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6/7

崩壊

今回のお話は残酷な描写が強く出ております。苦手な方はお気を付けください。

「おばさん! お世話になりました! 響もありがとね!」


「い~え~、また遊びにいらっしゃい」


「おう! またな!」


 響とのお泊り楽しかったな。(たま)にはこういう日があっても良いかもね。午後からの練習も頑張って、来週の決勝戦に備えなきゃ! 


 部活が始まるまであと四時間弱あるな。帰ったら一時間半くらい寝よう。五時間くらいしか寝てないから、すごく眠たいんだよね。


「諒、響くんとのお泊りは楽しかった?」


「うん! でも夜遅くまで起きてたから眠い。少し寝てくるね」


 俺は部屋に戻ると、速攻でアラームをセットし、ベッドへダイブした。


--------------------------------------------------------------------

 

 そんなこんなで試合当日になりました。

 あれからの練習はハードなものでした。部活が終わった後も皆で集まってまた練習、帰りが毎日、夜十一時を過ぎてたから両親に心配されましたが、今日は負けられないからね! 


 今日、両親は仕事で観に来れないから、観戦は響だけです! 

 監督の選抜発表も終わり、部活メンバーが一人一人が意気込みを表明している。各々、最後の試合に向けて気合の入った言葉を並べていく。

 そろそろ俺が話す番なんだけど、こういうのって最初に言う人は有利だよね。俺が考えてた台詞(せりふ)はあらかた他の人が言ってしまったから、言う台詞が見つからない。どうしよう。自分の番が迫ってくる度に頭が真っ白になる。

 

「じゃあ次、諒。何か一言お願い」


「え、えーと……。皆さん! 今日の試合絶対に勝ちましょう! 以上です!」


 うわぁ……。テンパり過ぎてシンプルな台詞になっちゃった。しょうがないじゃん。こういうのまだ慣れてないんだから。 


 その後も次々に意気込みを話し、全員が話し終えた。

 

「よし、みんな! 今日が三年生最後の試合になる。悔いの残らないよう全力でいくぞ!」


「「「「「おう!!!!!」」」」」


 最後は皆で円陣を組んで、一斉に声をあげる。東錦ノ宮も同じタイミングだ。

 そして俺達はピッチへ向かった。


 先攻後攻はコイントスで決まる。両キャプテンがレフェリーの前に行き、コインの表と裏を決める。俺たちのチームが表で、東錦ノ宮が裏だ。レフェリーはコインを弾き、手の甲に隠すように乗せる。結果は。


 表。


 俺達が先攻で始まる。レフェリーの笛が鳴った。試合開始だ。

 俺から海藤にボールを回し、右サイドの黒瀬にパスをして攻め上がる。相手の七番が対応すべく、黒瀬に向かっていくが、フェイントをかけて抜き去り、そのままセンタリングを上げる。狙いは海藤だ。相手のディフェンダーが海藤を止めようとするが、海藤はボレーシュートでボールをゴールにねじ込む。


 1-0


 相手ボールで試合が再開する。同じく右サイドから攻め上がろうとするが、それを百田がブロック、吉野、海藤にパスを回し、俺へ回ってくる。俺は落ち着いてボールを受け取り、ペナルティエリア外からのロングシュートを打つ。ボールは相手のゴールキーパーの指先にあたるが、そのままゴールへ吸い込まれる。


 2-0


 その後の展開も圧倒的だった。俺達は完全にボールを支配し、前半だけで六点差もついた。

 

 これはいける、そう思った。だが後半戦に入った時、戦況は大きく変わった。


「なんだこの速さは……!? 追いつけないッ!!!」


 俺達は前半、勢いに任せて激しいプレイをしており、いつも以上に体力を消耗していた。その為、後半の東錦ノ宮の反撃に対応できない。交代で出場した例の最強の選手はただ淡々とシュートを打つ。


 キャプテンの動画でも観たあの試合、まさに今、同じ出来事が起きてしまっていた。目にも止まらない速さで、一点、二点、三点と、次々に点差を縮められていく。そして遂には点が追いつかれてしまった。


「あいつを止めないとこのままじゃ……! 佐々木、森脇、岡田、木村! これ以上あいつに打たせるな!」


 試合終了まで残り十五分。

 敵の猛攻を何とか凌ぎながら、ひたすら反撃のチャンスを伺う。

 そして残り十分になった時、チャンスがやってきた。


 東錦ノ宮の選手がパスミスをしたことによって、宮下にボールが渡る。このカウンターを決めなければ、俺達に勝利はない。全員が限界を迎え、力尽きそうになりながらも必死にパスを回す。


「諒!」


 吉野からのスルーパスが俺に回ってくる。

 ここで決める! 俺はペナルティエリア左端からドリブルで内側に入り込み、シュートを打つ。

 

 はずだった。


「んぐ!?」


 俺は気づいたら倒れていた。部活メンバー達全員が俺に駆け寄ってくる。必死の形相で俺の名前を呼んでいる。だんだん意識がなくなっていく。


「諒! しっかりしろ! 諒! 諒!!!!」


 薄れゆく意識の中で最後に響の声が聞こえた気がした。


------------------------------------------------------------------

「先生! 諒は、諒は大丈夫なんですか!?」


「落ち着いて聞いてください。検査の結果、諒君は悪性の脳腫瘍が見つかりました。手術に成功しても、手足に麻痺が残ることもあります。サッカーを続けることは不可能に近いでしょう」


「……ッ!?」


 母さんは病院で俺の診断結果を医師から聞いていた。結果は悪性の脳腫瘍。それを聞いた瞬間、母さんは崩れ落ちて泣いた。父さんも(うつむ)き、体を震わせている。何故このような事になってしまったのだろうか。その時の昏睡状態で寝たきり状態の俺は知る由もなかった。


------------------------------------------------------------------


 ん、ここは……? 病院? そうか、俺試合中に倒れたんだっけ。あれからどうなったのかな。

 そんなことを考えながら、あたりを見渡すと、母さんと父さんが隣に座っていた。


「諒、起きた? どこか痛まない?」


「う、うん、俺は大丈夫だけど……。試合は? 決勝戦はどうなったの……?」

 

 俺が試合の結果を聞くと、父さんが代わりに答えてくれた。

 

「残念だけど勝てなかったみたいだ。6-9で東錦ノ宮の優勝が決まったって新聞に載ってたよ」


「そ、そうなんだ……」


 そっかぁ。負けちゃったのは少し悔しい。でもしょうがないよな。あんなにすごい選手がいたんだから。

彼の名前はなんていうんだろうか? 高校に入学してからもサッカー続けるのかな? 俺もいつかあんなプレイが出来るように猛練習して、リベンジしてやろう。


「俺、いつ退院出来るの? どうせ大したことなかったんだよね? 明後日とか?」


 母さんと父さんは一瞬硬直し、顔を俯かせたが、すぐに笑顔になってこう言った。


「いつ退院できるかは分からないけど、直に良くなるって!」


「へぇ~。響にも情けない所見せちゃったからなぁ。今度映画を二人で観る約束をしちゃったし早く元気な所見せないと!」

 

「そうね。あ、響、お腹空いてない? 美味しいもの買ってきてあげようか。ちょっと待っててね」


「本当に!? ちょうどお腹空いてたんだよねー。お願い!」


 父さんと母さんが部屋を出ていくと、急に尿意を催した。トイレに行きたい!

 ここの病院初めてだから、どこにあるか分からないんだよね。取り敢えず部屋の外に出て探してみるか。


 俺はベッドから抜け出して部屋を出た。少し身体が動かしずらかったけど、まだ疲労が溜まってたのかな? すると案外近くにトイレがあったから、用を足して、部屋に戻ろうとした。その時、看護婦さん二人が何やら話しているのを聞いてしまった。


「可哀そうよねぇ。あの子、確かまだ十五歳でしょ? それにサッカーをやってたって」


「脳腫瘍って、手足に影響を及ぼすこともあるんでしょう? サッカーをやってたのなら、もうあきらめるしかないでしょうね」


 は? 脳腫瘍? 

 俺は看護婦さん達が何をいってるのか分からなかった。サッカーをやってたって俺のことだよね? でもさっき、母さん達は良くなるって……。


 俺は自分の病室まで駆け出した。その時に、さっきの看護婦さん二人が俺を見て、驚いていたが、関係ない。俺は何も考えたくなかった。サッカーが出来なくなる? 脳腫瘍ってことは最悪、死んじゃうのか?

 考えるな、考えるなと、念じても、悪い方向にばかり考えてしまう。


 部屋に戻ると、母さんと父さんが戻ってきていた。俺は母さんと父さんに震える声で問いただした。


「母さん、父さん」


「あら? 諒、どこにいってたの? ほら、諒の大好きなお好み焼き買ってきたわよ」


「あの、さ。俺って本当は脳腫瘍なんじゃないの? もう死んじゃうんじゃないの? サッカーなんて出来なくなるんじゃないの?」


「……!?」


 母さんと父さんは一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔で俺にこう言った。


「な、何いってるのよ? そんな訳ないじゃない。すぐに良くなるって言ったでしょ?」


「そうだぞ。大したことはないんだから安心してていいんだぞ?」


「嘘だッッッ!!!!!!!!」


 俺は今まで家族に対して向けたこともないような明確な敵意をもって、大声で叫んだ。俺を騙した。ずっと信じていた人に裏切られたという気持ちがどんどん強くなっていく。

 心がだんだん深く闇に染まっていく。俺が俺でなくなってくる。感情が抜け落ちていく。


「ねぇ……? 何でそんな嘘をつくのかな? 俺、聞いちゃったんだよね。看護婦さんが話してるの"脳腫瘍"って」


 もう両親の顔が視界に映らない。目の前に広がっているのは、底なしの深い闇と絶望。俺は再度問いただす。


「俺を騙したんだよね? ねぇ答えてよ。ねぇ!!!」


 両親は俺の変貌に驚きながらも、震えながら答える。


「ち、違うの! 諒を騙そうと思ったんじゃないの! あなたに本当のことを言って悲しませたくなかっただけで……」


「へぇ。嘘をついたのを否定はしないんだね。まぁ分かってたけど。結局、俺たちの関係ってそんなもんだったんだ?」


「諒! 母さんに向かってなんだその口の利き方は! お前のことを思ってのことなんだぞ。 サッカーが出来なくなるくらいがなんだ! 出来なくたって手術すれば助かるんだ! 」


「"サッカーが出来なくなるくらい"……?」


 その瞬間、俺の中の何かが切れた。


「何をするんだ!? 止めなさい!……。グハッ!」


「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない」


 俺は、父さんを殴った、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 母さんが泣きながら俺に(すが)りつくが俺は止めなかった。医師や看護婦たちが異変に気付き、俺を止めようとするが、そいつらも殴った。

 どれだけの時間が経っただろうか?


 俺は虚ろな目でベッドに腰掛ける。母さんは恐怖に怯えながらも、もう父さんなのかも分からない血塗れの"何か"を引きずりながら部屋を出た。他の医師たちは生きてるのかも分からない状態で倒れている。


「ハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


 もう何もわからない。俺は誰、おレは諒、リょウ? ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!


 そうして俺の心は完全に壊れてしまった。

今回で第一転生は終了です。次からは第二転生になります。

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