表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
足りない僕らが歩む道 ~感覚の共有能力で僕が勇者になるまで~  作者: DTスナギツネ
第4章足りない僕らが歩んだ道
28/33

第27話 進むために

「あんちゃん、ほんとに金もってんのかぁ?」


小太りで髭を伸ばし、まくった裾から毛むくじゃらの腕を覗かせる男は、カウンターで肘をついて訝しげな目を向けてくる。

たいして背も高くない上に、筋肉がついているわけでもない僕は、実際大金を持っているようには見えない。

というか、自分で稼いだお金でもない。


「これで。……足りますか?」


クシュージャさんに託されたポーチから皮袋を取り出して、カウンターの上に置く。いつの間にか、力がついていたのか、思っていたよりも重量のあったそれが、鈍い音を立ててカウンターを震わせた。頬骨を付く手のひら滑り落ち、店主が顎を打ち付けた。

真っ赤になった顎を気にすることもなく、目を丸くして震えた手付きで皮袋を閉める紐をほどき、口を開ける。


「ひっひぃぃ、おっそろしくて、こんなに受け取れねぇよっ」


そういうと、店主は一枚だけコインを抜き取り、皮袋を返してきた。受け取ると、コインが擦れる音がジャラジャラと響く。

そういえば、こちらの世界での通貨の価値をまだ教えてもらっていなかったのを思い出し、中を覗くと白色のコインがギュウギュウに押し込まれている。

コインは光を反射して、角度を変えると色が変わり、七色に光った。よくわからないけど、ずいぶんと価値がありそうだ。


皮袋をポーチに戻すと、剣を鞘ごと腰に挿し、手のひらを返して今後もご贔屓にとゴマをする店主を背に、店をあとにする。

必要なものはすべて揃った。


クシュージャさんに生かされて、既に数日間が過ぎ去って僕たちは目的地へとたどり着いていた。

整備された道、立ち並ぶ店の数々、行き交う人々。すべてが今までの比にならず、なんというか、自分の立ち居振るに芋っぽささえ感じられた。

あたりを見渡せば、色鮮やかなレンガが目に入る煌びやかな都市。王都だ。

常に、フードの男が進む道の行き着く先にはここがあった。今までのは全て、道すがらのついでにしか過ぎない。


王都へ足を踏み入れて、ゆうに数日が立っていた。拍子抜けするほど何もなく時間はすぎた。

まだ、何も始まっちゃいない。

それでも、たしかに感じるものがあった。奴はココにいる。獲物を狩る捕食者のように、物陰で息を潜めて時を待っている。

その冷たい感触が、ずっと神経を張り詰めさせていた。


「おまたせ。何か、分かった?」


待ち合わせに指定していた、広場の噴水のそばに立つリダに声をかけると、暗い表情で首を振った。

僕たちを襲う静寂は、焦燥感を煽った。何も起こらないことが、何もできていない自分たちをより浮き彫りにして滑稽に見せる。

昼下がりの暖かな日差しの下、広場では子どもたちが走り回っているのが目についた。リダは、そんな子たちを見つめ、どこか優しげな表情を浮かべている。


「なぁなぁ、母ちゃん約束だかんなっ! いい子にしてたら祭りにちゃんと連れてけよ」


 おもそうな手提げを両手で持ちながら、母親にせがむ男の子の声が聞こえた。


「まつり……?」

「そっか……そんな時期か」


リダもそれを聞いていたようで、少し考えるようにして呟いた。

顔を見合わせて、頷きあう。事は、間違いなくそこで起きる。




「お二人さんもお祭りで?」


振り向かず、馬車を引くダチョウの様な生き物をムチで打ちながら御者は問いかけてくる。


「やっぱりそうですかい。ええ、ええ、ありゃあいいもんでさぁ。お若いお二人さんもぜひ楽しんで」


肯定したリダに対して、御者は続ける。

ガタガタと揺れる馬車の中、外では賑やかな声が聞こえていた。街中を、祝の楽しげな空気感が満たしていて、歩く人々の足取りもどこか楽しげに弾んでいるように思えた。


今日、国を上げた祭りが始まる。三日三晩寝ずで、歌って踊れやの大騒ぎ。

聞くと、国教として掲げられた宗教のおめでたい日らしく、神殿を中心に取り囲み、国を上げて最大規模の祭りが開かれる。


バンバンバン


大きな破裂音がした。見上げると、空で色とりどりの光が弾けて舞い散っているのが見えた。

立て続けにその魔法は放たれて、色とりどりの風船のようなものが空高くに上がると、弾けて光の粒子を人々に降り注ぐ。


皆が一緒になって上を向いていて、何度も魔法が破裂したあと、祭りの開始が知らされた。

湧き上がった歓声は、どこまでも大きく膨れ上がって、耳が一つの音に満たされて、他の全てが抜け落ちかえって静かになっていくような気がした。


僕は、結局なんのために戦うんだろう。


そんな問が浮かんだ。

クシュージャさんのように強い感情を待ち合わせているわけでなければ、リダのような真っ直ぐな信念だってありはしない。


あまりに、多くの人と繋がった。皆、いつも叫んでいた。その声は、憎悪や殺意ばかりじゃない。必死に、生きていた。

なのに、僕は未だ何者にもなれちゃいない。

それでも、僕があいつを倒さなくちゃいけない。その決意だけが胸の奥で、力強く鼓動し、体中に血を巡らせる。もう、立ち止まるわけには行かない。


「綺麗だね」


横で、リダがそう言った。どこか遠くを見つめるような、穏やかな表情だった。


「うん、綺麗だ」


歓声が、大きな波のようにどこまでも広がっていく。皆、嬉しそうな表情を浮かべて、周りの人と笑い合っていた。

楽しげな声が、大きな一つの塊になって響き、その中に意識が溶け込んでゆくのを感じた。感情が川のように、一つの流れとなって、僕はその中を泳いでいく。


川の流れを遮る、岩のような、異物があった。

感情の流れにぶつかり、すり減るどころかその小さな異物は少しずつ形を大きくなっていく。

まだ鳴り止まない人々の歓声が、耳の奥で消えた。焦点が、その異物の中に吸い込まれていくのがわかった。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ」


恐ろしいまで高く、悲鳴が鳴り響いた。その声はすぐに、他の雑多な声に飲み込まれて消えていく。


「すみませんっ! ここでっっっ!!!」


大声を上げると、御者が驚いて握っていた手綱を引き、ダチョウが足を止める。急停止をしたことで、馬車が揺れて体が前のめりに傾いた。


「ありがとうございましたっ!」


すぐさま、馬車を飛び出して、走り出す。


「おいっ! あんちゃんたちっ、お代はっっっ!?」

「すみませんっ、これでっ!」


必死に呼び止める声に、ハッとして、それでも立ち止まる時間がもったいなくて、ポーチの中から乱暴に一握りコインを取り出して、馬車の中めがけて投げ込む。

うまい具合に、中にはいると地面で跳ねて馬車の中をあちこち走り回っているのが目に入り、そのまま向き直すと走り出した。


「こ、こんなにうけとれねぇよっっっ! つりはっ……」


驚いたような声が聞こえて、すぐに喧騒に飲まれて聞こえなくなる。スシ詰め状態の道を、リダの手を引いて、すみませんと謝りながら隙間に体を押し込んで通っていく。

必死の形相で、人混みの中を逆走する人が横を通り過ぎていった。更に進めば、増えていく。その死にものぐるいの表情に、人々の不安は煽られて楽しげだった声が少しずつ消えていく。


場が凍りついたみたいに、音が完全に消え失せ、途端に皆が悲鳴を上げて逃げ始めた。我先にと周りの人を蹴飛ばして走ってゆく。

なにか、時間がゆっくりに感じた。

恐怖の感情を抱き、逃げ惑う人々の横顔が視界を掠めた。体が次第に押し出され、すぐに僕たちは吐き出された。


人混みの中で、ポッカリと穴が空いていた。

点々と人がいて、馬乗りになって顔を殴りつけている。

チッと、神経を焼くような痛みが走って、視界が真っ白に染まった。足音が、カツンカツンと建物内に響き反響する。


「ああ、正にふさわしい」

やっぱり、来ていた。

繋がった意識をたどって、分かった。奴は一人、神殿にいる。


「行って」


人混みに流されてしまわぬよう、見失ってしまわぬように、強く握っていた手を解いて、リダが言った。

まだ、手に温もりが残っていた。


まただ。またこの声だ。


クシュージャさんと同じ、覚悟を決めたまっすぐな声。


「でも……」

「大丈夫。私は死なないから」


リダ、僕の顔を見て優しく微笑んだ。

自然と、涙が溢れていた。

拭う手を伝って、なんども地面を濡らした。


「ようやく、諦めたくないって。そう思えた」


彼女のどこまでも優しくて、真っ直ぐな緑色の瞳が僕を捉えた。


「私をその気にさせた責任、取ってよね」


彼女は、最後にそう言って唇にぬくもりを残すと背を向けた。

風が吹いて、透き通るような青色の長い髪がフワリと膨らみ、光を零した。

たった一度だけ、ガキンと大きな音がした。

憎悪を浮かべていた人の動きがピタリと止まり、体を包む氷が、太陽の光を反射していた。


それでも、まだ終わらない。

叫び声が上がり、必死に逃げていたうちの一人が、逃げ遅れた子供に拳を振り上げた。そうして、また凍りつく。


憎悪の連鎖は止まることなく、広がっていく。

それを前に、僕は何もできなかった。

涙を振り切ろうと、必死に走った。冷たい感触が、頬に跡を残した。




「やっぱ……怖いや」


 聞き慣れた声が、耳の奥で響いていた。


「ねぇ、パパもいつもこんな気持ちだったの?」


向けられる悪意に、足が震えて立ちすくんでしまいそうになる。力もなくて、ただ怯えることしかできなかったあの頃のように、助けを呼びたかった。

守ってくれるパパはもういない。傷ついた私を治して、涙を拭ってくれるママだってもういない。

それでも、確かに消えない思いがある。


「守りたい……か」


もう、諦めたりなんかしない。

ずっと、逃げていたんだ。感情と向き合うのが怖くて、パパとママの信念に縋った。ただ、誰かを守ろうとした。


でもそんな真似っ子じゃだめだった。

今は違う。

そうだ。誰かに誰かを殺させなんてしない。愛するものを、傷つけさせたりなんかしない。それが私の戦う理由だ。


ようやく、諦めたくないって、そう思えた。


とっても弱くて、泣き虫で、いつも一生懸命で、必死に答えを探していたの。

だから、いつの間にか好きになってた。



私は、もう大丈夫だ。

ラストが近づいてきました

もう少しお付き合いくださいまし

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ