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05 隼人の物語2

「はあぁ!?」

しまった。

いくら驚いたとはいえ、仮にも先輩に対してタメ口を聞いてしまった。

だがそこは部長らしく、華麗にスルーされる。

「いかがですか?」

「どうって……何で俺なんですか。

 大沼とか篠崎とか、そっちのほうが相応しいんじゃないですか?」

「風見君に断られたら大沼さんに打診するつもりです。

 風見君はどうなのですか。 嫌ですか?」

「だから、何で俺なんですか」

「私が、それがいいと思ったからです」

「……」

分からない。

俺はどちらかというと不真面目なほうだ。

勉強はもちろんだが、部活に関しても。

何の前触れもなく休むし、話し合いにそれほど熱心に参加してもいない。

簡単に言えば、個人で勝手に活動しているようなもんだ。

なのに、その俺に部長をやれと?

無茶苦茶な。

「俺には向いてないですよ。それは俺自身が一番よく知ってます」

「そうは思いません。それはただの自己暗示ではないのですか?」

「……」

「意外と自分のことは分からないものですよ」

そうなのだろうか。

そうなのかもしれない。


吉沢一穂。2年生。生物部部長。

ふざけるのが大好きで、普段は誰に対してもタメ口。

だがメリハリはつけている。二重人格なのではと思うくらいに。

通年2、3人入れば万々歳の生物部に今年に限って5人も入ってきたのは、

ひとえに彼女の勧誘その他の活動の成果だと先輩達の間では専らの評判だ。

まあその先輩達といっても、部長自身を除けば3人しかいないのだけど。


彼女の人を見る目があるのはこの1年で俺もよく分かっている。

だからこそ、何で俺なのかと疑問なのだ。


「……俺、虫にしか興味無いんですけど」

厳密に言うなら昆虫、その中でも甲虫である。

生物部が扱うのはその名の通り生物全般。

それを俺がまとめることが出来るだろうか。

「それは心配ありません、私も植物にしか興味ありませんでしたから」

そうだ、部長はもともと園芸部に所属していたらしい。

それが部員が足りなくて生物部に吸収されたとか。

なかなか大変なことだ。

ちなみに、今年俺と一緒に入った篠崎はキノコ担当だ。

それから顧問は大腸菌大好き人間である。部室で培養するのはやめてくれ。怖いから。

……後はゾウリムシ担当が入れば完璧だな。五界説的な意味で。


「まあ、考えてみてください」

「……はあ」

「答えは今日の放課後までに」

「早いですよ!」

「では明日の放課後。くれぐれも休むことの無いようにしてくださいね」

「はあ」

しばらく沈黙タイム。

……部長、か。

まあ、大層な肩書きから連想されるほど面倒ではない。

この部活動自体、毎日ここで生物の世話をするくらいで別に大したこともしてないし。

生徒会の集まりに何度か顔を出さなきゃいけないのと、

それを部員に伝えなきゃいけないのと、

無闇やたらにサボれなくなることくらいか。

新入生勧誘は黙ってても現部長が勝手にやってくれそうだし。

それに俺は仕切るのが嫌いじゃない。

中学で学級委員をやっていたこともあるし、結構楽しかった。

「おっ、やってくれる?」

「早いですってば。考えさせてくださいよ」

「今考えてたっしょ」

明日の放課後でいいって言ったじゃねーかよ。

「頭を冷やす時間も必要です」

「ふーん。ま、いいや。それよりさ、」

部長が笑う。お、私的モード。

「パン買ってあるんだけど、食う?」

「さすが部長!」

俺は心からの賛辞を送った。



「はっはっは。今日は体育が早く終わったからねー」

そう言いながら鞄の中をゴソゴソやる部長。

取り出したるは……おお、売れ筋をすっかりキープしている。

なるほど、さっきからなんか食べ物のにおいがすると思ったら。

ウサギの臭さに俺の鼻がイカれたわけじゃなかったのか。よかったよかった。

……だがまあ、ここで食う気はしないな。

「部屋変えません?」

「そだね。社会科講義室とかどうよ」

「文芸部の部室ですよ」

「気にしない気にしない、どうせ使ってないし。

 それに、部室である前に学校の教室だもんね」

教室にしてもどこでも食っていいわけではないと思うが。

まあ、俺も気にしない。俺は優等生じゃないからな。

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