No.95 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~⑨
(´・ω・`)最近更新を怠っていたのでお詫びゲーリラ♪
「クッソ!ネオンがいればどうにかなりそうなのにな!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!という地鳴りとゾゾゾゾゾゾゾゾ!という足音に挟まれつつ、人力車の上に苦しい表情で立つのはノート。その後方には大量の大型犬サイズの蟻が追走しており、ノートが適当に魔法をぶっ放してみてもダメージこそ与えられるが全くその足を止めることがない。
試しにアテナ謹製の粘着糸地雷などを試しても、最前列の蟻を一時的に止めることができてもそれを踏んずけて蟻が進んでくるので焼け石に水。マキビシなども上記同様だ。
ネモとアテナ共同製作の混乱を引き起こしやすくする薬と、ノートの混乱を引き起こす魔法の合わせ技は一時的にだが大きな効果を発揮した。前線がいきなりストップし殺し合いをし始めたので足が止まったが、これまた異常な物量で突破される。
続けて大型アンデッド。通路を塞げるほどのサイズの死霊を召喚してみたが、土石流に押し流される家のように蟻の大群に飲み込まれ姿が見えなくなった。
そこでノートはとある理由により実験を中止した。
この光景を見てノートは改めて思う、数は力だと。
1体1体がそこまで強いわけではない。しいて言うなら防御力が少々高めなのと、ノートの十八番である状態異常系の攻撃が効きにくいぐらいで、攻撃力が異常だったり反則的な飛び道具も持っていない。
しかし殺しても殺しても全く減らないように見えるその数で、如何なる死霊だろうが問答無用で圧殺してくる。
そして厄介なことに、同族を殺すと更にステータスがアップするのか全体が赤い光を纏い進軍スピードを上昇させるのだ。
実験で成果を挙げることはできても、これではそれと同時に蟻も強化されてしまう。やるならフィールドごと変異させるような威力の一撃が必要だ。しかしその一撃を唯一可能としているであろうネオンは今はいない。どうすることもできずにノートは取り敢えず奥へ奥へと逃げるしかなかった。
「(こいつらも逃げてほしいんだが、〔激怒〕状態で我を失ってるみたいなんだよな)」
ノートとしては、ほかの魔物のようにフィールド変異に合わせて逃げてほしいのだが、どうも蟻を鑑定してみると〔激怒〕の状態異常になっており、生存本能を攻撃性が上回ってしまっているようだ。
状態異常を解除するポーション(タナトス作成の一級危険物【怒髪獄辛】を中和する研究の最中に副産物として完成)を投げてみると、蟻は確かに逃げようと回れ右するのだが後続に押しつぶされて一瞬で消えていった。
一体どうしたものか。どんどん奥に奥にと進むうちに、ノートは少し明るい部屋があることに気づく。
一か八か、何かあるに違いないと踏んだノートは人力車に特攻を指示。アンデッド故にスタミナの概念がない人力車は人力車とは思えないスピードでそのまま突貫。ノートは試しにその先に鑑定を行い、あることに気づいてグレゴリの下位互換死霊を2体即座に召喚する。
「この先の空間に入ったら、俺の体を一気に天井付近まで持ち上げろ!」
返事はない。しかしノートの指示はきちんと通っており、グレゴリの下位互換死霊が再び両腕に絡みついてスタンバイする。
迫る蟻。迫る光漏れる空間。
「3、2、1、今だ!」
ノートの指示でグレゴリの下位互換死霊が再びノートを持ち上げ、乗り手のいなくなった骸人力甲車はそのまま空間の奥へ。蟻は軽い傾斜のある通路を駆け降りて雪崩のように部屋に流れ込んでいった。
『KYUUURRRRRRRRR!!!』
それと同時に耳を塞ぎたくなるような怪音が響き渡る。大きめの体育館4つ分程度の空間がビリビリと震え、その咆哮だけで最前線の蟻が吹き飛びポリゴン片となって散っていった。
周囲の巨大な結晶から漏れ出るその柔らかな光に包まれた空間、その奥に鎮座するのはダンプカーよりも二回りは大きな蟻。
おそらく原型は大顎結晶体蟻。しかし体中から鋭い結晶が生えておりそのフォルムは異常に厳つい。また顎もしゃくれているように見えるほど大きく、開けた口の中には人間のような歯がサメのように何十にもズラリと並んでいた。
そしてなにより、その腹部が異常に肥大化しており、ダンプカーよりも二回り大きいその巨体の半分が腹部だった。
「(やっば、最奥まで来ちまったのかよ)」
おそらくその形状からしてこれは大顎結晶体蟻の女王蟻に相当する存在なのだろう。明らかにボス級と思われる個体の周りには、例のあの部屋で見た卵が100個近く転がっていた。しかしその蟻を守る兵隊蟻は今は不在。孤高の女王がノートを待ち構えていた。
女王蟻が逃げなかったのはボス級個体故か、それともその矜持が逃走を許さなかったのか。
いや、冷静に考えればわかる。如何に大きな通路とはいえ、このサイズの蟻は逃げられない。逃れられないが故に、女王は玉座を守るしかなかったのだ。
そこにその子孫が大量にやってきたのは感動的な光景に思えるかもしれないが、女王個体がとった行動はノートにとっても驚くべきものだった。
「(おいおい、それお前の赤ちゃんだろ?母親だろ?なんで殺しあってるんだ?)」
予想より追跡してきた蟻の数が多かったらしい。ノートは部屋に入った瞬間上空に逃れたが、前線の蟻が立ち止まろうとしても後続の蟻は立ち止まらない。後ろから来た大量の蟻に押し流され、ついには女王個体のところまで流された。その瞬間、再び女王が咆哮する。
女王が攻撃を開始すると同時に、チビ蟻(といっても大型犬サイズ)も女王個体に攻撃を開始。推定親と子供たちの凄惨な殺し合いが始まった。
チビ蟻の攻撃手段は単純。ただその物量で押し寄せて噛み付き、攻撃をくらえば強力な酸性の液を撒き散らして女王の身体を溶かすだけ。
女王の身体は厄介なまでの耐久力を誇った大顎結晶体蟻の親玉だけあって防御力は生半可ではなく殆どダメージが通ってないが、チビ蟻の数が数だ。たとえそれが擦り傷でも、蓄積されればやがてその装甲を目に見えて削り出す。
一方、女王蟻も女王蟻でとんでもない攻撃をしてきた。
まず行動パターンとして、ノートが上空から観察する限り女王個体は咆哮、地団駄、咆哮、特殊攻撃、咆哮、特殊攻撃、這いずりの7段階の攻撃を繰り返していた。
一つ目の行動パターンである『咆哮』は、ノートとチビ蟻どもが推定女王の間に流れ込んできた時に女王個体が放った攻撃で、咆哮する事で物理衝撃波を発して周囲の物を吹き飛ばすと同時に相手に一定確率で『クリティカルの成功率は0になり、敵がぶれて見え、更にはスキルや魔法が不発(MPは消費される)を連発する』という恐ろしい事態を引き起こす【恐慌】の状態異常と、攻撃力低下のバフを与えてくる。
この時点で割と無理ゲー臭いのだが、これが通常攻撃の一つ。
続けて行う『地団駄』はそのままなんの捻りもない地団駄で、そのダンプカーを2回りも上回る巨体で地団駄し、近くにいる奴は容赦なく踏み潰され、遠くにいる奴もその振動で行動遅延が発生する。
この地団駄で動けなくなって無防備になったところに再び『咆哮』。周囲に大きなダメージを与える。
そしてトドメの様に繰り出されるのが『特殊攻撃』。
これはノートが見ている限り今ところ4パターンある様だ。
その一つが『結晶林』。
この攻撃は女王個体が自分の脚を地面に突き刺したら発動の合図。女王個体の防御力が一時的に下がるが、女王の間にランダムで結晶が生えて容赦無く対象を突き刺してくる。
見た感じヘイト集中率はあまり関係ない様で、女王の間の入り口で詰まってるチビ蟻どもも攻撃されていた。
防御力が下がるので攻撃のチャンスではあるのだが、無差別攻撃をしてくるために、もしレイド仕様で突っ込めば中衛から後衛が崩壊する大惨事を引き起こしかねないので迂闊に動けないというジレンマを引き起こす攻撃だった。
因みに今は不在だが、本来だと女王個体の周りには上位守護兵蟻達がいて、この女王の間を飛び回るので前衛の負担が倍化しており、『結晶林』攻撃時は優先して後衛を狙ってくる鬼仕様なので前衛は攻撃している暇が無かったりする。
これが対地フィールド攻撃だとすると、それ以上に厄介なのが『結晶霰』。物理攻撃しかしてこないと思われた蟻達だが、その親玉である女王蟻は平気で魔法を使ってくる。
この結晶霰はフィールドに結晶の霰を撃つ魔法で、大規模な拡散弾とも言える。これは無差別ではなくきちんと狙って攻撃がされており、最初にこの魔法を使われた時はグレゴリの下位互換死霊が避けてくれなければノートも危うく当たりかけた。
この攻撃の厄介なところは予備動作から発動までが非常に短く、そしてその予備動作自体もわかりにくいところ。女王蟻の頭部が青く発光するのを見逃したが最後、次の瞬間には結晶の霰が降り注ぐ。
『結晶林』、『結晶霰』共に後衛殺し向けの能力だが、もちろん前衛殺しの攻撃もある。それが『強酸砲噴射』。予備動作は大きな腹部を対象に向けたとき。次の瞬間には強烈な勢いで酸性の液が噴射され、その射線上の物を吹き飛ばす。
噴射口の近くにいた者は悲惨で、蟻が軽く数十m吹っ飛んだ時には、ノートもさすがになにかの冗談か見間違いかと思ったほどだ。
この攻撃の厄介な点は何点かある。
まず一つ目がその威力。予備動作はもっとも長いが、攻撃を発動したら一瞬で、そこそこの重量があるはずのチビ蟻でもまとめて吹き飛ばす。人間サイズの存在が食らったらひとたまりもなく、運悪く壁に叩きつけられれば更にダメージをくらってしまう。
二点目が射程。勿論近いほどその威力は高いが、射程自体は30mとかなりのロングレンジ。しかも噴射液は遠くに行くほど扇状に若干拡散するため、遠くにいる後衛は大きく動いて避ける必要がある。
三点目が攻撃の持つ【大火傷】と【強酸】の2つの属性。この噴射液は蒸気が上がり短時間で揮発するほどに高温らしく、液体がその身にかかれば【大火傷】の状態異常を引き起こす。
この状態異常は『回復遅延』と『防御力低下』、『行動遅延』などの嫌な状態を付与し、尚且つ通常の回復魔法では簡単に回復できず、ポーションでもなかなか回復できず、特定のポーションがないと即座の治療が難しいという厄介極まりない性質を持つ。
ここに更に追い打ちを与えるのが『強酸』。
効果は装備耐久値の減少とスリップダメージ、『防御力低下』。運が悪いと『行動遅延』まで発動する。装備に対強酸加工を施さない限りその効果を封じることは困難で、魔法でのブロックが推奨される。
しかしこの時後衛が守れるのは自分か前衛たちのどちらか。通常であれば上位守護兵蟻もいるわけで、そちらの対処に手間取っていると誰かしらがこの攻撃でダメージを受ける。
この攻撃を受けたら最後。2つの状態異常で防御力を低下させられ、身動きが取れない時に次の行動パターン『咆哮』で近辺無差別範囲攻撃。前衛を崩壊させる。
この3つと性質が異なる攻撃が『捕食攻撃』。
読んで字の如く、この特殊攻撃は予備動作なしで捕食攻撃を行い自分のHPを回復する。時に周囲の発光する結晶を食し、防御力上昇のバフまで発動させてくる。そう、これだけ強固な防御力を持ちながらHP回復までしてくるのだ。
この特殊攻撃の後に咆哮をし、再び特殊攻撃。そしてその〆である『這いずり』は読んで字の如くフィールドを這いずりまわり、敵を圧殺する。この攻撃は女王の位置を変更するという役割も兼ね備えており、もしレイド戦で挑むのであれば強制的な陣形の変更を強いられる。
因みに這いずりのスピードは割と速く、10秒ほど無差別で動いた後は即座に『咆哮』を開始し、再び残りの6段階の行動パターンを取る。
這いずり中は他の攻撃をしてこないので無防備であり攻撃チャンスであるが、ダンプカーより2回り大きいサイズの物がそこそこの速度で動きまわってくるのは視覚的脅威度が高く、攻撃に移るのはなかなか難しい。レイド戦であれば陣形の変更が必要なので攻撃する機会は更に減るだろう。
さすがは高難易度エリアのボス個体ということか、割と容赦のない攻撃パターン。
だがしかし、ノートは上空からそれを観察しつつも絶望することはなかった。むしろ無意識に笑みを浮かべてすらいた。
「(うーん、この状況なら、もしかするとやりようによっては勝てるか…………?)」
こんなボス個体と一人で戦うなど、通常であれば正気の沙汰ではない。
だが、このフィールドを埋め尽くすほどにいるチビ蟻どもがいる状況であれば、うまくやればいい勝負ができるのではないかとノートは考える。
懸念があるとすれば、チビ蟻の残量。それとノートが観察できているのが『通常モーション』だけ、という事。
ヌコォやネオンの試金石にされた1の森の大樹のボス個体の時もそうだったが、ボス個体はHPが一定以上減ることで行動パターンが変化する。
初期段階でこの難易度。もしある程度追いつめられたとしても確実に行動パターンは変化する。それに耐えられるかどうかは現段階では分からない。
しかし、今のノートは死んだところで痛くも痒くもない無敵の人状態。
物は試しと女王個体に対して攻撃を開始するのだった。
(´・ω・`)くそげーぼすそろせんとうかいしの巻