紅の夢
三 紅に染まる夢
陽も落ちかけてきた、黄昏時。
ジーネル社、本社の最上階。社長室前の廊下。
通風孔から社長室の前のカーペット張りの廊下に飛び降り、片手と片膝をつけて着地する。
・・・誰もいない、かな。
安心して立ち上がり、社長室の扉をノックする。
「開いてるぞ。」
中から聞こえてくるのは男の声。しかし、少しくぐもって聞こえてくるため、もしかしたら扉に背を向けているのかもしれない。
「失礼します。」
声を少し変えつつ扉を開けると、思ったとおり扉を背にして男が机の前の椅子に座っていた。
「早いじゃないか。いつもならもっと遅いのに……。」
・・・何を言っている?
「まあ、いい。俺を待ちきれなかったんだろう?」
・・・馬鹿じゃないのか?誰がお前を待つという?
「妻にバレなきゃいいが……早くお楽しみと行こうじゃないか。」
男が振り向くよりも早く、ポケットに入れていた拳銃を取り出した。右手で持ち、真っ直ぐに男の眉間に照準を合わせる。
「なっ!」
振り向いた男は驚いたように目を見開いた。
「ズトラーストヴィチェ。お初にお目にかかります。私は『ブラック・キャット』・・・『黒猫』と申します。以後、お見知りおきを。・・・ミスタージーネル。」
「黒猫だと?!何故そんな奴がここに!」
「黒猫が拳銃を構えている・・・その意味、分かるはずでしょう?依頼を受けたんですよ。あなたを殺せ、とね。」
「それにお前、まだガキじゃないか!嘘をつくのもやめてもらおうか!」
・・・面倒臭い奴だなぁ・・・
「ガキは帰った、帰った!依頼だとか言って・・・悪ふざけも度が過ぎている!そんなおもちゃを人に向けて・・・親の顔が見たいもんだ、まったく・・・」
手をヒラッと振った男に向かって、構えたままの拳銃の撃鉄を起こした。
「これが目に入らないのか?今これはあんたの顔に向いている。偽物だと思うなら、試してみるか?あんた自身で。」
「ヒ、ヒィ!」
「私に親はいない・・・黒猫を知っているなら、そういう情報は回っているはずだが?」
「そ、それは!」
「まぁ、それはどちらでもいい。」
「ま、まて!依頼主は誰だ!」
「はぁ・・・そんなこと、言うわけないだろ。」
「こ、殺すな!そ、そうだ、あんたに依頼をしよう。報酬も弾む!」
「・・・は?」
「頼む、殺さないでくれ!」
「・・・まあ、いいか。」
「だ、だろ?!だから・・・!」
「お前は、死んでいい奴だから。」
「なっ!」
ダン ダン ダン!
サイレンサー付きのコルトパイソンが火を噴き、男の眉間に全弾命中した。少しだけ思いリコイルショックが来る。
男は驚いた表情のまま、椅子と一緒に後ろに倒れていく。肉の塊と化した男に向かって、言い放つ。
「ほら、本物だっただろう?」
さて、ここからは逃げるだけだ。
「ホーク・アイ。いいぞ、やってくれ。」
任務中は基本的にコードネームで話しかける規則がある。だから、ルタのコードネームを使って無線に話しかける。
『了解。二秒後に。』
そう言ったきっちり二秒後、バリンという音をたててガラス窓が割れた。
「よし、後は作戦通りに。」
『了解!』
私は死体をこえ、窓の近くまでよる。下のそばに転がっていたルタが愛用しているライフル、口径が7.62mmドラグノフ狙撃銃の銃弾を回収し、一息ついて窓から飛び降りた。
陽はさらに落ちて、空が紫色になっていた。
外は強風が吹きあげており、空気を切り裂く音が耳に響いてくる。結んでいない、私の長い銀色の髪が風にたなびいている。
ビルの真ん中あたりからくるくる回転して減速しつつ落ちていくと、下に真っ赤な車が止まっているのが見えてきた。助手席に上手く着地すると、ルタがアクセルを踏みつつ言った。
「よしっ、出すぞ!」
見事なハンドル捌きで角を右に、左に曲がり、街中を走っていく。
「ダ・スヴィダーニャ。」
「ラン、今テンション低い?」
「・・・かもしれない。」
「何かあったか?」
「いや・・・さっき、一瞬、一番最初に撃ち殺したことを思い出したんだ。」
「ああ・・・」
ルタは一瞬しまった、という顔をした。
「気にしなくていい。さっきの一瞬だったから。・・・何故だろう。」
「あれ、でも前はなかったよな?」
「ああ。だから何故か、と。・・・もしかして、時間か・・・?」
「時間?」
「その時、これくらいの時間だったから。空の色、というか・・・」
「ああ、なるほど・・・具合は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。だが・・・少し疲れた。駐車場に着いたら教えてくれ。おやすみ。」
「おう、おやすみ。」
椅子に深く座り車の振動に身を任せていると、すぐに眠気か襲ってきた。
ーーー
「・・・ン、ラン。」
優しく声をかけられパッと目を覚ますと、すぐ近くにルタの顔があった。
「っ・・・!」
思わず後ろに下がろうとするが、背もたれが背中にあたって下がれなかった。
「な、なんだ?」
ルタは近くで見ると、綺麗な顔をしているし、その顔で凝視されるとすごく居心地が悪い……!
「ランって、さ・・・」
「な、なんだ?」
「年上、好きか?」
「え、はっ、何を・・・」
「いいから。」
「き、嫌いじゃないが・・・何故急に!」
質問に答えても、ルタは黙っていた。
右手が伸びてきて、私の髪をすくう。
そして、軽く口付けした。
っ・・・!
「綺麗な髪だよな。」
「なっ・・・」
どうした、ルタは?!いつもと雰囲気が違う・・・
さっきの男と同じような感じだけど、こっちの方が心臓に悪い・・・!
それに、私の体も動かない・・・拘束されているわけではないのに、何故だ?!
「俺さ・・・」
そういいつつ、私の顔に手を伸ばす。そのまま頬を撫でた。
「っ・・・!」
「ほんっと、綺麗だよな。」
一気に心拍が上がり、頭に血が上った。
「顔、赤いぞ。」
「っ!いいだろ、別に・・・っ!」
言い終わる前に、最後の言葉が塞がれた。軽くシートに押し付けられ、ルタの匂いに包まれた。
その時、何かが頬に触れた。
暖かい、何か。
嗅ぎなれた臭い。
「ル、タ?」
一瞬嫌な予感がしたが、それを頭の隅に追いやる。
ズルッとルタの体が滑り落ち、ルタの頭がひざの上に乗った。
「ルタ?どうした?」
隅に追いやった予感が、再び襲ってくる。反応がないルタの体にさわると、生暖かいものが手についた。
目の前まで持ってきて、それが何か気が付いた。
「あああ・・・」
それは、血だった。
真っ赤な、血。
血を見て、こんな気持ちになったのは初めてだった。
「あああああああ・・・っ!」
ーーー
「ラン、ラン!」
強く揺さぶられ、パッと目を覚ます。
私は、息が荒くなり、肩呼吸をしていた。
「大丈夫か?」
隣を見ると、ルタが心配そうな顔をしていた。
思わずルタの後頭部に手を回し、自分の方に引き寄せる。
「ちょ、近い、近い!」
「大丈夫、何もない……」
ルタに何も異変はなく、安堵により笑みが漏れた。
すると、ルタの顔が何故か赤くなった。
夢の中で血がついていた両手を見ても、何もついていなかった。
「本当に大丈夫か?」
「あ、ああ。」
「悪夢見てたっほいけど・・・。」
「いや、ちょっと・・・。」
「そっか。」
ルタは何も聞かずに、そっとしておいてくれた。
「・・・」
「・・・」
ふと周りを見ると、すでに駐車場についていた。
「もうついていたのか・・・。」
「え?あ、うん。」
起きるまで待っててくれたんだな・・・。
「悪い、そろそろ行くか?」
「おう。早く部屋に戻りたいだろ?」
「そうだな。」
私たちは車を降りて、自室へと向かって歩いた。
四 出かけるの意味
その日は自室で、いつも愛用している拳銃を掃除していた。私が使っているのはコルトパイソン。
母親の形見だ。
使い心地と、形の良さが気に入って使っている。
周りの人間からは「母親のなんて使わずに、新しいもの使えばいいのに。」といわれたが、二年間ずっと使っている。
六発の弾を装填し、撃鉄を起こす。
その時、扉が開いた。癖で、今セットしたばかりの拳銃を扉の方に向ける。
「悪い!掃除してたのか・・・。」
そう言いつつ、開けた扉を盾のようにした。
「今終わった。ルタもちゃんとやってるか?」
「もちろん。起きてすぐやってるぞ。」
「そうか。・・・そういえば、ルタは何を使ってるんだっけ。」
「俺?俺はグロック十八。フルオートのやつだ。」
「ああ、あれか・・・オートだとジャムがあるんじゃないか?」
「まーなぁ。・・・けど使い勝手もいいし、結構気に入ってるんだ。ランは・・・コルトパイソンか。」
「ああ。母親の、な。」
「リボルバーしか持ってねーんだっけ?」
「いや、一応トカレフは持ってるぞ。コピーじゃないやつな。」
「あれか。性能いいよな。最近どっかの国がコピー作ってるっぽいけど、性能悪いって噂だぜ。困るよなー。俺たちの国が作ったやつのコピーって。」
「確かにな・・・しかし、コピーしか作れない無能ってことだろ」
「うっわ、毒舌だな~。・・・ま、仕方ねーか。事実だし。」
「そういえばなんの用だ?拳銃の話をしに来たわけじゃないだろう?」
「あー、そうそう。飯食いに下行こうぜ。」
「ああ。」
私は太ももに付けた拳銃ホルダーに拳銃をしまった。
食堂に行くと、スタナがこちらに声をかけてきた。
「ラン、ルタ!一緒に飯食おうぜ!」
「ああ。・・・お前は今日もテンション高いな。」
「そうか?ランはテンション低いな~。今日くらいテンション上げても良くね?」
「・・・今日くらい?何かあったか、今日。」
今日は六月五日・・・何もなかった気がするが。
「あっ、いや、なんでもねぇ。」
・・・何なんだ?
「そっ、そういやラン、今日の予定は?」
慌てたように、ルタが聞いてきた。
「特に決めてない。スタナ、依頼は来てたか?」
「ああ、一件だーー」
言い終わる前に、ルタがその口を塞いだ。そして、ぼそぼそと二人が何か話している。
フー・・・
聞こうと思えば聞ける距離だが、明らかに何か隠したがっているため、食事に集中する。何かあったら教えてくれるだろう。
「やっぱりないって!良かったな、ラン!」
「悪い、別の人への依頼だった!」
「そうか。じゃあ、今日は暇だな。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
何なんだ、この空気。
いつも騒がしい二人が黙ってしまうと、すごく静かになる。
私は早々に食事を切り上げて、席を立つ。
「あ、ラン!」
「特に用がないなら、今日は一日自由にさせてもらう。何かあったら連絡をくれ。」
そういいつつ、インカムを付けた。
「お、おう。」
「ラン、ちょっと待ってくれ!」
「・・・何だ?」
「暇なら、出かけねぇ?」
「構わないが・・・。」
「じゃ決定!二十分後に下でな!」
「ああ。」
ーー
時間通りに下に行くと、既にルタの姿があった。
「・・・」
私を見つけて立ち上がったルタが、唖然とした。
「なんだ、ルタ。」
「ラン、お前・・・。」
そういいつつ、頭を抱えた。
・・・?
「なんでそんなカッコなんだ?!」
格好?
自分の服を見下ろすが、いつもと変わらない、深い紺色の、ひざ丈のワンピース。仕事用の服だ。というか、仕事用の服しか持っていない。
「休日なのになんでその服なんだ!」
「これしか持ってないからなのだが。」
「よし、今日は服を買いに行こう。」
「構わないが・・・。」
「んじゃ、出発!」
外に出て、店が立ち並ぶ道へと向かう。
「別に構わないんだが、何故ルタが私の服を見る?」
「放っておくと、私服買わねーだろ?もう一着くらい、休日用に持ってた方がいいぜ。」
「私服を着る機会なんてないだろ・・・。」
「んじゃ、機会つくりゃあいいだろ?」
「・・・機会?」
「誰かと出かけるとかさ。」
「誰と。」
「俺とかさ。」
ああ、そうか。別に私用で出かけてもなんの問題もないのか。
・・・?それだと、なんかデートみたいだな。・・・やっぱり、やめようか。いや、しかし・・・
終わりのない思案をぐるぐるしていると、ルタが近くの服屋に入ろうとした。
「こ、ここか?」
「おう。結構近いだろ。」
「まぁ、そうだが・・・。」
なんとなく、入るのを少しためらってしまう。
「どうした、ラン?」
「・・・こういうところに来るのは初めてなんだ。」
「いつもどこで買ってんだ?」
「ロビーのところに服屋があっただろ?そこで必要な時は買う。そもそも、服をあまり買わない。」
「ま、俺もここは来るの初めてだけどなぁ。」
「じゃあ、なんでそんなに行きなれてる風なんだ。」
「そもそも服屋にはよく行くし、それにここ、女物以外もあるから行きやすいし、入りやすいぜ。」
「そ、そうなのか?というか、初めてなのになんで女物以外もあるって知ってるんだ?」
「だってこの服屋、全国展開してんもん。別の場所で買いに行ったりしたからな。」
「・・・ああ、そういうことか。なら、私も入れるか・・・?」
少しだけ気合を入れなおし、ルタの横をすり抜けてドアを押して店に入る。
「いらっしゃいませ。」
店に入った瞬間、女性店員が丁寧な挨拶をしてきた。ウッと体が固まる。
やはり、私はこういう場所は苦手だ・・・!
「すみません、この子に服をお願いします。」
体が固まり動けなくなった私をルタが前に押しやった。
「ちょ、ルタ、止めろって!」
「かしこまりました。では、お客様こちらへ。」
「いや、私は!」
「行って来いよ。」
「何言ってんだ。私は別にこのままでも・・・!」
「お客様、どのようなものをお探しですか?」
店員はルタと私の間に入り込み、にっこり笑った。
「特にないのだが・・・」
「休日に着れるものにしてくれ。出かけるとき用の。」
「かしこまりました。」
店員はそういうと、私を連れて店の奥に入った。
一般人だし、抵抗しにくい・・・
そう思いつついると、何故かバックヤードまで連れていかれた。そこには、店の店員らしき女が沢山いた。
私は、男ばかりの空間は慣れているが女ばかりは慣れていない。入りにくい空間・・・
「さあ、座って!」
ウキウキ声で、その空間の中心にある椅子に座らされる。
「な、何でしょう。」
「さっき一緒にいた方は誰!?」
「親子じゃないでしょう?!」
「兄妹?」
「違う!あいつは・・・」
「兄妹じゃない?ってことは恋人?!にしては歳離れるわよね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!服を見るんじゃなかったのか?」
「そうだけど聞かせて!今まで、あなたたちみたいな人が来なかったのよ!」
「デートで来たの?」
デ、デートォ?!私とルタが?!
「違う!今日一日休みだから出かけようって話になっただけだ!けしてデートなどでは!」
デートなどでは、ない・・・と思う。
そういうと、キャーッという黄色い感性が上がった。思わず耳を抑える。
「デートよ、それ!デートって言うの!」
「いいわぁ、歳の差ゆえの恋!羨ましいわぁ!」
「あなたいくつ?十二、三歳かしら。」
「十歳だが・・・何の関係がある?」
「十歳!あの方は?」
「十九だ!」
再び黄色い歓声。
「羨ましいわぁ、歳の離れた禁断の恋!」
「あら?でも今日は平日よ?学校はどうしたの?」
「学校?なんだ、それは。」
「知らないの?!十五歳以下の子供はみんな入る、色々なことを学ぶところよ!」
「行ってないぞ、そんなところ。」
ああ、でも昔、誰かに行かないか、と聞かれた気がするな・・・。絶対になじめないからやめとけと言われだが・・・。
「嘘!働いてる年齢でもないでしょう?いつも何やってるの?」
暗殺・・・とは言えない。言えるわけがない。
少し考え、口を開く。
「掃除・・・?」
捉えようによっては、間違ってはない。
「あら、大変ねぇ・・・でも、働いてるからかしら。十歳には見えないわ。」
「そうねぇ。口調も大人っぽいっていうか、男っぽいっていうか・・・。」
「あ、あの、それより服のこと・・・」
「そうね!デートなら、しっかり決めなくちゃ!」
女たちの間では、デートと言うことに決まったらしい。否定するのも面倒臭いことになるので、放っておく。
「このままでも十分なんだが・・・」
「その格好で?」
少しの間、私の真っ黒ワンピース服を下から上へと眺められる。
「・・・」
「・・・」
暫しの沈黙。
そして、爆発したように一気に話し出した。
「駄目よ、絶対!」
「デートに相応しくないわ!」
「だから、デートじゃ・・・・・・」
少しの抵抗を試みるが、無駄に終わった。
「さ、今すぐ着替えましょう。最高に着飾って、あの方をびっくりさせてあげましょう!」
「そうね!さあ、私達の全てを使って、この子を美しくさせましょう!」
店員達は、一斉に店内へとかけて行った。
「頼むから、動きにくいものはやめてくれ・・・」
聞こえているかはわからないが、とりあえず声はかけておく。あのまま放っておいたら、どうなることか分からない。かけておいて損はないだろう。
そう思いつつ椅子に座っていると、一人の子供が顔をのぞかせた。
「あなた、誰?」
「・・・」
無垢な目で見られて、少しだけ反応に困る。私自身、あまり純粋ではないことを自覚しているから、純粋な人間は苦手だ。
「・・・逆に悪いが、君は誰だ?」
「私はアデリーナ。ここのお店をお母さんがやってるの。」
「ああ、そういうことか。私はラジャット。ここに買い物に来たんだ。」
「そうなの。じゃあ、お客さんね。でも、なんでここにお客さんが?ここには入れないはずだけど・・・」
「ああ・・・まあ、色々あって連れてこられたんだ。」
「そうなの・・・。ごめんなさい、みんなあなた達みたいな人初めてで、テンションがおかしいの。」
「そうなのか・・・。悪いが、君の歳は?」
「私?私は十三よ。逆にあなたは?」
十三・・・年上なのか。
「私は十歳だ。君の方が年上なんだな。」
「そうなの?すごく大人っぽいわ。」
「よく言われる。」
「あなた、将来の夢は?まだ十歳だからあんまり考えてないかしら・・・?」
夢、か・・・
「・・・紅い世界にいられること、かな。」
「あかい世界??」
「ああ。時々嫌になるほど赤くて、でもそんな世界は凄く綺麗なんだ。」
「・・・よく分からないわ。」
「それでいいんだ。・・・アデリーナは、知らなくてもいい。」
「そうなの・・・?私が知らないこと、まだまだ沢山あるのね。でもその夢、叶うといいわね!私は、ここのお店を継いで、大きくしたいわ!今までも愛されてきたけど、もっともっと知名度を上げて、それで、今まで以上にみんなに愛されるようなお店にしたいわ!」
「・・・私のよりも、いい夢だな。」
「そんなことないよ。ただ漠然とした夢だもん。でも、実現できるようにいっぱい勉強してるんだ。記事の種類とか、細かい色の違いを見分ける方法、色の名前、それから、一番大事な洋服の作り方。簡単そうに見えるけど、結構難しいんだ。できてるように見えるけど、実際来てみると全然違ったり・・・って、ごめんなさい!私ばっかり話してるね。」
「いや、大丈夫だ。そういう話も聞きたい。・・・平和な話を聞くことも、少ないしな。」
「そうなの?」
「ま、色々あるってことだ。・・・そういえばアデリーナ。君は学校とやらに通ってるのか?」
「うん、近くにある学校に行ってるよ。ラジャットは?」
「私は行ってない。・・・楽しいか、学校は。」
「うん、楽しいよ。授業でいっぱいいろんなこと教えてもらうし、友達もできるし。でも嫌いなものもあるよ。外国語が苦手なんだ~。選択制で英語教わってるんだけど、文法とか単語覚えなきゃいけないし、単語の並び方が違うから、それを直して文をつくれ~とか、疑問形にするときはどう入れ替えるか~とか。」
「難しそうだな・・・」
「うん。でも、国語は好きなんだ。当たり前かもしれないけどね。」
「いや、勉強できるって時点で凄いぞ。」
「ラジャットはロシア語以外に話せる言葉あるの?」
「私か?一応イタリア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、後は英語と日本語・・・他にも多分話せるものもあるが、忘れてしまった。」
「すごい・・・私、テストは点とれるんだけど、話せないんだよね・・・。」
「逆に、私はテストは点数取れないだろうが、話すことはできる。外人と話すときに必要なのは、教科書で習うことじゃなくて話そうという気持ちなんだ。単語だけ知っていれば、文法が滅茶苦茶でも伝わるし、ジェスチャーでもなんとかなるしな。」
「そうなんだ・・・なんか、実際話そうとすると緊張しちゃうし、文法に合わせて話さなきゃとか思うと言葉が出なくなるんだよね・・・。」
「そういう時は、とにかく話そうと思うことだ。一生懸命やってれば、相手も頑張って聞き取ろうとしてくれる。そうすればなんとか通じる。それを続ければ、いつの間にか慣れるさ。」
「そっかぁ。すごいねぇ。色々経験してるんだ!ありがとう!」
「いや、私も学校の話が聞けて嬉しい。・・・他に何かあるか?」
「あるよ!なんかもう愚痴になっちゃうんだけど、聞いてくれる?」
「ああ、聞くぞ。」
「音楽の先生でね、おばさん先生がいるの。その先生がすごくうざいんだ。なんていうか、こう・・・しつこいっていうか?前に先生が帰りの会やってた時にね、そのあと学校全体に関わる大事な仕事があったんだ。遅れちゃいけないんだけど、その先生の話が長かったせいで送れそうになって。抜けていいですかって聞いたらまだ駄目って言われて、しかも名指しでアデリーナはもう出なきゃいけないとか言うしって言われたの!私、何も悪いことしてないのにだよ!ひどいと思わない?!」
「確かに、それはな・・・。そういえば、今日は平日だろ?学校はどうしてるんだ?」
「ああ、私時々店の手伝いで休む時があるんだ。今日がその日なの。」
「成る程、そういうことか。」
「しかも今日は音楽がある日!あの人に合わなくてすむ~。」
「ちょっとアデリーナ!なんでこんなところにいるの!ちゃんと仕事して!」
その時、バックヤードの入り口から店員の一人が顔を出した。
「なんかここで声が聞こえたから、何やってるのかなって思って除いたの。そしたらこの子がここにいたんだ。」
「あらヤダ。そっちまで聞こえてたの?」
「ばっちり。」
「そうなの・・・気をつけなきゃ。それより早くお店に戻って!今やってる仕事がちゃんとできたら、次は服の作り方を教えてあげるから。」
「本当?!じゃ、戻るわ!じゃあ、またね。ゆっくりしてって!」
「じゃあ、私も戻るわ。待っててね。今みんな一生懸命探してるから」
そういって、アデリーナとアデリーナの母親らしき店員は店内に戻って行った。
それからたっぷり一時間ほど、服にもみくちゃにされた。
有り得ないほど裾の長いドレスや、フリルが兎に角沢山付いているドレス、頭に何かをつけるタイプと、レースが袖についているワンピース。しかも、全て目が覚めるようなドピンク。
その後もウェディングドレスかと思うようなものや、シルクのドレスまであった。
ドレス以外のものはないのか・・・もうこの際、ピンクのワンピースでも我慢する・・・。というか、ここは女物以外もあるはずじゃないのか?何故こんなにもスカートばかりがあるんだ?
フー・・・とため息きかけていた時、一枚のワンピースが見えた。店員はそれを避けて、派手なワンピースを手に取る。
「あ、待ってくれ。そのワンピースは?」
「これですか?少し地味では?」
そういいつつも持ってきてくれる、
いや、これも十分派手だとは思うが、他が派手すぎるんだ。
持ってきてくれたのはコバルトブルーのワンピースで、袖がないタイプのものだった。裾がくるぶしまであり、ウエストのあたりで締められるように紐がついている。
今着ているのと、色も形も明らかに違う。
そして、多分この服はいつもより女らしいといえるだろう。
「これでお願いします。」
そういって、椅子から降りる。
「これでいいんですか?あんまりドレスっぽくないですが・・・。」
「はい。青とか着たことないから。」
というか、別にドレスに限らなくてもいいじゃないか。
「分かりました。じゃあ、お会計はここで。彼をびっくりさせるにはここから出ない方がいいですものね。」
「ほら、こっちで着替えて。」
言われたところで、言われたまま着替え始める。
・・・肩が寒い。
店員の前までいくと、三度目くらいの黄色い歓声。
「可愛い~!」
「彼、絶対赤くなるわ!」
それはどうも・・・
「ほら、後ろ向いて。」
後ろを向くと、首の周りにヒヤッとしか感覚。
「はい、終了~。」
首に手を当てると、銀色のネックレスがかかっていた。
「これは・・・」
「彼が『これをつけさせてください。』って言ってたの。」
ネックレスには、鷹のチャームがついていた。
これって、ルタのコードネームの・・・
なんとなく、くすぐったくなる。
「『いつもつけててくれ』って!愛されてるわねぇ!」
いつもつけててくれって・・・なんか、いつも一緒にいるみたいだな・・・。
「よしっ!じゃあ行ってらっしゃい!」
「少しだけ遅れていくわ。見送りさせてね。」
「頑張って!」
「応援してるわ。」
様々な声に押されて、バックヤードを出る。少し出た先に、ルタが立っていた。
「っ・・・」
「ど、どうだ?」
何か気恥ずかしい・・・
「何か・・・」
一言発した以外、口を閉じた。
可笑しかった・・・か?
「それ・・・つけててくれたんだな。」
「あ、ああ・・・これか?」
軽くネックレスを持ち上げる。
「鷹のを見つけたからさ。もし離れても、俺を・・・鷹を身に着けててくれればって。」
「・・・ホークだからか?」
「俺もホーク・アイだかんな。絶対見つけてやるさ。」
そういいつつ、ルタはネックレスを手に取る。それが、少しだけあの夢と重なった。
大丈夫、大丈夫。今は車の中じゃない。
そんなこと考えていたら、ルタが私の頭を撫でた。体が熱くなるが、存外悪くない感覚になる。
「お客様、ここは店内なのですが・・・。」
さっき私に色々聞いてきた店員が、バックヤードから出てきて軽くウィンクを送ってくる。
わ、わざとこのタイミングで出てきたな・・・
「すまない・・・もう行くか?」
「ではお客様、上着を。」
そういいつつ、上着を着せてくれる。内側に入れている拳銃の硬い感触が宇手に当たる。
「良かったね。」
店員に小さな声で囁かれた。その時、アデリーナが色々な布を抱えたまま近寄ってきた。
「もう帰るの?」
「ああ。私も忙しいからな。」
「そっか・・・。また来てね。色々お話ししようね。」
「ああ、またな。」
「ん。」
そういってアデリーナが小指を差し出す。
「なんだ、この手は。」
「約束の印。小指を絡めあうの。」
「・・・そうか。」
言われたとおりに小指を出し、絡める。
「ラン、行くぞ。」
「そうだな。色々ありがとう。」
「いえいえ。それでは、また。」
「じゃあね。今度会ったら夢の話いっぱいしようね。」
「ああ、そうだな。また詳しく学校の事聞かせて・・・」
言いつつ、なんとなく外に目を向ける。
硝子張りになっている窓の外の反対側の道に黒い車が停車した。
嫌な予感がする。夢の時ーールタがが死んだときみたいに。
楽しい時から一気に絶望に叩き込まれるときみたいな。
黒いスーツを着た男三、四人がドアを開けて、体を覗かせる。その隙間から黒く光るものが見えるか見えないかの瀬戸際で、私は叫んでいた。
「伏せろ!」
その瞬間から、世界がスローモーションのように見えた。
ルタは丁度死角になっていて車には気が付かなかったらしいが、私の声に反応しぱっと身を伏せた。流石訓練されていることはある。
また、私の声を聴いて伏せるのが間に合った一般人も幾人かいた。しかし、その場で固まってしまったり、遅かった人は・・・
そこで、スローモーションが解けた。
マシンガンの銃撃音と硝子が割れる音。
悲鳴と、深紅の血が飛び散る色と匂い。
伏せながらも拳銃を抜き、撃鉄を起こす。ルタを見ると、軽く頷かれた。
考えることは同じ、か。
隙を探りつつ、直ぐに走れるように足に集中する。銃撃音が、一瞬止まった。
「今だ!」
ルタが叫ぶのと同時くらいに、私は窓の外に銃口を向けながら跳び出した。
黒服の男に向けて撃つが、当たっているかどうかは分からない。取り敢えず全弾撃ち切る。
一応銃撃音が止まった。
服を見てくれた店員が立ち上がろうとする。それを見て、反射的に怒鳴る。
「伏せてろ!」
だが、遅かった。
もう一発だけ銃声がし、店員は頭から血を散らしながら崩れ落ちた。そして、車が去っていく音がする。
「っ、ドゥラーク!ルタ、外に出て車を追え!」
「分かった!」
「あんたらは中にいて伏せてろ!絶対に立ち上がるな!」
中にいる人達に怒鳴りながら、先に外に出ていたルタを追いかける。店の奥にいたから、念のため銃弾に気を付けつつドアに向かう。
「ルタ、どうだ!」
道路の真ん中に立っているルタの背中に声を投げかける。
「逃げられた。チョルト・ヴァズィミー!」
ルタは毒づきながら近くにある壁を蹴る。
「いって!」
足を思いきりぶつけたルタは、足を抱えたまま呻いていた。
全く、雰囲気をぶち壊しにしてくれる・・・。
取り敢えずルタを置いて、店に戻った。
「もう起きていいぞ。」
そういうと、何人かがゆっくりと起き上がる。
中は酷い有様だった。
道に面した硝子は粉々に割れ、売り物の洋服は硝子の破片や銃弾でボロボロに裂けている。それよりも酷かったのは死体だった。伏せ遅れた人は体中蜂の巣状態。
血と死体の匂いがする。服を見てくれた人も何人か死んでいた。そして、少し奥まったところに背の低い死体があった。
アデリーナだったものだ。他の死体と同様、蜂の巣。アデリーナが身に着けているワンピースは、アデリーナ自身の血で赤く染まっている。
凄く綺麗な死体だ。
私はその場に膝をつき、頬を撫でる。その時、今まで呆然としたまま私達を眺めていた人達の一人が口を開いた。
「あ、あなたは一体……?」
「・・・私は。」
この人達に本当の事を言ってもいいんだろうか。
そう思っていた時、扉が乱暴に開いた。
「ラン!今スタナから連絡が入った!早急に戻れだってよ!」
「・・・分かった。今行く。」
「ま、待って!」
「悪いが説明している時間がない。・・・仲間を一人よこすから、そいつの指示に従ってくれ。」
「ラン、早くいくぞ!」
先に外に出てきたルタが、焦ったように声をかけてくる。
「分かった。」
「ちょっと待って!まだ・・・!」
かけられる声を無視して、走り出す。
風を切りながら走っていても、さっきの光景が頭から離れない。
あんな小さい子も、いい人も死んでしまうということは、この仕事を始めた時から分かっていた。
それなのに、何故か悪態をつきたくなってくる。
自分でもよく分からない感情を抱きつつスピードを上げた。目の前によぎるアデリーナの影を振り払いながら街中を駆け抜けた。
続く
二話目・・・?
やった!投稿することができました!
今回は、ストーリの中で初めて人を殺すシーンが出てきました。どうでしたでしょうか。
そして!デートに行きますwwなんか書いてて恥ずかしくなりましたw
そして、彼女が夢に見たもの・・・
それが差すものとは何でしょうか?
分かる日が来ると良いですね。
では、次回の更新までお待ちください。




