第2話 バイオレンス・バレンタイン 2分の2
「ひゅー、あつあつですにゃー」
将来の夫の顔面に投げつけられたハート型のチョコが机に落ち、それを将来の夫が手にした時、その声は聞こえてきました。
ほぼ同時に窓の方を振り返る、将来、夫婦になるふたり。
「もー、見ているこっちまであつくなりますにゃー。これは、夜明けのラッパコースですかにゃー?」
「鼓笛ちゃん!」
「鼓笛ちゃん!」
将来の夫と将来の妻は、その声の主を鼓笛ちゃんと呼びました。
鼓笛ちゃんは中三の女の子で、勿論あだ名です。頭に纏めた髪型がラッパっぽいので最初は『ラッパの――』と呼ばれていたのですが、何か言いにくいという事で、鼓笛ちゃんになりました。因みに本名は『山下』です。
「鼓笛ちゃん、何時から見ていたの?」
「鼓笛ちゃん、何時から見ていたの?」
将来、夫婦になるふたりは、ほぼ同時に同じ事を聞きます。
からかうように答える鼓笛ちゃん。
「『……今日、何の日か知ってる?』辺りかにゃー?」
「最初からかー」
「最初からじゃないのよ!!」
顔を真っ赤にさせ、大声を出す将来の妻。将来の夫も、心なしか、頬が紅く染まっているように見えます。
「……所で鼓笛ちゃん。鼓笛ちゃんは今、中三だよね?」
「そうだにゃー。それがどうかしたのかにゃ?」
「不法侵入という事で、先生に連絡しても良いかな?」
実は結構恥ずかしかった将来の夫。不法侵入をたてに、鼓笛ちゃんを脅します。
「にゃー! バイオレンス先輩!! それは待って欲しいにゃー!! ほら、黒歴史先輩も何か言って欲しいにゃー!!」
「黒歴史先輩って言わないで!!」
鼓笛ちゃんは、藁をもつかむ想いで将来の妻に助けを求めます。
……因みに、鼓笛ちゃんが言っているバイオレンス先輩というは将来の夫の事で、黒歴史先輩というのは将来の妻の事です。
「それよれりも鼓笛ちゃん。あなた、もうすぐここを受験するんでしょ? こんな所で油を売ってて良いの?」
「ふっふっふー。愚問ですにゃー。鼓笛ちゃんの頭脳があれば、こんな高校、合格したも当然、勝ちは決まった様なもんですにゃー」
鼓笛ちゃんが大口を叩いた次の瞬間、将来の夫が窓枠を掴んでいた鼓笛ちゃんの指を一本一本丁寧に剥がし始めます。
「にゃー! バイオレンス先輩!! ここ二階! ここ二階!! 落ちたら死ぬにゃー!!」
「でも、鼓笛ちゃん。何時も不法侵入してここの窓枠にくっついてるよね? だから、落ちても割りと大丈夫なんじゃない?」
「にゃー! 何いってるにゃー! そんな訳ないにゃー!!」
それでも少しずつ指を剥がしていく将来の夫。
「とう!」
将来の夫に全て指を剥がされる前に自ら横に跳び移る鼓笛ちゃん。将来、夫婦になるふたりは、急いで窓の外を覗きます。
そこには、雨どいに掴まった鼓笛ちゃんが、何やら捨て台詞をはいていました。
「ふっふっふー。今回はここまでにしておきますが、鼓笛ちゃんがこの高校に入学した暁には、おふたりの恋路を見届けてやるから楽しみにしてるにゃー!」
ずるずると雨どいを降りて行く鼓笛ちゃん。地面に着地すると直ぐに立ち上がり、将来の夫と将来の妻に向かって万歳の格好をします。
「では、さらばにゃー!!」
鼓笛ちゃんはそう言うと、ふたりに背を向けて走り去って行きました。
「元気な娘ね……」
「そうだね……」
夕日が射し込む部室……。将来、夫婦になるふたりは、窓の近くで見つめ合います。
「僕達も帰ろうか……?」
「そうね……」
ふたりはそう言うと、机にかけてあった鞄を手に取り、一緒に部室を出ていきました。