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将来3人家族になるラブ日常  作者: ネオ・ブリザード
一年生『2月14日~3月30日』編
6/13

第6話 消し去りたい黒歴史 3分の2


「……の、一週間後の事だったにゃー」

「聞いてないね……」



 将来の夫の声を無視し、話を続ける鼓笛ちゃん。顔は何故か天井を向いていました。




「その日、黒歴史先輩は『好きです』と書いた手紙を手に、愛しのバイオレンス先輩の教室へ向かったんだにゃー」


「こ……鼓笛ちゃん……」



 将来の夫と鼓笛ちゃんの間でおたおたする将来の妻。ですが、鼓笛ちゃんの口は止まりません。



「だけど、いざ教室の前に行くと急に怖じ気づいてしまった黒歴史先輩……。何を血迷ったのか、近くにいた女生徒にその大事な手紙を託してしまったんだにゃー」


「あ、あのね……」


「でもその女生徒は面倒くさがって、大事な手紙を授業中に廻し始めたんだ、にゃー! その女生徒死ねば良いのにゃー!!」


「お願いだから……もうやめて……」



 将来の妻の古傷に、これでもかと塩を塗りたくる鼓笛ちゃん。

 将来の妻の目には、涙が溜まります。



「しかもにゃんということか、その手紙は繊細さの欠片もない禿先公に没収され、バイオレンス先輩とその教室にいる生徒全員の前で開封される、という憂き目に合ってしまったんだにゃあぁあ!!」


「……鼓……笛……ちゃん……」



 段々穏やかでは無くなる口調が気になったのか、将来の夫は話を遮るように口を挟み、鼓笛ちゃんをなだめます。



「鼓笛ちゃん、口が悪くなってるよ」


「良いんだにゃー! 人の気持ちも読まずあんな事をする禿先公なんて、禿先公で良いんだにゃー!!」



 少々興奮しているのか、聞く耳を持たない鼓笛ちゃん。

 そこで、将来の夫はバイオレンスアンサーを炸裂させます。



「入試に響くよ?」


「黒髪八頭身の眉目秀麗なる先生に置かれましては、清く正しい校則に従い授業中に手紙を没収されたことは正しい行為であり……」



 瞬間、油を刺したかの様に滑らかに言葉遣いを変える鼓笛ちゃん。

 その様子を見た将来の夫は、少し呆れるような目で鼓笛ちゃんを見つめてしまいます。



「とはいえ! 先生が内容を一言一句、懇切丁寧に喋りやがった事実は代わり無いんだにゃ! それは正に公開処刑! 隣の教室にいた黒歴史先輩にも丸聞こえ、壁を挟んで教室中大騒ぎだったと聞いておりますにゃー!!」


「……鼓笛ちゃん……勘弁して……」



 鼓笛ちゃんに一言一句、懇切丁寧に黒歴史をほじくり返され、疲労困憊の将来の妻は、両手で顔を隠しながらその場に踞ってしまいました。



「その時だったね、僕が机の上に乗って『みょえー!?』とか叫んで天井に穴を開けたのは」


「伝説に残る、見事な頭突きだったと聞いておりますにゃー」



 将来の夫の語りを、武勇伝の様に聞き入る鼓笛ちゃん。そこに、最後の力を振り絞って顔を上げた将来の妻が、何とか会話に割って入ります。



「そ、そう言えば鼓笛ちゃん。あなた、どうしてその話を知っているの?」



 その質問に鼓笛ちゃんは、さも当然という風に答えました。



「黒歴史先輩、もしかして知らないのかにゃ? この話は、この町に住んでる人なら誰でも知ってる、正に、都市伝説級の話だにゃあ」


「……都市伝説なんだ……」



 自分だけ知らない驚愕の真実に、将来の妻は再び踞ってしまいますが、そんな将来の妻を尻目に鼓笛ちゃんは、将来の夫に力を込めて指を差し、耳を貫くような声でこう言いました。



「さあ、バイオレンス先輩! これでもまだ思い出さないのかにゃ!? 何故、黒歴史先輩が黒歴史先輩と呼ばれるようになってしまったのかを!? そして何故、あの時の返事に拘るのかを!?」


「だから覚えてるってば。……それに」


「それに?」



 少し顔を反らし、頬を赤らめる将来の夫。鼓笛ちゃんが食いつきます。



「『大好き』って気持ちなら、この前伝えたばかりだよ? それと何が変わらないのかな?」


「それはそれは♪ にゃんともよろしくやって」



 窓枠に寄りかかる様に腕を組み、将来の夫の言い分を『うんうん』と聞き入る鼓笛ちゃん。



「ってぇ! そうじゃないんだにゃぁああ!!」



 そして我に帰った様に右腕を高々と上げる鼓笛ちゃん。部室中に甲高い声が響き渡ります。



「耳の穴かっぽじって良く聞くにゃ!! 黒歴史先輩の告白の返事をしないということは、これすなわち、ただの恋人ごっこ、バイオレンス先輩に他に好きな人がいると思われても仕方がない事なんだにゃー!?」



 瞬間、将来の夫は身震いします。『好きな人』という言葉に思い当たる節があったのでしょう。……にも関わらず、鼓笛ちゃんの声は将来の夫の心を揺り動かすまでには至りませんでした。



「うーん、よく判らないなぁ。何で、そんな形式的な事に拘るの?」


「にゃー!? それ、本気で言ってるのかにゃー!?」



 将来の夫の台詞に憤怒する鼓笛ちゃん、窓枠に身を任せながら器用に頭をかきむしります。そして力尽きてしまったのか、背伸びした猫のようにでろんと項垂れてしまいました。


 そんな鼓笛ちゃんに将来の妻は、心配そうに声をかけにいきます。



「……鼓笛ちゃん。私、もう大丈夫……だから……もう……ね?」



 その弱々しい口調から、失望の念を感じ取った鼓笛ちゃんはぴくりと反応し、項垂れたまま声を発します。



「解った。鼓笛ちゃん、全部解ったにゃ」



 次回は明日、3月21日(土)更新予定です。


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