No.94 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~⑧
(´・ω・`)遅れて本当に申し訳ない
(´・ω・`)予想以上に忙しくて執筆する時間が取れない
「(ビバ、文明の利器、ってか)」
ノートが乗るのは『骸人力甲車』。
ノートの本召喚の死霊、幽霊馬車の3段階目の課金進化形態【大貴轟幽竜馬車】の系列の死霊だ。
見た目は豪華そうな装飾で飾られた貴人の乗る人力車、であったと思われる物がボロボロとなった車。その車を牽くのは馬系の動物と人間系の骨を組み合わせた様なクリーチャーだ。
実は今のノートには幽霊馬車を召喚することもできるのだが、こういう時はこの死霊のコンパクトさと小回りの効き具合はなかなか閉所の探索に向いていた。
本来であればこんな凸凹の地面を馬車か人力車で探索しようものならサスペンションやタイヤなどが一瞬で摩耗する上に激しく酔ってしまう。
しかし幽霊馬車系列の死霊の特徴として、この死霊も軽く浮いているので地面の振動とは一切無縁。
ノートは魔改造光苔式ランプで先を照らしながら、人力車に乗って優雅にエリアの奥、魔物どもが逃げていった先に進んでいく。
「(魔物が1匹も見当たらない。それどころか気配もない。どういうことだ?)」
逃げる、或いは災厄の元から遠ざかるという事は、魔物が災厄の元を認識していることに他ならず、そして逃げることでその災厄から逃れられると認識しているのだろうか。
1匹や2匹ならまだしも、全てが回れ右して逃げた。しかも全て同じ方向に。
それにノートは強い違和感を感じ、色々と推理をしてみる。
「(単純にフィールドが切り替わることによる演出か?)」
だとしても、一方向に逃げる必要があっただろうか?それともその先に何かあるのか。今の情報だけでは答えを得ることが難しいのはノートもわかっていた。
さて、どこまで進めるものかと何もないエリアを見上げるノート。その拍子にとあるものが目につく。
「(天井に空洞?いや、穴か?だいたい……………あのクソ蟻と同じくらいか)」
明らかに隠しエリアの匂い。ノートは奥へ歩みを進めることを取りやめ、その穴の先に進んでみることにした。
「(こういう時、飛べるタイプの死霊が増えて本当に助かるわ)」
ノートは人力車の召喚を解除。続けてグレゴリの下位互換の死霊を2体呼び出し、自分を見つけた穴の先まで連れて行ってもらう。
両腕に一体ずつ絡みつかれて運ばれていくその姿は間抜け?いや、とんでもない。
下位互換の死霊もグレゴリと似たり寄ったりの姿をしているので、肩から巨大な目を生やした悍ましい闇堕ち神官型ボスの様な見た目になりつつ、ノートは上へ上へと運ばれていく。
グレゴリの下位互換だけあって消費MPはかなり大きいが、今のノートは他にリソースを割く必要が無いので2体程度なら無理なく召喚を維持できる。
ノートはそのまま神官ボスの様な見た目のまま、かなり入り組んだ隠しエリアを飛んで進んでいく。
やがてノートはあることに気がついた。
「(……………あれ?気の所為でなけりゃ明らかにおかしな構造してないか?しかもこの隠しエリア、まるで蟻の巣みたいだ)」
ノートがこの隠しエリアを見つけたのは複数の道が交差する場所。その道の真上に隠しエリアに続く穴があったわけだが、入り組んだそのエリアは枝分かれしつつも大きく下に向かっている。
だが、これだけ下に入り組みつつ下れば先程の大きな通路とどこかで交差していてもいいはず。
だと言うのに、エリアがクロスしている様子は見られなかった。暗くてよく見えてないだけかもしれないが、ノートは自分の脳内マップが僅かに矛盾している様な気がしてならなかった。
ここに人間離れした空間認識能力を持ったヌコォや鎌鼬がいれば気の所為かどうか断定できたに違いないが、残念ながら今はノートは1人。勘違いの可能性も留意して一応頭の片隅に留めておくことにする。
「(しっかし、うん、来てよかったかもな)」
ノートの予想通り、そこは蟻の巣だったらしく本来は蟻を排除してようやく手にすることができるのであろうアイテムが普通に山積みになっていた。魔物のドロップや鉱石、結晶片を始めとして、どこから持ってきたのかどうやらどう見ても植物の欠片だったり、スイカサイズの石のような実がいくつも転がっている。
貴重そうなアイテムなのでもちろんすべて回収していく。
「(植物らしいものがあるということは、どこかに生えてるエリアが存在している可能性があるよな?下か?)」
はてさて、こんな洞窟でスイカサイズの実をつける植物が育つエリアがあるのだろうか?不可思議なエリアに疑問を抱きつつも、それからもいくつかの部屋を周り順調に蟻の貯蔵品と思われる物を回収。
ゴゴゴゴゴゴゴ!という異音と振動が大きくなる一方で、ノートは鼻歌を歌いつつご機嫌に探索。しかしとある部屋に来たところでノートの鼻歌がぴたりと止まった。
「(うわっ、気持ちわる!なにこれ!)」
そこに広がっていたのは今までよりもかなり広いスペース。暗いので全貌をつかめないが、明かりでぼんやりと照らされる範囲でも奥行き50mオーバー。そこには非常に浅い、ともすれば子供プール程度の水深で水が張られている。
そんな浅い池一面に、てらてらと光る白と黄土色の中間のような色の半透明の卵がびっしりと並んでいたのだ。
大きさとしては、だいたい大型犬がすっぽり収まるぐらいのサイズだろうか。卵のような見た目だが殻はなく、ぶよぶよしていそうなその見た目。微かな酸っぱい香りと硫黄臭さ。
半透明のその中には、なにか黒いものがピクピクと蠢いていた。
「(じーちゃんに見せられたすっごい昔の映画にこんなシーンがあったような…………近づくとヤバいんだっけか)」
素面、あるいは通常であれば決して近寄りたくないビジュアルだが、今のノートは死んでも怖くない無敵の人。適当にスケルトンを数体召喚して接近させてみる、の前にスクショを撮りまくって『祭り拍子』のチャットに貼り付ける。
―――――◆パーティーチャット『祭り拍子』◆―――――
NOTO:[スクショ]
NOTO:(´・ω・`)精神ブラクラよ~
鎌鼬:気色悪いわね
スピリタス:今どこだよ
トン2:ぶらくら?(´・ω・`)やんやん?
鎌鼬:一向に来ないからもう先に向かったわよ
NOTO:自爆してデスルーラするのも癪だから奥まで探索してみた。で、推定蟻の巣に侵入した
鎌鼬:それ危ないんじゃないの?
スピリタス:一人で楽しそうなことしてんじゃねえ!オレも行きたい!
トン2:すぴちゃんにさんせ~。(´・ω・`)あやまって?
NOTO:(´・ω・`)やーだよ♪
NOTO:まじめな話、今のこのエリア、敵が一匹もいないので探索しほうだい。つまり今しかチャンスがない
トン2:(´・ω・`)そっかー
スピリタス:結局スクショの奴がなんなのかわからん。回収できるのか?
NOTO:おそらく卵。回収試してみるわ
トン2:(´・ω・`)きをつけてね~
――――――――――――――――――――――――
チャットで一時中断したが、おそらく時間もあまりないので急ぎ早にスケルトンを数体まとめて召喚。勇気を出して卵に近づかせてみる。
が、一切反応なし。
ここまでやったらやれるとこまでやってみようと運ぶように指示するが、スケルトンには触ることはできても重すぎて持ち上げることができなかった。
なのでもう少し数を増やして再試行。しかしピクリとも動かず。
結局筋力高めのゾンビ系死霊を召喚し、持ち上げさせてみる。ここまでしてようやく暫定卵が持ち上がり、えっちらおっちらノートの元に運んでくる。
「(これ、敵なのか?普通に中身はあるみたいだが…………)」
やがて卵はノートの元まで運ばれてきたが、卵がひとりでに開いてクリチャーが飛び出してくることはなかった。
そんな卵に試しに鑑定。ランク差があるので全容は把握できなかったが、このままであれば一応アイテム扱いであることを確認する。
しかし、残念ながらインベントリに収納はできない。非敵性MOBのように確保はできてもインベントリには入れられないシリーズの様だ。
「(生きてるからか?しかしもったいないな)」
なにか強引に持っていくことができないかノートがインベントリを眺めていると、うってつけのアイテムを発見する。
「てっれれれってれ~【余次元ボックス】~!」
取り出したるは、バルバリッチャとアグラットの共同製作のチートボックス。
サイズは大体ティッシュボックス6箱分とそんな大きなものではないが、その見た目以上の容積を誇る。その容積は例のイギリス製珍兵器をしまってなお余るという優れものだ。
更に異常な柔軟性も持ち合わせているので箱よりも大きな物体を分解せずに吸い込むことができる。
こいつを使えば卵も回収できるのは?と考えたノートは箱を開き、とりあえずトライ。
しかし、残念ながら箱は卵を回収してくれなかった。ノートの考えでは、一度このチートボックスに入れてしまえばインベントリにも収納できるはずだったのだが、箱が受け付けてくれないのなら無理と判断するしかない。
「(うーん、さすがに生きている物をそのまま回収するのは不可能だったか)」
さて、どうしたものか。ノートは再びインベントリをあさり、とあるアイテムを取り出す。
「(まあ生け捕りをあきらめれば答えはとてもシンプルだよな)」
取り出したるは本来トン2が持っていた長槍。アイテムを譲渡する兼ね合いでトン2から預かったものである。
続けて、いまだに森の中で暴れまわる戦闘民族「般若面蟷螂人」系列の死霊を召喚し、槍を持たせてみる。そんな死霊に、死霊を強化するバフ魔法を思いつく限り付与。一撃で殺せるように準備を整える。
「卵をできるだけ傷つけず、上から貫け」
そして現状でできうる限りの補正を与えたうえでノートは命令。大きく跳躍した死霊はズンッ!とキレイに卵の頂点から卵を貫いた。
その一撃はメギドであろうと致命傷になりかねないほどの威力。それが卵の中にいる何かを貫き、鑑定してみるとアイテムの性質が変わっていた。その卵に恐る恐る触れるノート。刺したことで異様なまでの強酸と硫黄臭がただよっていたが触れても特に異常はなく、インベントリに簡単に回収できた。
「(なるほど、回収するのに一定の手順が必要なアイテムか。面倒だな)」
しかしやること自体は単純。そんなことならもう少しくすねていこうと思ったところでノートは言葉を失った。
今まで明かりに照らしてもスケルトンなどの死霊を近づけてもなにも反応しなかった卵が、一斉に花開くようにパックリと割れ始めたのだ。
「(ちょ、ちょいまて嘘だろ?)」
思い出すは幼少期に祖父と見た映画。それはSFホラーの金字塔であり、この卵が孵ることは絶望の証であった。映画として見ている分には少しゾクっとして楽しかったが、実際にその状況に出くわすと恐ろしさしか感じることができなかった。
しかしこんな貴重な光景もそうそうない。一応スクショだけして、人力車を召喚してそこから脱出する。
「急げ!追いつかれるぞ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!というフィールドに響く地鳴りのような音と共に後ろから迫るザザザザザザザザッ!という何かが大量にうごめく音。ノートは思わず後ろを振り返り、そこに広がる光景を見て鳥肌が立ったような気がした。
数にして、500などを軽く上回るその大軍。退路を完全に埋め尽くす量と勢いで、大型犬サイズの蟻が大量にノートに向けて迫ってきていた。
ところどころあの大顎結晶体蟻の面影があるが、こちらはどちらかといえば黒くテラテラと光っており、ファンタジー要素が薄くなった分気味悪さが段違いだった。
そんな蟻どもが、ノートを喰らい尽くさんと迫りつつあるのだった。