No.86 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~①
(´・ω・`)誰にも今まで疑問視されて無かった方が意外だったんですけど、深霊禁山って推奨ランク“20”〜なんですよね。
因みにノート達が深霊禁山に初めて突撃したのがランク7の時です。
ザガン召喚の為の話が纏まり、数日後。
ゴヴニュとアテナによる装備の更新と消費アイテムの補充はまだ難航している様だが、グレゴリと進化したメギドの運用実験も終了。トン2と鎌鼬もかなり苦戦していたがランク11へ到達し全員の足並みが揃った。
元々はトン2と鎌鼬はランクを上げてから合流するという事で、ノート達は先行して深霊禁山の探索を開始している予定だった。
しかしバルちゃんから与えられた課題によりスケジュールの調整が入った。
それにより、トン2と鎌鼬のランクアップを待ちこの数日のノート達は各自でできることを個々で進めていた。
主に、後回しになっていたイレギュラーイベントで得たアイテムの整理、スレでの情報収集、獲得したスキルと魔法の性能実験、死霊の現状確認。
改めて考えてみるとやっておくべきことはたくさんありノート達も暇を持て余すことはなかった。
「さて、準備は整った。これより『深霊禁山』の探索を開始するぞ。全員、ヤバいフィールドボスが出現する兆候が見られたときは速やかに避難してくれよ。んじゃ、出発!」
隊列に関してはメインが探索なのでガッチリ組むことは無く、ノート達はまるで遠足の様な状態でミニホームから深霊禁山へ足を踏み入れた。
こんなに気を抜いていられるのも強力な索敵能力を持つグレゴリのお陰だ。森の中で遭遇した巨大な狼や猪の魔物をノート達は危なげなく屠っていき、採取できるアイテムは率先して回収していた。
ノート達がミニホームを構えるのは腐った森と深霊禁山を隔てる結界の中。非常に近所で深霊禁山の方が腐った森に比べて低難度でありながら、まともに探索を行った回数は非常に少ない。
なのでノートも含めて誰もが新鮮な気分で暗い森の中を当てもなく進んでいく。
「なにか面白い物があればいいが…………」
ノートは定期的にグレゴリの視界を借り、今までは全く探索していなかった方へと皆を導いていく。
「ここに出てくる魔物は~結構おおきめなんだね~」
「そうね、このサイズはナンバーズシティの周りでは見なかったわね」
傷だらけの状態で最後に一矢報いてやろうと飛び掛かる巨狼。その下にぬるりと滑り込み新調した刀でスパンッと首を斬り落とすトン2。
その背後からコンビネーションのように突進をかますダンプカーを彷彿とさせる巨猪。その猪の脳天を鎌鼬の狙いすました一撃が貫く。
ドゥっと倒れた巨体は赤いポリゴンへ変化し砕け散った。
「あー、そっかぁ。ボク達は割と見慣れてるサイズだけどぉ、街に居たトン2と鎌鼬はこのサイズの魔物は見ないよねぇ」
初めての深霊禁山に対するトン2と鎌鼬の素直な反応。それに対してユリンが納得する反応を見せる。
ユリンとて何時までも不機嫌なままではない。ノートの事を度外視すればトン2も鎌鼬もユリンにとって年の離れた友人と言えなくもないのだ。今はもうだんまり期間は終了し、トン2と鎌鼬とも普通に会話を交わしていた。
ノートもどうなることかと思ったが、ユリンが協調体制に切り替えたことをきっかけにトン2も鎌鼬も比較的問題なく『祭り拍子』になじんだ。チームワークにはまだ粗が見られるが、一戦を経るごとに着実に新生『祭り拍子』の練度は上昇していた。
なにより、ノート、ユリン、トン2、鎌鼬の四人は元から別のゲームで長らく遊んできたのだ。ユリンという歯車さえ回り始めればトン2も鎌鼬もきちんと機能する。
パーティーの仲を深めたり連携力を高める為にのんびりと森の探索を進めるノート達一同。大きな動きがあったのは探索を開始してから40分経過した頃だった。
「綺麗、ですね………」
「なんか特殊なエリアかっ?」
「だろうな」
ノートがグレゴリの連絡を受けて特定の方向に歩みを進めると、そこには大きめの池があった。
池の中には流石に大木は生えていない。日の光を遮る物もなく、この池だけは明るさに満ちていた。周りが暗いのでそれはより一層明るく見え、この場所だけまるで別の場所の様だった。
ノートは辺りを見渡し、試しに池の水に触れてみる。
「かなり冷たいな。水浴びができそうな感じじゃない」
「それにとても澄んでいる。池だけど結構深め」
さっそく水質の調査を行うノートの隣で同じように池に手をつっこむヌコォ。ユリン達は興味深そうに池を眺め、何か面白い物はないか探してみる。
いや、探すまでもなく、皆の視線は大体同じ場所を向いていた。
それは池の中央にある小さな孤島の様な場所だ。その孤島の場所だけ、巨大な茸の様な形をした樹木『リュウケツジュ』に似た樹が一本だけ生えていた。
ただし普通のリュウケツジュと違い、そのサイズは20mほどの高さがあり、幹は不気味なまでに白く、葉は血の色のように紅く染まっていた。
「あれ、なんだと思う?」
ノートの問いかけに対し皆は様々な回答を返すが、大体は“まともな物ではない”という見解で一致していた。
「試しに槍でも投げてみっか?」
「おいやめろバカ」
しかし発見だけして、明らかに何かありそうなものを完全スルーというのもなんだか勿体ない。いっそのこと攻撃でもしてみようかと提案するスピリタスをノートは慌てて止める。
「大体な、あれだぞ。ALLFOの開発には確実に意地の悪い奴が混じってるからな。明らかに目立つ物はフェイクだったりしても不思議じゃない」
その池はあまりに静かだった。そして他の魔物が一匹も寄ってこない。絶好の水飲み場なのに、足跡一つない。これはゲームだからなのか、ノートにはそれだけには思えなかった。
インベントリを探り手頃なアイテムを探し、ノートはメギドの餌用の『まるまる太ったタランチュラのから揚げ』を取り出した。一応、ノート達が食べても問題ないし、むしろ普通にうまい一品(香ばしいカニの香りを詰め込んだから揚げみたいな味)だが、今回はそれをスピリタスに投げてもらう。
スピリタスが思い切り投げあげたから揚げ(メギド用なので人の頭の大きさぐらいのビッグサイズ)は非常に高く弧を描き、ノート達と孤島の中間ぐらいに勢いよく落下した。
そのから揚げの行く末を皆の視線が追う。非常に高く投げ上げられたから揚げは一気に加速をしてかなりの速さで池へ落ち、激しく水飛沫をあげる。
――――誰もがそう思っていた。
しかし、から揚げと池の水面の距離が10mを切った瞬間、池の水が爆発するように盛り上がり銀の巨大な何かが煌く。
ソイツは人間の頭のサイズもあるから揚げを一口で呑み込み、再び大きな水飛沫を上げて池に戻った。
あまりハッキリと全ては見えなかった。だがパッと見てもそのサイズは20mオーバー。深海のギャングと呼ばれるホウライエソの色を白銀にして、巨大化させたような不気味な魔物だった。
なにより恐ろしいのは、それだけ大きい体をしていたのに池の中にその姿は全く見られないことだ。
そう、水から出ている時だけしかその姿を確認できないのだ。
ノートがグレゴリの視点を共有して上空から池を見ても、その巨体どころか“影”すらない。その巨体が泳ぐことにより水面が線上に揺らぐこともない。
荒々しく揺れる池の水面を見なければ気のせいかと思うほどに、その不気味な魔物の姿は見当たらなかった。
「…………ほらな?こんなもんだと思ったよ」
鬱蒼とした森を抜けた先に広がる明るい大きな池。この森で唯一と言っていいほどにしっかりと光が差し込むこの池の中央にある孤島。その孤島にそびえる明らかに特殊な植物。
それをもっとよく見ようとして清らかな池にずかずかと足を踏み入れたが最後、バックリと水面から下の部分を食い千切られて死ぬのだ。
おまけに水の中にいる限りは姿が見えない。喰われた本人も、周りから見ていた者もトラウマになりかねない光景だ。
グレゴリが新規に発見した魔物に関しては、全て鑑定を行う様にノートは指示を与えていた。だがグレゴリから届いたメッセージは、『人がおびえる様なスタンプ』の30連打と、『大凶と書かれたおみくじ型のスタンプ』10連打、『目にバツ印の付いたスタンプ』が1つと『虫眼鏡のスタンプ』と『バツ印のスタンプ』が1つ。
要するに『鑑定不可!感知不可!めちゃんこ怖い!近づきたくない!』という感じである。
グレゴリはわざわざ上空から降りてきてノートの元までやってくると、触手でバッテンマークを描き、首を横に振るように全身を震わせていた。
「わかったわかった。偵察だからと言ってお前に特攻を命じたりしないから安心しろ」
実のところグレゴリの再召喚コストは安いので試しにグレゴリで一つ実験でもしようかと考えていたのだが、それに先んじて本人にここまで強烈に嫌がられてそれを強いるほどノートも鬼ではなかった。
「んで~、どうするの~?」
「このまま撤退かしら?」
見た感じは、バルちゃんですらタイマンでも危うい疑惑のある『人頭霊鹿』のボス級か、或いはノート達を追い掛け回した森の祟〇神に近しいオーラ。その2つを知らずとも、トン2と鎌鼬にもアレがヤバい魔物であることぐらいは察することができた。
それでも、彼女たちは煽るようにノートに問いかける。
「まさか。どうにかして木の枝の一本、葉の数枚ぐらいは絶対毟って持ち帰るぞ。ネモのおみやげに最高じゃないか」
どう考えても危険。『触らぬ神に祟りなし』とはまさにアレの事。そうとわかっていても、ノートの目におびえる様な影はない。難題を前に興奮する少年の様な瞳をして、池の孤島をジッと見つめていた。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、ノート達はゲーマーとして無理難題に挑もうとしていた。
◆
急遽始まるは『深霊禁山の池の孤島攻略会議』。ノート達は色々と意見を出し合い、如何にこの危険な池のトラップを回避し戦利品を獲るか考える。
「そもそも、アレが敵対行動を示す条件もわからない。私とノート兄さんが池に触れた程度ではなにもなかった」
「あれじゃねぇの?あの孤島の守り神みたいな存在なんだろ?池の孤島にある程度近づかなきゃ大丈夫だろっ」
この攻略会議でポイントになったのは勿論あの謎の化け物。アレをどうにかしない限りは中央の孤島に干渉することは難しいと誰もが考えていた。
「ボクとしては、あの不気味な『樹』自体もグレゴリの探知と鑑定を弾いてるところが少し気になるんだけどねぇ。まさかの二弾オチとかありえなくはないよねぇ?」
姿の見えない化物は恐ろしい。しかし、『樹』の実態に関してもなんの情報も得られていない。とにかく不気味な池にユリンは強い警戒を見せる。
「可能性は、ゼロではない、と、思います………なんだか、嫌な、予感が、します」
そんなユリンの懸念にネオンも同意する。ゲーマーとしては赤ちゃんもいいところ。それでも、これまでの経験則でネオンは『樹』も十分に怪しいと感じていた。
「かといって、事前に攻撃を仕掛けるのも少しリスキーだよな。チャンスは一回、それぐらいの心構えで挑んだ方がいいな」
ノート達はあーでもないこーでもないと意見を出し合い、10分ほどして大まかな作戦を組み立てる。
「失敗したらそん時はそん時だ!!作戦開始!!」
それから5分程度を準備に費やし、ノートの号令で池の攻略が開始される。
◆
トップバッターはスピリタス。彼女は再び人間の頭大のから揚げを思い切り空高く投げ上げる。
それと同時に、トン2も二つ目のから揚げを大体同じポイントへ投擲。上空班のユリンと簡易召喚した死霊(グレゴリの下位互換死霊)が行動を開始。
ネオンと鎌鼬は狙いを定めている最中、二つのから揚げが池目掛けて落ちていく。
ノートはそれをグレゴリの視界から観察。水面の反応をジッと見続ける。から揚げは勢いよく落下、水面との距離が10m程度を切った瞬間、再びソイツは水飛沫を上げながら姿を現す。
そのほんの少し前、タイミングを慎重に見計らい放たれたネオンの風の大太刀を放つ魔法とネオンの風の魔法が封じ込められた特注の矢を鎌鼬が放つ。
放たれた魔法と矢は計算通り、から揚げに反応し池からとび上がった化物の横っ腹をしっかり捉える。
結果を見届けないまますかさずノートは死霊にゴーサインを出し、『樹』へ特攻させる。
化物を襲った二つの攻撃は、この森の獣程度なら一撃で沈めるほど強力な単体攻撃。しかしそれがクリーンヒットしても化物はダメージを欠片も受けていない。
問題はそれだけに留まらない。化物をから揚げで惹きつけた瞬間まではよかった。しかしノートの召喚した死霊共が『樹』へ特攻を仕掛けた瞬間、第二、第三、第四…………次々にその化物と同じ化物が池からとび上がり死霊共に飛び掛かったのだ。
「マジか!?」
サイズからして一匹でも広くないはずなのに、それが一気に数体。一体この池のどこに隠れていたというのか。これは流石に予想外もいい所だ。
だが、死霊共と共に特攻を仕掛けたユリンは驚きこそすれ諦めない。即座にピエロマスクをかぶり速度を強化、スキルを発動し更にブースト。正しくコースを見極めて縫うように化物共の間を飛び、『樹』の端ギリギリに会心の一撃を浴びせる。
スパッと切り裂かれる樹の枝。しかしそれを回収する余裕もなくユリンは全力で『樹』から距離を取る。だがユリンの予想に反して、木の枝を切り落とした瞬間になぜか化物共は動きが止まった。
その間にすかさず直談判までしてきたグレゴリが指示も出していないのにユリンの“影”へ転移。その枝を回収し素早くノートの“影”へ転移。最高のタイミングで最高の仕事をしてのけた。
それをユリンが見届けて逃避速度を緩めた瞬間、池の空間全体が振動し黒板を引っ掻くような不快な音が響き渡る。
それはまるで、悲鳴、或いは絶叫の様だった。
ユリンによって枝を切られた『樹』。その切り口から血の様な赤い液体があふれ出し、それが池の水に触れた瞬間、澄んだ池が血の様な色に染まり切る。
「これはまずい奴だぞっ…………!!総員撤退、馬車に乗り込め!!」
ノートの判断は素早い。脱出に関して全幅の信頼を置く幽霊馬車を即座に再召喚。ヌコォ達もそれに素早く反応し我先に乗り込む。そして最後にユリンと死霊が突っ込むように乗り込んできた瞬間に馬車は即座にスタートを切る。
ユリンは漸くそこで振り返って後ろを確認し、背後の光景を見て絶句する。血のように紅く染まった池からあの化物共が大量に顔を覗かせ、池から身を伸ばしこちらを食い千切らんと追跡をしているのだ。
だが、流石に陸では幽霊馬車に軍配が上がったようだ。森を疾走し化物からあっという間に距離をつき離す。
そして化物の姿が完全に見えなくなった瞬間、まるで怒り狂うようにガラスを引っ掻く様な不快な音が森中に響き渡るのだった。
(´・ω・`)種明かししますと、ALLFOの推奨ランクって地域を小分けにして平均値で集計されてます。だから第3四分位数とか中央値で見るととんでもない数値詐欺エリアって事が判明します。
だからノート達がエリア移動の候補地として推奨ランク20〜という当時桁外れの数値のエリアが選択肢に入ったわけです。
何が言いたいかっていうと、ヤバいエリアはとてつもなくヤバい




