第26話 答え
「「信念なんて」」
耳の奥で、恐ろしく低い音が二重に重なって響いた。その声の一つが、自分のものであることに気がつくのに、そう時間はかからなかった。
足りなかったピースがハマったような気がした。ようやく、一枚の絵が完成する。
本当は、ずっと分かっていた。答えなどとうに知っていた。
ただ、何も言わずに立ち上がった。
そして、黒い穴を目指して歩き出す。
餌は美味しいか?
人の心は、信念は。
何倍にも増幅された感情が、あの穴を呼んだ。まだ、大きくなる。何人も食って、いずれ取り返しのつかないことになる。
まだ、殺意の集合体が小さいうちに。
既に、足元に少女が転がっていた。
ちょうど、ララメと同じぐらいの大きさだった。
見下ろしながら、無感情に剣を振り上げ、切っ先で空を指す。
ああ、そうだよ。みんな、いらないんだ。
ようやく楽になれる。そうして、剣を振りかぶった。
あっけなく、甲高い音が響いた。
剣の先が地面にぶつかってなった音なんかじゃなかった。あまりにたやすく折れた僕の剣身が足元に転がった。
バクンと、光が跳ねた。
「大丈夫だ」
僕を見つめるクシュージャさんの目は、どこまでも優しい。冬の暖炉に灯る、温かい炎のように赤い瞳がゆらゆらと揺れて僕を包む。
「ああ、嗚呼ァッ……いやだ、いやだいやだいやだ」
耳をふさいで、目を閉じた。小さく丸くなって、自分を守った。
逃げ出してしまいたかった。光が、僕の中でどんどん大きくなってその脈動が体を震わせる。それが、怖かった。
感情が、信念が。
痛いんだ。もう、傷つきたくないんだ。これ以上は耐えられない。
また、大丈夫って声がした。
体が暖かくて、僕をそっと抱きしめると、額の髪をかきあげて、キスをした。
目を開けると、クシュージャさんが僕に笑いかけた。その顔は、どこか懐かしい。
立ち上がって、リダを抱きしめると僕たちの前へ出て、背を向けた。
「大丈夫だ。お前なら、きっと」
まっすぐと、強い言葉だった。
雲が割れ、一片の光が差し込んだ。
それはクシュージャさんを照らし、オレンジの髪を脈々と燃やす。
溢れる涙を抑えることができない。彼を止めたかった。それなのに、伸ばした手を彼には届かない。
その背中は、既に覚悟を決めていた。
光が、鼓動を早め、心臓を飲み込んだ。
体中を、温かい体温が満たしてゆく。
「なんでっっ! 復讐するんだろっっっっ!!!」
悲鳴を上げていた。誰かに、助けてほしかった。声は確かにクシュージャさんに届いて、黒い穴に向かって走り出していた。
リダが、僕の手を引いた。
無数の腕が、四方からクシュージャさんに迫った。彼は腰の剣を抜いて、すべてを切り刻んだ。
僕は、引かれるまま走った。
抱きしめてくれた体温がまだ残ってて、耳の奥で優しい声が響いていた。
復讐を果たすために、始めた旅だった。
町の中で、わけもわからず泣きわめくガキを拾った。道中、泥まみれになった小汚い少女を拾った。森で、もっと小さい少女を拾った。ようやく、仇の正体までもが分かった。
未だ、渦巻く憎悪が怒りが抑えきれない。
殺してやりたい。
それでも、楽しかった。
共に過ごした数日間、俺は確かに幸せだった。
そうだ。
俺は、生きていた。
クソネズミだとかどうだっていい。
あの人たちの弟だ。
だから、あいつらを助けたい。
それだけで、十分だ。
「俺の名前はっっっ! リーフ・クシュージャだっっっ!」
光の奥で、最後にクシュージャさんの背中が見えた。
とても大きく、温かい。光は霞のようにぼやけていって、やがて消えて見えなくなった。
なんか思ってたより短かったでござる
もうしわけない




