第3話 バイオレンス・ポニーテール
それはある冬の日……外はまだ厳しい寒さが続きますが、部室では暖房が効いてそこそこ暖かい、そんな日でした。
机を何時ものように向かい合うように並べ、何時ものように向かい合って座る将来の夫と将来の妻。
「ねえ……」
「んー? どうしたのー?」
将来の夫に声をかける将来の妻。将来の夫は読んでいる小説から目を離す事なく、将来の妻に返事をします。
「あなたが今読んでる小説なんだけど……」
「ライトノベル?」
「ライトノベルなんだけど……」
将来の夫の読んでる小説が気になる将来の妻。将来の夫の持っている小説を指差しながら、さらに話を続けます。
「表紙に、随分と可愛い女の子が描かれてるわね」
「描かれてるね」
将来の夫が持っていた小説には、桃色の髪を、ポニーテールにした可愛い女の子が描かれていました。将来の妻は少々不機嫌そうに将来の夫に聞いて来ます。
「そういう娘が好みなの?」
「うーん、好みと言えば、好みかなぁ」
それを聞いた瞬間、眉がつり上がり、眉間に皺を寄せる将来の妻。そこに、将来の夫の言葉が続きます。
「……って言ったら、君の事だから、多分この子と同じ髪型にするよね?」
胸の内を読まれたような将来の夫の台詞に、将来の妻は言葉を詰まらせ、机に伏せてしまいます。
「……しない……」
「本当? 桃色にもしない?」
「……しない! 私があなたを喜ばせる為にそんな事、するわけないでしょ!!」
将来の妻はそう言うと、机にかけてあった鞄を手に取ります。
「……私、もう帰る」
そして部室を出ていこうとする将来の妻。その背中に向かって将来の夫はこう言いました。
「僕は、普段の君が一番大好きだよ」
みるみる紅くなる将来の妻の顔。その顔を将来の夫に見られないように部室を出ていきました。
――――――次の日
「……早いわね」
「遅かったね」
放課後、部室に来た将来の妻の髪型は、桃色にこそなってはいませんでしたが、しっかりとポニーテールになっていました。