準決勝の後で
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
それと同時にレフェリーからホイッスルが鳴った。某アニメではお約束の展開なのだが、実際に体験するとは思わなかった。
「勝った……のか?」
「あの強豪校、優聖中学に勝ったなんて……」
「夢でも見てる気分だ……」
皆、口々に驚嘆の声を上げる。それもそのはずだ。優聖中学は一昨年までは十年間、連続優勝校だったのだから。
俺は暫くの間、呆然と立ち尽くしていた。
勝った。そのはずなのに実感が全く湧かない。無音の中、世界がスローモーションになったかのように感じた。
そんな俺を見て近づいてきたのは、ゴールキーパーの乾だった。
「諒、お前が決めたのに、お前が喜ばないでどうするんだ」
「乾君、俺の頬をつねってくれない?」
「わかった」
乾はそう言うと、俺の顔を思いっきり引っ叩いた。
「いっっっった!!! 何で叩いたの?」
乾はニヤニヤしながら、「このほうが目が覚めるだろ?」なんて言ってくる。この人は後で絶対やり返してやろう。まぁ、反撃されるだろうけど。
「諒、なんだよあのカーブは!」
「あんなのテレビとかでしか観たことないぞ?」
他の仲間達もぞろぞろ集まって、賞賛の言葉を送ってくる。少し照れてしまう。
「練習の成果だよ!ふっふーん!」
「すげ~!!!」
俺は調子に乗ってそんなことを言ったが、本当は超まぐれだった。自分でもまさかあんなシュートが打てるとは思ってもみなかった。結果的に入ったのだから良い事にしておこう。
「あと、一回勝てば全国優勝か!!!」
「俺達ならマジでいけんじゃね?」
「よっしゃあああああああああああ!!!!」
「まぁでもそれはそれとして、やっぱり?」
「「「「「うちあげだああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」」」」
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「おい! その肉俺が育ててたやつだぞ! 返せ!」
「知るか、んなもんまた焼き直せバーカ」
「んだとゴラァ?」
「おいお前ら喧嘩すんなよ……」
「このハネシタってやつうめえええええええええええ!!!! 海藤ホントありがとな!」
俺達は今、キャプテンのおごりで高級焼き肉店に来ている。好き放題、何でも食べていいとの事なので皆、遠慮なしに高級肉を食いまくっている。俺は、「キャプテン一人に払わせる訳にはいかないから俺も払うよ」と言ったのだが、キャプテンが、「一番お前が頑張ったんだから、遠慮しないでいいんだぞ。ドンドン食え」とか言うもんだから、遠慮せずに頂くことにしている。
「そろそろギブアップしろよ?」
「お前こそ見え張ってないで降参したらどうだ? まぁ最も、一番張っている所はお腹周りのようだが笑」
「ぶっ殺すぞテメェ!?」
「喧嘩するなって言ったろ! 周りの人に迷惑だろうが!」
チームで最も大食いなのは"百田"と"佐々木"だ。二人は事あるごとに因縁をつけては争っており、さっきも肉の取り合いで喧嘩をしており、大抵は木村か宮下が止めている。案外、息はぴったりと合っているのだが、この事を二人に言うとめちゃくちゃキレて殴りかかってくる為、言わないようにしている。
「店員さん! この肉クッソうめぇな! 厨房にいる人に良い肉をありがとなって伝えてくれるか?」
「か、かしこまりました……」
このマイペースな人物は"吉野"だ。さっきキャプテンに感謝の言葉を送っていたのも彼であり、『感謝の気持ちは必ず相手に伝える』事をモットーにしている。決して悪い人ではないのだが、何処かズレている所がある。
キャプテンの海藤は実家が金持ちで成績優秀だ。俺は勉強が出来ない為、しょっちゅう教えてもらっている。おまけに顔が良いから女子にモテる。正直言って、羨ましい事この上ない。性格が良いのも合わさり、校内では"平成のロミオ"という呼ぶ人が多いと聞く。絶妙にダサいネーミングなのは中学生らしいと思う。
「みんな食べてる時で悪いが聞いてくれ! 二週間後はいよいよ決勝戦だ! 俺達三年生は最後の試合になる。悔いの残らないよう、しっかりと仕上げていこうと思う! 明日からの練習は気合を入れていくぞ!」
相手は去年、優聖中学を破った東錦ノ宮中学だ。スポーツでは無名だったのだが、優勝を果たしたことで少しずつ注目を集めてきている。
「でも正直、今の俺達に敵なしって感じだよなー」
「何が来ても勝てる気しかしねー」
「だなー」
皆、決勝に勝ち上がれたことで浮かれているのか、キャプテンの話をまともに聞いていないようだ。
「あのなぁ? 相手は去年、あの優聖の連勝記録を破った学校なんだぞ? もうちょい危機感をだなぁ……」
「でも決勝戦って、最初の方は優聖が勝ってたよな? 途中から気を抜いたのか逆転されてたけど、対して強そうな感じには見えなかったぞ?」
「……これをみてくれ」
キャプテンはそう言いながら、携帯に入っている東錦ノ宮の準決勝の記録を全員に見せる。前半までは相手の高校が圧倒していた。だが、後半戦が始まってから五分後に東錦ノ宮が選手交代してから一変した。
「うわぁ……。すごいっすね……」
「こいつ一人で何人も抜いていってるぞ? バケモンかよ……」
交代で出場した選手はプロでも活躍できる程の圧倒的な実力を持っていた。一人だけでゴール前まで持っていき、強烈なシュートを決める。他の仲間達は佇んでいるだけの置物のようだった。結果は3-8で東錦ノ宮の勝利に終わった。
俺は驚きを隠せなかった。まさか自分よりも遥かに上手いストライカーがいるなんて……。正直、同年代の中では負ける敵はいないと思っていた。悔しい。そんな気持ちで一杯だった。話には聞いていた。今年からメンバー入りした中に、一人とんでもない選手がいると。でもまさかここまでレベルが違うなんて……。
「諒、大丈夫か?」
「う、うん。少し武者震いしてただけだから。でも今日はちょっと疲れたからもう帰るね」
「お前は今日頑張ったもんな。じゃあまた学校でな!」
「うん。また学校で」
俺はそう言って店を出た。
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「諒! 凄いじゃないか! あんなシュートまで打てるようになってたんだな!」
帰った後、リビングで父さんから今日の試合を褒めてもらった。落ち込んでた気分もすっかり元通りになった。
母さんによると、ビデオを撮りながら俺の名前を連呼し、応援していたらしい。試合に集中してて気づかなかったけど、気づかなくて良かったかもしれない。恥ずかしすぎてプレイに集中できなかったかもしれないからね!
確か、父さんが試合を観に来てくれたのは二回目だ。一回目は小学校の時に初めて試合に出場した時だった。あの時はゴールキーパーをやってたんだっけ。まだルールを知らなくて、味方のバックパスを手で拾っちゃって、PKになって負けたんだよな。コーチにめっちゃ怒鳴られたのを今でも覚えている。父さんからしてみればあの時から相当成長したように見えても仕方ないと思う。
「頑張ったご褒美に、明日お前の好きな所に連れて行ってやる。どこか行きたい所はあるか?」
「本当に!? じゃあ俺映画館に行きたい!」
「映画か。もう随分行ってなかったな。じゃあ母さんと三人で映画に行くか!」
「やった!楽しみにしてるね!」
家族と出かけるのは何年振りだろうか。部活動に入ってからは毎日練習ばかりしていたからな。何を観ようかな? 今やってる映画はスパイダーウーマン、タヌえもん、ポリーハッター……etc. どれも面白そうで決められないな。響に後でメールして、おススメの映画教えてもらおうかな?
夕ご飯とお風呂を済ませた後、部屋に戻ると響から連絡が来ていた。
『試合お疲れさん! いいシュートだったぜ! 今度の土曜日だけど久しぶりにうちに泊まりにこねぇか? お祝いパーティーだ! ケーキやら菓子やら買って待ってるからよ。それとおススメの映画だっけか? 今はデラゴンバールが超人気らしいぞー!』
なるほど、今はデラゴンバールをやってるのか。前世では俺も原作の漫画とアニメのDVDを揃える程に好きな作品だ。まさか映画を今やっているとは思わなかった。明日観る映画はこれで決まりだな!
後は、響の家でお泊りか。来週の土曜日は午後練だけど大丈夫そうかな? 試合は再来週だし、親友の折角のお誘いだ。行かなきゃだよな!
明日は出発が早いしそろそろ寝よう。こういう時は大抵ワクワクして眠れないものだが、この日は割とすんなり眠りに落ちた。
ゴールキーパーをやってた時にバックパスを手で拾ってPKになったのは実話です。情けない……。