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将来3人家族になるラブ日常  作者: ネオ・ブリザード
一年生『2月14日~3月30日』編
4/13

第4話 一錠残った風邪薬


 雪がちらちら舞うある冬の日……。冷えこむ廊下を足早に歩き、部室に向かう将来の妻。扉を開けるなり、部屋の中で小説を読んでいる将来の夫に悪態をついてしまいます。



「……何で今日も早いのよ」



 将来の妻は、そのまま部室に入ると将来の夫と向かい合うように座り、机の上に置いた鞄から教科書やノート、スポーツ飲料をお店を広げるように出し始めます。



「君が遅いだけじゃないかな? それよりも……」



 将来の夫は、鞄を机の横にかけマスクをずらしながら一口だけスポーツ飲料に口をつける、将来の妻を気づかうように言葉を続けます。



「身体、大丈夫? 風邪でも引いた?」



 心配してくれる将来の夫に、将来の妻はちょっとだけ頬を紅くしながら答えます。



「……大丈夫よ、これくらい。朝もちゃんと風邪薬飲んできたし」



 将来の妻はそう言いながら、鞄の中から風邪薬の入った薬瓶を出し、その中から風邪薬を三錠手のひらに開けて、それをスポーツ飲料で服用します。



 その様子を見た将来の夫は、読んでいた小説の手を休め、将来の妻に声をかけます。



「……そういうの、止めた方が良いよ? 薬の効果が薄まっちゃうから」


「しょうがないじゃない、昼間、薬飲めなかったんだもの」



 しかし、将来の妻は聞く耳を持たず、一錠だけ残った風邪薬の瓶を鞄の中に仕舞い、机に向かって勉強を始めました。



「ごほ、ごほ!」



 少しずつ、咳き込むようになる将来の妻。将来の夫が、心配しながら声をかけます。



「ねぇ、今日は無理をしないで早く帰ったら? 何か辛そうだし……」


「……どうして……そういう意地悪言うのよ……」



 声を震わせる将来の妻。気を使ったつもりの将来の夫の言葉は、彼女にとっては失言のようでした。



「……意地悪を言ったつもりは無かったんだけど……」



 ふたりの間に、しばし沈黙が走ります。雪の降る、しんしんという音が聴こえてくるほどの……



「そういえばさ……」



 将来の夫が、思い出したかのように口を開きます。



「風邪って人にうつすと治るって言うよね」


「……だから何よ……」



 くぐもった声で答える将来の妻。



「僕にうつしたら?」


「……ヘ?」



 将来の妻は、将来の夫の言葉に条件反射のように顔を上げ、目を合わせてしまいます。



「でも、そんな事したらあなたが……」


「もしかして、僕の事を気遣ってくれてるの?」



 将来の夫のからかうような口調に頬を紅く染めた将来の妻は、力強く机を叩きながら立ち上がり、思わず大声を出してしまいます。



「……そ、そんな訳ないでしょう!! どうして私があなたの事を心配しなきゃならないのよ!?」


「じゃあ僕にうつしても問題ないよね?」



 どこか勝ち誇ったような将来の夫の言動……将来の妻は、その将来の夫の口振りに、両手を握り締め、身体をわなわなと震わせます。



「……誰が……あなたと……あなたとなんか……」



 そして、口を滑らせました。



「誰があなたとキスなんかしてやるもんですか!!」



 次の瞬間、右手を口に当て、はっとしたような顔をする将来の妻。



「……僕、一言もキス何て言ってないけど」


「……う」



 押し黙ってしまう将来の妻。将来の夫はそんな将来の妻に向かって優しく微笑むと、こう語りかけてきました。



「もしかして君、本当はキスで風邪をうつそう、なんて思ってた?」


「思ってない! あんたとキスしてあげようなんて、これっぽっちも思ってた無かったから!!」



 それを聞いた将来の夫は、心を見透かしたかのように将来の妻の目を見つめます。



「本当かなぁ……? でも風邪をうつす方法なら、他にも色々あると思うよ?」


「た、例えば……?」



 将来の夫の言葉に耳を傾ける将来の妻。言っていることが既にバイオレンスな事に気づいてないようです。



「そうだなぁ……抱き合うとか、かな? そうすればお互い密着状態になるから、ウイルスがうつり易くなるんじゃないかな?」



 それを聞いた将来の妻は、頬を紅くしながらしばし考え込みます。



「……そ、そうね……抱き合うくらいなら……」



 考え込むこと早十秒……。顎に手を当て動かなくなった将来の妻に向かって、将来の夫はこう言いました。



「でもさ、わざわざそんな事しなくても大丈夫じゃないかな?」


「……え? どうして?」



 将来の妻が、顎から手を離して聞いてきます。



「君とふだん通り、こうして接していればいずれ風邪がうつると思うから」


「そ、そうですか……」



 将来の夫はそう語ると、再び小説を読み始めます。将来の妻はそれをどこか残念そうに見つめ、椅子に座ると、勉強をするため再び机に向かいました。



「……キス、する?」



「……マスク越しなら」そう言いかけて、口をつぐむ将来の妻……。



「……また、今度」


「うん、分かった……」



 ふたりの間には又しばしの間、雪の降る、しんしんという音が響き渡りました……


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