるとバラバラに砕け散り女王にもダメージを与える。
続けて第二撃。再び闇の泥から武器を取り出そうとしたところで、地面から結晶の槍がズンッと下から生えてノートを貫く。
「ぐはっ!?【結晶林】をほぼノーモーション発動かよ!【アテナ】!」
すかさず天井に手をかざすと、今度はノートの手から糸が放出されその体を上へと引っ張り上げる。更に糸を放出。糸を使ってターザンのようにエリアを移動するが、今度は指向性有りの結晶の弾丸が重機関銃のように撃ちだされる。
「強すぎるだろ!めちゃくちゃだな!」
まだ蟻の原型を留めていた時は攻撃にパターンもあったし予備動作もあった。だが第二形態になってからは攻撃にパターンがなくなり、更に予備動作もわかりにくい攻撃が増えた。
糸から手を放し転がるように結晶の弾丸を避ける。闇の泥に手を突っ込むと適当に大量のナイフをひっつかみ投擲。本来ならば投擲と認識されるか怪しいレベルの攻撃だが、仮面の効果でその威力が増し即席の散弾と化す。
メギドの持つスキルにバフも加算されたその攻撃は十分な威力を発揮。結晶の弾丸をある程度撃ち落とす。続けてナイフの物量投擲。回避もしつつ的確に結晶の弾丸を減らす。
「いい加減にしろ!」
そしてその弾丸の数が減った瞬間にむんずと大斧をつかみフルスイング。ノートの手からすっぽ抜けた大斧は高速で回転し女王個体の横っ面を捉える。
「【ネモ】!」
女王個体は技後硬直の僅か一瞬の無防備の状態の時に大斧の一撃をくらい短いダウン。その間にノートはインベントリから手に入れた種子などを持ち能力を行使、それから投擲。投擲された種子は女王個体にヒットすると、そこから高速で植物が芽生える。
女王個体の生命力を吸い取り芽生えた植物に侵され女王個体は怒声をあげる。
悶える女王。転がって植物を引きちぎろうとするが、ノートは更にスキルを行使して成長を促進すると同時に再び大斧を装備。フルスイングして脚部に投げつけ行動を妨害する。
「いいなコレ、使いやすいわ」
こちらを睨みつける女王。前脚を叩きつけて再び結晶を線上に生やしてくるが、ノートも大斧を取り出して即座に地面に叩きつけて一帯を破壊し妨害する。
砕け散る結晶がガラス片のように舞い散り暗い空間の中で輝く。交差する視線。ノートがナイフを大量に投げつけると同時に示し合わせたように女王の結晶弾銃撃が炸裂。さらに結晶の欠片がキラキラと舞い散る。
その煌きの中に一瞬に見えた影。ノートが上を見上げると高速で子供サイズの結晶の塊が降ってきていた。
「やべ!」
すかさず闇の泥の中から大盾を取り出し構えるが僅かに間に合わず、ノートは地面に叩きつけられる。
強い衝撃。目に火花が散り息が体の中から強制的に押し出される。それでもノートは怯むことはない。
「こなくそ!」
弾幕に紛れた本命の一撃。とても魔物の攻撃とは思えない頭脳プレイ。警戒してもしたりない女王個体にノートの集中力が削れていく。削れて、削れて、普段は抑えられていた闘争心が剥き出しになる。
手を天井にかざし糸を放射。体を一気に持ち上げると同時に引き抜いた槍を投擲。牽制の一撃により女王個体は一手遅れる。
その隙に闇の泥から引き抜くのは2本の槍。それを走りこみながら投げつけて更に牽制。槍を投げた後には大斧投擲。フルスイング投擲の隙を補うようにナイフを投擲。女王個体の動きを的確に妨害する。攻撃としての効果は薄けれど、《ダークショットガン》で視界を塞ぐ嫌がらせも忘れない。
闇の泥より引き抜くは2mを超える大剣。普段のノートであればとてもではないが持ち上げられないその大剣を振り上げ、女王個体の頭部に叩きつける。至近距離で放たれる結晶槍の射出を回転しながら回避しつつ次に闇の泥から大斧を確保。回転の威力を利用して顎関節の部分に思いきり叩きつける。
結晶体の装甲がひび割れる。その口からうめき声が漏れる。ノートはそのひび割れた顎関節部分に容赦なく大槍を突き刺し、捻り、ダメ押しといわんばかりに大槌を取り出して槍を叩きつける。
その発達した顎は度重なるダメージで一部破壊され、その大きな口が開く。その隙間にすかさずノートは闇系の魔法で自分が最も火力を出せる魔法、《黒封破輝》を発動。闇のレーザーが体の内部を貫く。
女王個体の装甲は生半可な攻撃全てを弾き、魔法でさえも高い抵抗力で妨害する。だがその装甲のない体の内部は別。強力な闇魔法が炸裂し生命力を奪い去る。
ようやくダメージらしいダメージを負う女王蟻。その悲鳴は咆哮と化し至近距離にいたノートは吹き飛ばされる。
バキバキバキっと響く異音。女王個体の装甲が欠けていき、その隙間から生えるように更に結晶の槍がスパイクのように突き出す。関節部分もバキバキと音を立てて壊れ、高速で再構築されていく。
ノートが体勢を立て直すころには、犬が水をブルブルと払うように体を振り、女王個体から分厚く重厚な結晶の装甲が剥がれ落ちて散らばっていく。
そして女王は上半身をもたげ、残りの4本の足で立つ。もたげた上半身の手を使い魔法陣から結晶でできた透明の大剣を引き抜き、2本の手にそれぞれ装備する。
体こそかなり小さくなった。大きさにして3.5m強といったところか。見た目は結晶の軽鎧を着込んだ蟻型のケンタウルスの様だ。軽鎧になったこともあり装甲を纏っていた時に比べれば攻撃もかなり通りやすくなったように見える。
『GUOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
だが、その身を赤く発光させ、体から湯気を立ち昇らせながら気炎を吐く彼女がどうして弱く見えるだろうか。
瞳を赤く輝かせながら異形の蟻の頭で吼え、2mに達する結晶の大剣をカン!カン!と地面に打ち付けると、どういうわけか闇の泥を貫通してそこから火花が散る。
その火花が赤く光り、バチバチと弾け、そして大剣が深紅の炎に包まれた。
「勘弁してくれよ、なぁ……まだ形態変化できたのかよっ…………!」
孤高なる女王は、目の前にいる羽虫を殺しきるためにその全てを費やし、その目に深き瞋恚を宿らせながら、深紅の炎を纏う結晶の大剣を突き付けてノートの前に立ち塞がった。
(´・ω・`)PLネームのご協力誠に感謝申し上げます。現在も応募しているのでよろしくお願いします