No.93 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~⑦
(´・ω・`)予約投稿出来てなかった
(´・ω・`)大変申し訳ない
(´・ω・`)引っ越しめんどくさい
さて、鎌鼬の機転で残留組の生存率は上がったが、ノートはなんだか悔しかったので苦言を呈してみる。
「なぁ、もう肩車は良いよな?背の高いゾンビを召喚してそこに乗れば高さは確保できるだろ?」
そんなノートの言葉に対して鎌鼬は即座に切り返す。
「差別は良くないと思うのよ。なにより、盤外戦術の重要性を私に教えたのは貴方でしょ?だから翻って考えれば貴方に責任があると思うのよ」
「そんな暴論が通ってたまるか」
とんでも論法をぶつけてくる鎌鼬に思わずノートは目をやるが、鎌鼬はシレっと言い返してくる。
「私だって、自分が惚れた男の思考に寄っていくタイプだとは思ってなかったもの。しょうがないわ」
「…………顔を赤らめていうならやめておいた方がいいぞ」
「…………VRの感情表現って少し過剰だから嫌いなのよ。設定から変更できないのかしら」
表情こそポーカーフェイスだが、その端正な顔は明らかに赤らんでおり、ノートにそれを指摘されるとさらに赤らむ。現在の鎌鼬は2丁拳銃スタイルなので両手がふさがっており顔を隠すこともできず、恥ずかしさは更に増して身をよじる。
ただ、普段はクールで冷静沈着な鎌鼬が恥じらっている姿はなかなかギャップがアリ、ノートも平静を装っているがグッときていた。
それに加えて、恥じらって身じろぎしているせいでその太ももがノートの顔に無自覚に擦り付けられ、ノートの心を掻き乱す。これが計算による物ならいい加減下すのだが、鎌鼬はそんなことは考えてないのでそれを指摘して更に集中力を下げるようなことはできずなにも言えないジレンマ。
レスバこそノートは勝ったが、全体で見れば鎌鼬大勝利だった。
そんな甘い空気を感じ取ったのか、スピリタスとトン2の目のギラつきがより増していよいよ獣じみた動きをし始める。
とりあえず、まじめに肩車では動き辛いので背の高く回避力に長けた足長ゾンビを召喚。鎌鼬にはそちらに移ってもらい戦闘を継続する。
さてそんなこんなで10分以上が経過。さすがに魔物の湧きが少なくなってきたと同時にいよいよ気合と根性ではどうにもならないほどにノート達は追いつめられてきた。
「ねぇ~終わりが見えないとペース配分きついんだけど~!?」
「ノート、いつ終わるんだコレ!」
湧きが尽きるのが先か、こちらが全滅するのが先かのチキンレース。
何度目かの自爆型ヤドカリ死霊が自爆し多くの敵をまとめて葬ったところで、遂にスピリタスとトン2の武器のスペアの底が見え始め悲鳴をあげる。
「わかったちょっと待て!」
ノートが使用するのはグレゴリの『感覚共有』の能力。グレゴリに念話で指示を出しノートはグレゴリの視覚を共有。ユリンたちの現在地と状況を確認する。
その瞬間だった。
共有されるグレゴリの視界。その視界に映るのは大きく崩落する吹き抜けの通路。大量の敵もろとも天板から崩れ落ち、そしてその先にいたのは異形の怪物。ギョロッと向けられた多くの赤い目がグレゴリ越しにノートを見ていた。
【ᬤ䈵氤ⴻ奇嬼吥㼤䄛⡂の一柱が解放されました】
[Warning:特殊災害が発生します]
【ワールドシナリオγが進行しました。ワールドの『ᬤ䈻縛⡉☛⑂㭟②╩⑬㽀ℹ╎㍐䁃ᬨ』の 活性率が変化します。一部フィールドの変異を開始します。
フィールド『絋晶深迷宮』は『崩織之絋晶深迷宮』に変異します。
フィールドの一部機能が変更されます。
フィールドの変異に伴い魔物も変異します。
『ᬤ䈻縛⡉☛⑂㭟②╩⑬㽀ℹᬨ』の解放により特殊称号『ᬤ䈵氤ⴻ奇嬼吤丿䀴ㄛ⡂』が与えられます。
特殊災害を発生させたので『特殊災害の引金』の称号が与えられます】
「ぐあっ!?」
それと同時にいつぞやか見たようなアナウンス。ブレーカーを落としたようにブチンと視界共有を強制解除され、ノートは目に走った鋭い痛みで呻き声をあげる。
明らかな異常にノートも動揺を隠せないが、冷静さを欠いたのはスピリタス達もだ。
「え、なにこのアナウンス!?これってノっくんが言ってた奴!?」
「文字化けって、これ…………しかも直接発見していない私たちでも、強制的にこの怪しい称号を取らされるのね」
「おい、ノート!何が起きてるんだっ!?」
ノート達は思わず攻撃の手が止まるが、攻撃が止まったのは魔物どもも同じ。なにかにおびえるように魔物どもはウロウロし始め、一目散に下へ下へと撤退していく。
この状況では助かったように思えるが、ノートにはそうは思えない。なぜなら先ほどからミシミシとフィールド全体が軋むような音がしているからだ。
「はい、全員集合!状況整理開始!」
となれば、敵がいなくなったぜラッキー!とのんびりしている場合ではない。
ノートが号令をかければよく訓練されている彼女達はすぐにノートの元に集まった。
「えー、端的に状況を説明すると、おそらく大量の敵を撒くためにネオンが魔法をぶちかまして、エリアの一部が崩壊して、その上にいたかなりヤバいヤツが目覚めた。以上だ!」
「それヤバいんじゃねえのかっ!?」
トン2と鎌鼬は伝聞でしかそのヤバさを知らないが、直接文字化けアナウンスを発生させた例の敵を見ているスピリタスは自分たちがかなり危険な状況にあるのではないかと気づく。
「いや、まあ不幸中の幸いはユリンたちは確実に脱出できそうなことだな。あの吹き抜けの通路を抜けたら出口まではそう遠くないはずだ。イレギュラーさえなければユリンたちは無事に脱出可能だろうな」
「それは確かに不幸中の幸いといえるかもしれないけど、結局のところ私たちはどうすればいいのかしら?敵がいなくなったから脱出のチャンスではあるのだけれど、今は退路が崩落しているでしょ?」
鎌鼬の視線の先にはネオンの攻撃で綺麗に崩落した通路。これのおかげで一方向の敵の侵入を防ぎ安置の確保もできたわけだが、それと同時にノート達は詰んでいた。
「予想するに、このままフィールドにいるとフィールド変異に巻き込まれて問答無用で殺される危険性がある。しかもフィールド変異により死んだ場合のデスペナがどうなるかは俺でもわからん。ただ、予想だといい結果にはならないと思う」
あの胞子の森が実際にフィールド変異を引き起こしたように、アナウンスが発生したということはこの洞窟も確実に変異するのだろう。それを裏付けるようにミシミシという不吉な音はどんどん大きくなっていた。
「え~と、つまり、わたしたちはどうすればいいの~かな?」
敵もいなければ脱出もできない。手持無沙汰でトン2は困惑するような表情をするが、ノートの回答は端的だった。
「どうしようもないな!とにかくグレゴリが無事に帰って来るのを待つしかない。フィールド変異が先に起きたらその時はもう自分たちで自爆しよう。グレゴリが間に合って『死命護』が使えれば御の字といった具合だな。つまりどのみち死ぬと思ってくれ。
まあやることもないし、あとは適当に採掘でもして時間をつぶすぞ」
そう説明すると、徐に採掘特化のゾンビを十数体召喚し次々とピッケルを持たせるノート。
そのピッケルはまだ状況に理解が追いついてないスピリタス達にも問答無用で押し付けられ、3人は思わず顔を見合わせて苦笑する。
「まぁ、理屈はちっとは理解したがよ ………」
「ここまで開き直れるものなのかしら?」
「そういうとこ、のっくんマジのっくんだよね〜」
効率主義で割り切りが良いというより些か良すぎるが故の行動。せっせと結晶の塊をピッケルで採掘する死霊どもと一緒にノート達もピッケルを振るう。
最初こそスピリタス達も暇潰しがてらという感じだったが、採掘取れる結晶の質の良さに気づき表情が一変。
どうやらネオンが一部分を吹き飛ばした際に再び隠しエリアが開通していたらしい。そこには普通の結晶とは違う色とりどりの結晶が存在。
普段であれば大量の魔物のせいで全く採掘できない場所で、ノート達は一心不乱に採掘する。
あまりに熱心に掘りすぎて、その集中具合は誰も彼も次第にフィールドの異音や振動が気にならなくなるほど。
暫くして少し傷ついた状態のグレゴリが急にノートの影から飛び出してきてノート達はハッとする。
「グレゴリ!無事にこっちに来たって事は、脱出できたのか!」
『YES、無事、脱出、完了、〔グッジョブ〕、〔笑顔〕』
グレゴリの様子を見るに相当の無理をしたのは間違い無い。だがそうだとしても無事ユリン達が逃げおおせたらば問題無い。
グレゴリの到着からほんの少し遅れてユリン達からも無事を伝えるメッセージが届き、ノート達は改めてホッとする。
「んじゃ、タイムアップだな。スピリタス達は装備を着替えてくれ。グレゴリは打ち合わせ通り【死命護】を3人に使ってくれ」
ノートの指示を受けるや否やスピリタス達は装備を質素なスペアのスペアにチェンジ。グレゴリは5分ほど時間をかけて【死命護】を発動。それと同時に彼女達のHPとMPがゴッソリと削り取られる。
彼女達が瀕死状態になったのを確認するとノートは自分の得たアイテムを彼女達にほとんど譲渡する。
「んじゃ、メギドよろしく」
『Grrrr!!!』
そして今までは存在感があまり無かったメギドがスキルを発動しそのハルバードを勢いよく振るえば、3人纏めてスピリタス達は赤いポリゴン片となって消えた。
普通の味方NPCであればたとえそれが主人の命令であろうと味方を攻撃する様な真似をしようとしないのだが、こういう時に限ってはメギドの単細胞戦闘民族的思考が役に立つ。メギドにとってはノートが絶対的な主人であり、その命令であればどんな事であろうと躊躇いなく遂行できるのだ。
例えランク10の大台を超える彼女らであろうと、メギドの本気の一撃をくらえば今のスピリタス達であろうとひとたまりもない。
「(さて、どうしたもんかね)」
しっかりと役目を果たしてくれたグレゴリだが、【死命護】を一度に3人に使った事で強制的に召喚が解除され、この後3日間は再召喚ができなくなっている。
折角召喚した死霊が3日間も使用不可になってしまうのは少々惜しくも思えるが、その点を含めても今回はこうした方が黒字になるとノート達は見込んでいた。
また、便利なことに、ノートが死んだ時に召喚が解除されてしまう簡易召喚の死霊と異なり、本召喚の死霊は一時的に能力低下のペナルティを受けても待機状態になっている場合は全く影響を受けない。
よってこのままノートが死んでも休眠状態に入ったグレゴリに一切悪影響は無し。
グレゴリが召喚解除されるのを見届けると同時にノートはメギドも召喚を解除し万が一に備えて待機状態にしておく。
これで何の憂いも無くなった。あとはノートが自死するだけ。ただ、ここにきてノートはこのまま自爆するのが勿体無く感じた。
当然だが『スピリタス達とリアルで会う約束したから今帰るとその話をいきなりされそうな気がするけど、こちら側も色々と心構えが必要なわけでちょっと考える時間が欲しくて時間稼ぎをしよう』などとは考えていない。
考えていないといったら考えていないのだ。
「(…………フィールド変異が起きるまで出来るだけ奥へ潜ってみるか?)」
それはともかく、よく考えてみればノートは死んだところでどのみち問題は無い。
ユリン達はかなりボロボロとはいえ、あの3人ならば今の森のエリア程度はどうとでも切り抜けられる。よって急いで救出する必要も無い。
実の所、ノート達がこのエリアに侵入してくるために降った崖はミニホームから結構近い。
今回は調査をするために色々と迂回したり大回りをしたので時間がかかっていたが、直線距離で考えるとそこまで大きく移動している訳では無いのだ。
よって10分ほど急ぎ足で向かえば、ミニホームにリスポンして迎えに行ったスピリタス達とユリン達は簡単に落ち合えると予想できる。
つまり、自分がいなくても恐らくは大丈夫、多分、きっと。
ノートはそう心の中で言い訳を、もとい納得のいく理論を組み立て、一人で真っ暗なこのエリアの奥の調査を開始するのであった。
(´・ω・`)ついにソロ




