伝えられない
二十 伝えられない
そして当日。抗争フィールドに向かうべく、早朝から部隊に分かれて車に乗り込む。今は、その準備だ。私は早めに準備を終え、最終確認として拳銃の手入れをしていた。
母親のコルトパイソンを持っていくことは止めた。
もう、いい。いつまでも過去に縛られるわけにはいかない。今回は、デザートイーグルとトカレフを持っていく。
「ラン!」
「・・・ああ、ルタ。」
手を振りながら、歩いてくる。狙撃手らしく全身暗い色だった。
「もう準備は終わったのか?」
「ああ。後は遊撃隊が出発する番になったら乗り込むだけだ。」
「つっても、あと三十分くらいあんだろ?まだどこの部隊も出てないし。」
「ああ、だが、準備が早くて困る、ということはないだろう。」
「確かに。」
そう言いつつ、向かいの椅子に座った。
「そう言えば、部下・・・というか、隊員達はどうだった?」
「んー?あー、まぁ悪くはねーかな。一応、信頼はされてるっぽい。」
「そうか。」
「ランの方は?」
「流石精鋭部隊、というところだな。実力だけ信頼されて、その後私自身の信頼だったからな。」
「ハハッ、でも良かったな、信頼されて。」
「ああ。・・・信頼されてないと、どう動くか分からないからな。」
「だな。」
私達は口を閉じ、穏やかな沈黙が続く。それを破ったのはルタだった。
「・・・なぁ、ラン。」
「ん?」
「前に、俺が聞いたこと覚えてるか?」
「・・・忘れた。」
「・・・何でランは、自分の命を簡単に捨てられんのかって。」
・・・あったな、そんなこと。
「それを話すとすると、母親が殺された所まで遡らなきゃいけなくなるぞ。長くなるが・・・良いか?」
そういうと、静かに頷いた。
はぁ・・・
「そもそも幼い頃・・・母親がいた時は、こんな考えも、こんな性格でもなかったんだ。」
ーーー三年前
私の暮らしは、平凡で、父親は私が生まれてすぐにどっかに言ってしまい、母親と二人だけだったがとても幸せだった。母親は優しくて、強くて、私の事を凄く大切にしてくれて、多分他の家族と比べ物にならないくらいだったと思っている。
母親が過去に暗殺業をしていたことは、少しだけ聞いていた。人を殺していたり、逆に殺されそうになったりしていたことも聞いてはいたが、まだ七歳だった私にはよく理解が出来ていなかった。それでも、人はいつか死ぬ。大切にしろとか昔言われていたけど、あまり実感がなく、それは母親と一緒の考え方だと知った。
太陽のように暖かかった日々は・・・あの日で全てひっくり返った。
その日はいつもの様に夕方の散歩に出ていた。世界が黄金色に染まり、まるで天国にでもいるような感じだった。母親と手をつなぎ、歌を歌いながら歩いていた。
家に帰ろうと路地裏を歩いていた時、私は猫を見つけて走り出しだ。・・・今思えば、それが一番の間違いだった。
「ラン!」
今まで聞いたことないような声で母親に呼ばれ、止まって振り向こうとした。それよりも早く、母親の体温と香りに包まれた。
「・・・へ?」
体で感じただけだったからはっきりとはしないが、ぐるっと反対側に向かされた気がした。・・・つまり、私と母親の位置が入れ替わったような感じになったのだ。次の瞬間
ダンダンダン・・・・
銃を連射する音がした。今では、聞きなれた音。
しかしその時は、何の音か分からなかった。銃だと理解できたのは、私を抱きしめていた母親の力抜け、ズルッと体が倒れた時だった。
「・・・・っっっ!!!」
銃を撃った人の顔は逆光で見えなかったが、息が荒くなっているのと、体格で男だということが分かった。
「お、かあさ・・・?」
「ラ・・ン・・・」
一回は崩れ落ちた母親は、力を振り絞って起き上がろうとした。しかしその背中からは大量の血が流れている。
「血が・・・!」
母親は、服の中に隠していた拳銃を取り出し、相手に向けて撃とうとする。しかしその前に相手が撃つ。それは母親の腕に当たり、拳銃を落とした。
「・・・ラ・・・ン・・・げて・・・い・・きて・・」
「あ・・・あ・・」
その時の私でも、母親の息が途切れたことが分かった。それでも、体から流れ出る血は止まらない。
「おかあさん・・・っ!」
カチャ・・・と音がして、顔を上げる。男が持っている銃が、今度は私に向いていた。
「・・・っ!」
死ぬ・・・と思った。その時、目の端に母親が落とした拳銃が映った。
それからは、無我夢中だった。母親に軽く教わっていた拳銃の撃ち方を朧気ながら実行し、男に向かって撃つ。
バァン!
初めて撃つ銃の勢いに後ろにひっくり返る。しかし撃たれた弾は相手の胸に当たり、即死した様子だった。
倒れた場所は、母親の血の海の中だった。目の前で起きたこと、そして私がしたことをまだ受け止められずに、呆然としていた。
その時、ふと影が差した。
「ラメリア?!」
ラメリア・・・それは母親の名前だった。顔を上げると、時々母親と合っていた人間だった。
「君は・・・ラン?」
「・・・」
コクッと頷く。すると、その人は私の手に握られている拳銃と倒れている男を見て、現状を理解したらしい。
「・・・おいで、取り敢えず。」
母親がいない今、断ることも出来ずついて行った。
ーー
「・・・それで、ルタも知っているように私はここの養成所に入って育成され、今に至る。私は・・・母親を殺されたあの日に、なくなってもおかしくない命だった。組織に拾われたのは、様々な偶然が重なってたからだ。母親が暗殺者で、母親が死んだ場所に丁度組織の人間が通った・・・その偶然で生きている。元々ない命だったという事を考えたら、別にいつ死んでもいいと思うだろ、ルタだって。」
「・・・でも」
「だが、今はもうしないさ。」
「・・・何でだよ?」
「そういうこと言ったら、、怒られるってわかったしな。」
「そりゃそうだ。」
「それに・・・。」
「ん?」
「いや、何でもない。」
「なんだよ~、気になんじゃん。」
「気にするな、何でもない。」
「ええ~・・・」
「じゃあ、ルタ。」
「何だよ。」
「これ、つけてくれないか?」
「え?」
私はポケットからリボンを取り出す。
「・・・これ・・・」
「誕生日プレゼントだ。・・・ハイネからの。」
「つけんのか?」
「ああ。」
「・・・分かった。」
ルタは立ち上がって、私の後ろに回る。
「どういう結び方がいい?」
「・・・何でもいい。」
「了解。」
そう言って、何やらやり始める。意外とすぐに終わった。
「はい、しゅーりょー。」
「・・・どうなってる、これ?」
「ハーフアップ。」
「・・・は、はーふあっぷ・・・?」
「あー・・・まぁ、半分くらいで結んでるんだよ。」
「ああ・・・。よくできたな。」
「これくらいなら男でもできる。ランが特殊なんだよ。」
「フーン・・・。ありがとう。」
「いえいえ。」
「そういえば、あれも持ったからな。」
「あれ?・・・拳銃か?」
「いや、拳銃は持つの当たり前だろ。・・・これだ。」
私は服の中からネックレスを引っ張り出す。少し重い、銀色のネックレス。
「それ・・・持っててくれたんだ。」
「そりゃもちろんだ。」
鷹・・・ルタのコードネームを意味する。簡単に言えばルタだ。そんなものを失くすわけない。
「ありがとうな。」
「・・・ああ。」
「隊長、時間です。」
裏口の方から歩いてきた男が、私に声をかける。もうそんな時間か・・・。
「分かった、直ぐに行く。点呼は?」
「もうしました。全員揃ってます。」
「分かった。戻っていい。」
「ハッ!」
去っていく姿を見ながら、ルタは言った。
「部隊長って感じだったぞ、ラン。」
「そうか・・・?でも、そう見えているならいい。じゃあな。私はもう行かなくては。」
「おう。無線で話しかけるかも。」
「まぁ、程々にしてくれ。・・・またな。」
「おう、またな。」
私は去り際にルタの横を通った。少し躊躇したが、ルタの頭をクシャクシャ撫でて裏口へと走った。
続く
あぁ、次でラストです。ほんとのほんとにラストです。
寂しいなぁ・・・。どばっと投稿したからあれかもしれないですが・・・。かなり寂しい・・・。
とまぁ、後書きはラストにながぁく書きますね!!
次回もお楽しみに!!!




