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No.84 褒賞と画家

㊗百話目&体調ガタガタだから少しお休みさせてください




「改めて全員集めると、うちも結構大所帯になったよな」


 ノートは中庭に集まったメンバーを見て、そう独り言つ。そもそも全員に集合をかけるとリビングでは狭いので中庭を選択するくらいだ。『祭り拍子』のプレイヤーはノート、ユリン、ヌコォ、ネオン、スピリタス、トン2、鎌鼬の7人。

 死霊などは我関せずな幽霊馬車も加えると、タナトス、アテナ、ゴヴニュ、メギド、ネモに、バルバリッチャとアグラットの合計8体。

 合わせて15人も今はいるのだ。


 因みに、バルバリッチャとアグラットは特に呼び出しをしなくても勝手に来た。なにか面白いことをする空気を敏感に感じ取ったらしい。

 アグラットは自分の顔よりデカい甘く味付けされたせんべいを器用にかじりながら、バルバリッチャは酒瓶を手にしてベンチに腰掛けて寛いでいる。

  

 ノートの前に若干緊張した様な顔付きで整列しているタナトス達とは大違いだ。

 ノートはムードの欠片も無いバルバリッチャ達の事は脳から一度追い出してタナトス達に意識を向ける。



「まず改めて、数日前の一件では皆よく働いてくれた。今までしたこともなかった戦闘を経験し、これ迄にない成長を遂げたと思う。

 なにより、慣れないことをさせたが皆が無事で本当によかった。それと、トン2と鎌鼬。歓迎会はあとで何時か機会を設けるつもりだが、取り敢えず『祭り拍子』へようこそ」


 さて、皆を中庭に集めて何をするのか。実はユリン達も内容を知らされていない。ノートの指示にただ従っただけだ。

 特にまだ『祭り拍子』でのことに不慣れなトン2と鎌鼬は興味深そうにノートと死霊のやり取りを見ていた。


「今回の一件では皆の活躍で非常に大きな戦果を挙げることができた。よって、新しい仲間を召喚しようと思う。

 しかし、その前に一つやっておきたいことがある。先行して進化したタナトスを除くアテナ、ゴヴニュ、メギド、ネモの進化だ。これがようやく可能になったので、進化をさせようと思う」


 ノートがそう宣言すると、アテナ達は声こそ上げないがその仕草で喜びを表明していた。アテナ達は未だに進化の経験が無い。タナトスが先に進化してその憧れを強くしていたが、それがようやく叶うことになったのだ。


「まず、アテナ。大物から小物まで、アテナが制作してくれるアイテムはいつも役立っている。生成してくれる糸ももはや必要不可欠だ。これからもよろしく頼む」


「畏まりました、御主人サマ。不肖アテナ、より一層精進させて頂きマス」


「ああ、頼むぞ。《死霊進化・アテナ》」


 ノートがアテナの指先に触れて魔法を発動すると、どこからともなく具現化した糸がアテナを包み繭を形成する。その糸が七色に輝き光となって揺らめくと、スーッと消えていった。


 アテナの元々の容姿は、下半身が蜘蛛であることを除けば非常に落ち着いた深窓の令嬢じみた儚げな美少女。2つの人間の目、その上に額にかかったプラチナブロンドの髪に隠れて6つのエメラルド色の瞳はキラキラと光り、 古代中華風の高級官吏のような紫と金の上品な服を着ていた。

 タナトスの様に骨格が水晶に切り替わるほど劇的な変化は見られなかったが、髪は少し長くなり、胴から生える3対の腕の内、2本が完全に機械化した見た目をしており、額にあった6つの瞳もゴーグルかメガネの様な形に変わっていた。


「アテナ、只今ワヤプラーアラクネレイスから『機繰繊編(マキナフェデン)半霊半蜘蛛(アラクネレイス)』へ進化しまシタ」


 見た目は少しサイボーグ化したアラクネのゴースト、という属性の大渋滞を起こしていたが、持っていた技能はより最適な形へ進化し、生成できる蜘蛛糸の種類も更に増えた。

 進化を経て恭しくノートに頭を下げるアテナ。その胸が急激に発光し、アテナがそれに手を添えて何かを引っ張り出すような動きをすると、その手には金と赤のまだらな毛糸玉が握られていた。


「私の感謝の印、どうかお受け取りいただけますでショウカ?これはあくまで私の気持ちですので、御主人サマのお好きな様にお使いくださいマセ」


 それは従魔などが進化をする際に、主人に対して一定値以上の好感度がある際にくれる“ギフト”。ノートはこれは一体何なんだろうと、思いながらもお礼を言って受け取り、その効果を確認して笑みを浮かべる。


道繋グ命糸(アテナアリアドネ)/ギフト・アテナ】

『この毛糸玉の所有者は、自分の使い魔及びパーティーメンバーの距離と方角を把握することが可能。有線として活用も可能で、糸の片方を誰かに預ければその人物とダイレクトに音声会話が可能になる』


 それはただのギフトにしてはあまりに有用な品だった。今も尚、ALLFOではプレイヤー間のチャットでのやり取りでは可能でも音声通話は解禁がされていない。

 その状況下の音声会話を可能としてくれるアイテムの価値はかなり大きい。


「次はゴヴニュだ。ウチの鍛冶を一手に担ってくれる縁の下の力持ちだな。お前が居ないと、ウチは装備関係がどうにもできなくなってしまう。進化直後で悪いが、お前には後で多くの依頼をする。進化した成果、十分に見せてくれ」


「お、お任せくださいだ!!」


「期待しているぞ。《死霊進化・ゴヴニュ》」


 ノートがゴヴニュの肩をポンと叩くと、ゴヴニュは七色の炎に包まれてその炎の中から姿を現す。

 まず、ゴヴニュが大きく変わったのは衣装。顔以外が防護服の様な物で覆われていて、体格もボディービルダーを彷彿とさせる程までに更によくなっている。

 それに、今まではつけていなかったゴーグルも装備し、腰に巻いたベルトには更に多くの道具が取り付けられていた。

 進化の方向性はアテナと同じ。鍛冶に関する技能が統合され、ゴヴニュはより洗練された上位の能力を手に入れた。


「おで、鉱晶錬鍛(エルツアルヒ)人造人間(フランケン)になっただ!今までよりもっといい物作ってみせるだ!!」


 フンスと気合を入れて熱意に目を輝かせるゴヴニュ。ゴヴニュの胸はその熱意を表すかのように強く輝き、そのごつごつした大きな手の上に 黒と銀の角ばった腕輪が転がり出た。


「これ、おでの感謝の気持ち!主人さまの好きなように使ってほしいだ」


【魂鍛えの鎚/ギフト・ゴヴニュ】

『所有しているだけで、装備の耐久値の減少をこの腕輪が一定量引き受ける。死亡時の耐久値減少であっても代替可能。

 この腕輪にも耐久値はあるが、このアイテムを作成した人物のみ耐久値は何度でも回復させることが可能。死亡時のデメリットを下げる効果も持つ』


 ALLFOで長期戦闘を行ううえで付き纏うのが武具の耐久値問題。こいつは何をどう頑張っても使えば原則減る。そして装備自体、何度でも無限に修理し使うことはできない。それには限りがある。

 また、耐久値の減少は装備の性能を減少させることに繋がっている。高い耐久値を維持する上で、これほど便利なアイテムもない。ノートはこれもありがたく受け取っておく。


「次に、メギド。お前はもう、とにかく頑張ってくれ!強くなったらもっと戦わせてやれるしな!もっとうまいもんも食わせてやる!」


「GRRRRRRRRRRR!!!」


「《死霊進化・メギド》」


 メギドにノートが触れると、七色の光が荒々しく弾けた。その光を食い破るように、ヌッとメギドは姿を現す。


「GRLLLLLLLLKKKKKKKK!」

『KIKIKIKIKIKIKI』

『GIIII GIIII』

『JIJIJIJIJIJIJIJIJI』


 サイズ自体は変わりはない。しかしまず装備品が増えた。今まではハルバードと大盾だったが、鎖と槍も装備している。どちらもよく見ると腕なのだが、形状は完全に武器だ。

 そして顔の鎧も大きく変形した。今まではただの被り鎧だったが、それに牙が生え鎧は顔と完全に同化を果たした。

 また、ただくっつけられたような虫型の3つの頭。これがより完全に融合し鎧さえ装備し、その蠍型の脚部の尻尾は百足の様に大きく異常発達を遂げていた。

 

 そんじょそこらのボスより数倍厳ついビジュアル。より攻撃的なステータスを引っ提げて、メギド、四蝕蟲憤(フィヴァーナ)半人半蠍(デミスコーデイアン)は歓喜の咆哮を行う。

 その歓喜の咆哮と共に胸が輝き、メギドの胸元から直接ノートの足元へ落ちた。ゴトンッ!と重い音を立てて落ちたのは、赤く血管が浮き上がる様なラインが走っている腐食した大きな足枷の様な物だった。


【狂制縛錠/ギフト・メギド】

『このアイテムを所持している者は、MPを消費することでメギドとの感覚共有を可能とする。ただしメギドの持つバッドステータスも共有者に反映されることに留意すべし』


「お、お前もギフトくれるのか…………いや、そうか、別におかしくはないのか」


 ノートがいつも接する死霊が高知能な者ばかりなので、メギドに対する自分への好感度もよくわかっていなかったし、ましてやギフトをくれるとは思っていなかった。

 しかし普通は逆。大体の使い魔などはそもそも会話ができない。一般のプレイヤーがもし見ていれば、タナトス達の様な会話のできる死霊がギフトをくれる方が意外に感じるのである。


「(アテナとメギドのギフト………これはもしかすると…………)」


 これは“アイテム”だ。であるならば、アレにも使える。ノートはあることに気づき、ニヤっと笑う。それは表で見せる爽やかな感じとは違い、なにか悪だくみをする時の素の笑い方である。

 ユリン達もそれに気づき、何とも言えない笑みを浮かべる。普通なら引いてしまうような種類の笑みだが「楽しそうでいいな」と思ってしまうのも“痘痕も靨”という奴だろう。


 ノートは次にやるべきことの方針を大幅に脳内で変更しながら、最後にネモの前に立つ。


「ネモ」


「は~い、御主人様ぁ」


 頭に月桂樹の冠、緩やかなトーガの様な衣装、ビジュアルのモデルは古代ギリシャだろう。そして特徴的な豊穣の証の様な大きな双丘、木の根の様な脚。

 思い返せば、この中ではネモは一番の新顔で、直接話す機会が少なめだったかもしれないとノートは思う。それでいて、一番タスクを抱えていたのもネモである。


 イベントに於いてノートも驚くべきことは色々あったが、その中でもスピリタスから報告を受けたネモの戦闘能力に関してはノートも全く予想外だった。自分の死霊については知っていたつもりで、まだまだ知っていないことも多かったことをノートは知ったのだ。

 もう少ししっかりとコンタクトを取るべきだったと反省しつつ、ノートはネモにかける言葉を考える。


「まず、そうだな、ネモには一つ謝っておきたい。ネモとは召喚して以降、あまりしっかりと話す機会がなかったな。ネオンからも、タスク処理がキャパ限界に近かったことは聞いている。すまなかった」


「いえ~、好きでやってるんですから、大丈夫でっすよぉ」


 ノートの謝罪に対し、柔らかな笑顔と態度で対応するネモ。むしろ主人からの謝罪を受けて少し困っている様にもみられた。


「ネモには今後、農業方面に完全に専念してもらいたいと思っている。ただ……今までの分があるからな。ネモに何か要望があれば聞こうと思うが」


「えぇ?要望、ですか~?」


 ネモは遠慮しているようだったが、ノートが遠慮しなくていいと宥めると、少し悩んだ末に要望を決めた。


「そう、でっすねぇ~、とっても小さくていいので、私が育てたいものを育てる場所を個別で頂けるなら~…………贅沢すぎで「いや、それぐらいならいいぞ。むしろ物を育てるのってそこまでやると飽きないのか?」」


「いえ~まったくですよ~!植物を育てるのはぁ、とぉっても楽しいでっすよぉ!」


 ネモにとっては、植物の育成は何よりも幸せなことなのだろう。故にキャパ限界でも全く疲労感を見せていなかったのだ。ノートは本人がそういうなら、と今月課金できる分を少し使ってミニホームの農地を増設した。


「よし、これでいいだろう」


「ありがとうございます~御主人様ぁ!あ、それと、もう一つだけよろしいでっすかぁ?」


「いいぞ」


 さて、これ以上に何を頼むのか。なにか特殊な植物の採集でもしてほしいのかな?とノートが考えていると、ネモはふふふと楽しそうに笑う。


「もしお時間があるようでしたらぁ、御主人様ともぉっとお話しする時間が増えると嬉しいですぅ」


「それぐらいなら、お安い御用だ。これからもよろしく頼むぞ。《死霊進化・ネモ》」


 ネモの可愛げのあるお願いにノートも微笑み、差し出されたネモの手にそっと触れる。

 その途端、ネモの身体に七色に光るツルが巻き付いてその全身を包み、スーッと消えていった。


災果(カラミティ)植樹(ドライアド)妖霊(ファントム)に進化致しましたぁ。御主人様ぁ、改めてよろしくお願いしまぁす」


「ああ、これからもよろしく頼むぞ」


 豊かすぎる胸元が発光しその光にネモが手を当てると、その手には黒く禍々しい大量の枝が絡みあって形作られた短杖が握られていた。


悪壌魂(エゥレガシアス)癒杖(ヒールロッド)/ギフト・ネモ】

『“悪”を元に育つ生きた杖。周囲にある物の悪性が強いほどに成長し、悪性の強い者を癒すことができる。杖は生きているので、通常の鍛冶では強化できない』


 ノートがこの不思議なアイテムを受け取ると、手の中の杖が脈動するような感触を覚える。

 “生きている”という通常ではありえないアイテム。それはバルちゃんでさえ攻撃を仕掛けなかった森の主に呪われた盾を用いて召喚されたネモの持つ膨大なリソースが生み出したギフトだ。


 しかしそれに驚き、自分たちにうってつけのアイテムに喜ぶ以上に、ノートは軽く動揺していた。先ほどから死霊たちのくれるギフトがまるで示し合わせたかのように、今ノートが考えていることに対して『あまりにも都合がいいのだ』。


「(どういう事だ?これは偶然なのか?それとも意図的に介入されているのか?)」


 ネモは進化したことで、腕にも蔦などが巻き付き、黒かった月桂樹の冠は薄く緑色に発光をするようになっていた。そんなネモをじっと見つめても、そこには変なところは一つも見受けられなかった。


 かなり釈然としない部分はあるが、ノートは改めて死霊たちを見る。イベントのお陰で長く保留していた死霊の進化をようやく行うことができた。ビジュアルだけでもその豪華さは増し、威圧感の様な物も漂っている。

 自分の死霊がこれで全て進化したのだ。『祭り拍子』全体の能力はトン2と鎌鼬の加入もあったことにより数段階一気にランクを上げたと言っても過言ではない。

 

 ここでその有利性を絶対的にする死霊を新たに召喚する。お膳立てされているようで少し気味の悪さを感じたが、ノートは元々答えの出ないことをいつまでも悩んだり考えたりしない質だ。

 その頭を直ぐにやるべきことに切り替える。


「さて、全員の進化が無事に済んで何よりだ。少し間を置きたいところかもしれないが、ちょうど全員揃っている。ここで新しい召喚を行おうと思う。…………その前に、タナトス達に聞いておきたいことがある」


 もしかするとこの質問は彼らの気分を害すかもしれない。しかし、もし自分の考えが間違っていないとしたらここは臆病になるべきではない。

 ノートは数秒で迷いを切り捨て、思い切ってあることをタナトス達に聞いてみた。


「御主人様は、面白いことをお聞きになるのですね。我ら一同、御主人様の為に生まれ、御主人様の為に仕えし忠実なる僕。それが御主人様の為になるのであれば、これ以上の喜びは我ら御座いません」


 その質問の答えは肯定だった。死霊を代表して慇懃に答えるタナトスに、他の死霊達も同意するように頷く。そこに偽りの態度は見られなかった。


「ありがとう。では、召喚に取り掛かるとしよう」


 ノートは死霊たちの協力的な態度に感謝し、皆に見守られる中で中庭の中央に立った。


「(よし…………やってみるか。必要なのは様々な魔物の目玉を始めとした感覚器官、脳味噌、魔物の翼各種、鏡のクリーチャーの心臓、ゴースト系のドロップ各種………コスト高いな、おい…………魂はPLの魂500、鏡のクリーチャーの魂、悪魔の魂ありったけ…………さて、ここからが本番だ)」


 ノートは死霊の性質を大きく決定づける生贄に捧げるアイテムを捧げ始める。


 まず捧げるのは、ヌコォが初期限定特典のアイテムとして手に入れた探している物の場所を指し示す『冥迷の方位磁針』。

 次に、タナトスの“ギフト”、ホームの状態をリアルタイムで閲覧可能な『本拠点(Headquarte)実景(rDiorama)/ギフト・タナトス』

 アテナの人物の位置関係を把握する能力を持つギフト『道繋グ命糸(アテナアリアドネ)/ギフト・アテナ』。

 ゴヴニュのデスペナルティを引き下げるギフト『魂鍛えの鎚/ギフト・ゴヴニュ』。

 対象との感覚共有を可能とするメギドのギフト『狂制縛錠/ギフト・メギド』。

 悪により育ち治療能力を持つネモのギフト『悪壌魂(エゥレガシアス)癒杖(ヒールロッド)/ギフト・ネモ』。

 最後にユニーク化チケット。


 生贄に捧げられるアイテムのレアリティが高いほど死霊は多くのリソースを獲得できる。そのアイテムのレアリティが高いほど、生まれ出るその死霊の能力にその性質がダイレクトに反映される。

 まず、ヌコォの『冥迷の方位磁針』はユリンの持つ双剣と同じ様にヌコォの初期限定特典に紐づいた課金特典。勿論、シナリオを進めていけば似た様なアイテムは作れなくはないが、実質これは単一アイテム、最高レアリティ保証だ。

 

 問題は『ギフト』。これは魔物の種類とその能力、主人への好感度によって大方得られるものは決まっているが、タナトス達は全て“ユニーク”でありチート武器『ネクロノミコン』の力を分け与えられた単一種。

 つまり彼らの創り出すギフトは、完全なオリジナルアイテムだ。即ち最高レアリティ保証である。

 ギフトを生贄に捧げるという荒業。元はこの予定ではなかったが、彼らの与えてくれたギフトが『あまりにノートの喚びたい死霊の性質にドンピシャ』だった。

 

 もしどれか一つでも欠けていたら踏みとどまったかもしれない。

 

 例えばタナトスのギフトだけを捧げてしまうと、レアリティが高すぎて大きくそちら側に性質が偏ってしまうからだ。これだとヒーラー技能などを持たせることができない可能性がでてしまう。

 ノートの理想に全てが足り、バランスもこれ以上にないほどに、まるで御膳立てされたように整えられたからこそ、ノートもギフトを召喚に使うような真似を思いついたのだ。


 生贄は完璧。触媒は我らが絶対的信頼を誇る、現在のALLFOに於いて他の追随を許さない最強武器、第二段階到達済みの初期限定特典『死狂禁忌之秘宝書杖・ネクロノミコン』。

 

「《特殊下級死霊召喚・デイノンハール》!」


 ノートがその種族名を呼ぶと、その足元の少し前に金色の巨大な魔法陣が描かれる。魔法陣から金の泥が溢れ、その中からズズズズとその死霊は姿を現す。


――――――――――――――――

特殊下級死霊・暴霞隙(ティンダフル)邪瞳霊(アザスール)特・ユニーク

ランダム追加技能・画家


所持技能

・影渡り

・鑑定師

・探知/感知

・捜索

・看破

・思念表示

・治癒術師

・感覚共有

・意識接続

・強制同調

・死命護

・ホーム通信

――――――――――――――――


 それは直径1.5m程度の異形なる目玉の化物だった。

 血走った紅い巨大な眼球。その周りに脈動する黒い蔓の様な物が大量に巻き付き、メデューサの頭を彷彿とさせるハエトリグサの様な口が先端に付いた十数本の太い触手がユラユラ揺れ、3対のボロボロな蝙蝠の翼が羽ばたいてその体を宙に留める。そしてその身を薄っすらと黒いガスの様な物と紅い稲妻が覆っていた。


 見るからに禍々しい外見。それは縮尺を小さくしただけの邪神、或いはラスボスの様な、凡そ味方側とは到底見えない悍ましい見た目をしていた。

 ノートの召喚した死霊の中では初めて一切人間らしい部分の無い完全魔物型だ。


 その小さな邪神みたいな化物はギョロギョロと目を動かし、辺りを見渡す。


 ノートもPLの魂を500も捧げた上で完全な非人間型になるのは予想外だったが、それ以上に禍々しすぎるビジュアルに戸惑っていた。


「なんか、凄いな。これがタナトス達のギフト、俺の全ての死霊の力を分け与えられた結果なのか?…………まあ、いいか。お前の名前は『グレゴリ』だ。これからよろしく頼む」


 グレゴリ。旧約聖書儀典に登場する堕天使の一団であり、その原義は『見張る者』。自分のネーミングセンスに自信が無いノートはまたも死霊の名前を外部から引用して名付けた。

 ノートが名づけを行ったことで『グレゴリ』は正式にノートの死霊になり、グレゴリからバチっと紅い稲妻が弾ける。


 その瞬間、ノートはこめかみのあたりが少し暖かくなる様な感覚を覚え、続けて視界の隅に半透明の小さなパネルが現れた。そしてそこに何の前触れもなく記号が羅列されていく。


 頭を下げる人間の記号、或いはスタンプ。握手の記号、喜びを表すような記号、そんな記号がタタタッと謎のパネルに表示されていく。


「これ………もしかして、グレゴリのメッセージなのか?」


 せっかく索敵型を用意できたのにコミュニケーションが取れないとは大失敗かとノートは内心で思っていた。なんせ、グレゴリには口らしい口が無かったからだ。いや、確かに触手の先に口らしき器官があるが、どう見ても発声可能な形状はしていなかった。


 だが、急に視界の隅に現れた謎のパネル。そのパネルに表示される内容とグレゴリが持つ『思念表示』という謎の技能。これに何の関連性も無いとはノートは思えなかった。

 ノートの問いかけに対し、パネルの内容が一度リセットされる。そしてそこには『人が頷く』記号と、YESというスタンプが表示された。


「あー、これは面白いな。ちょっと予想外だ」


 言葉が喋れないから使えない?とんでもない。言葉が使えないからこそ、それ以上に情報戦に於いても強力な伝達手段をグレゴリは持っていた。


「なあ、ユリン達にはこの“メッセージ”が見えてるのか?」


「何の話ぃ?」


 一体ノートが何を話しているのか、ノート以外は誰も分かっていないようで皆が不思議そうな顔をしていた。


「うん、これはぶっ壊れ能力だな。グレゴリ、ここにいる皆に『思念表示』は可能か?」


 重要なのは、これがノート以外にも可能なのか。複数人を同時に対象とできるか。ノートはあまりに有用な能力なので自分しか対象にできないのかと少し懸念していたが、そんなことは全くなかった。


 小さな半透明のパネルに再び表示されるYESのスタンプ。グレゴリから紅い稲妻が再び弾け、ユリン達のこめかみのあたりにも暖かな感覚。ノートと同じように視界の中に半透明の小さなパネルが表示され、グレゴリの自己紹介が表示される。


『我。新規。仲間。是。我。言葉』


「ちょいまてお前記号以外も使えんのか?」


 その自己紹介はノートにも共有されていたが、いきなり記号やスタンプだけでなく文字が羅列されて思わずノートは突っ込んでしまった。


『絵。記号。我。趣味。愉快』


 そのツッコミに対するシンプルなグレゴリの回答。その返答には笑顔の人と照れるような人のスタンプも表示されていた。


「お前、見た目は邪神そのものだけど中身のギャップが激しいというか、面白いな」


『称賛。❓。我。歓喜。❗️』


「うん、お前が楽しそうで何よりだ」


 いい意味で凶悪そうな外見から大きく予想を裏切るコミカルな人格。その喜びを表すメッセージには万歳をする人のスタンプが5つも連続で表示されていた。


 こうして『祭り拍子』に強力な索敵・探索能力を持ち、しかし非常に癖の強い仲間が一体加わるのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] これ、バルちゃんのギフトを捧げたら相当やばいの出てきそう
[一言] えっと…ティンダロスアザトース? ちょっと違うけどまぁヤバいな!
[良い点] 面白くて一気読みしました 更新待ってます [一言] (ΘwwΘ)ふんぐるい むぐるうなふ げりらとうこう なふるたぐん いあ! げりら!
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