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第2話 夢

区切りが下手過ぎてなんかめちゃくちゃ短くなってますがご容赦を

暗い夜に、白い煙が浮かんでは宙で霞む。薪が小さく弾け、オレンジの炎が優しく揺れる。


誰も何もしゃべらない。

静かな空間では鳥の鳴き声が聞こえては遠くへ消えて行った。


「お兄ちゃん達は何してるの?」


沈黙を破ったのは少女だった。焚き火の明かりが、少女の金色の髪を照らし、不思議そうな表情を覗かせた。もしかして、気を遣わせてしまっただろうか。


「えっと、そうだね……」


なんて答えるべきだろう。上手く言えなくて、隣で首を傾げる姿に、笑ってごまかした。少し不思議そうにしながらも、にへらと蕩けるような笑顔が返ってきた。


「ララメね! 名前、ララメ・シアールって言うの。ろくさいっ!」


ララメは、両手で、パーとチョキを出して言った。合計すると七だ。日本と数の数え方が同じなら六というのはパーと、あと一本。


「ふふっ。ララメちゃんって言うんだ。かわいい名前だね。お姉ちゃんはリダ・ガーディア。よろしくね。」


空気が途端に柔らかくなるのを感じた。戦いが終わって、ずっとピリピリしていたから。緊張の糸が解けて、ようやく本当に戦闘が終わった、そんな気がした。


「えっと、僕はボンタ・シモダイラ。平凡の凡に太いって書いて凡太なんだけど、っていっても分からないか。よろしくね」


続いて自己紹介をすると、ララメがうずくまって震えだした。あまりに突然のことで思考が一瞬止まる。

なんで気づかなかったんだろう。あんなに危ない目に遭ったんだ。まだ怖いに決まってる。こんな小さな子に無理をさせて、気を遣わせて。情けない。


大丈夫。怖くないよ。大丈夫だからね、と僕にできることは背中を撫でる程度だった。その程度で安心できるわけもない。震える声で「ボンタ、ボンタ」と漏らす。答えるように大丈夫だよ、と声をかけた。


「っぷ、あははははっ。ボンタだってー!変な名前ー」


たまらず目が丸くなった。何が起こったのか分からない、理解が追いつかない。突然笑い初めて、まるで今まで堪えていたみたいに。


「あっ」


なるほど。震えるわけだ。よく見ると陰でリダも丸くなって顔を反らしている。責めるように名前を呼ぶと「やめて、耐えられない」と微かに空気の漏れる音がする。


「まったく。ボンタはおこったぞー、うりうりー」


いつまでもプププと、笑い声を漏らすララメをくすぐると、「やめてボンター!」と楽しそうに笑った。なんだかうれしくて、もう一度くすぐると「ボンター!」と言って笑った。ララメの楽しそうな声と、リダの堪えきれず漏れる声。混ざってもう一つ声がした。自分の声だった。急に、肩が軽くなったような気がした。


「おじちゃんはー?」


ひとしきり笑い終わった後、最後の一人に順番が回る。


「クシュージャ」


それだけ言うと、火の小さくなった焚き火に薪を一本放り投げる。ぼうっと、炎が立ち上って、赤い瞳が光を反射した。


パチパチパチと、火花を散らしながら炎はすぐに小さくなって、また薪を淡々ともやす。それ以上は何も語らず、燃え尽きて灰になった薪が、崩れて落ちる音が耳に残った。

物足りなかったのか「それでそれで」と、身を乗り出して聞くがおかわりはない。


「おじさんは恥ずかしがり屋なのですー。ほれほれー!」


リダが、目を爛々と輝かせて待つ、ララメの頭をなで回す。


「おじさんかわいいー!」


なんと言うか。子供は無敵だ。

クシュージャさんは気にした様子もなく、淡々と夕飯の準備を始めた。




「ごちそうさまでした」

「ごちそーさまでした!」


夕飯はいつも通り鳥の丸焼きだった。毛を毟っただけの文字通りのやつだ。それでも案外おいしくて、食べればやっぱり元気が出る。


ララメは響きが気に入ったのか「ごちそーさま」と笑いながら繰り返している。なんとも子供らしくて、なんだか温かい気持ちになった。


「ねえララメ。何で襲われたのか分かる? お父さんとお母さんは?」

「うん! えっとね……あれ?」


元気のいい返事。それに反して言葉が濁っていく。頭に人差し指を当てて、頓智をきかせるみたいにして考え込む。

出るのは唸り声。リダが「忘れちゃったの?」と助け船を出すが違うと言い張る。


違和感。忘れたのではない。知っているはずなのに出てこない、そういうわけではない。知っているはずなのに、間違いなく知らない。 


「クシュージャさん、魔法って一人一種類じゃ……?」

「端から、一人だなんて決まっちゃいない」

「じゃあ、あるんですか……?」


答えは帰ってこなかった。代わりにリダが首を縦に振った。ララメは首をあっちこっちに振って、話を追いかけたが理解できなかったのか首を傾げた。


六歳、そう言っていた。まだたったの六歳だ。小学一年生なのに。そんな子から記憶を奪うだなんて。


それからいろいろ聞いた。友達のこと、故郷のこと、両親のこと。どれも知らないと言った。胸が張り裂ける思いだった。

なんともない顔をして「わかんない」っていうララメに、ごまかすように笑顔を向けるしかなかった。


一通り聞いて分かったのは、自分の名前と年齢、そのぐらいしか覚えていないこと。


「あのね……ララメねっ…………」


眠くなったのか。船を漕いでいた。なんとか分かることを話そうとして、そのまま前に倒れる。

頭から地面にぶつかる前になんとか受け止めるとテントの中で眠らせた。あんなことが

あったんだ。疲れているに決まっている。


どんなに不安だろうか。知らない男に襲われて。何も分からないまま。

まだあんなに小さいのに。胸が締め付けられるようだ。僕に何ができるだろうか。


「寝るぞ」


クシュージャさんに言われて、顔を上げると炎が消えていた。日本と同じようにまん丸に光る月が眩しくて、煙が夜に消えていく。


その夜、夢を見た。両親の夢だった。眩しくて、暖かくて。

きっと、帰ろうと思った。


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