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将来3人家族になるラブ日常  作者: ネオ・ブリザード
一年生『2月14日~3月30日』編
5/13

第5話 消し去りたい黒歴史 3分の1


 それは、冬のある晴れた日……将来の妻はいつものように足早に部室に向かい、いつものように部室の扉を開け、将来の夫と言葉を交わします。



「……早いわね」


「遅かったね」



 そしていつものように部室に入ると、将来の夫と向かい合うように座り、机の上に置いた鞄の中から教科書やノート、スポーツ飲料をお店を広げるように出し、机に向かって勉強を始めました。

 そんな将来の妻の前で、何も語らずに小説を読み続ける将来の夫。


 ふたりの間に心地好い、沈黙が流れます……。



「ねぇ……」


「んー? どうしたのー?」



 鉛筆を動かす手を休めず語りかける将来の妻に、読んでいる小説から目を反らすこと無く耳を傾ける将来の夫。



「私達、いつもこうしているけど……」


「……うん……」



 顔を合わせること無くふたりは話を続けます。



「これって、付き合ってるって言えるのかしら?」



 瞬間、将来夫婦になるふたりの刻の流れは二分されます。片や、刻が止まったかの様に紙を滑らせる指が微動だにしなくなり、片や、普通の刻の流れの中で黙々と鉛筆を動かします。




 将来の夫は将来の妻と同じ刻の流れに乗るべく、パワープレーで小説から何とか目を離すと、力業で強引に将来の妻の方に振り返ります。



『……他に……好きな人が……』



 と、いう台詞を済んでの所で飲み込み、胃酸が出そうな気持ちで何とかこの言葉を捻り出しました。



「今更……?」



 将来の妻は、その言葉に反応する様に鉛筆を動かす手を止め顔を上げると、将来の夫に向かってこう返しました。



「今更も何も私達、毎日部室に来てはただ無駄話したり、小説読んでたり、勉強してたりするだけじゃない?」


「それが良いんじゃない……もしかして、何かあったの?」




 内心、激しく動揺している将来の夫は、つとめて冷静を装いながら、言葉を選び、将来の妻の胸を探ろうとしますが、そんな将来の夫の気持ちを知ってか知らずか、将来の妻は机に向かって鬱ぎ込むように両肘をつくと、目の前を両手の甲で覆い隠しながら「ふう……」と重いため息をつくのでした。



「何かって言うほどではないんだけど……」


「……うん……」



 将来の夫の将来に対しての不安は跳ね上がります。



「あの事件のせいで、私、貴方からあの時の返事を聞けてないなって思って……」



 その台詞を聞いた瞬間、将来の夫は途端に能弁になります。自分の考えていたことが、ただの思い違いと判ったからです。



「あー……あれね……。あの時は色々と大変だったよね。騒ぎを納めるために天井に穴を開けるとかしたから」


「そのせいであなた……何でか私もだけど職員室に呼ばれて……大目玉喰らって色々と有耶無耶になっちゃたのよね……」


「それが? どうかしたの?」



 思い出に浸る様に語り合う、将来夫婦になるふたりの間に突如戦慄が走ります。



「どうかしたの? じゃないでしょ!? 私の話、全然聞いてなかったの!?」



 両手で机を力強く叩き激昂する将来の妻。勢いそのままに立ち上がり、今の自分の気持ちをぶつけます。



「私が言いたいのは、あの時の返事もちゃんともらっていないのに、これって、正式につき合ってる言えるの? って事よ!?」


「え……? でも僕達の間に言葉なんて必要かな? 今こうして幸せな一時を過ごせているのに」



 将来の夫は将来の妻の言葉尻を捉え、まるで詐欺師みたいなことを語り始めます。



「君もさっき言っていたように、これが僕達が繋がっているっていう何よりの証拠にならないかな?」



 将来の夫の素っ気無い態度に、将来の妻は髪と両腕を振り乱します。



「そうじゃなくて……! ……確かに目に見えない大切なものもあるけど……! そうじゃなくて……!! もう! どうして解ってくれないの!?」



 ……その時でした。将来、夫婦になるふたりを見かねたような、元気な声が飛び込んできたのは。



「にゃー! バイオレンス先輩! 先輩は黒歴史先輩の気持ちをちっとも理解してないにゃー!!」



「鼓笛ちゃん!」

「何時からそこにいたの?」



 寸分違わず窓の方を振り返る、将来、夫婦になるふたり。


 鼓笛ちゃんは窓枠にぶらんこを漕ぐようにゆらゆらとしがみつき、将来の夫の質問に笑顔で答えます。



「にゃー、『私達、何時もこうし』」

「ふんふん」


「……ってぇ! そんな事はどうでもいいんだにゃー!」

「最初から覗いていたんだね……」



 思い出したかの様に会話を絶ちきった鼓笛ちゃんは、将来の夫に向かって右手を力強く指を差し、憤怒するようにこんなことを言ってきました。



「バイオレンス先輩はお忘れかにゃ!? 黒歴史先輩が黒歴史先輩と呼ばれる様になった由縁を!!」


「え? 鼓笛ちゃん?」

「いや、とても鮮明に覚えてるけど」



 鼓笛ちゃんは、将来の夫の言葉をそよ風のように右耳から左耳に受け流し、将来の妻が抹消したくなる過去を、自分の事のように語り始めました。




「そう……それはトンボが舞う、秋の文化祭……」

「鼓笛ちゃん、聞いてる?」




 次回は明日、3月20日(金)更新予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、うらやましすぎて有罪です。
[良い点] 黒歴史先輩の黒歴史先輩たる所以がついに明かされるのですね!? 待ってますよ! [一言] ちっ、リア充どもめ…… 地獄に落ちればいいのに……
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