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足りない僕らが歩む道 ~感覚の共有能力で僕が勇者になるまで~  作者: DTスナギツネ
第3章 にせものの証明
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第23話 にせものの証明

そして、たどり着く。そこは、今までの村と呼ぶようなものとは違う。町だ。

今までとは違う、石畳の整備された道が続いている。一歩進めば、踵に力が帰ってくる。ずっと、沈み込んでゆく泥の上を歩いてきたから、かえって気持ち悪い。

やはり、その日の空も紫色の不気味な雲で満たされていた。おそらく、昼頃だろう。朝起きて、それなりに時間が立っていた。


町を歩きながら、気づくまでにかかった時間はそう長くはなかった。この空気感は、知っている。

胸にピリピリと小さな電流が走るような感覚。小さな苛立ちが誘起される。今まで不鮮明に感じていた、小さな不快感が浮き立ってわかった。


既に、始まっている。

理解したと同時に、走り出していた。ここにたどり着くまで、地図を何度も見た。リダとクシュージャさんが後に続いて走った。

町の中心へ。効率的に、魔法を行使しなければいけない。僕はそうなんども感覚の共有を行えない。


視界の端に、殴り合う人々が映る。嗤う女の手にはレンガが握られていた。その傍で、頭皮が剥げた頭から血を垂れ流す男が転がっていた。


救えなかった。

でも、大丈夫。

まだこんなにいる。


ようやく、たどり着いた場所は広場のようだった。円上に空間が開けられていて、倒壊した小さな屋台の跡のようなものがいくつも見えた。

多くの人が、集まっていた。

目を閉じた。胸に手を当てて、静かに魔法を行使する。

簡単だ。やり方なら知っている。


一人と繋いで、塗り替える。真っ黒は僕だけじゃなくて二人分になる。もう一人と繋いでもっと大きくする。大きな大きな黒色をどんどん広げて、全部飲み込んでしまえばいい。ああ、そうだ。怒りも憎悪もない、真っ暗な世界へ。

怒りの感情が沸いて、憎しみの感情が沸いて、殺してやろうと考えた。

ジワリジワリと黒色が染み込み、侵食して塗りつぶす。そんなもの、すぐになくなる。

大丈夫だ。だいじょうぶ。問題ない。きっと、救うことができる。


「………?」


小さな小さな不純物。

黒色の中に混ざった点だ。赤色でもない。

夜の空に浮かぶ一等星のように、塗りつぶそうとすればするほど光を増してゆく。


違う、違う。

やめろやめろやめろ。


間違っちゃなんかいない。

あと少しで、救えるんだ。

その光を、塗りつぶそうと何度も何度も筆で上から色を重ねた。

もっとだ。


もっと黒く……。



バクンッッッッッッッッ



全身がブレて、何十にも重なったかのような錯覚に陥る。心臓が大きく跳ね、体ごと震わせた。

全身から、力が抜けて汗が吹き出した。

突如、激しい疲労感に襲われて動機が早まった。


答えを探すように、瞼を開けた。

それなのに、依然として暗い。


穴、真っ黒な穴だ。


底の見えない巨大な穴が広がっていた。それは決して光を返さず、そこに佇んでいる。

心臓が更に早まっていく。背中に絶えず冷たい汗が流れる。

ただ漠然と、それが良くないものであることを理解する。

まるで時が止まってしまったかのように、全くの同時に人々の動かなくなった。


ネバついた風が肌を舐める。

背筋に悪寒が走った。

穴からフシュルフシュルと、蛇のようにウネリながら、無数の黒い腕が溢れ出した。

腕は、止まった人々を目指してゆっくりと動き出す。

一本の腕が、近くにいた少年の胸へとたどり着いた。なんの抵抗もなく、腕が沈み込んでゆく。


ピタリと止まり、間を置かずにまた動き出した。興味を失ったように、少年の胸から離れるとまた近くの人のもとへ向かう。

その瞬間、少年の時が動き出す。まるで剥製かマネキンかのような色のない目。脱力しきった体はやがて地面へ無抵抗に倒れる。受け身も取らない体は、受けた力を反射して小さく跳ねた。


「ち、ちがう」


グリン首が折れ曲がり、顔だけがこちらを向いている。体は微動だにする様子さえ見せない。それなのに、灰色の虚ろな瞳が僕を見つめていた。


「あ、あああっ……」


思わずに、後ずさっていた。恐ろしかった。足が震えてもつれ、力なく地面へ尻をついた。もはや立ち上がることは叶わなかった。


違う違う違う。


僕はこんなことをしたかったわけじゃない。

胸の中で、叫んだ悲鳴は暗闇の中へ飲み込まれていく。声は発すると同時に消えて、耳に届くことさえない。苦しい。息ができない。苦しい。


そうだ。

僕はただ……誰かを救おうとして……。


こんなはずじゃなかったんだ。

ただ……ただ……誰か救いたくて。


胸の奥で、小さな点がまだ光り続けていた。

暗闇の中で、鼓動するように、大きく光って僕を飲み込んでいく。


そうだ。僕は……おれは……


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