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48 隼人の結論

丹木節駅南改札口。土曜午後6時。

「遅いねー」

「そうですね」

「もう2時間も待ってるのにねー」

「……それは部長が約束の時間の2時間前からいるからです」

「はっはっはー」

駅にたむろする高校生小集団。

生物部のメンバーだ。

部長の引継ぎと園芸部の復活祝いと忘年会を兼ねた宴会を吉沢部長が企画した。

それが参加者が意外と集まる。

受験目前であろう3年すら、ここにいる。大丈夫なのか、あんたら。

出席率の高さに、俺は改めて部長の手腕を実感する。

……やっていけるのか、俺。


「……無理に誘ったりして、悪かったかな」

「……さあ」

「そこは否定してよ」

「……」

「連絡もとれないしなー。何であんた携帯持ってないのよ」

「すみません、今回のテストは惜しいところまで行ったんですけど」

「学年末テストで駄目だったら、部長の仕事務まらないよ?」

「今度は絶対とります」

「うん、その意気だ」

部長はそこで携帯を取り出す。時間を見ているようだ。

「……もしかして、すっぽかし?」

「それはないと思いますけどね。あいつは真面目だから」

「風見と違ってね」

「……」

まったく、一言多いんだよいつも。

でも、こうやって先輩後輩関係なく馬鹿話が出来るってのは珍しいのかもしれない。

現部長が作り出したその空気、俺は好きだ。


「遅いね、水樹君」

そう、俺たちが待っているのは誠だった。

部長が今回の功績を讃えてとか言って招待したのだ。

生物部員じゃないのは誠一人。超アウェー。

それにしても珍しいことだ、誠が遅刻するなんて。

時間には滅茶苦茶タイトなやつだと思ってたが。

部長ほどではなくても、30分前に来ていると思った。学校のように。

……やっぱり、気が乗らないのか。

悪いことしたかもな……


「ところで部長。訊きたいことがあるんですが」

「ん?」

俺は部長に向き直る。

誠の集めた情報と推理は俺を納得させるに足るものだった。

ただ1つを除いて。

「俺に時期部長を打診したとき、部長は言いましたよね。

 文芸部の部室が広いのは尾崎が原因だと。

 あの時俺はてっきり、尾崎が父親を使って部室を手に入れたんだと思いました。

 だから尾崎が揉め事を起こした部活を潰したっていう噂も信じましたし、

 尾崎と対立しうる俺が部長をやって大丈夫なのかって不安でした。

 でも、あれはそういう意味じゃなかった。

 尾崎が弱みを見せられる場所を保持するために上級生が手回ししたってことでした。

 それを部長は友人である文芸部の部長から聞いて知っていた」

それがそもそもの謎の発端。

だが、誠の話を踏まえると根本からおかしなことになってくる。

「それを知っていたのにもかかわらず、部長は抗議しようと俺に言いました。

 それって、おかしくないですか?

 尾崎が自分のために無理矢理部室を得ていたのだというのなら分かります。

 でも、本当はそうじゃなかった。部長はそれを知っていた。

 なら、どうしてそんなことを言ったんですか?」

「……あのさ、風見」

「はい」

「口ぶりが探偵っぽいけど、言ってることは全然ぽくないからね」

「……それを言わないでください。

 自分が馬鹿っぽく見えてくるじゃないですか」

確かに部長にとっては自明かもしれないけどさ。

「だってさ、簡単じゃん、そんなこと」

部長の表情が、明るい笑みから穏やかな微笑へ変わる。

「いくら理由が理由でも、それは私的な理由です。

 公的活動の場である部室とは切り離して考えるべきでしょう?」

「……」

ああ、そうだ。

そうだよ。分かってみれば馬鹿馬鹿しい。

実に「らしい」理由だ、台詞だ。

この人の場合は二重人格の域にまで達している気がするが。



「あ」

部長の声を聞いて、俺は顔を上げる。

誠がこっちに走ってくるのが見えた。

なんか、走り方がすんげえ必死だった。

ああ、あれでこそ誠だ。

「す……すみません、本読んでたら夢中になっちゃって……」

「オッケー、オッケー。さ、揃ったから行こっか」

俺たちは連れ立って駅を出る。

目的地はすぐ近くの小さなファミレスだ。


「悪いな、なんか無理矢理呼んじまって」

集団に多少遅れて、俺と誠は歩く。

「ううん、たまにはいいよ。お陰でちょっと面白いこともあったし」

「?」

誠はすこぶる上機嫌のようだった。

ここに来る途中の出来事を話し始める。

要約すれば、誠が煙草を捨てたと勘違いされたってことだった。

「……どこがいい話なんだかイマイチよく分からないんだが」

「だってさ、僕が煙草を捨てたって勘違いしたってことは、

 僕が煙草を見つけて近づくところを見てないってことだよ。

 煙草を踏み消してから信号が青になるまでものの数秒。

 その短時間で知らない人に注意しようって決断した。

 それってすごいことじゃない?」

「俺はそんなことに気付けるお前がすごいと思うぞ」

本心からの言葉だった。



ありふれた内装の会場に着く。

銘々が好き勝手注文する中、部長が誠の隣に来る。

「部長の吉沢です。この度は風見がお世話になったそうで」

「あ、いえ。こちらこそお招きいただきありがとうございます」

ぎこちなく頭を下げる誠。

お招き、って……お前も割り勘の頭数に入ってるからな?

「御陰様で、生物部の拡張もうまくいきそうです」

尾崎によってか、文芸部の現部長によってか、それともどちらでもないのか分からないが、

昨日出た部室希望調査の結果では文芸部の部室が縮小されていた。

それに伴って各文化系部の部室移動が起こるだろう。

加えて辺鄙な上に隣がウチの部室で臭いが漂ってくる第2生物室は競争率が低い。

園芸部という名の生物部植物支部を作るという部長の目標は達成されそうだった。

部員も生物部から何人か移ることで確保できる。

篠崎もその一人らしい。キノコが園芸部の範疇なのか疑問だが。


テーブルにどかどかとグラスが並ぶ。

アルコール系は混ざっていない。そういうところは意外としっかりしてるのだ。

全員に行き渡ったところで、部長がお気に入りのライチジュースを掲げ、音頭をとる。

「それでは、風見の部長就任と、私の園芸部長就任予定と、

 今年も無事に終わったことを祝って、かんぱーい!」

澄んだ音が店内に響き渡った。

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