家族って、何だ?
十六 父親
私はテーブルの椅子に座った。彼も歩いてきて、テーブルの方に座る。私達の間に流れる沈黙を破ったのは彼だった。
「大きくなったな、ラジャット。前は凄く小さかったのに・・・。」
「そりゃ、四年以上会ってなければな。」
「あの時の事、怒っているのか?」
「・・・どの時だ。」
「父さんが家に出てった時の事。」
「・・・家にいた記憶もないし、出て行った時の記憶もない。起こるも何もないだろう。」
「だけど今四年って・・・。」
「大体の話だ。母さんが死んだ時にはいなかったからだ。」
「・・・そうか。そういえば、ラジャット有名になったな。最近よく聞くよ、黒猫の名前。父親として誇らしい。」
「人殺しでも、か?」
「ああ。自分の子供が有名だと、やっぱり嬉しいよ。」
・・・捨てておいて・・・。
「あいつと、俺の血を引いてるんだからな。」
「・・・で、何故私は呼ばれたんだ。こんな話をしたくて呼んだわけじゃないだろ。」
「・・・いや、まぁ話をしたいと思って呼んだんだ。深い意味はあまりないよ。強いて言えば、今日は俺たちの結婚記念日だから、かな・・・。」
「・・・そうか。」
「それにしても、本当に大きくなって・・・。しかも、綺麗になったな。母さんにそっくりだ。そうだ、父さんと母さんの馴れ初め聞くか?聞いたことないだろ。」
「・・・・・・。」
「父さんが二十代半ばの時、ある日夜の街をウロウロしてたんだ。あの日は月が綺麗でな。ふと空を見上げた時、建物の屋上に人影があったんだ。長い髪を一本に結んでて・・・。一目惚れだったよ。その人は道に降りてきて、言ったんだ。『もう夜も遅い。貴方が見た事は、夢の中の事。全て忘れなさい。』って。でも父さんは忘れられなくて。一か月後だったかな。別の場所で、また見かけたんだ。その時にプロポーズしてね。いきなりだったし、母さんは驚いてたよ。『私なんか合わない』って言ったんだけど、最後は承諾してくれてさ。その後結婚して、一緒に暮らして。で、ラジャットが生まれた。それからー・・・」
「あんたは家を出て行って、母さんを殺した、か?」
「・・・父さんは殺してないよ。」
「あんたが殺してなくても、あんたが頭首のRSの奴が殺したんだ。同じだろ?」
「命令も出してない。ただ・・・少し、BBに打撃を与えろって言ったんだ。・・・まさか母さんが・・・。」
「母さんが標的になるとは思わなかったのか?母さんはエースだった。エースを潰せばいいと思うのは普通だろ?」
「もし襲われても本当に殺されるとは思ってなかったんだ!母さんは本当に強かったし、いきなりでも、襲った側の方が返り討ちにされると思って・・・!」
「母さんは私を庇って死んだんだ!家を出て行った、あんなの娘を!」
「庇って・・・?母さんはそんなことする人じゃ・・・。」
「ああ。赤の他人なら見捨ててただろう。でも、母さんは、血の繋がった私を庇ったんだ。母さんが最期に何て言ったか知ってるか?・・・『私が、誰かを庇うだなんて。あの人に出会って変わったかな。』・・・あの人っていうのは、あんたの事だろ?」
「・・・まさか・・・。」
「あんたの話は、あんたが出て行った後沢山話してくれた。馴れ初めまではしてくれなかったが、結婚生活のエピソードとか、デートした場所の事、だが、最後は必ずこう言った。『違う組織にいるんだから、殺したり、殺されたりしてもしょうがないね。でも、好きな人に殺されるなら女としては嬉しいよね。』・・・この意味わかるか?出て行った後も、母さんはあんたの事をずっと思ってたんだ。」
「・・・そんなこと、言ってたのか・・・。」
「・・・あそこで死ぬなら、私の方が良かった。母さんはもっと活躍できただろうし、小さかった私よりやりたい事もあったはずだ。」
「・・・でもラジャットは、あの日、母さんを殺した人間を殺してから、ずっと生きて人を殺している。何でだ?」
「・・・何故そんなことを聞く?」
「気になったから。」
「・・・母さんは、人を殺すのが仕事だった。今までも生きていたら、もっと人を殺していただろう。母の代わりに生き残った私は、その役目を受け継いだんだ。だから私は、組織の命令が来れば人を殺す。・・・例え、血が繋がっていようとも。」
私は立ち上がり、拳銃を突き付ける。一瞬驚いたような表情になったが、フッと笑った。
「そうか・・・。ラジャットも、暗殺者だもんな。・・・いいぞ、撃っても。」
「・・・最後に、一つ聞いていいか?」
「おう、なんだ?」
「・・・あんたは、母さんの事を愛していたか?」
「・・・・・・・・・。」
「愛していたか?」
「・・・・・・。」
「答えろ!」
怒鳴った瞬間、バンッとドアが開いた。
「ラン!」
飛び込んで来たのはルタだった。中の様子を見て、その場に静止。私はルタの方を見ず、ケビンの目をじっと見る。その目に、ケビンは優しさを浮かべた。
「ああ、愛していたさ。」
その言葉を聞いて、トリガーを引く。
ドンドンドン
柔らかい表情で床に崩れ落ちる。人の形を成した肉の塊を見つつ、言葉を発する。
「ダ・スヴィダーニャ。・・・父さん。」
「・・・」
暫しの沈黙。それを、ルタは低い声で破った。
「帰るぞ、ラン。」
「・・・ああ。」
ーー
黙って夜の街を歩く私達を、月の光が照らしている。
「・・・怒っているのか?ルタ。」
「・・・」
話しかけても、反応がない。気配で怒っている事は伝わってくる。
「・・・怒ってるか?」
次の瞬間、パッと振り向いて胸ぐらを掴まれた。
「あぁ、怒ってるよ。勝手に一人で行きやがって。」
静かな口調だが、目の中に怒りが映っている。
・・・不味い、本気で怒らせた。
少し俯くと、ルタは気不味そうに背を向け、歩き出す。気が付くと、いつの間にか近くの公園にいた。中に入り、ベンチに座る。
「・・・悪かった。メモを残していたから大丈夫だと思ったんだ。」
「メモは見た、何だよあれ。『RSに呼び出されたからローアルホテルに行ってくる。捜すな。』って。呼び出されたから行ってくるじゃねーよ。俺だって部屋に居たんだし、一言声かけてからでも良かっただろ。」
「一人で話を付けに行きたかったんだ。」
「で?つけられたのか?」
「・・・いや、つけるも何もなかった。話などしないで殺せば良かった。」
「へーえ。」
「そうした方が、変な質問しなくて済んだ。」
「何を聞いたんだ?」
「・・・母さんを愛してたか?って。」
「ランが一番言わなさそうな言葉だな、それ。」
「昔母さんがよく言ってた。『あの人と結婚して良かった。愛する人になら殺されてもいい。』って。最後まで、母さんはあいつ・・・」
「父さん?」
「・・・」
「別に、父さんって呼んだっていいだろ?どうせもう生きちゃいないんだし。」
「・・・母さんは、父さんのことが好きだったんだ。それを思い出したとき思ったんだ。母さんは父さんの事が今も昔も好きなんだって。」
「・・・人って難しい生き物だよな。」
「ああ。」
「つーか捜すなって家出人かって感じだな。」
「・・・言われてみれば・・・。」
吹き出すルタを不思議に思い、思わず聞く。
「・・・今、怒ってないのか?」
「全くって言ったら嘘になるけど・・・。・・・でもま、ランだし。」
「ちょっと待て。どういう意味だ。」
「黙って一人で行くのも、例えそれでケガして帰ってきても、それ全部がランだから、しょうがないなって気がするって意味。」
「・・・あまり嬉しくない。」
「いいよ、ランが嬉しくなかろうが。それが俺の考え。」
「・・・へー・・・」
「じゃ、帰りますか。」
「・・・ああ。」
「うわっ、危な!」
ハイネは跳躍し、棚の上に飛び乗った。
「待て!」
捕まえた・・・と思った瞬間、俺の上を飛び越していく。咄嗟に反応できずに滑りそうになる。派手に転びそうになり、近くにあった小物が乗った布を掴む。
当然、小物は全部落ちた。それと同時に、俺も転ぶ。
ドーン ガラガラガラ・・・
うつ伏せの状態から、起き上がろうと仰向けになった瞬間、ハイネの膝が鳩尾に突っ込んできた。
「グッ・・・」
「捕まえた。」
冷淡な声にぞっとする。
・・・この体勢はマズい。下手すると、命を取られかねない。
俺は半ば本気で右ストレートを放つ。パッと上から飛び降り、軽く笑った。
「本気になっちゃって~。」
「うっせーな!」
俺はハイネの首に腕を回し、軽く締める。
気が付いたらドアが開いていて、ランが顔を覗かせていた、という訳だ。
・・・言えるわけねーだろ、本人になんて・・・!
ーー
いきなり頭を抱えだしたルタを横目に見つつ、私は机に向かう。
さて、今日も仕事をするか。
そう思った時、ドアがノックなしで開いた。反射的に立ち上がる。
「ランちゃん・・・!」
飛び込んで来たのは、スタナの妹のランだった。凄く焦ったような、泣きそうな顔をしている。
「どうした、ラン。なんかあったのか?」
「ランちゃん、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが・・・!」
「落ち着け。スタナがどうした?」
「お兄ちゃんが・・・死んじゃった!」
「・・・・・・!」
続く
お父さんを殺してしまった回です。やっぱり彼女は、暗殺者でした。
依頼が来たら、どんな人間でも殺す。狂っているけど、とても彼女らしい決断でした。そして、初めてランちゃんの感情の起伏が見えた回でもありましたね!
それから・・・。ランの兄が死んだ・・・・?
この言葉が意味するものとは。
続く




