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第11話 希望

「ボーンター!おーきてー」


何度も繰り返し声がする。体がゆすられて、意識は確かに覚醒していた。それなのに、


「う、うごけない……」


全身が筋肉痛で、足を上げるとまだピリピリと痛い。朝からララメ回復魔法をかけてもらうハメになって「ボンタはだめだなー」と呆れられる始末。

後ろから空気の漏れる音がし、振り向く。とっさにリダが顔をそらして口を塞いだ。


「リーダー」

「あはははははは。ごめんごめん。」


責めるように名前を呼ぶと、堪え切れずとうとう大きな声を上げて笑いだす。リダは軽く涙を拭いながら、謝った。


「まったく、笑い過ぎだよもう」


完全に自業自得なのだが。どれだけ揺らしても全く動く気配のない僕を見たララメが、リダを呼んだ。筋肉痛で体を動かせず、丘の魚のようにピクピクと痙攣する僕を見て、リダはずっとこの調子だ。


なんとも恥ずかしい話である。僕は心の中で密かに、リダに一矢報いて見せることを誓った。

昨日のように襲撃に合うこともなく、何事もなく僕たちは進んだ。いつものように昼過ぎになったら少し休憩して歩きだす。


それから、少したった頃だった。


「なんか……臭い?」


それは、どこかで嗅いだことのあるような匂いだ。その言葉を合図にして、皆立ち止まった。


「木の……燃える匂いだ」


その言葉を発すると同時に、クシュージャさんは走り出す。必死になってその後を追った。

道を走って、進めば進むほどに匂いは濃くなってゆく。見上げると黒煙が立ち上っている。

小さな灰が宙を漂っていた。そうだ。いつもと同じ薪を燃やす時と同じ匂いだ。それを何倍にも濃縮したような匂いが、鼻を突き抜けていった。


やがて、視界に赤が映る。道を抜けると家々が立ち並び、それらが轟々と燃え上がる。大きな音とともに屋根が崩れ、柱が折れ、やがて倒壊していく。

火は更に燃え広がり、口から血を垂れ流す死体を燃やした。肉の焼ける嫌な匂いだ。それでも足を止めることなんてできない。


完全には直しきっていない筋肉痛が足を襲う。プチリプチリと筋が切れるような感覚に襲われる。

それでも、視界の奥に見えた。見えてしまった。

母親だろうか、子供を抱きしめて男をキッと睨みつけていた。男はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべナイフを振るう。


金属のぶつかる高い音がして、ナイフが宙を舞う。腕に力を込め、それは解き放たれる。開放された力が勢いへと変わり、剣身は首筋へと向かう。

また、高い音がなった。砕かれた氷の破片が光を乱反射して、クシュージャさんを覆うように小さく輝く。男の首は依然としてつながっており、その全身が分厚い氷で覆われていた。


「まだ、きっと助かる!」


リダが叫んだ。その先で、一人の少女が包丁を手にしているのが見えた。子供らしい笑顔を浮かべてにじり寄る。少しシワのある妙齢の男は、それにどうするでもなく、すべてを諦め涙を流し、ただその時を待っていた。


体が、勝手に動いた。

いつの間にか走り出していて、そのまま少女に体当たりをする。


「早く逃げてっ!!!」

「いいんだっ……もう」


男はそう言って涙を流しながら確かに笑った。


「その子はっ、僕の子だ」


言葉が詰まった。彼は静かに視線を横に送った。追いかけたその先で、目に飛び込んだのは、一人の女性。

胸にいくつもの刺し傷が見えた。

すべてわかった。わかってしまった。


「親ならっ! 子供に殺しなんてさせるなよ! お前が止めてみせろよっ!」


せめて、そう言ってあげることしかできなかった。

僕には、自らの妻を失った男の痛みなど到底わかりえない。何もできやしない僕にはそんなことを言う資格もない。

それでも、言わずにはいられなかった。


男は立ち上がると、泣きながら少女を抱きしめた。

少女はそんな父の肩に何度も噛み付いて、引き剥がそうとする。血が滲んでいた。


「行ってくれ……もう、大丈夫だ」


その言葉を聞いて、また走り出す。まだ終わっちゃいない。この惨劇を作り出した男がいるはずなんだ。


「クシュージャさんっっ!」


燃え盛る家々を越して、目の色を失った人々から目を背けて走った。その先で、うずくまるクシュージャさんが見えた。周りには誰もおらず、頭を抑えている。


「俺に近寄るナッッッ!!!」


そう叫んだクシュージャさんの目はひどく充血していた。まるで獣のようで、息は荒く歯茎をむき出しにして奥歯を噛んでいる。


その異様な様相に気圧されて、立ち止まった。その時だった。


彼は、何事もなかったかのように立ち上がった。胸の前に腕を運ぶと、空を握る。同時に柄が現れて、投影されるかのように徐々に剣が浮かび上がる。

そして、走り出した。その目は未だ赤く憎しみを浮かべている。ああ、見たことがある。


そうだ、あの目だ。

あの村で、人々を支配していた憎悪の目。その動きはあまりにも早く、既に間は数メートルもない。

やがて、届いてしまうその刃を見て、僕は動くことさえできないままでいた。


まただ。おんなじだ。


後ろへ、引っ張られた。体がふわりと宙に浮く感覚にとらわれる。時間が静かに過ぎてゆく。音が聞こえず、ただコマ送りで映像が送られる。

放り投げられた僕の前にリダが躍り出て、その凶刃を右腕で受け止める。


また僕は、何もできないのか。


ガキンと音がした。


「諦めたく……ないもんね」


尻もちをついて倒れる僕を背に、リダはそう言った。腕を覆うように張られた厚い氷の半ばで刃は止まっていた。

僕の横を小さな影が通った。


「もどってーーーー!」


ララメがクシュージャさんの足に抱きついて、叫んだ。氷に突き刺さった剣を引き抜いて、振り上げられる瞬間を見ていた。

とっさに、体が動いていた。僕は今、剣を持ってさえいない。それでも動かずにはいられなかった。


そうだ、そうだよ。諦めたくないんだ。


空中でチラチラと光る、何かがあった。僕はそれを迷わず握りしめた。青く、鋭く研ぎ澄まされた氷の剣。


そうだよ。僕だってきっとリダのように。


耳を劈くような大きな破裂音。

視界に、砕け散る氷の剣が映った。キラキラと光り、後を追うように鈍い音が耳に届く。弾かれた剣は宙を舞って後方の地面に突き立てられた。


「グッッ」


クシュージャさんが唸って、膝をつき額を抑える。リダが氷の剣を持ち、構えた。


「大丈夫だ……戻った」


クシュージャさんはそう言って足元のララメの頭を撫でた。


「助かった」


優しげな声でそう言うと、クシュージャさんは視線を僕らに戻す。


「ようやく分かった……ララメの回復魔法は、共有さえも治す」


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