No.10 砕ける心
「っと、ここが新しいところか」
「おどろおどろしい森だねぇ」
転移先を選んだ後には肥後から細々とした説明があり、ALLFO運営と正式に契約(今回の騒動について他言しないなど)を結ぶと、ようやく解放されたユリンとノート。
最後には面会による拘束やその他諸々の謝罪の意を込めて、『お詫びの品』を貰えたので結果的には最高の結果になったとノートはホクホク顔。
ノートとユリンには、開催式の時の『お詫びの品』とは別の選択肢が提示され、更に1人2つも選べたなら文句などあるわけが無い。これにはユリンも流石に頬が緩んでいた。そんな彼らが今回選んだアイテムはこの4点。
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ノート選択
❶進化の種(召喚獣などを条件無視で進化可能)
❷ユニーク化チケット×10(召喚時や卵に使用することでユニーク確定)
ユリン選択
❶10万円分課金ポイント
❷上級転職権(条件無視で2段階転職)
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他にも魅力的なアイテムはあったが、悩み抜いた故の選択。
どうやら口封じは厳重にしたいのか『お詫びの品』のグレードが高く設定されており、『進化の種』を迷いなく選択したノートに頭を抱えている人が約一名存在したがもう後の祭り。ノートの手に最も渡ってはいけないアイテムNo.1が渡ってしまった。
ユリンは上級転職権を用いて暗殺者を2段階進化。暗殺者→刺客→殺戮兇手までグレードアップ(堕天法双剣士は既に最終ランクの職業のためグレードアップ不可)し、余計に殲滅能力が上昇した。
スポーンしてユリンがグレードアップしたミニホームをワクワクしながら設置すると、中にいたバルバリッチャとタナトス、幽霊馬車も無事再召喚される。
どうやらNPCは急なエリアの変化については不自然さを感じないらしく普通に受け入れていた。
ユリンはノートから不要なアイテムを全部受け取りミニホームにダッシュ。そして中に入ると、また出てきて、今度は馬車のアイテムボックスを漁る。そして往復すること2回。ミニホームに新しく設置された換金システムでいらないアイテムを換金したユリンはキラキラした目で「30万MON溜まったよ!」とノートに報告。バルバリッチャは主人らが何をしようとしているのか分からず首を傾げる。
「よし、天幕から一先ず普通の家程度にはあげようぜ」
ノートの同意を得てユリンが30万MONと課金ポイント2万円分を消費すると、天幕が緑色に発光。ミニホームは天幕から平屋のログハウスになり1.5倍ほど全体のサイズも大きくなった。これでようやくミニ“ホーム”といえるようになったとノートはホッとする。
「これで回復力も上がるよ!あと空き部屋が追加されてるはずだよ!」
「ほぅ…………急にまともな拠点になったな」
バルバリッチャは感心したように頷く。だが、愉快そうな妙な空気を感じ横を見ると、そこにはニヤニヤしたノートとユリンの顔が。
「何をニヤニヤしておる、だらしない。拠点がまともになって嬉しいのはわかるが、ただの木の小屋だぞ?」
ノートは違う違うと首を横に振り、徐に何かをバルバリッチャに押し付けてそのアイテムの効果を発動する。
突如、七色の光が爆発しノートとユリンは思わず目を瞑る。
1分ほどするとド派手なエフェクトが終わり、光の中から更にゴージャスな衣装を纏ったバルバリッチャが高笑いしながら現れる。
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最上級召喚死霊・ノーブルデヴィルヴァンパイアクイーン特強・ユニーク
ネームド:バルバリッチャ
所有技能
・自動超高速HPMP回復
・HPMPドレイン・大
・物理攻撃・魔法攻撃一部無効化
・高貴なる覇気
・真なる女王の下命
・変幻
・邪凶呪術
・暗黒魔法
・惹惑威風
・大堅権化
・呪具作成
・劇拷鞭打
・超広範囲探知
・看破・強
・千里眼
・裁縫特
・眷属作成
・拒否権
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姿に大きな変化は見られないが服の装飾が更に派手になっており、背中から生える巨大な蝙蝠のような深紅の翼は強力な威圧感を与える。そして頭に乗った黒いロザリオは怨嗟の声をあげる魂が縛り付けられた様なデザインでなんとも禍々しいオーラを放っている。
「ハハハハハハハハハハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!いいぞぉ、これはいい!!!最高にハイってヤツだーーーーーーーーー!ノートよ、主は最高だ!!!」
進化を遂げて超ハイテンションなバルバリッチャ。それは今にも踊り出しそうなほど上機嫌で、ノートに熱烈なハグをする。
そこでカッ!と紅く光るバルバリッチャの胸部。バルバリッチャはノートから少し離れると、自分の心臓が光っていることを確認しそこに手を当てる。そしてなにかを掴み引き抜くような動作をするとバルバリッチャの胸から徐々になにかが実体化する。
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装備:カースドアンドカースブラッド/ギフト・バルバリッチャ(譲渡不可)
強化上限回数:無し
耐久値:1000(※)
重量ペナルティ:無し
効果
・物耐上昇
・魔耐超絶上昇
・状態異常(毒・麻痺・昏睡・沈黙・魅了・気絶・石化)無効
・状態異常(盲目・混乱・幻惑・恐慌・即死)抵抗力上昇・大
・闇系・呪系魔法威力上昇・大
・闇系・呪系消費魔力減少・極大
・闇系・呪系魔法成功確率上昇・大
・高度隠蔽状態(感知系無効化)
・移動速度上昇
・闇在覚醒(一定値以下の明度の場にいる場合でステータス強化。〔夜目〕のスキルを付与)
・吸命活性(※生命殺害時装備耐久値自動回復。耐久値0の時破損せず機能を失う。再び殺害を繰り返すことで耐久値の回復ができる)
・主従共鳴(バルバリッチャ使役時の取得経験値上昇。バルバリッチャの進化時にこの装備も強化される)
説明:バルバリッチャが感謝の印に生み出したバルバリッチャの加護がかかった外套。闇と呪、吸血鬼の能力が宿っている。
(ギフト:従魔などが進化時、一定値以上の好感度がある場合に、一定確率で生み出す感謝の印の特殊アイテム。どのようなアイテムを生み出すかはランダム)
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それは艶やかな黒に近い深紅の外套。背中には黒の逆十字架。その更に上に重ねるように超複雑な幾何学模様と記号を用いた魔法陣が金字で描かれている。
「これは…………?」
「我の進化の余波が具現化した物だ。だがこれは我の趣味に合わん。主が着るがよい」
顔を背けながら、外套をノートに押し付けるバルバリッチャ。ノートが外套を受け取ると、プイっと完全に背中を向けたが耳が少し赤らんでいた。
「べ、別にあんたの為に作ったわけじゃないんだからね!」という副音声がどうしてもノートとユリンには聞こえるようで、ノートは吹き出しそうになるのを我慢して丁寧に礼を言うとメニューを操作して装備する。
「うわぁ〜、カッコいい!ノート兄いいなぁ!ボクも欲しい!」
目をキラキラさせてじっくりとノートの新装備を眺めるユリン。タナトスも『これはなんとも素晴らしい……!』と感嘆。ノートもメニュー画面のアバターミラーで自分の姿を確認するが、厨二病まっしぐらで自画自賛とはわかりながらも、雰囲気が出てとてもイカすな、と微笑む。
「そうであろう!?これは絶対に主に似合うと我は…………!」
そこでギュンと振り向きハイテンションに語り出すバルバリッチャ。だがノートとユリンの唖然とした表情を見ると、ハッとして徐々に顔が赤くなっていく。
なんとも言えない空気が数秒流れ、バルバリッチャはツカツカと早歩きで立ち去りミニホームに消えた。
「何というツンデレ」
ポツリと心の底から自然と口に出たように呟くノート。
ユリンは噴き出すと腹を抱えて大爆笑。タナトスでさえクツクツと顔を背けて笑っていたのだった。
◆
「わ゛ーーーーーーー!?」
妙な叫び声が響き渡り、何だ何だと騒めく室内。
若い社員は「あ、すみません!」と周りの同僚達に謝罪するとドタドタと奥へ向かう。
「主任、またです!」
「…………なにが」
昨日からの騒動の収拾をつけるのに奔走させられたが今日も元気に働く主任の目は完全に死んでいた。
「みてくださいよこれ!?」
そう言って見せるのはバルバリッチャがノートにギフトを贈る光景。
「これ、現段階じゃチートに近いアイテムですよ!?もうこの人達手がつけられなくなっちゃいます!」
「…………大丈夫、あいつら隔離されたから。もうアイツらは上からもアンタッチャブル扱いだから、気にするな」
「えっと、主任大丈夫ですか?DHA豊富そうな目になってますよ?」
「死んだ魚の目と遠回しに言ってるのか?ああそうだ。VRは肉体疲労がないはずなのに精神疲労が大きすぎて…………。いいか、もうアイツらが何やっても驚くな。AIに滅茶苦茶愛された奇跡の存在だと思っとけ。だが監視は続けろ、いいな?」
「は、はい……席に戻ります」
トボトボと自分の席に座る若い社員。主任はその後ろ姿が見えなくなると、勢いよく突っ伏して机にガンと頭をぶつける。
「もうアイツらホント嫌い…………よりによってなんであのアイテムを…………」
その呟きは特段大きくはなかったが、周りのデスクにはよく聞こえた。そして多くの憐れみの視線を主任は一身に受けるのだった。
100日後に死ぬ(禿げ始めたことに気づく)主任
未来は暗くても頭は明るいよ、元気出して
解説
『ギフト』
かなり高い好感度が必要で、そのNPCの知能が高いほど強力なギフトを与えてくれる。
ただし知能が高いというのは好感度が上げ辛いということでもある。
バルバリッチャのギフトはネクロノミコンと同様のぶっ壊れアイテム。
短時間で進化を達成したことが大幅な好感度上昇につながった。