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将来3人家族になるラブ日常  作者: ネオ・ブリザード
一年生『2月14日~3月30日』編
8/13

第8話 第一印象はバイオレンス・アンサー 3分の1


 それは雪化粧された外の景色が、ぽかぽか陽気により木々や屋根の上から雪解け水が滴り落ちてくる……そんな日でした。



 将来、夫婦になるふたりは、放課後の部室で何時もの様に向かい合った机に、向かい合うように座っていると、机に向かって勉強をしていた将来の妻がぽつりと口を開きます。



「ねぇ……」


「ん? どうしたの?」



 読んでる小説から目を離すこと無く答える将来の夫。



「この前って……鼓笛ちゃんの合格発表の日よね」


「そうだね」



 将来の妻は机に向かったまま、話を続けます。



「受かったかしら……?」


「鼓笛ちゃんなら大丈夫じゃない?」



 将来の夫は、特に心配する様子も無く受け答えていると、将来の妻の筆記の手がふと、止まります。



「そういえば……あの時はありがとう……」


「何の事?」



 将来の妻は、将来の夫の素っ気ない態度に呼応するかの様にその顔をあげると、こう言いました。



「入試の時、私に消しゴムを貸してくれた事よ。もし……あの時あなたに助けて貰えなかったら私、ここにはいなかったと思う……」


「君に消しゴムを貸した覚えなんて無いなあ。第一、試験中は物品の貸し借りは禁止されてるし」



 将来の夫は将来の妻の言葉をそよ風の様に否定します。将来の妻はそんな将来の夫の態度に、深い溜め息をつきます。



「あなたってば本当、そういう人よね……入試の時……初めて会ったあなたはもっと酷かった……」



 そして想い出に浸るような口調で、ふたりの馴れ初めを語り始めるのでした……






 高校入試当日……将来の妻は試験会場である教室に着くと、指定された席に座り、机の上に置いた鞄の中から国語の参考書と筆記用具を出しますが……その時、普段持ち歩いているものが無いことに気づきます。



「……ど……どうしよう……消しゴム……忘れちゃった……」



 顔面蒼白になる将来の妻。彼女は制服のポケットから鞄の中からありとあらゆる場所を探しましたが、やはり、消しゴムは出てきません。



 そんな将来の妻の左隣の席で、参考書に目を通す男子学生……将来の夫がいました。将来の夫は、不安の余り挙動不審になる将来の妻を一瞬だけ冷ややかな目で見ると、参考書に目を戻し将来の妻の方を振り向くこと無く声を出します。



「すみません、音も立てずに騒ぐのは止めて頂けますか? 気が散ります」


「……え?」



 将来の妻は、音の発生源を探る様に辺りを見渡し……そして、将来の夫の方に振り向きます。



「あ……あの……?」



 将来の夫は、話し掛けてくる将来の妻と顔を合わせようともしません。それどころか、参考書の紙をめくりながらきつい口調でこう言うのでした。



「何があったが解りませんが、あんまり五月蝿くされると周りの方もあなたの事が気になり、迷惑してしまいますので」



 その言葉に将来の妻は眉間に皺を寄せ、苛立ちを覚えますが将来の夫の言い分が正しいだけに、ぐうの音も出なくなってしまいます。



「……す、すみません」



 将来の妻は一言だけそう言うと、机に向かい形だけ試験対策してみますが、手元に消しゴムが無い不安は拭えません。

 将来の妻はもう一度鞄の中を探してみますが、やはり消しゴムは出てきません。……追い詰められた将来の妻。



「……あ、あの」



 思い余って将来の夫に再び声をかけてしまいます。



「……何ですか?」



 参考書から目を離すこと無く、不機嫌そうに耳を傾ける将来の夫。その態度に声を荒らげそうになりながらも、将来の妻は断腸の想いで助けを求めます。



「……じ、実は私……今日……消しゴムを忘れてきてしまって……」


「だから?」



 将来の夫の、神経を逆撫でする態度に将来の妻は反射的に手をあげそうになりますが、済んでの所でその気持ちを抑え、話を続けます。



「あ、あの……だから、もし出来れば……消しゴムを貸し」


「駄目です」



 会話を断ち切る様に、将来の妻の頼みを断る将来の夫。これには、将来の妻も思わず大声をあげて立ち上がってしまいます。



「何でよ!?」



 瞬時に教室中の生徒の視線を一身に浴びてしまう将来の妻。ふと我に返り周りを見渡すと、頬を赤く染めながら静かに着席します。



「……な、何故駄目なんですか……?」



 高ぶった気を落ち着けてから、理由を聞いてみる将来の妻。すると、将来の夫は参考書をそっと机に置き軽く溜め息をつくと初めて将来の妻の方を振り向きこう言いました。



「僕には、ライバルであるあなたの失態の尻拭いをする理由がないからです。消しゴムを忘れたぐらいで動揺し、受験に失敗してくれれば、こんなに好都合な事は無いですからね」



「……う……」



 将来の夫の言葉に、押し黙ってしまう将来の妻。将来の夫は話を続けます。



「大体、事前準備をしっかりしておけば、僕に話しかける事も無かったと思いますが?」


「……そ……それは……」



 将来の妻は机の上で握り拳をつくり、わなわなと震わせますが、将来の夫の正論には返す言葉もありません。

 そこへ、将来の夫は追い討ちをかけるように重大な事を伝えます。



「第一、試験中は物品の貸し借りは禁止されています。その辺は、入試案内の注意事項にも書いてあったはずです」


「え!?」



 驚いた将来の妻は、急いで鞄の中から入試案内の紙を取り出し、注意事項に目を通します。



「そんな訳であなたに消しゴムを貸す事は出来ません。せいぜい、問題の答えを間違って書かないように頑張って下さい」



 将来の妻を突き放すような言葉を残し、将来の夫は自分の机で再び参考書を読み始めます。将来の妻は鼻につく将来の夫の態度に苛立ちを覚え、両手に持った入試案内の紙を握り潰してしまいます。



「い……言うことがいちいち腹立つ……!!」


「そんな言ってて良いんですか? もうすぐ試験が始まる時間ですよ?」


「え?」



 将来の妻は隣から飛んでくる将来の夫の言葉に、思わず教室の前にある時計を確認します。



「ほ……本当だ! あと十分しかない!!」



 将来の妻は慌てふためきながらも入試案内の紙を鞄にしまい、腹を括ります。



「そ、そうよ! あなたの言うとおり、一問も間違えなければ、何の問題も無いのよ!!」


「……試験だけに……」



 将来の夫は何か囁いた様でしたが、将来の妻の耳に届く事はありませんでした。



 次回は明日、5月2日(土)更新予定です。


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