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足りない僕らが歩む道 ~感覚の共有能力で僕が勇者になるまで~  作者: DTスナギツネ
第4章足りない僕らが歩んだ道
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第28話 問

カツンカツンと磨かれた大理石が足音を返す。

巨大な支柱が何本も立ち並ぶ、巨大な神殿の中心でポツンと一人立っていた。


「何をしに来たんだ」


起伏のない声で、男は問いかけてきた。

僕と男の間には、もう数メートルの隔たりしかなかった。いつも被っていたフードを外し、顔が覗いていた。

真っ白の髪が伸び、背中にまで届いている。肌は不気味なほど青白く、瞳の色は灰色に濁っている。


本当に、そこにいるのか不安になるほど希薄な存在だった。

腰にさした剣の、柄を握った。

鞘を擦る高い音が神殿の中で響き、剣の先を男に向けると光を反射した。


「すべて、終わらせるために」

僕の返答が気に入らなかったのか、実につまらなそうに目を反らし、外を見た。

走り出し、剣を振り上げていた。あまりに隙だらけ、間合いはすぐにつまって腕を振り下ろす。


細かな振動が腕に伝わって、遅れてカーンという高い音が響いた。地面が軽く削れて、小さな傷跡ができる。

振り切った場所に男はおらず、一歩引いた位置で僕を見下ろしていた。

背筋に、悪寒が走りとっさに飛び退こうとした。間に合わず、お腹に衝撃が走った。 

吹き飛び、柱の一つに背を打ち付けた。


「カハッッッ」


肺から酸素がすべて押し出され、ツバを撒き散らせた。ズルリと背中を擦りながら、体を支えきれず座り込んだ。

胃がガクンと揺れて、熱い胃液が食道を通り喉元まで逆流する。たまらず咳き込んだ。

途端に、視界が暗くなり、見上げると無感情な男の顔が僕を見下ろしていた。

前髪を掴まれ、体を持ち上げられる。頭に針を指すような鋭い痛みが走り、浮遊感を感じた時、体が大きく揺れた。


「ガァッ」


痛みで、目を開けられなくなった。衝撃で歯が抜け落ちた。

柱に何度も叩きつけたあと、ボロ雑巾のように僕を地面へ放り捨てる。

ずっと、握っていた剣で床をついて、立ち上がった。プルプルと震える足をなんとか奮い立たせ、ようやく剣を前に構える。


「なぜだ」


問いかける男の声は、人でありながらまるで機械音のように平坦なものだった。温もりがなくて、口は動いているのに、表情が変わらない。


「あきらめたくっっないっっ!」


また、走っていた。痛みで上手く力を込められなくて、ふらついた。それでも、男のもとまで辿り着き、剣を振り下ろす。

金属が金属を打つ、甲高い音がした。

刃渡りが三十センチほどの短なナイフが、僕の剣を受け止めている。


「失敗作に、何ができる」


灰色の瞳が、僕の目を捉えて離さない。まるで、剥製にされた動物かマネキンかのように、その瞳は何も感じさせない。

灰色が、視界を満たし、広がってゆく。何も見えなくなって、ただ僕の中で声が反響する。


「お前に何ができる」

何もない空間で、僕が一人だけ取り残されていた。どれだけ大きな声で助けを叫んでも、僕の声はどこにも届かない。


「お前は何者にだってなれやしない」


やっぱり、その声は無機質なものだった。

灰色の目が僕を取り囲み、見下ろして攻め立てた。否定して、否定して、すべて意味のないものだと囁いた。心の奥へ、声がじわりじわりと染み込んでいくのを感じる。


そうだ、僕なんかに何ができる。

ずっと、僕が足を引っ張ってきた。ララメと出会った。その強さに、憧れた。でも僕はララメのようになることは叶わなかった。


ずっと、忘れていた。


僕は、逃げたんだ。自分が、何者にもなれないと分かってしまうのが怖かった。だから、否定されないように必死に目を逸らしてきた。

そうだ、僕なんかが……



「僕が何者かだなんてっっっ! 自分で決めるっっっ!!!」



光だ。灰色に染まった空間で、光が見えた。答えを指し示すように、光が走って僕を導いた。

必死になって、あとを追いかけた。

それでも、僕の耳元で灰色の声はささやき続ける。


「大丈夫だ」


嫌な声が弾けて、聞き慣れた声が僕を満たしていく。

そうだ。クシュージャさんが、選んだように。僕だってもう立ち上がらなければならない。自分の道を、歩かなくちゃいけない。

両手に、力を込めた。

ナイフが押し込まれていき、男は後ろへ、体ごと弾かれる。


「「これで、終わりだ」」


男の顔は、やはり何も写すことはない。これから死ぬというのに、恐怖も、悲しみもない。

ただ、虚無がそこに広がっていた。

剣を振り上げて、腰をつく男を見下ろしていた。

そうだ、声が重なった。

男の口が、僕と同じように開かれて言葉が続いた。


「あれっ?」


カランカランと、剣が床に転がった。

僕が、握っていたはずの剣だ。

両膝を打った。もはや、立っていることすらままならなかった。

無意識にお腹を抑えていた両手を、ベットリと血が濡らしている。


ああ、なんてことだ。

僕は、知っている。この魔法の存在を。


なぜお前が、クシュージャさんと同じ魔法を使えるんだ。


目を落とすと、光を反射する鏡面に、自分の顔が映る。ずいぶんとあっけらかんとした顔を浮かべていた。

背中から、腹を貫いた剣を、抜く気力はもはやもうない。


「お前がっ……勇者だったのか」


頬に、冷たい感触が伝わった。最後に残った感覚だった。音はとうに聞こえなくなっていた。全身に力が入らなくて、体温が消えてゆく。


その冷たさだけが残って、えらく寂しい。


ああ、暗い。



真っ暗だ……




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